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魔法剣士アルフレート
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やばい、このままではやばい。
私は玉ねぎを飴色になるまで炒めながら、今後の事について考えていた。
玉ねぎを薄切りしながら涙が止まらなかったのは、硫化アリルのせいだけではないだろう。
「聖女様、じゃがいもの皮むき終わりました」
ニッコリと微笑む侍女を見て、私はハッと気が付いた。
「あなた、もしかしてヘンリエッテ?」
「もしかしなくてもヘンリエッテですよ」
優しく笑うヘンリエッテは、少し茶色がかった金髪をしっかりと編み込み、エメラルドの瞳が印象的な美人さんだ。
すらりと背筋が伸び、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルの良さ。
間違いない。第二部でアルフレートのヒロインとなるヘンリエッテだ。
「ヘンリエッテ!ありがとう!」
「いえ、次はお肉を叩いておきますね」
第二部はかなり流し読みをしていたから直ぐには気づかなかったけど、ヘンリエッテは聖女の侍女だった。
そう、第二部。私には第二部があった。
さっさと変態共に第二部のヒロインをあてがって、私はモブになろう。なんならふらりと現れては料理薀蓄を披露するから。
私は鼻歌混じりに玉ねぎを炒め続けた。
「ヘンリエッテ、私、魔物討伐隊の皆さんと仲良くしたいと思うの」
正確には、アルフレートとヘンリエッテを仲良くしたい。
「それは良い事ですね」
「それでね、まずはアルフレート様を今日の晩ごはんにお誘いしようかなって」
「アルフレート様だけ、ですか?」
ヘンリエッテが怪訝そうに私を見つめる。
「ほら、私って人見知りだから、いきなり大人数のよく知らない方達と食事なんて、そんなの無理だもの。まずは一人ずつ」
「そう、ですね。ゆっくりいきましょう」
聖女の私がずっとぼっちで過ごしてきた事を知っているヘンリエッテは、気遣うようにふんわりと笑った。
ヘンリエッテの優しさに付け込むようで少々心苦しい。
「そこで、ヘンリエッテにアルフレート様をお誘いしてきて欲しいの」
「私がですか……分かりました、お誘いしてきます」
「あ、もし意気投合して二人きりで過ごしたいなって思ったら、私の事は気にせず仲良くしっぽり、よろしく過ごして貰って構わないから」
変態の元へと旅立つヘンリエッテを、大きく手を振って送り出した。
「食事の席に呼んで頂けるとは光栄ですね」
ヘンリエッテは仲良くしっぽりする事なく、アルフレートを連れてきてしまった。
まあ、でもいい。これからバンバンフラグを立てていけばいい。
美人のヘンリエッテが『んほおぉ』とか言っちゃうのかとか思うと心が痛むけど、これは仕方のないことだ。
さあ、行けヘンリエッテ。そのふんわり笑顔で変態の心を鷲掴みにするのだ!
「セシィーは料理上手なんだね」
「ヘンリエッテにも沢山手伝って貰ったんですよ」
「この、きのこのマリネも最高だよ」
「ヘンリエッテが石づきを取ってくれました」
「デザートも楽しみだな。プリンだって聞いたよ」
「ヘンリエッテは型抜きのプロですからね。究極のプリンを味わわせてあげますよ」
アルフレートと会話のキャッチボールをする内、何だか距離が縮まってきている気がする。
私は助けを求めるようにヘンリエッテを見るけど、部屋の隅で微笑みを浮かべながら立っているだけだった。
そう、ヘンリエッテは侍女だから、頑なに同席を拒んだのだ。
結果私はアルフレートと二人で仲良く、カレーを食べる事になってしまった。
「セシィー、今日ご馳走になったお礼に、今度は私から食事に誘わせてくれないかな?」
「私、自炊派なので。明日も牛スジを煮るのに忙しいですし。弱火でじっくりコトコト煮るのが大切ですが、牛スジ肉をザク切りしたキウイと一緒に一晩漬けておくと、とろとろに仕上がるんですよ。私は牛スジをこんにゃくと大根と一緒に赤味噌で煮込んだ、どて煮が好きですね」
聖女のスキルを発動させて、これ以上仲良くなる事は阻止しておいた。
人生、ままならない。
私は後ろ手を組んで、部屋の中を歩き回っている。
ヘンリエッテは第二部のヒロインなんだから、会えば即フォーリンラブだと気楽に考えていた。
でも、思えば私も第一部のヒロイン。何の策もなくヒーローと会うのは危険と言う事か。
きらびやかな部屋にコツコツと足音が響き渡る。
策を練らねばなるまい。権謀術数の策を。
「アルフレート様にお願いがあるんです」
私は密かにアルフレートを呼び出した。
二人きりになる訳にはいかないので、なるべくガヤガヤした所を選んだ。お城で働く人達が使う食堂だ。
「聖女様がこんな所に来ていいのかい?」
「一度食べてみたいと思っていたんです」
お昼時なのでついでにご飯も頂いておく。今日の食堂のメニューは生姜焼き定食だ。ご飯とお味噌汁もついている。
こっそり周りを見渡すと、建物も人物も洋風だけど、皆さんきれいな箸使いで生姜焼きを食べていた。シュールな光景だ。
「それでお願いって何かな。セシィーの頼みなら何だって聞くよ」
キラキラスマイルに、中身は凡人の私は危うくときめきそうになった。いや、正直ときめいてしまった。
だめだ、顔が赤くなってしまう。慌てて視線を生姜焼きに落として心を落ち着かせる。
深呼吸してから、ちらりとアルフレートを盗み見ると、そんな私の様子を余裕の笑みで見つめていた。
『だめだよ、まだ動いちゃ。セシィーのいやらしいおねだりがまだだからね。ほらいつもの様に、アルフレート様のデカチンポを、セシィーの淫乱スケベ穴にズボズボしてって言うんだ』
よし、ときめきが無になった。エロシーンを思い出して心が凪いだ。
私は口だけで笑ってアルフレートの顔を見た。
「実は私、お城の外に行ってみたいお店がありまして」
「デートのお誘いかな?」
「いえ、そう言う訳ではなく、聖女と言う立場上、初めて行く場所は誰かが下見をして安全を確認してからでないと行けないのです」
嘘です。そんな決まりはありません。
聖女なんてものは、魔物討伐が始まった時に変態に捧げるスケープゴート。その時が来るまでは放置放任だった。
「今までは下見をお願いできる人がいなくて、ほとんど外に出る事は無かったんです。でもほら、アルフレート様は食事に誘ってくださったでしょう?アルフレート様になら、下見をお願いできるのではと思って……」
私は精一杯申し訳なさそうな顔をして、アルフレートを見つめた。
言い訳がちょっと苦しいけど、そこは眉根をキュッと寄せて、コテンと小首を傾げて誤魔化しておく。
「聖女も大変なんだね。いいよ、どんな店なんだい?」
「こちらです」
私は一枚の紙を取り出すとテーブルに置き、アルフレートに向かってスッと差し出した。
もしも私がメガネキャラならば、キラリとメガネが光った事だろう。
「ああ、ミスルトウか。行った事あるよ。悪いお店じゃないから、今度一緒に行こう」
しまった。そのパターンは考えていなかった。
狙った彼女を落とすならココ!窓際カープルシートから見る夜のお城に彼女もイチコロ!と情報誌に書かれていたバーだけど、アルフレートは誰と行ったんでしょうね。
「その、下見は女性の意見も聞きたいので、すみませんが私の侍女と一緒に行っていただけませんか?」
「侍女?」
「ヘンリエッテです。花も恥じらう十九歳。ふんわり笑顔が堪らない、あのヘンリエッテです」
「よく分からないけど、セシィーの頼みならいいよ」
「ではこれ、飲んでみたいカクテルをリストアップしましたので、ヘンリエッテと一緒に楽しく飲んできてください。あ、席は一番人気のカップルシートで、よろしくお願いいたします」
私はもう一枚紙を取り出してスッと差し出した。
もしも私がメガネキャラならば、メガネをクイッと持ち上げた事だろう。
アルフレートは紙を眺めると、妖艶な笑みを私に向けた。
「それで、セシィーは誰とここに行きたいのかな?」
眩しい。キラキラが眩しい。
ついでに言うと、少し顔を近づけて囁かれたセクシーボイスも、腰にずーんと響いた。
『ほら、セシィー、ここをよく見てどうなっているか言ってご覧。はは、そんなんじゃ全然伝わらないよ。ぐちゅぐちゅに蕩けてよだれを垂らすセシィーの淫乱まんこを、アルフレート様の剛直ちんぽが気持ちよくかき混ぜてくれています、だろう?』
よし、好感度はマイナスだ。エロシーンのおかげで、今なら悟りが開けそうなぐらい心は無だ。
「うふふ、ナイショです。わあ、この生姜焼き美味しいですね。私が作る時は漬けダレに大根おろしを入れるんです。大根に含まれるプロテアーゼはタンパク質を分解してくれるので、お肉が柔らかくなるんです。漬けダレには片栗粉を入れておくとタレがよく絡みますよ。辛いのが苦手なので、どうしても生姜は控えめにしてしまうんですよね」
聖女のスキルで煙に巻いておいた。
そして、ついにアルフレートとヘンリエッテはデートに行った。
雰囲気のいいバーのカップルシートに座り、二人きりでお酒を飲めば……後はもう、分かるね。
昨日の夜はヘンリエッテが、ピーがピーでピッピッー的なセリフを言わされているかと思うと、そわそわと落ち着かなかった。
ヘンリエッテは通いの侍女だ。現時点で遅刻をしている。これはもう、間違いない。
私は部屋にある執務机のような立派な机に向かい椅子に座った。両肘を立てて指を組み、口元を寄せる。
私は正面にある扉をじっと見つめて、ひたすらヘンリエッテを待った。
「遅くなって、申し訳、あり、ません……」
一時間程遅れて、ヘンリエッテがやってきた。
「おはよう、ヘンリエッテ」
「おは、よう……ござい、ます……」
ヘンリエッテが掠れた声で挨拶を返した。
これはもう確定だろう。散々ピーがピーでピッピーと言わされたんだろう。
「あの、どうか……されましたか?」
気がつけば、私は立ち上がりヘンリエッテに敬礼をしていた。
「ありがとう、ヘンリエッテ」
「何の、事で、しょうか……」
「昨日の下見、大変だったんじゃない?」
「……いえっ、あのっ」
ヘンリエッテの顔が、ぼふんと音がするんじゃないかと言う勢いで赤くなった。
「……お店はどうだった?」
「す、凄く、ステキでした……」
うっとりとした顔でそれだけ言うと、ヘンリエッテはモジモジと恥ずかしそうに黙りこくった。
ステキだったのはお店なのかアルフレートなのか。とにかく、ヘンリエッテが幸せそうで良かった。
末永く、お幸せに。
私は玉ねぎを飴色になるまで炒めながら、今後の事について考えていた。
玉ねぎを薄切りしながら涙が止まらなかったのは、硫化アリルのせいだけではないだろう。
「聖女様、じゃがいもの皮むき終わりました」
ニッコリと微笑む侍女を見て、私はハッと気が付いた。
「あなた、もしかしてヘンリエッテ?」
「もしかしなくてもヘンリエッテですよ」
優しく笑うヘンリエッテは、少し茶色がかった金髪をしっかりと編み込み、エメラルドの瞳が印象的な美人さんだ。
すらりと背筋が伸び、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルの良さ。
間違いない。第二部でアルフレートのヒロインとなるヘンリエッテだ。
「ヘンリエッテ!ありがとう!」
「いえ、次はお肉を叩いておきますね」
第二部はかなり流し読みをしていたから直ぐには気づかなかったけど、ヘンリエッテは聖女の侍女だった。
そう、第二部。私には第二部があった。
さっさと変態共に第二部のヒロインをあてがって、私はモブになろう。なんならふらりと現れては料理薀蓄を披露するから。
私は鼻歌混じりに玉ねぎを炒め続けた。
「ヘンリエッテ、私、魔物討伐隊の皆さんと仲良くしたいと思うの」
正確には、アルフレートとヘンリエッテを仲良くしたい。
「それは良い事ですね」
「それでね、まずはアルフレート様を今日の晩ごはんにお誘いしようかなって」
「アルフレート様だけ、ですか?」
ヘンリエッテが怪訝そうに私を見つめる。
「ほら、私って人見知りだから、いきなり大人数のよく知らない方達と食事なんて、そんなの無理だもの。まずは一人ずつ」
「そう、ですね。ゆっくりいきましょう」
聖女の私がずっとぼっちで過ごしてきた事を知っているヘンリエッテは、気遣うようにふんわりと笑った。
ヘンリエッテの優しさに付け込むようで少々心苦しい。
「そこで、ヘンリエッテにアルフレート様をお誘いしてきて欲しいの」
「私がですか……分かりました、お誘いしてきます」
「あ、もし意気投合して二人きりで過ごしたいなって思ったら、私の事は気にせず仲良くしっぽり、よろしく過ごして貰って構わないから」
変態の元へと旅立つヘンリエッテを、大きく手を振って送り出した。
「食事の席に呼んで頂けるとは光栄ですね」
ヘンリエッテは仲良くしっぽりする事なく、アルフレートを連れてきてしまった。
まあ、でもいい。これからバンバンフラグを立てていけばいい。
美人のヘンリエッテが『んほおぉ』とか言っちゃうのかとか思うと心が痛むけど、これは仕方のないことだ。
さあ、行けヘンリエッテ。そのふんわり笑顔で変態の心を鷲掴みにするのだ!
「セシィーは料理上手なんだね」
「ヘンリエッテにも沢山手伝って貰ったんですよ」
「この、きのこのマリネも最高だよ」
「ヘンリエッテが石づきを取ってくれました」
「デザートも楽しみだな。プリンだって聞いたよ」
「ヘンリエッテは型抜きのプロですからね。究極のプリンを味わわせてあげますよ」
アルフレートと会話のキャッチボールをする内、何だか距離が縮まってきている気がする。
私は助けを求めるようにヘンリエッテを見るけど、部屋の隅で微笑みを浮かべながら立っているだけだった。
そう、ヘンリエッテは侍女だから、頑なに同席を拒んだのだ。
結果私はアルフレートと二人で仲良く、カレーを食べる事になってしまった。
「セシィー、今日ご馳走になったお礼に、今度は私から食事に誘わせてくれないかな?」
「私、自炊派なので。明日も牛スジを煮るのに忙しいですし。弱火でじっくりコトコト煮るのが大切ですが、牛スジ肉をザク切りしたキウイと一緒に一晩漬けておくと、とろとろに仕上がるんですよ。私は牛スジをこんにゃくと大根と一緒に赤味噌で煮込んだ、どて煮が好きですね」
聖女のスキルを発動させて、これ以上仲良くなる事は阻止しておいた。
人生、ままならない。
私は後ろ手を組んで、部屋の中を歩き回っている。
ヘンリエッテは第二部のヒロインなんだから、会えば即フォーリンラブだと気楽に考えていた。
でも、思えば私も第一部のヒロイン。何の策もなくヒーローと会うのは危険と言う事か。
きらびやかな部屋にコツコツと足音が響き渡る。
策を練らねばなるまい。権謀術数の策を。
「アルフレート様にお願いがあるんです」
私は密かにアルフレートを呼び出した。
二人きりになる訳にはいかないので、なるべくガヤガヤした所を選んだ。お城で働く人達が使う食堂だ。
「聖女様がこんな所に来ていいのかい?」
「一度食べてみたいと思っていたんです」
お昼時なのでついでにご飯も頂いておく。今日の食堂のメニューは生姜焼き定食だ。ご飯とお味噌汁もついている。
こっそり周りを見渡すと、建物も人物も洋風だけど、皆さんきれいな箸使いで生姜焼きを食べていた。シュールな光景だ。
「それでお願いって何かな。セシィーの頼みなら何だって聞くよ」
キラキラスマイルに、中身は凡人の私は危うくときめきそうになった。いや、正直ときめいてしまった。
だめだ、顔が赤くなってしまう。慌てて視線を生姜焼きに落として心を落ち着かせる。
深呼吸してから、ちらりとアルフレートを盗み見ると、そんな私の様子を余裕の笑みで見つめていた。
『だめだよ、まだ動いちゃ。セシィーのいやらしいおねだりがまだだからね。ほらいつもの様に、アルフレート様のデカチンポを、セシィーの淫乱スケベ穴にズボズボしてって言うんだ』
よし、ときめきが無になった。エロシーンを思い出して心が凪いだ。
私は口だけで笑ってアルフレートの顔を見た。
「実は私、お城の外に行ってみたいお店がありまして」
「デートのお誘いかな?」
「いえ、そう言う訳ではなく、聖女と言う立場上、初めて行く場所は誰かが下見をして安全を確認してからでないと行けないのです」
嘘です。そんな決まりはありません。
聖女なんてものは、魔物討伐が始まった時に変態に捧げるスケープゴート。その時が来るまでは放置放任だった。
「今までは下見をお願いできる人がいなくて、ほとんど外に出る事は無かったんです。でもほら、アルフレート様は食事に誘ってくださったでしょう?アルフレート様になら、下見をお願いできるのではと思って……」
私は精一杯申し訳なさそうな顔をして、アルフレートを見つめた。
言い訳がちょっと苦しいけど、そこは眉根をキュッと寄せて、コテンと小首を傾げて誤魔化しておく。
「聖女も大変なんだね。いいよ、どんな店なんだい?」
「こちらです」
私は一枚の紙を取り出すとテーブルに置き、アルフレートに向かってスッと差し出した。
もしも私がメガネキャラならば、キラリとメガネが光った事だろう。
「ああ、ミスルトウか。行った事あるよ。悪いお店じゃないから、今度一緒に行こう」
しまった。そのパターンは考えていなかった。
狙った彼女を落とすならココ!窓際カープルシートから見る夜のお城に彼女もイチコロ!と情報誌に書かれていたバーだけど、アルフレートは誰と行ったんでしょうね。
「その、下見は女性の意見も聞きたいので、すみませんが私の侍女と一緒に行っていただけませんか?」
「侍女?」
「ヘンリエッテです。花も恥じらう十九歳。ふんわり笑顔が堪らない、あのヘンリエッテです」
「よく分からないけど、セシィーの頼みならいいよ」
「ではこれ、飲んでみたいカクテルをリストアップしましたので、ヘンリエッテと一緒に楽しく飲んできてください。あ、席は一番人気のカップルシートで、よろしくお願いいたします」
私はもう一枚紙を取り出してスッと差し出した。
もしも私がメガネキャラならば、メガネをクイッと持ち上げた事だろう。
アルフレートは紙を眺めると、妖艶な笑みを私に向けた。
「それで、セシィーは誰とここに行きたいのかな?」
眩しい。キラキラが眩しい。
ついでに言うと、少し顔を近づけて囁かれたセクシーボイスも、腰にずーんと響いた。
『ほら、セシィー、ここをよく見てどうなっているか言ってご覧。はは、そんなんじゃ全然伝わらないよ。ぐちゅぐちゅに蕩けてよだれを垂らすセシィーの淫乱まんこを、アルフレート様の剛直ちんぽが気持ちよくかき混ぜてくれています、だろう?』
よし、好感度はマイナスだ。エロシーンのおかげで、今なら悟りが開けそうなぐらい心は無だ。
「うふふ、ナイショです。わあ、この生姜焼き美味しいですね。私が作る時は漬けダレに大根おろしを入れるんです。大根に含まれるプロテアーゼはタンパク質を分解してくれるので、お肉が柔らかくなるんです。漬けダレには片栗粉を入れておくとタレがよく絡みますよ。辛いのが苦手なので、どうしても生姜は控えめにしてしまうんですよね」
聖女のスキルで煙に巻いておいた。
そして、ついにアルフレートとヘンリエッテはデートに行った。
雰囲気のいいバーのカップルシートに座り、二人きりでお酒を飲めば……後はもう、分かるね。
昨日の夜はヘンリエッテが、ピーがピーでピッピッー的なセリフを言わされているかと思うと、そわそわと落ち着かなかった。
ヘンリエッテは通いの侍女だ。現時点で遅刻をしている。これはもう、間違いない。
私は部屋にある執務机のような立派な机に向かい椅子に座った。両肘を立てて指を組み、口元を寄せる。
私は正面にある扉をじっと見つめて、ひたすらヘンリエッテを待った。
「遅くなって、申し訳、あり、ません……」
一時間程遅れて、ヘンリエッテがやってきた。
「おはよう、ヘンリエッテ」
「おは、よう……ござい、ます……」
ヘンリエッテが掠れた声で挨拶を返した。
これはもう確定だろう。散々ピーがピーでピッピーと言わされたんだろう。
「あの、どうか……されましたか?」
気がつけば、私は立ち上がりヘンリエッテに敬礼をしていた。
「ありがとう、ヘンリエッテ」
「何の、事で、しょうか……」
「昨日の下見、大変だったんじゃない?」
「……いえっ、あのっ」
ヘンリエッテの顔が、ぼふんと音がするんじゃないかと言う勢いで赤くなった。
「……お店はどうだった?」
「す、凄く、ステキでした……」
うっとりとした顔でそれだけ言うと、ヘンリエッテはモジモジと恥ずかしそうに黙りこくった。
ステキだったのはお店なのかアルフレートなのか。とにかく、ヘンリエッテが幸せそうで良かった。
末永く、お幸せに。
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