上 下
42 / 45
第二章

仕切り直し

しおりを挟む
 にじむ視界の中で、ベルムさんが微笑んだ。

「フォルテ、たった一人でよくここまで耐えたな」

 穏やかな声に目が熱くなるけど、今は泣いてる場合じゃない。

「ベルムさん……、なんでここが……?」

「ヒューゴから話を聞いて、嫌な予感がしたから来てみたんだ」

「ヒューゴさんから?」

「ああ。そしたら、入り口のところでリグレが……」
「グォォォォォォ!」

 ベルムさんの声を石像の雄叫びがさえぎる。

「ほら、詳しい話はあと! ベルムは早く盾拾って、アイツを引きつけて!」

「……そうだな、マリアン。じゃあ、三人とも、攻撃と回復は任せたぞ!」

 そう言うと、ベルムさんは走り出し、床に落ちた盾を拾って、石像に向かっていった。

 そして――

「こっちだ! バケモノ!」

  キィィィッ

「グォォォォ!」

 ――脚を斬りつけながら、石像の背後に回り込んだ。

  バシッ

  ドゴッ

  キィンッ

  バンッ

  ガタンッ

  キィンッ

 背を向けた石像の向こうから、衝突音や金属がすれる音が響きはじめる。

 詳しい話は聞けなかったけど……、リグレは無事に入り口までたどり着いたみたいだな。

 ……よかった。
 本当に、よかった。

「ほらほら!」

 不意に、マリアンさんが杖で床を叩いた。

「フォルテ君も、安心するのはアイツを倒してからよ!」

「そう、ですね……」

「そうそう! 処理が終わったらリグレちゃんも一緒に、うちの店で打ち上げするから、もうちょっとだけ踏ん張りなさい!」

「……分かりました」

「よろしい! じゃあ、私はしばらくベルムの保護と回復に専念するから、攻撃は君たちに任せたわよ!」

 マリアンさんが背を向けて、保護魔法の詠唱を始めた。
 今度こそ、アイツにダメージを与えないと。
 でも、さっきの爆破さえきかなかったのに、本当にどうすれば……。

「フォルテ、ちょっといい?」

 今度は、ルクスさんが話しかけてきた。

「あ、はい。なんでしょうか?」

「あの石像の倒し方について、簡単に説明するよ」

「え……、倒し方、分かるんですか!?」

「うん。もう、見えたから」

 そうか……、ルクスさんの固有スキル「観察眼」なら、アイツの弱点も見えるんだ。

「まず、アイツの目にはめられた宝石には、魔術の攻撃しか通らない」

「え……? でも、さっきまで攻撃してましたが、ダメージを全然与えられなかったですよ?」

「うん。目に見えない保護魔法で守られてるからね」

「保護魔法……」

 どうりで、まったくダメージが通らないわけだ……。

「そう。それで、その保護魔法を解除するには、角を壊さないといけないんだけど……」

 ルクスさんは、背負っていた矢筒から、矢を一本取り出した。

「……角には魔術の攻撃がきかないから、しばらくは俺に任せてて」

「えーと……、なにか僕がサポートできることは?」

「角が壊れるまでは、大丈夫だよ。さっきまで一人で大変だったろうから、少し魔力と体力を温存してて」

「ありがとう、ございます……」

「いえいえ。あ、でも、全体攻撃とかがきたら、ちゃんと避けてね」

「分かりました」

「うん。じゃあ、行ってくる」

 ルクスさんは弓を引き絞りながら走り出し、石像の背後に近づいて矢を放った。

  シュッ
 
  トスッ

「グッ……、ガァッ!」

 右の角に矢が刺さった石像が叫び声を上げて、振り返りざまにルクスさんを殴りつける。

「よっ……、と」

 ルクスさんは後ろに飛び退いて避けながら、すぐに次の矢を放つ。

  シュッ
 
  トスッ
 
「ガァァァァァ!」

 一撃めのすぐ近くに矢を打ち込まれ、石像が角をおさえて床に膝をつく。

「ほら、よそ見をするな!」

  ガンッ

「グァッ!」

 すかさず背中を盾で殴りつけて、ベルムさんが再び石像を引きつける。そのすきに、ルクスさんが次の矢を用意して、また正確に角を射る。

「……光よ、かの者を護りたまえ!」

 二人が攻撃を繰り返す間に、マリアンさんが一定の間隔で、ベルムさんに保護魔法をかける。
 ……すごく息の合った連携だ。

「ゴァァァァァァァァァッ!」

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 またしても、石像が広間全体を揺らすくらいの雄叫びを上げた。
 ということは、次に来るのは……。
 
  カタカタカタカタ

「きゃっ!?」

「マリアンさん!?」

 マリアンさんを取り囲むように、骸骨の群れが床から這い出した。

  キィィィィィィィ……

 しかも、光線を撃つ準備をしだした。
 このままだとまずい。魔力はギリギリ一回くらい魔術を撃てるくらい、回復したはず……。

「南をつかさどるものよ……」

「フォルテ君! 今は魔力を温存して!」

「……っでも、そんなことしたらマリアンさんが!」

「私は大丈夫だから……、えいっ!」

 かけ声と同時に、マリアンさんは杖を床と水平に持って一回転した。
 その途端に、骸骨の群れが石化して動きを止める。

「ふんっ!」

 ガラガラガラガラガラ……

 マリアンさんは再び一回転しながら、杖で石化した骸骨たちを砕いた。
 えーと、杖で石を砕けるのもすごいけど……、それよりも今のって……。

「……詠唱なしで、石化魔術を使った?」

 石化魔術なんて、どんなに腕のいい魔術師でも、とんでもなく長い呪文を詠唱しないと使えないはずなのに……。

「ふふふ。私の固有スキルは『蛇姫』だからね。このくらいの石化なら、詠唱しなくてもお手のものよ」

「『蛇姫』って……、伝説級のレアスキルじゃないですか……」

「まあ、たしかに珍しいスキルではあるわね。でも、もともとが石像のアイツに石化はきかないし、とどめもさせないから……、最後は君の魔術にかかってるのよ」

 僕の魔術にかかってる、か。絶対に失敗はできないな……。


 しばらくの間、ベルムさんが石像を引きつけ、ルクスさんが正確に角を攻撃し、マリアンさんがベルムさんを優先的に回復して、僕は回避に徹するという戦いが続いた。

 そして――

「グォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 ――石像がひときわ大きな雄叫びを上げた。

 右の角は折れてるし、左の角にも大量に矢が刺さってるから、雄叫びってよりも悲鳴なのかも。
 なら、そろそろ詠唱を……。

「……!? みんな、目をつぶって!!」

 突然、ルクスさんが大声で叫んだ。

「……え? ……うわっ!?」

 目を閉じる間もなく辺りは白い光があふれて、何も見えなくなった。
 
 これは、いったい……?

「ギャアッ! ギャアッ!」

 え?
 
 今の鳴き声って、まさか――

「ギャアギャアギャアッ!」
「ギャアッ!」
「ギャギャッギャァッ!」
「ギャアギャアギャア!」

 ――テラストリアルワイバーンの群れだ。

 そんな……、コイツらがなんでここに……?
 
 いつのまにか、周囲が「魔の森」に変わってる。
 見回しても、ベルムさんたちどころか、石像の姿も見当たらない。

 いったい……、なにが起きたんだ……?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

約束。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

ちゃぼ茶のショートショート 「無邪気な子供」

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

世界最強の四大精霊〜貴族の貧乏くじは精霊に愛される〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

性病女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

魔王と聖女と箱庭の戦争

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

炎帝の真実

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

王は月夜に優しく囁く

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:28

時空を越えた戦士の航跡

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

交番を見張る男

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...