2 / 5
草食系って、そういうことじゃないと思うんだ……
しおりを挟む
都会の片隅に建つ、マンションのリビングにて。
会社員の佐藤ヒロシは、またしても深いため息を吐いていた。
「……たしかに、先週、紹介された子とのお付き合いは断ったな」
脱力した顔の先では、友人の山本アツシがにこやかな表情を浮かべている。
「うん。ほら、あの子肉食系だったから、ヒロシの好みとは違ったのかなって思って」
「まあ、あんまり積極的過ぎる子よりは、おとなしめな子のほうが好みだけど……」
「でしょ? だから、草食系の彼女を連れてきたんだよ」
「いや、草食系っていうか……」
ヒロシはアツシの隣に視線を向けた。
うれいを帯びたまつげの長い目。
艶のある純白のたてがみ。
光り輝く長い角。
そこにいたのは、まぎれもなく――
「……どう見ても、ユニコーンだよね?」
「ヒヒン」
――そう、ユニコーンだった。
「うん! ほら、ヒロシって恋人いない歴=年齢でしょ! だから、ちょうどいいと思って!」
「誰が歴=年齢だ!? 別に付き合ってた子くらいいたわ!」
「え? そうだったの?」
ヒロシが激昂すると、アツシはキョトンとした表情で首をかしげた。
「でも、彼女、『清らかな空気をまとった素敵な方とお見受けいたします』って言ってたよ」
「ヒヒン……」
「まあ、そりゃ、小学校のときだったから、あれだけど……、っていうか、なんでこりずにファンタジーな生物つれてきてるんだよ!?」
「えー、でも、ちゃんと女の子だし、上品な美しさがあると思わない?」
「美しさはあると思うけど、ユニコーンだぞ!?」
「よかったね、ゆに子! ヒロシが美しいって!」
「ヒヒィン!」
「だから、発言の一部を抜き取るな! あと、そんなベレー帽被ったマンガの神様が描いた作品にいそうな名前だったのかよ!?」
「うん! しかも、この子も可憐な見た目に反して、過酷な日々で身体が鍛えられてるから……、上がり三ハロンのタイムは、なんと、三十三秒台だよ!」
「驚異的な末脚だな!?」
「よかったね、ゆに子! 七冠馬間違いなしだって!」
「ヒヒン……」
「そこまで言ってね……いや、まあ、目指せるくらいのタイムかもしれないけど……、ともかく、ゆに子も照れんな!」
全身全霊でツッコミを入れると、ヒロシはまたしても大げさなため息を吐いた。
「まあ、今日も言いたいことはまだたくさんあるけど……、どう考えてもユニコーンは恋人枠じゃないだろ……」
「ヒヒィン……、ブルルルッ……」
「ふむふむ。えーとね、ヒロシのことをすごく気に入ったから、恋人としてじゃなくても、側で役に立ちたいって」
「役に立ちたいって……、通勤のときに背中に乗せてくれるのか?」
「ブルルルルッ! ヒヒィン」
「うんうん。えーとね、さすがに現代社会で、ユニコーンに乗って疾走するのは現実的じゃないから……」
「ファンタジー生物に、現実的がどうこう言われたくねーよ!」
「もう、話は最後まできいてよ! その代わり、解毒能力のほうでヒロシの力になってくれるって」
「解毒、能力?」
「うん。ユニコーンには、水を浄化する力があるんだよ」
「へぇ、そうだったのか……、なら、浄水器的な働きをしてくれるのか?」
「ブルルッ」
「ううん、違うよ」
アツシとユニコは、同時に首を横に振った。
そして――
「勤めてる会社で取り扱ってる、『安心安全のお水がいつでも飲めるウォーターサーバー』を、格安でレンタルさせてくれるって」
「ヒヒィン!」
――わりと、乗ったらダメなタイプの話を切り出した。
ヒロシは頭を抱えながら、力なくうつむいた。
「……もう、帰ってくれ」
「ヒヒィン! ヒヒィーン!」
「えーと、『どうか、そうおっしゃらずに! 今ならなんと、月々千五百円(税込み)ですから!』 だって!」
「いいから、帰れよ!!」
かくして、マンションのリビングには、ヒロシの悲痛な叫び声が響いたのだった。
会社員の佐藤ヒロシは、またしても深いため息を吐いていた。
「……たしかに、先週、紹介された子とのお付き合いは断ったな」
脱力した顔の先では、友人の山本アツシがにこやかな表情を浮かべている。
「うん。ほら、あの子肉食系だったから、ヒロシの好みとは違ったのかなって思って」
「まあ、あんまり積極的過ぎる子よりは、おとなしめな子のほうが好みだけど……」
「でしょ? だから、草食系の彼女を連れてきたんだよ」
「いや、草食系っていうか……」
ヒロシはアツシの隣に視線を向けた。
うれいを帯びたまつげの長い目。
艶のある純白のたてがみ。
光り輝く長い角。
そこにいたのは、まぎれもなく――
「……どう見ても、ユニコーンだよね?」
「ヒヒン」
――そう、ユニコーンだった。
「うん! ほら、ヒロシって恋人いない歴=年齢でしょ! だから、ちょうどいいと思って!」
「誰が歴=年齢だ!? 別に付き合ってた子くらいいたわ!」
「え? そうだったの?」
ヒロシが激昂すると、アツシはキョトンとした表情で首をかしげた。
「でも、彼女、『清らかな空気をまとった素敵な方とお見受けいたします』って言ってたよ」
「ヒヒン……」
「まあ、そりゃ、小学校のときだったから、あれだけど……、っていうか、なんでこりずにファンタジーな生物つれてきてるんだよ!?」
「えー、でも、ちゃんと女の子だし、上品な美しさがあると思わない?」
「美しさはあると思うけど、ユニコーンだぞ!?」
「よかったね、ゆに子! ヒロシが美しいって!」
「ヒヒィン!」
「だから、発言の一部を抜き取るな! あと、そんなベレー帽被ったマンガの神様が描いた作品にいそうな名前だったのかよ!?」
「うん! しかも、この子も可憐な見た目に反して、過酷な日々で身体が鍛えられてるから……、上がり三ハロンのタイムは、なんと、三十三秒台だよ!」
「驚異的な末脚だな!?」
「よかったね、ゆに子! 七冠馬間違いなしだって!」
「ヒヒン……」
「そこまで言ってね……いや、まあ、目指せるくらいのタイムかもしれないけど……、ともかく、ゆに子も照れんな!」
全身全霊でツッコミを入れると、ヒロシはまたしても大げさなため息を吐いた。
「まあ、今日も言いたいことはまだたくさんあるけど……、どう考えてもユニコーンは恋人枠じゃないだろ……」
「ヒヒィン……、ブルルルッ……」
「ふむふむ。えーとね、ヒロシのことをすごく気に入ったから、恋人としてじゃなくても、側で役に立ちたいって」
「役に立ちたいって……、通勤のときに背中に乗せてくれるのか?」
「ブルルルルッ! ヒヒィン」
「うんうん。えーとね、さすがに現代社会で、ユニコーンに乗って疾走するのは現実的じゃないから……」
「ファンタジー生物に、現実的がどうこう言われたくねーよ!」
「もう、話は最後まできいてよ! その代わり、解毒能力のほうでヒロシの力になってくれるって」
「解毒、能力?」
「うん。ユニコーンには、水を浄化する力があるんだよ」
「へぇ、そうだったのか……、なら、浄水器的な働きをしてくれるのか?」
「ブルルッ」
「ううん、違うよ」
アツシとユニコは、同時に首を横に振った。
そして――
「勤めてる会社で取り扱ってる、『安心安全のお水がいつでも飲めるウォーターサーバー』を、格安でレンタルさせてくれるって」
「ヒヒィン!」
――わりと、乗ったらダメなタイプの話を切り出した。
ヒロシは頭を抱えながら、力なくうつむいた。
「……もう、帰ってくれ」
「ヒヒィン! ヒヒィーン!」
「えーと、『どうか、そうおっしゃらずに! 今ならなんと、月々千五百円(税込み)ですから!』 だって!」
「いいから、帰れよ!!」
かくして、マンションのリビングには、ヒロシの悲痛な叫び声が響いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる