癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

文字の大きさ
2 / 36

1.隊長はピシリと礼をして去っていった

しおりを挟む
「隊長には話しておくつもりでしたし、どう切り出そうか悩んでいたので、いっそ良かったかもしれません」
 私と隊長は執務室のソファーに向かい合って座っている。
「個人で楽しむ分には報告の必要はありません。いや、複数人でとなると風紀上問題が……」
 隊長はまだ混乱している。
「……とりあえず、アレのことは忘れてください。話は癒やしの巫女の力についてです」
「何か問題でも?」
「癒やしの巫女には傷を治す力がありますが、それは男性にしか効果がありません。そしてこれはあまり知られていない事なのですが、傷を治している間、巫女はえー、その、うう……」
 ダメだ。予定ではサラリと伝えるはずだったのに、詰まってしまった。
 隊長は真剣な顔でこちらを見ている。
 無、無、心を無にして言ってしまえ。いけ、私。がんばれ私。
 
「感じちゃうんです」
「は?」
 まあ、そう言う反応になりますよね。
「性的快感を感じて、最悪イッちゃいます」
 隊長からの、何言ってんだコイツと言う視線が痛い。
「今は小さい内に調べて癒やしの巫女だと分かったら、親元から離されて巫女の館で育てられるんですよね?ゆっくりと力の使い方を覚えていく内に、大きくなる頃には不感症になっているそうです」
「は、あ」
 これ、ちゃんと伝わってるのかな。
「それで私なんですが……そうだ。隊長は私の経歴書、見てますよね?」
「ええ、まあ。三行しか書いてありませんでしたが……」
 出発する前に書いてもらった経歴書には、二年前巫女の館で保護、その一年後戸籍登録、さらにその一年後テジュレ砦に派遣と、三行しか書くことがなかった。

「二年前、巫女の館の庭で倒れている所を保護して貰ったんですが、私もなぜそこにいたのか分からなくて。最初は言葉も通じないから苦労しました」
 なんとか会話ができるようになるまで一年かかった。不安に押しつぶされずにがんばれたのは、巫女の館にいる優しい人達のおかげだ。
「ああ、だから言葉が……いや、でもお上手ですね」
「やっぱり変ですか?」
 私は普通に話しているつもりだけど、発音や言い回しがどうも甘ったるいらしい。
 巫女の館での私の役割は五歳の幼女の子守りで、必死に言葉を覚えている時に一番会話する相手が五歳児だったのだ。
 結果私の言葉はどこか子供っぽい、甘えたような物になってしまった。
「ええ、いや、誤解する男も多いかもしれませんね……」
「……なるべく喋らないようにします」
 直せるものなら直したいんだけど、私にはRとLの違いぐらいの細かな差なので直せないのだ。言語センスの無さが恨めしい。
「常にじゃないので大丈夫ですよ。むしろ不意に挟まれるからたちが悪、いえ何でもないです」
 たちが悪いんじゃないか。隊長は決まり悪そうに視線を外している。
 
「まあいいです。要はですね、私が癒やしの巫女だと分かったのは、なんとか言葉が分かるようになった一年前。まだ不感症になる程巫女として経験がないので、治療の際は、その、気持ちよくなっちゃう、と言うことをお話ししておきたかったんです」
 よし。ここまで話すのに受けた精神的ダメージは大きかったけど、何とか言えた。
「なるほど。それでアレが必要なんですね」
「アレ?……アレはっ、巫女のお姉様方から餞別にもらっただけで、中身も知らなかったんです!使った事もなければ、使う予定もありませんから」 
 まさか「辛かったら開けて」が性的な意味だとは思わなかった。
「気持ちよくなると言っても、ゆっくり治療すれば、そんなに感じないから大丈夫、ですよ?」
 私が喋る度に隊長の眉間のシワが深くなるので、つい語尾が疑問系になってしまった。
「そう、ですか……」
 私が半人前なのは事実なので、ちゃんと話しておこうと思ったんだけど、思った以上に不審がられてしまった。
「感じちゃうのは仕方ないにしても、ちゃんと治療はできますから、そこは安心してください。そうだ、今怪我してたりしませんか?治しますよ。ほら、やりましょう」
 こう言うのは目で見てもらった方が話が早い。隊長に怪我がなくても、誰か一人ぐらい怪我人はいるだろう。

「……ここを」
 隊長は苦い顔のまま左袖を捲くり、上腕に巻きつけられていた布を外そうとした。薄っすらと血が滲み、思った以上にガッツリ怪我をしているようだ。
「ああ、布はそのままでいいです。その状態で布を剥がすと痛いですよ。それでは失礼します」
 私は隊長の腕にそっと手を添えた。その瞬間、私の身体にぞわぞわと快感が走る。
 どうしても力が流れる瞬間は身体がビクッとしてしまうけど、これぐらいの刺激なら気合いでやり過ごせる。
「癒やしの巫女の力は……肌が触れた所から相手に流れるので……接触面積の調整で、強弱可能なんです」
 治療しながら説明だってできるのだ。気を抜くと変な声が出そうになるけど。

「もう、大丈夫だと思います」
 私は大きく息を吐くと隊長から手を離し、巻かれた布を外していく。中にいくほど血で染まる布から、怪我の大きさが分かる。
「こんな大怪我の人に、荷物を運ばせてしまってすみません」
 布の先は血の跡はあっても傷はなかった。
「これぐらいここではかすり傷です。それにしても、凄いですね。しかし……」
 隊長は難しい顔でしばらく私を見つめた後、無言で自室に向かってしまった。
 
 どうしたものか考えていると、隊長はすぐに戻ってきた。手には何やら布を持っている。
「治療の際は、この外套を着用してください」
 手渡された物を広げてみると、フードがついたマントのような物だった。
 取り敢えず被ってみると、首元までしっかり防寒できるような作りのため、私の顔は半分埋まってしまった。フードを被れば上半分も隠れてしまう。
「暑いし大きすぎます」
 隊長サイズなのか、どう考えてもブカブカで、こんなのを着ていたら完全に不審者だ。
「身を守るためにも我慢してください。いいですね」
 隊長が真面目な顔で釘を刺してきた。
「ええと、そんなに物欲しそうな顔してました?一応言っておきますが、私から襲ったりはしませんよ?」
 多分。と言う言葉は心の中だけに留めておく。
「とにかく、力のことは分かりました。先生はそれでも、この砦に来てくださるんですね?」
 隊長は一瞬苦い顔をしたけど、すぐにまた真面目な顔になり聞いてきた。
 ここは私も真面目に答えておこう。
「私は本当に必要としている人のために、力を使いたいです」
 姿勢を正し、隊長の目をしっかりと見つめる。私は、そのためにここに来た。
「ありがとうございます」
 隊長は優しく笑ったかと思うと、すぐに真面目な顔に戻ってしまった。
「こちらとしてもできる限りお守りします……今から下女を呼びますから、ここでの暮らしについて説明を受けたら、今日はゆっくり休んでください」
 隊長はそれだけ言うと、ピシリと礼をして去っていった。


 よし。よしよし。何とか力のことを説明できた。
 隊長のあの怪我をかすり傷と言うような場所だ。最大出力で治療しないといけない場面も出てくるだろう。こう言う事は早目に言っておいた方がいい。
 それはそうと、私はソファーにもたれ掛かる。
「アレのことは忘れてくれないかなー」
 手で顔を覆いながら呟いた独り言は、広い執務室の中に消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...