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プロローグ
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「着きましたよ。先生」
荷馬車の荷台でウトウトしていた私は、御者台から声をかけられて目を覚ました。
王都から辻馬車を乗り継いで一ヶ月。砦から一番近い街、ビラシュッドに着いた頃には身体のあちこちが悲鳴をあげていた。
ビラシュッドに着けば砦から迎えがくるとは聞いていたけど、まさか私の直属の上司となる業務隊長自ら、荷馬車に乗って迎えに来るとは思わなかった。
「あー、すみません。寝てしまってました」
上司に御者をさせたうえ、自分は寝てしまうなんて何たる失態。
「随分急いで来ていただいたようですから、疲れが溜まっていたのでしょう。しばらくはゆっくりしてください」
隊長は軽々と荷物を降ろし、ついでのように私もヒョイっと持ち上げて荷馬車から降ろしてくれた。
「うわわ……ありがとうございます」
改めて隊長を見つめる。見上げる程の長身に、ガッチリとついた筋肉。短く刈り込んだ髪の毛は灰褐色で、瞳は黒色。なんだか熊みたいな人だ。
いかにも戦闘力が高そうな見た目をしているのに、業務隊長と言うのがしっくりこない。
と言っても、こっちの世界でもあっちの世界でも、業務隊がどんな所かよく知らないので、多分私の偏見なんだろう。
「ようこそ、テジュレ砦へ」
隊長はニカッと笑い、右手を差し出してきた。
「よろしくお願いします」
そっと差し出した手をがっしと握られ、その大きさとゴツゴツした剣だこに少し驚いた。この人も戦う人なんだなと、ぼんやりとそんな事を思った。
「まずは先生の部屋に案内します」
荷物を持ち上げて先を進む隊長を、慌てて追いかける。
私の荷物も少ないとは言え、それなりの量があるはずなのに、重そうな素振りもなくズンズンと進んでいく。身長差以前の問題で歩くのが速い。
「あの、隊長。待ってください」
最後は全力疾走で追いかけていた。
「ああ、すみません。ついいつもの調子で歩いてしまいました」
私の呼びかけに隊長も駆け寄ってくれる。
「すみません。遅くて」
「いえ、とんでもない。えーっと、先生も一緒に運びましょうか?」
肩で息をする私を見て、隊長が謎の提案をしてくる。
「どうやって?」
「小脇に抱えて?」
完全に荷物扱いだ。
「もう少しゆっくり歩いて貰えれば、ついていけるので大丈夫です」
「疲れたらいつでも言ってください」
荷物にはなりたくないと言う言葉は飲み込んで、ゆっくり歩き出した隊長の後を追った。
隊長に案内された部屋は、やけに立派な部屋だった。赤い絨毯に重厚な執務机。机の前にはソファーとテーブルもあり、どう考えても私室ではない。執務室だ。
「先生の部屋はこちらです」
執務室の右側にある扉に向かいながら、事も無げに隊長が告げる。
「男ばかりの砦ですから、一番安全な部屋を用意しました。反対側の扉の先は私の部屋なので、忍び込もうとする人間はいないでしょう」
「は、はあ」
隊長は扉を開けると、部屋の中に荷物を置いた。
「こちらの扉にも鍵がかかりますし、私もここで仕事をすることはほとんどないので、執務室は廊下とでも思って下さい」
「は、はあ」
隊長は窓に向かうと、大きく開け放った。暖かな風が部屋に入り込む。日当たり良好で環境バッチリだ。
「元々は副隊長の部屋でしたが、しっかりと掃除してありますから」
「は、はあ?副隊長はどうしたんですか?」
「適当な空き部屋に追い出しました」
「いやいやいや、おかしいですよね。私は業務隊衛生科に配属されたと聞いています。なぜ新入りが副隊長を追い出しているんですか」
どうりでいい部屋のはずだ。新入りの部屋じゃない。
「先生は長年希望を出し続けて、ようやく来ていただいた癒やしの巫女ですから。最初は団長の部屋を空けようかと言う話もあったんですよ?」
「そんな、私はまだ半人前で……あの、私は適当な空き部屋でいいので、副隊長を戻してください」
期待され過ぎていて怖い。私は動揺を隠せぬまま荷物を掴み、慌てて荷物をぶちまけてしまった。
そして転がる四角い小箱。
王都を出る時に巫女のお姉様方が「辛い時に開けてね」と言って渡してくれた大切な物。
の、はずなのに、あれ?
中から出てきたのは、何か太い棒だね。
先が何だか膨らんでいるね。
って言うか、隊長の足元に転がっていったね。
「これは……」
隊長が手にしたそれは、どう考えても男性のアレを模したソレで、いわゆる張型だった。しかも極太サイズだ。
「ち、ち、違います。そんな大きいの入りません!」
私は混乱している。
「い、いや、これぐらいは普通です。私の方が大きいぐらいですし、手頃なサイズかと」
隊長も混乱している。
何か恐ろしいことを聞いた気がするけど、それどころじゃなかった。
「いえ、本当に違うんです。あの、説明、説明させてください」
「大丈夫です。女性にも性欲があることは理解しています。こう言う物が必要な時もありますよ」
全然大丈夫じゃない。
「……とりあえず、恥ずかしいんで仕舞いましょうか、それ」
私は半泣きでアレのソレをしまった。
荷馬車の荷台でウトウトしていた私は、御者台から声をかけられて目を覚ました。
王都から辻馬車を乗り継いで一ヶ月。砦から一番近い街、ビラシュッドに着いた頃には身体のあちこちが悲鳴をあげていた。
ビラシュッドに着けば砦から迎えがくるとは聞いていたけど、まさか私の直属の上司となる業務隊長自ら、荷馬車に乗って迎えに来るとは思わなかった。
「あー、すみません。寝てしまってました」
上司に御者をさせたうえ、自分は寝てしまうなんて何たる失態。
「随分急いで来ていただいたようですから、疲れが溜まっていたのでしょう。しばらくはゆっくりしてください」
隊長は軽々と荷物を降ろし、ついでのように私もヒョイっと持ち上げて荷馬車から降ろしてくれた。
「うわわ……ありがとうございます」
改めて隊長を見つめる。見上げる程の長身に、ガッチリとついた筋肉。短く刈り込んだ髪の毛は灰褐色で、瞳は黒色。なんだか熊みたいな人だ。
いかにも戦闘力が高そうな見た目をしているのに、業務隊長と言うのがしっくりこない。
と言っても、こっちの世界でもあっちの世界でも、業務隊がどんな所かよく知らないので、多分私の偏見なんだろう。
「ようこそ、テジュレ砦へ」
隊長はニカッと笑い、右手を差し出してきた。
「よろしくお願いします」
そっと差し出した手をがっしと握られ、その大きさとゴツゴツした剣だこに少し驚いた。この人も戦う人なんだなと、ぼんやりとそんな事を思った。
「まずは先生の部屋に案内します」
荷物を持ち上げて先を進む隊長を、慌てて追いかける。
私の荷物も少ないとは言え、それなりの量があるはずなのに、重そうな素振りもなくズンズンと進んでいく。身長差以前の問題で歩くのが速い。
「あの、隊長。待ってください」
最後は全力疾走で追いかけていた。
「ああ、すみません。ついいつもの調子で歩いてしまいました」
私の呼びかけに隊長も駆け寄ってくれる。
「すみません。遅くて」
「いえ、とんでもない。えーっと、先生も一緒に運びましょうか?」
肩で息をする私を見て、隊長が謎の提案をしてくる。
「どうやって?」
「小脇に抱えて?」
完全に荷物扱いだ。
「もう少しゆっくり歩いて貰えれば、ついていけるので大丈夫です」
「疲れたらいつでも言ってください」
荷物にはなりたくないと言う言葉は飲み込んで、ゆっくり歩き出した隊長の後を追った。
隊長に案内された部屋は、やけに立派な部屋だった。赤い絨毯に重厚な執務机。机の前にはソファーとテーブルもあり、どう考えても私室ではない。執務室だ。
「先生の部屋はこちらです」
執務室の右側にある扉に向かいながら、事も無げに隊長が告げる。
「男ばかりの砦ですから、一番安全な部屋を用意しました。反対側の扉の先は私の部屋なので、忍び込もうとする人間はいないでしょう」
「は、はあ」
隊長は扉を開けると、部屋の中に荷物を置いた。
「こちらの扉にも鍵がかかりますし、私もここで仕事をすることはほとんどないので、執務室は廊下とでも思って下さい」
「は、はあ」
隊長は窓に向かうと、大きく開け放った。暖かな風が部屋に入り込む。日当たり良好で環境バッチリだ。
「元々は副隊長の部屋でしたが、しっかりと掃除してありますから」
「は、はあ?副隊長はどうしたんですか?」
「適当な空き部屋に追い出しました」
「いやいやいや、おかしいですよね。私は業務隊衛生科に配属されたと聞いています。なぜ新入りが副隊長を追い出しているんですか」
どうりでいい部屋のはずだ。新入りの部屋じゃない。
「先生は長年希望を出し続けて、ようやく来ていただいた癒やしの巫女ですから。最初は団長の部屋を空けようかと言う話もあったんですよ?」
「そんな、私はまだ半人前で……あの、私は適当な空き部屋でいいので、副隊長を戻してください」
期待され過ぎていて怖い。私は動揺を隠せぬまま荷物を掴み、慌てて荷物をぶちまけてしまった。
そして転がる四角い小箱。
王都を出る時に巫女のお姉様方が「辛い時に開けてね」と言って渡してくれた大切な物。
の、はずなのに、あれ?
中から出てきたのは、何か太い棒だね。
先が何だか膨らんでいるね。
って言うか、隊長の足元に転がっていったね。
「これは……」
隊長が手にしたそれは、どう考えても男性のアレを模したソレで、いわゆる張型だった。しかも極太サイズだ。
「ち、ち、違います。そんな大きいの入りません!」
私は混乱している。
「い、いや、これぐらいは普通です。私の方が大きいぐらいですし、手頃なサイズかと」
隊長も混乱している。
何か恐ろしいことを聞いた気がするけど、それどころじゃなかった。
「いえ、本当に違うんです。あの、説明、説明させてください」
「大丈夫です。女性にも性欲があることは理解しています。こう言う物が必要な時もありますよ」
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