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3話 店員さんも仕事だから
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「旅しようよ、カーバンクル」
婚約破棄と国外追放。これらにより始まったカーバンクルとの二人旅。ん? 正確には、一人と一匹旅?
木漏れ日が差し込む森の中、私達は行き先も決めず歩いていた。まずは、行き先ぐらい決めないとね。
『どこか行く当てはあるの?』
「んー、ないない。だって、国外追放だよ? 国外なんて行ったことすらないのに」
バカ王子との婚約は本当に形だけというか、あいつが他国へ行く際も、私はお留守番だった。婚約する前までも外国なんて行ったことが無く、国外追放を言い渡された私に行く当てなどあるはずがなかった。
「むしろ、カーバンクルの方がよく知ってるでしょ? なんか当てないの?」
カーバンクルは精霊でありながら、人間界を自由に放浪している物好きな精霊。私が精霊術で呼び出したわけではなく、もっと前から人間界を放浪している。
『無くはないけど、お前は何かしたいとか行きたい所とかはないのか?』
「えー? んー、とりあえず杖欲しいかな」
前の杖はあいつに取られてしまった。別に無くてもそんな困るわけじゃないけど、ずっと持ってたからなんか手が寂しいというかなんというか。
『杖、か。それは武具屋に行くしかないな。確か、隣国に評判の武具屋があったはず。そこを目指すでどう?』
「いいね。じゃあ、案内よろしく。カーバンクル」
二人は目的地へ向けて歩き出した。
「はー、ようやく着いたね」
目的地を決めて2日後。遂に隣国であるメッシーナへと着いた。
『武具屋はこの先だよ』
「えー、少しは休憩しようよー」
『後ですればいいだろ? お目当ての物が、先に誰かに買われたらどうする?』
「……正論は優しくないよ」
正論パンチでノックアウトされた私は、大人しくカーバンクルの後をついていった。
「いらっしゃい!」
店に入ると、店員さんから元気よく挨拶される。元気よくて気持ちいい挨拶。見た目いかついけど。
「何をお探しでしょう!」
「……杖をちょっと」
あっ、思ったよりグイグイ来るタイプなのね、この人。いや、まあ、自分で探さなくていいし楽でいいんだけど。
「杖ですか! こちらです!」
店員さんに案内され、店内を移動する。そして、壁一面に杖がかかった杖コーナーへ。
「当店の杖は職人が一本一本作った一級品になります! こちらなどいかがでしょう? 魔力効率が良くなりますよ!」
一般的に杖は、魔法を使う際に補助をしてくれる物とされる。素材も魔力をよく通すもので作られ、杖に魔力を流して魔法を練った方が効率よく、質の高い魔法へと仕上がる。
インクを指に付けて文字書くより、ペンで文字を書いた方がインク量も少なく、綺麗に書けるって感じかな。
だから、杖は太かったり長い必要がないわけで。
「細いのしかない……」
飾られていた杖は全て細く、短いものだった。
「あの、もっと太くて長いのないですか?」
「太くて長いものですか。それなら、こちらなどはいかがでしょう」
「あー、いやここに飾ってあるものじゃなくて、ここにあるのより、もっと太くて長いやつなんですけど……」
前の杖は長さは私の背丈ぐらいあって、太さもここにある指ぐらいの太さではなく、私の手首ぐらいの太さがあった。……いや、別に私の手首が太いとかそんなんじゃない。
「うーん、申し訳ございませんが、当店にはそのような杖のご準備がありませんね」
「そうですか……」
昔はよくあったらしいんだけどな。昔はまだ魔法の研究も進んでいなくて、精密さも求められてなかったからかな。今の時代だと、もうあの大きさだと精密な術式とかは出来ないだろうしな。あれで文字書くぐらいなら指の方がマシだろうし。
「ちなみに、普段魔法はどのようなものをお使いされるのでしょうか?」
「いや、魔法は使わないんで」
「え? では、何故杖を?」
「殴るのに丁度よかったんで」
「は?」
あの杖は本当に丁度よかった。あの長さ、あの重さ、あのグリップ感。どこをとっても完璧な杖だった。本当に殴るのに丁度いい杖。
「だ、打撃武器をお探しでしたら、あちらにハンマーなどがございますので」
「ハンマー……。…………なんか違う」
勧められたハンマーを手に持ってみる。でも、違った。ハンマーは先端が重すぎる。あの杖も先端の方が丸まって重くはなっていたけど、こんな極端じゃない。
「で、では、こちらの剣はいかがでしょう。あえて切れ味は落とし、硬い魔物などを叩き切るという感じでお使いいただけます」
「うーん、素材は木がいいかな」
剣も持ってみるけどこれも違う。素材は金属より木がいい。それに、剣だと刃と柄の部分で別になっている感じがする。もっと一体感が欲しい。
「そ、そうでございますか。うーん、中々難しいですね……」
「……すみません。変なお願いしちゃって」
店員さんからすれば、「なんだこの客」って感じだろう。杖を探してるくせに、殴るためですと言うやつは多分私の他に居ないはず。
「いえ、申し訳ございません。お力になれず」
「気にしないで。私がおかしいのは分かってるんで」
良い店員さんだったけれど、残念ながらここには私が求める物は無いみたい。
仕方がないので、諦めて店を出ようとしたその時、
「こ、これは……!」
『……本当にそれでよかったの?』
「え? まあ、短いけどさ。無いよりはマシだよ」
店を出ようとした時に、ふと一つのかごが目に入った。店の片隅に押しやられ、かごの中には乱雑に入れられた武器達。かごには特売品と書かれた札が掛けてあった。その中で見つけて買ったこの一品。
『だって、それ、棍棒じゃないか……』
先端にトゲがついた木の棒、棍棒があった。
婚約破棄と国外追放。これらにより始まったカーバンクルとの二人旅。ん? 正確には、一人と一匹旅?
木漏れ日が差し込む森の中、私達は行き先も決めず歩いていた。まずは、行き先ぐらい決めないとね。
『どこか行く当てはあるの?』
「んー、ないない。だって、国外追放だよ? 国外なんて行ったことすらないのに」
バカ王子との婚約は本当に形だけというか、あいつが他国へ行く際も、私はお留守番だった。婚約する前までも外国なんて行ったことが無く、国外追放を言い渡された私に行く当てなどあるはずがなかった。
「むしろ、カーバンクルの方がよく知ってるでしょ? なんか当てないの?」
カーバンクルは精霊でありながら、人間界を自由に放浪している物好きな精霊。私が精霊術で呼び出したわけではなく、もっと前から人間界を放浪している。
『無くはないけど、お前は何かしたいとか行きたい所とかはないのか?』
「えー? んー、とりあえず杖欲しいかな」
前の杖はあいつに取られてしまった。別に無くてもそんな困るわけじゃないけど、ずっと持ってたからなんか手が寂しいというかなんというか。
『杖、か。それは武具屋に行くしかないな。確か、隣国に評判の武具屋があったはず。そこを目指すでどう?』
「いいね。じゃあ、案内よろしく。カーバンクル」
二人は目的地へ向けて歩き出した。
「はー、ようやく着いたね」
目的地を決めて2日後。遂に隣国であるメッシーナへと着いた。
『武具屋はこの先だよ』
「えー、少しは休憩しようよー」
『後ですればいいだろ? お目当ての物が、先に誰かに買われたらどうする?』
「……正論は優しくないよ」
正論パンチでノックアウトされた私は、大人しくカーバンクルの後をついていった。
「いらっしゃい!」
店に入ると、店員さんから元気よく挨拶される。元気よくて気持ちいい挨拶。見た目いかついけど。
「何をお探しでしょう!」
「……杖をちょっと」
あっ、思ったよりグイグイ来るタイプなのね、この人。いや、まあ、自分で探さなくていいし楽でいいんだけど。
「杖ですか! こちらです!」
店員さんに案内され、店内を移動する。そして、壁一面に杖がかかった杖コーナーへ。
「当店の杖は職人が一本一本作った一級品になります! こちらなどいかがでしょう? 魔力効率が良くなりますよ!」
一般的に杖は、魔法を使う際に補助をしてくれる物とされる。素材も魔力をよく通すもので作られ、杖に魔力を流して魔法を練った方が効率よく、質の高い魔法へと仕上がる。
インクを指に付けて文字書くより、ペンで文字を書いた方がインク量も少なく、綺麗に書けるって感じかな。
だから、杖は太かったり長い必要がないわけで。
「細いのしかない……」
飾られていた杖は全て細く、短いものだった。
「あの、もっと太くて長いのないですか?」
「太くて長いものですか。それなら、こちらなどはいかがでしょう」
「あー、いやここに飾ってあるものじゃなくて、ここにあるのより、もっと太くて長いやつなんですけど……」
前の杖は長さは私の背丈ぐらいあって、太さもここにある指ぐらいの太さではなく、私の手首ぐらいの太さがあった。……いや、別に私の手首が太いとかそんなんじゃない。
「うーん、申し訳ございませんが、当店にはそのような杖のご準備がありませんね」
「そうですか……」
昔はよくあったらしいんだけどな。昔はまだ魔法の研究も進んでいなくて、精密さも求められてなかったからかな。今の時代だと、もうあの大きさだと精密な術式とかは出来ないだろうしな。あれで文字書くぐらいなら指の方がマシだろうし。
「ちなみに、普段魔法はどのようなものをお使いされるのでしょうか?」
「いや、魔法は使わないんで」
「え? では、何故杖を?」
「殴るのに丁度よかったんで」
「は?」
あの杖は本当に丁度よかった。あの長さ、あの重さ、あのグリップ感。どこをとっても完璧な杖だった。本当に殴るのに丁度いい杖。
「だ、打撃武器をお探しでしたら、あちらにハンマーなどがございますので」
「ハンマー……。…………なんか違う」
勧められたハンマーを手に持ってみる。でも、違った。ハンマーは先端が重すぎる。あの杖も先端の方が丸まって重くはなっていたけど、こんな極端じゃない。
「で、では、こちらの剣はいかがでしょう。あえて切れ味は落とし、硬い魔物などを叩き切るという感じでお使いいただけます」
「うーん、素材は木がいいかな」
剣も持ってみるけどこれも違う。素材は金属より木がいい。それに、剣だと刃と柄の部分で別になっている感じがする。もっと一体感が欲しい。
「そ、そうでございますか。うーん、中々難しいですね……」
「……すみません。変なお願いしちゃって」
店員さんからすれば、「なんだこの客」って感じだろう。杖を探してるくせに、殴るためですと言うやつは多分私の他に居ないはず。
「いえ、申し訳ございません。お力になれず」
「気にしないで。私がおかしいのは分かってるんで」
良い店員さんだったけれど、残念ながらここには私が求める物は無いみたい。
仕方がないので、諦めて店を出ようとしたその時、
「こ、これは……!」
『……本当にそれでよかったの?』
「え? まあ、短いけどさ。無いよりはマシだよ」
店を出ようとした時に、ふと一つのかごが目に入った。店の片隅に押しやられ、かごの中には乱雑に入れられた武器達。かごには特売品と書かれた札が掛けてあった。その中で見つけて買ったこの一品。
『だって、それ、棍棒じゃないか……』
先端にトゲがついた木の棒、棍棒があった。
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