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2話 契約はよく考えましょう
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コンコン、コンコン。コンコン、コンコン
杖で地面を叩く音だけが響く。
「ええい! 何故何も起きん!? あの女はこうして精霊を呼び出していたはず! 術式や呪文も使っていなかっただろう! この杖に精霊を従える精霊術が仕込んであるのではないのか!?」
アリシアが去った後、王子は奪った杖で地面を叩いていた。かつてアリシアが精霊術を使う際にやっていたこと。その杖を使い、同じことをすれば自分でも精霊術が出来ると思い込んでいた。
「どうなっている!? 力加減か!? リズムの問題か!? 精霊ごときが俺を馬鹿にするのか!」
叩いても叩いても精霊は現れない。王子の苛立ちは加速し、叩く音も大きくなっていく。
「クソッ! これだから、精霊は嫌いなんだ! 道具のくせに、昔から俺を馬鹿にしやがって!」
「あら、殿下はそんなに精霊がお嫌いなのですか?」
「ああ、大嫌いだ。子供の頃、精霊と接することがあったが、あいつらは俺をからかって馬鹿にしやがった!」
王子は語る。プレゼントとして渡された物が、どれもこれも粗末なガラクタだったこと。空を飛びたいと言って飛ばしてもらったが、力の制御が難しく木の上に着地し、降りられなくなったこと。精霊に対する恨みつらみが次々と出てくる。
「精霊は嫌いだ。だが、力は使える。だから、こいつらを使って隣国に侵攻しようと思ったんだ。侵攻して戦利品を得られたら良し、戦うのもこいつらだから死のうがどうでもいい。なんなら、死んでくれた方がいい!」
「さすが殿下! まさに一石二鳥ですわね!」
「フッ、そうだろう。だから、好きでもないあの女の力を使う為に、わざわざ婚約までしてやったというのに。あの女は」
王子はチッと舌打ちし、憎々しそうにアリシアの事を口にする。精霊嫌いの彼からすれば、アリシアは憎むべき存在とも言えよう。
「殿下の気持ちよく分かりますわ。私も学生時代は彼女にずっと邪魔ばかりされてきたのです」
「ほう。そうだったのか」
「ええ。彼女は精霊しか友達のいない根暗女のくせに、少し見た目がいいからって、神秘的だの精霊姫だのチヤホヤされて。私がどれだけ輝こうとその邪魔ばかりするのですよ。……殿下との婚約だって」
「……フッ。俺達にとって、あいつは忌々しい敵という訳か。よし、あいつを倒す為、諦めず続けるとするか。あいつに出来たのだから、俺達にだって出来るはずだ」
「その意気ですわ! 殿下!」
再び杖で地面を叩く王子。精霊はまだ現れていない。だが、アリシアの精霊術に関する、王子の推測はあながち外れではなかった。
アリシアはこの杖を介して精霊術を行なっていた。一般的には高度な術式を組み、長い呪文の詠唱によって精霊を呼び出すのが精霊術。しかし、アリシアの場合は、会いたい精霊を思い浮かべ、魔力をこめノックをする。すると、精霊に繋がるという方法だった。
だから、アリシアの魔力が残るこの杖を使えば、こうなる事もおかしな事ではない。
『何用でございましょう。アリシア殿』
「よ、よし! やった! 成功したぞ!」
「すごい! さすが殿下ですわ!」
叩き続けて数分、一体の精霊が現れた。
『……お前は誰だ?』
「フン。俺はアル国の王子サノトだ。今日からお前達の主になる男だ」
『……アリシア殿はどうした?』
「アリシア? あんな女追い出した。あいつが持っていたこの杖は、今は俺の持ち物だ。だから、今日からお前達の主は俺だ! さあ、分かったら、俺に従え! 他の精霊も呼んで侵攻開始だ!」
『……承知した。では、契約の儀をアリシア殿に倣い行うがよろしいか?』
「ああ、なんでもいい! これで、これで俺はっ! クククッ、フハハハッ!!」
王子は高笑いする。精霊の力を得た今、侵攻は容易いこと。己の野望が叶う日が来たのだと。
『伝えなくてよかったのか?』
「ん? カーバンクルじゃん。どうしたの?」
ひらひらしたドレスから着替え、自前のシャツにショートパンツ、上からショートローブを羽織るいつものスタイルへと着替えて、王宮から出た。
そして、これからどうしようか。どこかのんびり過ごせる場所に行きたいなー、なんて思って森を歩いていると、一匹の猫が。額に赤い宝石を宿した猫、精霊カーバンクル。猫のくせにあんまりニャーニャー言わないのが特徴の猫。
『あの杖の事。あの男は杖があれば精霊を従わせることが出来ると考えているぞ。戦争をする為に精霊を呼び出すだろう』
「ふーん。あっそ」
もう別に殿下が何をしようが興味の欠片もない。前からかもしれないけど。
それにもう殿下なんて呼ばなくていいか。あのバカ王子。
精霊達を使って戦争したいなら、好きにすればいい。バカ曰く、杖があれば精霊を従えられるらしいし。
「欲しいって言ったからあげただけ。それより、カーバンクルさ。次の杖探してくれない? なんかしっくりくるのが見つからなくてさ」
『にゃあ……。お前だけだぞ。あんな杖の使い方、あんな方法で精霊と契約しているのは』
カーバンクルが呆れたようにため息をつく。そして、呆れた目をして言った。
『杖をただの鈍器として使い、精霊を殴って契約しているやつなんて』
「言い方。ちゃんと合意の上で、決闘して勝って契約してるだけだし」
杖は鈍器。契約方法は決闘。これが私の精霊術。
「ねえ、カーバンクル。どうせ暇でしょ? 私、国外追放になったからさ、一緒に旅に行こうよ」
『別にボクは暇じゃない。……まあ、することも無いしいいけど』
「それを暇って言うんだよ」
一人と一匹は歩き出す。婚約破棄と国外追放。それは精霊姫の新たな幕開けとなったのだった。
杖で地面を叩く音だけが響く。
「ええい! 何故何も起きん!? あの女はこうして精霊を呼び出していたはず! 術式や呪文も使っていなかっただろう! この杖に精霊を従える精霊術が仕込んであるのではないのか!?」
アリシアが去った後、王子は奪った杖で地面を叩いていた。かつてアリシアが精霊術を使う際にやっていたこと。その杖を使い、同じことをすれば自分でも精霊術が出来ると思い込んでいた。
「どうなっている!? 力加減か!? リズムの問題か!? 精霊ごときが俺を馬鹿にするのか!」
叩いても叩いても精霊は現れない。王子の苛立ちは加速し、叩く音も大きくなっていく。
「クソッ! これだから、精霊は嫌いなんだ! 道具のくせに、昔から俺を馬鹿にしやがって!」
「あら、殿下はそんなに精霊がお嫌いなのですか?」
「ああ、大嫌いだ。子供の頃、精霊と接することがあったが、あいつらは俺をからかって馬鹿にしやがった!」
王子は語る。プレゼントとして渡された物が、どれもこれも粗末なガラクタだったこと。空を飛びたいと言って飛ばしてもらったが、力の制御が難しく木の上に着地し、降りられなくなったこと。精霊に対する恨みつらみが次々と出てくる。
「精霊は嫌いだ。だが、力は使える。だから、こいつらを使って隣国に侵攻しようと思ったんだ。侵攻して戦利品を得られたら良し、戦うのもこいつらだから死のうがどうでもいい。なんなら、死んでくれた方がいい!」
「さすが殿下! まさに一石二鳥ですわね!」
「フッ、そうだろう。だから、好きでもないあの女の力を使う為に、わざわざ婚約までしてやったというのに。あの女は」
王子はチッと舌打ちし、憎々しそうにアリシアの事を口にする。精霊嫌いの彼からすれば、アリシアは憎むべき存在とも言えよう。
「殿下の気持ちよく分かりますわ。私も学生時代は彼女にずっと邪魔ばかりされてきたのです」
「ほう。そうだったのか」
「ええ。彼女は精霊しか友達のいない根暗女のくせに、少し見た目がいいからって、神秘的だの精霊姫だのチヤホヤされて。私がどれだけ輝こうとその邪魔ばかりするのですよ。……殿下との婚約だって」
「……フッ。俺達にとって、あいつは忌々しい敵という訳か。よし、あいつを倒す為、諦めず続けるとするか。あいつに出来たのだから、俺達にだって出来るはずだ」
「その意気ですわ! 殿下!」
再び杖で地面を叩く王子。精霊はまだ現れていない。だが、アリシアの精霊術に関する、王子の推測はあながち外れではなかった。
アリシアはこの杖を介して精霊術を行なっていた。一般的には高度な術式を組み、長い呪文の詠唱によって精霊を呼び出すのが精霊術。しかし、アリシアの場合は、会いたい精霊を思い浮かべ、魔力をこめノックをする。すると、精霊に繋がるという方法だった。
だから、アリシアの魔力が残るこの杖を使えば、こうなる事もおかしな事ではない。
『何用でございましょう。アリシア殿』
「よ、よし! やった! 成功したぞ!」
「すごい! さすが殿下ですわ!」
叩き続けて数分、一体の精霊が現れた。
『……お前は誰だ?』
「フン。俺はアル国の王子サノトだ。今日からお前達の主になる男だ」
『……アリシア殿はどうした?』
「アリシア? あんな女追い出した。あいつが持っていたこの杖は、今は俺の持ち物だ。だから、今日からお前達の主は俺だ! さあ、分かったら、俺に従え! 他の精霊も呼んで侵攻開始だ!」
『……承知した。では、契約の儀をアリシア殿に倣い行うがよろしいか?』
「ああ、なんでもいい! これで、これで俺はっ! クククッ、フハハハッ!!」
王子は高笑いする。精霊の力を得た今、侵攻は容易いこと。己の野望が叶う日が来たのだと。
『伝えなくてよかったのか?』
「ん? カーバンクルじゃん。どうしたの?」
ひらひらしたドレスから着替え、自前のシャツにショートパンツ、上からショートローブを羽織るいつものスタイルへと着替えて、王宮から出た。
そして、これからどうしようか。どこかのんびり過ごせる場所に行きたいなー、なんて思って森を歩いていると、一匹の猫が。額に赤い宝石を宿した猫、精霊カーバンクル。猫のくせにあんまりニャーニャー言わないのが特徴の猫。
『あの杖の事。あの男は杖があれば精霊を従わせることが出来ると考えているぞ。戦争をする為に精霊を呼び出すだろう』
「ふーん。あっそ」
もう別に殿下が何をしようが興味の欠片もない。前からかもしれないけど。
それにもう殿下なんて呼ばなくていいか。あのバカ王子。
精霊達を使って戦争したいなら、好きにすればいい。バカ曰く、杖があれば精霊を従えられるらしいし。
「欲しいって言ったからあげただけ。それより、カーバンクルさ。次の杖探してくれない? なんかしっくりくるのが見つからなくてさ」
『にゃあ……。お前だけだぞ。あんな杖の使い方、あんな方法で精霊と契約しているのは』
カーバンクルが呆れたようにため息をつく。そして、呆れた目をして言った。
『杖をただの鈍器として使い、精霊を殴って契約しているやつなんて』
「言い方。ちゃんと合意の上で、決闘して勝って契約してるだけだし」
杖は鈍器。契約方法は決闘。これが私の精霊術。
「ねえ、カーバンクル。どうせ暇でしょ? 私、国外追放になったからさ、一緒に旅に行こうよ」
『別にボクは暇じゃない。……まあ、することも無いしいいけど』
「それを暇って言うんだよ」
一人と一匹は歩き出す。婚約破棄と国外追放。それは精霊姫の新たな幕開けとなったのだった。
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