婚約破棄? いいですけど、なんで私の杖奪うのですか?

ノミ

文字の大きさ
3 / 21

3話 店員さんも仕事だから

しおりを挟む
「旅しようよ、カーバンクル」

 婚約破棄と国外追放。これらにより始まったカーバンクルとの二人旅。ん? 正確には、一人と一匹旅?

 木漏れ日が差し込む森の中、私達は行き先も決めず歩いていた。まずは、行き先ぐらい決めないとね。

『どこか行く当てはあるの?』
「んー、ないない。だって、国外追放だよ? 国外なんて行ったことすらないのに」

 バカ王子との婚約は本当に形だけというか、あいつが他国へ行く際も、私はお留守番だった。婚約する前までも外国なんて行ったことが無く、国外追放を言い渡された私に行く当てなどあるはずがなかった。

「むしろ、カーバンクルの方がよく知ってるでしょ? なんか当てないの?」

 カーバンクルは精霊でありながら、人間界を自由に放浪している物好きな精霊。私が精霊術で呼び出したわけではなく、もっと前から人間界を放浪している。

『無くはないけど、お前は何かしたいとか行きたい所とかはないのか?』
「えー? んー、とりあえず杖欲しいかな」

 前の杖はあいつに取られてしまった。別に無くてもそんな困るわけじゃないけど、ずっと持ってたからなんか手が寂しいというかなんというか。

『杖、か。それは武具屋に行くしかないな。確か、隣国に評判の武具屋があったはず。そこを目指すでどう?』
「いいね。じゃあ、案内よろしく。カーバンクル」

 二人は目的地へ向けて歩き出した。




「はー、ようやく着いたね」

 目的地を決めて2日後。遂に隣国であるメッシーナへと着いた。

『武具屋はこの先だよ』
「えー、少しは休憩しようよー」
『後ですればいいだろ? お目当ての物が、先に誰かに買われたらどうする?』
「……正論は優しくないよ」

 正論パンチでノックアウトされた私は、大人しくカーバンクルの後をついていった。



「いらっしゃい!」

 店に入ると、店員さんから元気よく挨拶される。元気よくて気持ちいい挨拶。見た目いかついけど。

「何をお探しでしょう!」
「……杖をちょっと」

 あっ、思ったよりグイグイ来るタイプなのね、この人。いや、まあ、自分で探さなくていいし楽でいいんだけど。

「杖ですか! こちらです!」

 店員さんに案内され、店内を移動する。そして、壁一面に杖がかかった杖コーナーへ。

「当店の杖は職人が一本一本作った一級品になります! こちらなどいかがでしょう? 魔力効率が良くなりますよ!」

 一般的に杖は、魔法を使う際に補助をしてくれる物とされる。素材も魔力をよく通すもので作られ、杖に魔力を流して魔法を練った方が効率よく、質の高い魔法へと仕上がる。
 インクを指に付けて文字書くより、ペンで文字を書いた方がインク量も少なく、綺麗に書けるって感じかな。

 だから、杖は太かったり長い必要がないわけで。

「細いのしかない……」

 飾られていた杖は全て細く、短いものだった。

「あの、もっと太くて長いのないですか?」
「太くて長いものですか。それなら、こちらなどはいかがでしょう」
「あー、いやここに飾ってあるものじゃなくて、ここにあるのより、もっと太くて長いやつなんですけど……」

 前の杖は長さは私の背丈ぐらいあって、太さもここにある指ぐらいの太さではなく、私の手首ぐらいの太さがあった。……いや、別に私の手首が太いとかそんなんじゃない。

「うーん、申し訳ございませんが、当店にはそのような杖のご準備がありませんね」
「そうですか……」

 昔はよくあったらしいんだけどな。昔はまだ魔法の研究も進んでいなくて、精密さも求められてなかったからかな。今の時代だと、もうあの大きさだと精密な術式とかは出来ないだろうしな。あれで文字書くぐらいなら指の方がマシだろうし。

「ちなみに、普段魔法はどのようなものをお使いされるのでしょうか?」
「いや、魔法は使わないんで」
「え? では、何故杖を?」
「殴るのに丁度よかったんで」
「は?」

 あの杖は本当に丁度よかった。あの長さ、あの重さ、あのグリップ感。どこをとっても完璧な杖だった。本当に殴るのに丁度いい杖。

「だ、打撃武器をお探しでしたら、あちらにハンマーなどがございますので」
「ハンマー……。…………なんか違う」

 勧められたハンマーを手に持ってみる。でも、違った。ハンマーは先端が重すぎる。あの杖も先端の方が丸まって重くはなっていたけど、こんな極端じゃない。

「で、では、こちらの剣はいかがでしょう。あえて切れ味は落とし、硬い魔物などを叩き切るという感じでお使いいただけます」
「うーん、素材は木がいいかな」

 剣も持ってみるけどこれも違う。素材は金属より木がいい。それに、剣だと刃と柄の部分で別になっている感じがする。もっと一体感が欲しい。

「そ、そうでございますか。うーん、中々難しいですね……」
「……すみません。変なお願いしちゃって」

 店員さんからすれば、「なんだこの客」って感じだろう。杖を探してるくせに、殴るためですと言うやつは多分私の他に居ないはず。

「いえ、申し訳ございません。お力になれず」
「気にしないで。私がおかしいのは分かってるんで」

 良い店員さんだったけれど、残念ながらここには私が求める物は無いみたい。

 仕方がないので、諦めて店を出ようとしたその時、

「こ、これは……!」





『……本当にそれでよかったの?』
「え? まあ、短いけどさ。無いよりはマシだよ」

 店を出ようとした時に、ふと一つのかごが目に入った。店の片隅に押しやられ、かごの中には乱雑に入れられた武器達。かごには特売品と書かれた札が掛けてあった。その中で見つけて買ったこの一品。

『だって、それ、棍棒じゃないか……』

 先端にトゲがついた木の棒、棍棒があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い

タマ マコト
ファンタジー
聖女リディアは国と民のために全てを捧げてきたのに、王太子ユリウスと伯爵令嬢エリシアの陰謀によって“無能”と断じられ、婚約も地位も奪われる。 さらに追放の夜、護衛に偽装した兵たちに命まで狙われ、雨の森で倒れ込む。 絶望の淵で彼女を救ったのは、隣国ノルディアの騎士団。 暖かな場所に運ばれたリディアは、初めて“聖女ではなく、一人の人間として扱われる優しさ”に触れ、自分がどれほど疲れ、傷ついていたかを思い知る。 そして彼女と祖国の運命は、この瞬間から静かにすれ違い始める。

処理中です...