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一章 仮面の少年
9話 花屋
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周君は落ち着かない様子で何度も視線を彷徨わせながら、箱庭を制作していた。
ジョウロを、女性の人形を、赤い花を。まるで何かをなぞるように、それらをひとつずつ慎重に並べていく。
その間、先生は一言も口出しはしなかったらしい。
やがて、箱庭の中には彼の世界が広がっていった。僕はそれを周君の精神世界のようだと表現したが、箱庭は心を映す鏡とも呼ばれる。ならばその言葉は、あながち的外れでもなかったのだろう。
そして、周君は右の手に握りしめた黒い猫をそっと持ち上げ、箱庭に置こうとした——その瞬間だった。
「……っ……!」
喉の奥から、押し殺すような嗚咽が漏れた。
彼の体がぐらりと傾き、砂の前へと崩れ落ちる。
「なんで……やだ……ごめんなさい……ごめん、ごめんね……」
周君は繰り返し繰り返し、涙を流しながら謝罪の言葉を口にした。
それから、彼は自身を守るかのように、彼は両手で頭を抱え身を丸めて、そこから動けなくなってしまった。
…
「……とまぁ、こんな様子でね。これ以上、箱庭を進めるのは無理だと判断して、周君を部屋に戻したんだよ」
先生は、淡々とした口調でそう話してくれた。
僕は考える。
先生は猫のフィギュアを手に取ったとき、周君は倒れ込んだと言っていた。
つまり、その瞬間に彼は何か感情を突き動かされるような強い衝撃を受けて、動けなくなってしまったのだろうか。しかし、その衝撃とはいったい……。
僕が首を捻っていると、先生が一言。
「……フラッシュバック」
そう、呟いた。
「え?」
先生は微かに肩をすくめて続ける。
「いや、ただの推測さ。周君の様子からして、忘れていたはずのトラウマを、何かの拍子に急に思い出してしまった。……そんな気がしてね」
先生の言葉に、僕は黙り込む。
それはつまり、猫のフィギュアを見たとき、彼の中に何かが蘇ったということだろうか。
黒い猫——大事な、クロ……。
ふと、セキチクの言葉が頭の中に浮かぶ。
『なんてもん、暴いてくれちまってんだァ、あァン?』
『こんな、墓荒らしみてェな事するのはやめてもらっていいかァ? クソ野郎』
『今のままでいいんだ、もう来るんじゃねェ。カスが』
この言葉を聞いたとき、僕はその意味を理解できなかった。
……いや、本当は理解はできていたのかもしれない。
でも、それを認めてしまえば、僕の行動は"救い"なんかじゃない。
ただの"加害"になってしまう。
だから、分からないふりをしていた。
そして、今。その有耶無耶にしていたものを、直視させられた。
——僕は、彼の辛い過去を思い出させてしまったのかもしれない。
だとすれば、僕は彼の助けとなる存在ではない。
助けるどころか、痛みを掘り起こす敵のような存在だ。
これからも僕がシュウ君の精神世界に行けば、彼はさらに忘れた辛いことを思い出してしまうのか。
それならば——やめた方がいいのかもしれない。僕は間違っていたのか……。
「おや、顔色が悪いね。大丈夫かい?」
思考の渦に飲まれていた僕に、先生が声をかける。
はっとして顔を上げると、彼の瞳がまっすぐこちらを見つめていた。
すべてを見透かしているような、その目と。
「あ……」
声にならない声が漏れる。僕は、何も言えなかった。
そして、先生も何も言わなかった。ただ、ゆっくりと視線を外し、椅子へと腰を下ろした。
そのまま、いくばくかの沈黙が流れた。
気まずい、という感情すら通り越して、ただ重たい空気が部屋に満ちていく。
けれど、その間に僕の呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「……話を聞いてもいいかな」
冷や汗が止まった僕を見て先生は穏やかな声でそう尋ねた。
本当は、話したくなかった。
僕が間違えていることを先生に伝えるなんて、どうしようもなく嫌だった。何もない僕を頼ってくれたのに、何もない僕が誰も助けられないなんて、言いたくなかった。
でも、黙っていることのほうが怖かった。僕のせいで誰かが壊れてしまうことの方がずっと……。
だから、ゆっくりと口を開く。
「……僕が精神世界で感じ取ったことは、周君にも影響しているのかもしれません」
少し息を整えてから、次の言葉を絞り出す。
「僕、周君の世界で猫の死骸を見たんです。そのとき、シュウ君の気持ちみたいなものが頭に流れ込んできて……。もしかしたら、あの時、彼も……」
慎重に、言葉を選びながら話す。先生は黙ってそれを聞いていた。
そして、ぽつりと一言。
「……そうか」
感情の読めない静かな声だった。
怒られると思った。呆れられると思った。
だから、僕はぎゅっと目を瞑った。現実から目を背けるように。
でも、次に聞こえてきたのは、予想外の言葉。
「よく、頑張っているみたいだね」
その優しい声に、呆気に取られて僕は目を見開く。
先生はいつも通りのうすら笑みを浮かべている。
けれどその笑みは、どこかあたたかくて、深い慈しみのようなものを湛えていた。
「それがいいことが悪いことか、私からは断言できない。けれど……千夜君。もしも、君が苦しいのなら、やめても大丈夫なんだよ」
「私は君を助手のように思っているけれど、それ以上に……君は、私の患者であり、大切なクライアントだ」
「だから、無理をしてはいけないよ」
「君が苦しむと私は悲しい」
そう言った。
何もしなくてもいいと、そう言ったのだ。
意味がわからなかった。安心してしまった。この人は僕の先生で僕のことを心配していた。
だからきっと、何もできない、誰も救えない僕でもこの人は受け入れてくれるのだろう。
「ありがとう、ございます」
僕の言葉に先生は笑顔で返す。
しかし、見つめあった瞳はどこか僕じゃない誰かを見ているように思えた。
嬉しいのか、悲しいのか、自分でもよく分からない感情が胸の中に渦巻く。
それでも僕は、思考を振り絞って、答えを出そうとする。
「もしも……もしも、僕が周君の世界でめちゃくちゃやってしまったら……彼は生前の嫌な記憶を全部思い出して、壊れてしまうかもしれません」
「でも、全部思い出せば、病気の原因も対処法もわかるはずです」
「それで、だから……僕は、周君のことを助けたい。彼が苦しんだとしても、最終的に救われるのなら、僕は……やります」
その言葉に、先生は目を細めて頷いた。
「そっか。……分かったよ」
優しく微笑んだその顔は、いつものうすら笑みとは違って、どこか人間味のある、やさしい笑顔だった。
先生の手が僕の頭へ伸びる。撫でられる、と思った。だから、無意識に頭を差し出していた。
しかし、先生の手は途中で固まり、元あった位置へと引いていく。
「……?」
僕が不思議そうに首を傾げると、先生はそんな僕を見て、表情を崩さず静かに口を開く。
「……話してくれてありがとう。もう部屋に戻っていいよ」
少しばかり哀愁を漂わせた彼は、僕を扉へと誘導する。
こうして、僕は面接室を後にした。
◇
ガスマスクの看護師に連れられて、僕は自分の病室へと戻った。
看護師さんは「では」と一言だけ残し、扉を閉めて去っていく。
ここには僕しかいない。
孤独に耐えかねて、つい隣の病室を覗きに行こうかと迷う。
でも、面接室での出来事が頭をよぎり、足が止まった。
今、周君が病室にこもりきりになっているのは、きっと僕のせいだ。
僕が無神経に、彼の過去を掘り起こしてしまったから。
精神世界で何度も僕を殺したセキチクは、きっとそれを止めようとしていた。
彼が苦しまないように、守ろうとしていたのかもしれない。
だとすれば、悪いのはセキチクじゃない。僕だ。
もう彼の世界に干渉するべきではないのかもしれない。
——それでも、僕は決めた。
決意したのだ。"周君"助ける、と。それがたとえ彼を苦しめることになったとしても。
布団を捲り、ベッドに身を沈めた。
この病院に来てから、ベッドに入るとすぐ眠れるのは、きっと僕の抱える原因不明の病のせいだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、意識は静かに、あの世界へと沈んでいった。
◆
辺りを見回す。
相変わらず、アパートの一室から世界は始まる。周君の精神世界だ。
目的地もない。ウツツもいない。セキチクは本当は悪者じゃないかもしれない。
それでも、足は止まらない。進むと決めたのだから。
玄関に向かい、開かずの扉の前を通る。
芳香剤のように甘ったるい匂いが鼻を刺し、思わず顔をしかめる。
それを無視して、そのままドアノブを握り、外へ出た。
外の景色は今までと同じ、少し違うところがあるとすれば空が赤黒くなっていることぐらいだろうか。
それから、なんというか……息苦しくなったような気がする。これは僕が周君の記憶を揺さぶったために起こった変化なのかもしれない。
そんなことを考えながら、何かないかと周囲を散策していると、視界の端に人影が映る。
「あれは……」
僕が歩いてきた道の少し先に、虚ろな瞳をした少年がぼんやりとした様子で立ちすくんでいた。
「シュウ君?」
病院での服装とは異なっていたが、その姿は確かに周君だった。けれど、確信は持てない。
もしも、あの少年がセキチクなら、僕はまた殺されてしまう。
彼は悪者ではないのかもしれない。それでも、何度も殺されているのだ。今ここで話して分かり合えるとは思えない。
彼に近づくべきか否か思考を巡らせていると、少年は覚束ない足取りでどこかへ向かって歩き始めた。
「あ、まっ、待って!」
少年を追い、僕は走り出した。
彼はふらふらと歩いているにも関わらず、追いつくことが出来ない。見失わないよう追いかけるので精一杯だ。そのため、彼がシュウ君なのかセキチクなのか、そんなことを考える余裕はない。
数分後、シュウ君の姿を追い、曲がり角を曲がった先で、僕はとうとう彼の姿を見失った。いや、見失ったというよりは煙のように消えた、といった感じだ。まぁ、どちらにせよ、彼はいなくなった。
息があがる。目的を無くし、僕の体は疲れを感じ始めたようだ。
「どこに、行ったんだ」
一心不乱に追いかけていたためか、見慣れない場所に辿り着いた。相変わらず、所々に赤い花がコンクリートを突き破って咲いている。
また、正面には店がぽつんと立っていた。看板の文字は霞んでいて読めない。ただ外観から、なんとなく、この店が何を売っているのか分かる。
「花屋、だよね。もしかしたら、シュウ君はここに入っていった?」
それなら、急に消えたことにも納得がいく。曲がり角で突然走り出せば、ギリギリ僕が見失うくらいの距離だろう。まぁ、走り出した足音なんて聞こえなかったし、この世界が現実のように出来ているわけでもなさそうだ。ただ、僕は彼にここに導かれた。そんな気がする。
「きっと、この場所は周君にとって意味のある場所なんだろう」
ならば、やる事は1つだ。店の扉に手をかける。僕は用心しながら静かに中へと足を踏み入れた。
◇
「チリン」
ドアベルが鳴り、扉はゆっくりと閉まる。そうして、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「あぁ、この匂いは……」
僕は周囲を見渡す。外観の通り、店内には様々な種類の花が並べられている。やはり、花屋なのだろう。
店内を物色していると、奥から誰かの気配を感じた。この精神世界にも、店員は存在するのだろうか。もしかしたら、外にいた頭部が
落書きのような人物がいるのかもしれない。
奥にいるこの世界の住人がセキチクや猫のような化け物のように自分に害なす存在である可能性も考えて、色彩豊かな花が並ぶ棚から奥の様子を覗き込む。
そして、大きな瞳と目が合った。
僕は驚き、顔を引っ込める。
「いらっしゃいませ」
巨大な一つ目を持つ何者かは息が止まりかけていた僕に、低く落ち着いた柔らかい声でこう話しかけてきた。
……意思疎通が取れるのだろうか。
僕は再度顔を覗かせ、相手の様子を伺う。そこには、エプロン姿に頭部がジョウロでそこに大きな一つ目のある、奇妙な姿をした人物がいた。
このような、存在し得ない姿の誰かがいることにも多少慣れたのか、僕は彼の見た目程度では動じない。
そういえば、ジョウロ。周君の作った箱庭にも置いてあったなと考えていると、ジョウロ頭の花屋は僕に問いかける。
「なにかお探しかい?」
「あ、えっと……」
僕は言い淀む。
もしかしたら、ここにシュウ君がいるかも……なんて気持ちで入ったが、ここは花屋だ。冷やかしだと思われたら追い出されるかもしれない。何か、花を探し求めていると答えるべきだろうか。しかし、金なんてない。どうすれば……。
そのように考えていると、花屋は手を叩き嬉しそうに、声を発する。
「もしかして、⬛︎の日のプレゼント探しかな?」
「え?」
一部、砂嵐のような音が混じり首を傾げる。そのような、僕の動作を一切気にかけず、花屋は続ける。
「そっか。でも、ごめんね……。赤色は全部売り切れちゃったんだ……」
「あの、赤色ってなんですか?花、ですか?」
僕はそう問いかける。しかし、聞こえていないのだろうか。無視して、花屋は続ける。
「そうだ。赤じゃないけれど、白色ならあるよ。どうだい?」
彼の言葉からは感情を受け取ることが出来ない。
なんというか、プログラミングされた行動をただ淡々と行う、ゲームの登場人物のような動作や喋り口調だ。
それに僕は今まで精神世界で出会った住人達とは違った気味の悪さを覚えた。
そうして、僕は彼に向かって、首を横に振った。なにか、よくないものを寄越そうとしている、そんな感じがしたからだ。
だが、やはり僕の声など鼻から聞く気はなく、受け答えをしたら言葉を返す人形のように、花屋は続ける。
「わかったよ。じゃあ、ラッピングするから少し待っていてね」
そう言って、彼は店の奥の方へと姿を消した。逃げるなら、今のうちだろうか。
しかし、ここは多分、周君にとって大切ななにかがあった場所だ。外にカーネーションの花が咲いている様子や箱庭のジョウロから、花屋は何か意味があるのだろう。
だとしたら、ここから出るわけにもいかない。不安が消えることはなかったが、店内を見回りながら彼を待った。
それほど、時間も立たずに彼は戻ってきた。
「お待たせ。はい、これ」
そう言って花屋は、僕に薄桃色の紙でラッピングされた可愛らしい一輪の花を差し出した。何にも染まっていない純白の花だ。
そして、その花に僕は見覚えがあった。この世界で、何度も目にしたあの花。
「カーネーション」
僕がこぼした言葉に、花屋が反応することはない。ただ、さぁ、受け取って。と言わんばかりに僕の方へとそれ向けている。
「えっと、ありがとうございます?」
僕はそう言って、その白いカーネーションを手に取る。瞬間、周君の記憶が僕の脳へと流し込まれた。
…
……
………
僕はこっそりと家をぬけだして、あの赤いお花をさがしてまちを歩きまわった。テレビで見たあかいおはな。わたせば⬛︎⬛︎さんはきっとぼくのことをみてくれる。
そうして、やっとはなやさんをみつけた。でも、あのあかいおはなはないみたいだった。かわりにはなやさんはしろいおはなをくれた。
あかくないけど、⬛︎⬛︎さん、よろこんでくれるといいな。そんなことをかんがえながら、いえにかえったんだった。
あのひ、そのあと、どうなったんだっけ。
………
……
…
「お駄賃はいらないよ。僕からのプレゼントだ。⬛︎⬛︎さん、喜んでくれるといいね」
花屋の言葉で、僕は周君の記憶から意識を戻す。彼を見れば、その大きな一つ目で優しく微笑んでいる。
きっと、この人は悪い人じゃなかったんだろうな。ただ、そう思った。
そうして、僕は彼に頭を下げて花屋を後にした。
◇
進展があった。僕が右手に持つ、この白いカーネーションについてだ。最初に見た周君の記憶に現れた花は、きっと先程の花屋で手に入れたものだったのだろう。なるほど、赤いカーネーションが売り切れており、白色のものを貰ったわけか。
それから、もう一つ。花屋や周君の記憶の中で、ノイズのように聞こえる音。あれはきっと母親を表す言葉なのだろう。
だとしたら、最初に見た記憶で倒れていた誰かは、母親なのか。
そこで不吉な、それでいて納得のいく理論が僕の頭の中に構築された。
周君はセキチクが自分の大事なものを奪ったと言った。それに最初に見た記憶で母親らしき人はナイフが刺されていた。これは誰かが刺したという事だ。
だとしたら。……もしそうだとしたら、セキチクは周君の体を使って大事な母親を殺したという事になるのではないか。
「だったら、やっぱり……とんだ極悪人だ」
下手をすれば、それが原因で自殺を図ったなんていうのが、周君の死因なのではないだろうか。思考は加速し、そんな予測まで立てる。
何か引っ掛かるような感覚はあるが、どちらにせよセキチクはこの世界のシャドウだ。ならば、僕の敵であることには違いなかった。そう自分に言い聞かせる。
そんなことを考えて、この世界を歩いていると、気づけば周君の家の周辺まで戻ってきていた。
先生は死因を知ることなんかがシャドウを無くすきっかけになるかもなんて言っており、それに一歩近づいたような気はする。しかし、これ以上何かを見つける手立てはなさそうだ。
一度病院に戻るかとポケットの中の瓶を握ったとき、遠くの方から「どさっ」と何かが倒れるような音がした。
なんだろう。もしかしたら、セキチクかもしれない。
そう警戒して、音の聞こえた方へと進む。
この通りには覚えがあった。この先は、前に真っ黒な何者かが道を塞いでいた場所だ。多分、音が聞こえたのはその辺りだった。
そうして目的地に辿り着き、僕は絶句した。
そこには、黒いインクのような何かを吹き出して倒れた2人の人影と、それを浴びて棒立ちになった、小さなスコップを持った少女"ウツツ"がいた。
ジョウロを、女性の人形を、赤い花を。まるで何かをなぞるように、それらをひとつずつ慎重に並べていく。
その間、先生は一言も口出しはしなかったらしい。
やがて、箱庭の中には彼の世界が広がっていった。僕はそれを周君の精神世界のようだと表現したが、箱庭は心を映す鏡とも呼ばれる。ならばその言葉は、あながち的外れでもなかったのだろう。
そして、周君は右の手に握りしめた黒い猫をそっと持ち上げ、箱庭に置こうとした——その瞬間だった。
「……っ……!」
喉の奥から、押し殺すような嗚咽が漏れた。
彼の体がぐらりと傾き、砂の前へと崩れ落ちる。
「なんで……やだ……ごめんなさい……ごめん、ごめんね……」
周君は繰り返し繰り返し、涙を流しながら謝罪の言葉を口にした。
それから、彼は自身を守るかのように、彼は両手で頭を抱え身を丸めて、そこから動けなくなってしまった。
…
「……とまぁ、こんな様子でね。これ以上、箱庭を進めるのは無理だと判断して、周君を部屋に戻したんだよ」
先生は、淡々とした口調でそう話してくれた。
僕は考える。
先生は猫のフィギュアを手に取ったとき、周君は倒れ込んだと言っていた。
つまり、その瞬間に彼は何か感情を突き動かされるような強い衝撃を受けて、動けなくなってしまったのだろうか。しかし、その衝撃とはいったい……。
僕が首を捻っていると、先生が一言。
「……フラッシュバック」
そう、呟いた。
「え?」
先生は微かに肩をすくめて続ける。
「いや、ただの推測さ。周君の様子からして、忘れていたはずのトラウマを、何かの拍子に急に思い出してしまった。……そんな気がしてね」
先生の言葉に、僕は黙り込む。
それはつまり、猫のフィギュアを見たとき、彼の中に何かが蘇ったということだろうか。
黒い猫——大事な、クロ……。
ふと、セキチクの言葉が頭の中に浮かぶ。
『なんてもん、暴いてくれちまってんだァ、あァン?』
『こんな、墓荒らしみてェな事するのはやめてもらっていいかァ? クソ野郎』
『今のままでいいんだ、もう来るんじゃねェ。カスが』
この言葉を聞いたとき、僕はその意味を理解できなかった。
……いや、本当は理解はできていたのかもしれない。
でも、それを認めてしまえば、僕の行動は"救い"なんかじゃない。
ただの"加害"になってしまう。
だから、分からないふりをしていた。
そして、今。その有耶無耶にしていたものを、直視させられた。
——僕は、彼の辛い過去を思い出させてしまったのかもしれない。
だとすれば、僕は彼の助けとなる存在ではない。
助けるどころか、痛みを掘り起こす敵のような存在だ。
これからも僕がシュウ君の精神世界に行けば、彼はさらに忘れた辛いことを思い出してしまうのか。
それならば——やめた方がいいのかもしれない。僕は間違っていたのか……。
「おや、顔色が悪いね。大丈夫かい?」
思考の渦に飲まれていた僕に、先生が声をかける。
はっとして顔を上げると、彼の瞳がまっすぐこちらを見つめていた。
すべてを見透かしているような、その目と。
「あ……」
声にならない声が漏れる。僕は、何も言えなかった。
そして、先生も何も言わなかった。ただ、ゆっくりと視線を外し、椅子へと腰を下ろした。
そのまま、いくばくかの沈黙が流れた。
気まずい、という感情すら通り越して、ただ重たい空気が部屋に満ちていく。
けれど、その間に僕の呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「……話を聞いてもいいかな」
冷や汗が止まった僕を見て先生は穏やかな声でそう尋ねた。
本当は、話したくなかった。
僕が間違えていることを先生に伝えるなんて、どうしようもなく嫌だった。何もない僕を頼ってくれたのに、何もない僕が誰も助けられないなんて、言いたくなかった。
でも、黙っていることのほうが怖かった。僕のせいで誰かが壊れてしまうことの方がずっと……。
だから、ゆっくりと口を開く。
「……僕が精神世界で感じ取ったことは、周君にも影響しているのかもしれません」
少し息を整えてから、次の言葉を絞り出す。
「僕、周君の世界で猫の死骸を見たんです。そのとき、シュウ君の気持ちみたいなものが頭に流れ込んできて……。もしかしたら、あの時、彼も……」
慎重に、言葉を選びながら話す。先生は黙ってそれを聞いていた。
そして、ぽつりと一言。
「……そうか」
感情の読めない静かな声だった。
怒られると思った。呆れられると思った。
だから、僕はぎゅっと目を瞑った。現実から目を背けるように。
でも、次に聞こえてきたのは、予想外の言葉。
「よく、頑張っているみたいだね」
その優しい声に、呆気に取られて僕は目を見開く。
先生はいつも通りのうすら笑みを浮かべている。
けれどその笑みは、どこかあたたかくて、深い慈しみのようなものを湛えていた。
「それがいいことが悪いことか、私からは断言できない。けれど……千夜君。もしも、君が苦しいのなら、やめても大丈夫なんだよ」
「私は君を助手のように思っているけれど、それ以上に……君は、私の患者であり、大切なクライアントだ」
「だから、無理をしてはいけないよ」
「君が苦しむと私は悲しい」
そう言った。
何もしなくてもいいと、そう言ったのだ。
意味がわからなかった。安心してしまった。この人は僕の先生で僕のことを心配していた。
だからきっと、何もできない、誰も救えない僕でもこの人は受け入れてくれるのだろう。
「ありがとう、ございます」
僕の言葉に先生は笑顔で返す。
しかし、見つめあった瞳はどこか僕じゃない誰かを見ているように思えた。
嬉しいのか、悲しいのか、自分でもよく分からない感情が胸の中に渦巻く。
それでも僕は、思考を振り絞って、答えを出そうとする。
「もしも……もしも、僕が周君の世界でめちゃくちゃやってしまったら……彼は生前の嫌な記憶を全部思い出して、壊れてしまうかもしれません」
「でも、全部思い出せば、病気の原因も対処法もわかるはずです」
「それで、だから……僕は、周君のことを助けたい。彼が苦しんだとしても、最終的に救われるのなら、僕は……やります」
その言葉に、先生は目を細めて頷いた。
「そっか。……分かったよ」
優しく微笑んだその顔は、いつものうすら笑みとは違って、どこか人間味のある、やさしい笑顔だった。
先生の手が僕の頭へ伸びる。撫でられる、と思った。だから、無意識に頭を差し出していた。
しかし、先生の手は途中で固まり、元あった位置へと引いていく。
「……?」
僕が不思議そうに首を傾げると、先生はそんな僕を見て、表情を崩さず静かに口を開く。
「……話してくれてありがとう。もう部屋に戻っていいよ」
少しばかり哀愁を漂わせた彼は、僕を扉へと誘導する。
こうして、僕は面接室を後にした。
◇
ガスマスクの看護師に連れられて、僕は自分の病室へと戻った。
看護師さんは「では」と一言だけ残し、扉を閉めて去っていく。
ここには僕しかいない。
孤独に耐えかねて、つい隣の病室を覗きに行こうかと迷う。
でも、面接室での出来事が頭をよぎり、足が止まった。
今、周君が病室にこもりきりになっているのは、きっと僕のせいだ。
僕が無神経に、彼の過去を掘り起こしてしまったから。
精神世界で何度も僕を殺したセキチクは、きっとそれを止めようとしていた。
彼が苦しまないように、守ろうとしていたのかもしれない。
だとすれば、悪いのはセキチクじゃない。僕だ。
もう彼の世界に干渉するべきではないのかもしれない。
——それでも、僕は決めた。
決意したのだ。"周君"助ける、と。それがたとえ彼を苦しめることになったとしても。
布団を捲り、ベッドに身を沈めた。
この病院に来てから、ベッドに入るとすぐ眠れるのは、きっと僕の抱える原因不明の病のせいだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、意識は静かに、あの世界へと沈んでいった。
◆
辺りを見回す。
相変わらず、アパートの一室から世界は始まる。周君の精神世界だ。
目的地もない。ウツツもいない。セキチクは本当は悪者じゃないかもしれない。
それでも、足は止まらない。進むと決めたのだから。
玄関に向かい、開かずの扉の前を通る。
芳香剤のように甘ったるい匂いが鼻を刺し、思わず顔をしかめる。
それを無視して、そのままドアノブを握り、外へ出た。
外の景色は今までと同じ、少し違うところがあるとすれば空が赤黒くなっていることぐらいだろうか。
それから、なんというか……息苦しくなったような気がする。これは僕が周君の記憶を揺さぶったために起こった変化なのかもしれない。
そんなことを考えながら、何かないかと周囲を散策していると、視界の端に人影が映る。
「あれは……」
僕が歩いてきた道の少し先に、虚ろな瞳をした少年がぼんやりとした様子で立ちすくんでいた。
「シュウ君?」
病院での服装とは異なっていたが、その姿は確かに周君だった。けれど、確信は持てない。
もしも、あの少年がセキチクなら、僕はまた殺されてしまう。
彼は悪者ではないのかもしれない。それでも、何度も殺されているのだ。今ここで話して分かり合えるとは思えない。
彼に近づくべきか否か思考を巡らせていると、少年は覚束ない足取りでどこかへ向かって歩き始めた。
「あ、まっ、待って!」
少年を追い、僕は走り出した。
彼はふらふらと歩いているにも関わらず、追いつくことが出来ない。見失わないよう追いかけるので精一杯だ。そのため、彼がシュウ君なのかセキチクなのか、そんなことを考える余裕はない。
数分後、シュウ君の姿を追い、曲がり角を曲がった先で、僕はとうとう彼の姿を見失った。いや、見失ったというよりは煙のように消えた、といった感じだ。まぁ、どちらにせよ、彼はいなくなった。
息があがる。目的を無くし、僕の体は疲れを感じ始めたようだ。
「どこに、行ったんだ」
一心不乱に追いかけていたためか、見慣れない場所に辿り着いた。相変わらず、所々に赤い花がコンクリートを突き破って咲いている。
また、正面には店がぽつんと立っていた。看板の文字は霞んでいて読めない。ただ外観から、なんとなく、この店が何を売っているのか分かる。
「花屋、だよね。もしかしたら、シュウ君はここに入っていった?」
それなら、急に消えたことにも納得がいく。曲がり角で突然走り出せば、ギリギリ僕が見失うくらいの距離だろう。まぁ、走り出した足音なんて聞こえなかったし、この世界が現実のように出来ているわけでもなさそうだ。ただ、僕は彼にここに導かれた。そんな気がする。
「きっと、この場所は周君にとって意味のある場所なんだろう」
ならば、やる事は1つだ。店の扉に手をかける。僕は用心しながら静かに中へと足を踏み入れた。
◇
「チリン」
ドアベルが鳴り、扉はゆっくりと閉まる。そうして、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「あぁ、この匂いは……」
僕は周囲を見渡す。外観の通り、店内には様々な種類の花が並べられている。やはり、花屋なのだろう。
店内を物色していると、奥から誰かの気配を感じた。この精神世界にも、店員は存在するのだろうか。もしかしたら、外にいた頭部が
落書きのような人物がいるのかもしれない。
奥にいるこの世界の住人がセキチクや猫のような化け物のように自分に害なす存在である可能性も考えて、色彩豊かな花が並ぶ棚から奥の様子を覗き込む。
そして、大きな瞳と目が合った。
僕は驚き、顔を引っ込める。
「いらっしゃいませ」
巨大な一つ目を持つ何者かは息が止まりかけていた僕に、低く落ち着いた柔らかい声でこう話しかけてきた。
……意思疎通が取れるのだろうか。
僕は再度顔を覗かせ、相手の様子を伺う。そこには、エプロン姿に頭部がジョウロでそこに大きな一つ目のある、奇妙な姿をした人物がいた。
このような、存在し得ない姿の誰かがいることにも多少慣れたのか、僕は彼の見た目程度では動じない。
そういえば、ジョウロ。周君の作った箱庭にも置いてあったなと考えていると、ジョウロ頭の花屋は僕に問いかける。
「なにかお探しかい?」
「あ、えっと……」
僕は言い淀む。
もしかしたら、ここにシュウ君がいるかも……なんて気持ちで入ったが、ここは花屋だ。冷やかしだと思われたら追い出されるかもしれない。何か、花を探し求めていると答えるべきだろうか。しかし、金なんてない。どうすれば……。
そのように考えていると、花屋は手を叩き嬉しそうに、声を発する。
「もしかして、⬛︎の日のプレゼント探しかな?」
「え?」
一部、砂嵐のような音が混じり首を傾げる。そのような、僕の動作を一切気にかけず、花屋は続ける。
「そっか。でも、ごめんね……。赤色は全部売り切れちゃったんだ……」
「あの、赤色ってなんですか?花、ですか?」
僕はそう問いかける。しかし、聞こえていないのだろうか。無視して、花屋は続ける。
「そうだ。赤じゃないけれど、白色ならあるよ。どうだい?」
彼の言葉からは感情を受け取ることが出来ない。
なんというか、プログラミングされた行動をただ淡々と行う、ゲームの登場人物のような動作や喋り口調だ。
それに僕は今まで精神世界で出会った住人達とは違った気味の悪さを覚えた。
そうして、僕は彼に向かって、首を横に振った。なにか、よくないものを寄越そうとしている、そんな感じがしたからだ。
だが、やはり僕の声など鼻から聞く気はなく、受け答えをしたら言葉を返す人形のように、花屋は続ける。
「わかったよ。じゃあ、ラッピングするから少し待っていてね」
そう言って、彼は店の奥の方へと姿を消した。逃げるなら、今のうちだろうか。
しかし、ここは多分、周君にとって大切ななにかがあった場所だ。外にカーネーションの花が咲いている様子や箱庭のジョウロから、花屋は何か意味があるのだろう。
だとしたら、ここから出るわけにもいかない。不安が消えることはなかったが、店内を見回りながら彼を待った。
それほど、時間も立たずに彼は戻ってきた。
「お待たせ。はい、これ」
そう言って花屋は、僕に薄桃色の紙でラッピングされた可愛らしい一輪の花を差し出した。何にも染まっていない純白の花だ。
そして、その花に僕は見覚えがあった。この世界で、何度も目にしたあの花。
「カーネーション」
僕がこぼした言葉に、花屋が反応することはない。ただ、さぁ、受け取って。と言わんばかりに僕の方へとそれ向けている。
「えっと、ありがとうございます?」
僕はそう言って、その白いカーネーションを手に取る。瞬間、周君の記憶が僕の脳へと流し込まれた。
…
……
………
僕はこっそりと家をぬけだして、あの赤いお花をさがしてまちを歩きまわった。テレビで見たあかいおはな。わたせば⬛︎⬛︎さんはきっとぼくのことをみてくれる。
そうして、やっとはなやさんをみつけた。でも、あのあかいおはなはないみたいだった。かわりにはなやさんはしろいおはなをくれた。
あかくないけど、⬛︎⬛︎さん、よろこんでくれるといいな。そんなことをかんがえながら、いえにかえったんだった。
あのひ、そのあと、どうなったんだっけ。
………
……
…
「お駄賃はいらないよ。僕からのプレゼントだ。⬛︎⬛︎さん、喜んでくれるといいね」
花屋の言葉で、僕は周君の記憶から意識を戻す。彼を見れば、その大きな一つ目で優しく微笑んでいる。
きっと、この人は悪い人じゃなかったんだろうな。ただ、そう思った。
そうして、僕は彼に頭を下げて花屋を後にした。
◇
進展があった。僕が右手に持つ、この白いカーネーションについてだ。最初に見た周君の記憶に現れた花は、きっと先程の花屋で手に入れたものだったのだろう。なるほど、赤いカーネーションが売り切れており、白色のものを貰ったわけか。
それから、もう一つ。花屋や周君の記憶の中で、ノイズのように聞こえる音。あれはきっと母親を表す言葉なのだろう。
だとしたら、最初に見た記憶で倒れていた誰かは、母親なのか。
そこで不吉な、それでいて納得のいく理論が僕の頭の中に構築された。
周君はセキチクが自分の大事なものを奪ったと言った。それに最初に見た記憶で母親らしき人はナイフが刺されていた。これは誰かが刺したという事だ。
だとしたら。……もしそうだとしたら、セキチクは周君の体を使って大事な母親を殺したという事になるのではないか。
「だったら、やっぱり……とんだ極悪人だ」
下手をすれば、それが原因で自殺を図ったなんていうのが、周君の死因なのではないだろうか。思考は加速し、そんな予測まで立てる。
何か引っ掛かるような感覚はあるが、どちらにせよセキチクはこの世界のシャドウだ。ならば、僕の敵であることには違いなかった。そう自分に言い聞かせる。
そんなことを考えて、この世界を歩いていると、気づけば周君の家の周辺まで戻ってきていた。
先生は死因を知ることなんかがシャドウを無くすきっかけになるかもなんて言っており、それに一歩近づいたような気はする。しかし、これ以上何かを見つける手立てはなさそうだ。
一度病院に戻るかとポケットの中の瓶を握ったとき、遠くの方から「どさっ」と何かが倒れるような音がした。
なんだろう。もしかしたら、セキチクかもしれない。
そう警戒して、音の聞こえた方へと進む。
この通りには覚えがあった。この先は、前に真っ黒な何者かが道を塞いでいた場所だ。多分、音が聞こえたのはその辺りだった。
そうして目的地に辿り着き、僕は絶句した。
そこには、黒いインクのような何かを吹き出して倒れた2人の人影と、それを浴びて棒立ちになった、小さなスコップを持った少女"ウツツ"がいた。
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