【完結】記憶も婚約者も失くしましたが私は幸せです ~貴方のことは忘れました~

Rohdea

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27. 寝言は寝て言え

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 フロリアン様のことを見つめていた陛下は、こちらにやって来るとフロリアン様に話があると言った。

(……何を話しているんだろう?)

 部屋の隅に移動して話をしているフロリアン様と陛下。
 私は少し離れたところからそんな二人の様子を見守っている。

(やっぱり……あれかな)

 私は床に崩れ落ちたまま動かなくなったビンセント殿下に視線を向ける。
 彼は絶望の表情のまま固まっていた。
 ────今回の件でビンセント殿下の失脚は免れない。
 こんなことになる前から、ビンセント殿下が王太子になるなんて!?  という疑問の声は上がっていたようだけど……

(これで完全に潰えた──もう終わりね)

 マンスール……フロリアン様はずっと“王位は継がない”という意思表示をしていたのに。
 きっと、ビンセント殿下は自分がバ……

(……)

 コホンッ
 賢くないことを分かっていたから徹底的に排除しないと気がすまなかったのでしょうね。

(後は周囲の思惑……)

 ビンセント殿下を傀儡にして甘い汁を吸いたかった人たち。
 彼らが幼少期からビンセント殿下にあることないこと吹き込んだのは明白。
 そういう意味では被害者な面も無くはないけど───

 あの日、私を生意気だと言って殴ったのはビンセント殿下の意思だ。
 誰かに命令されたわけでも唆されていたわけでもない。
 記憶喪失になって私の性格が変わっていたとはいえ、そんな私と婚約して結婚しようとまで思っていたなんて……

(どれだけ権力───王位が欲しかったのよ)

 ほとほと呆れる。

「ヴァレリア、大丈夫か?」
「え?  あ、お兄様……?」

 考えごとにふけっていた私の前で兄が手をヒラヒラさせている。
 そんな兄はコソッと小声で私に言った。

「記憶……戻ったんだろう?」
「あー、えっと、さすがに全部、とは言い難いのですけど」

 誘拐事件前の“元々の自分”の記憶はある程度甦ったと思うけれど、性格が一変してからの“大人しかった私”の頃の記憶はあまり……
 そう告げると兄は複雑そうな顔で頷いた。

「そうか……きっと今のヴァレリアにとって思い出したい記憶じゃないんだろうな」
「あの両親の言うことを何でも黙って聞いて、アルレットに振り回されては憎き男、ビンセント殿下の婚約者を歩んでいた人生なんて……」

(そりゃ、思い出したくないわよ。それに……)

 その記憶の中に“フロリアン様”はいないんだもの─────

 私は陛下と話しているフロリアン様にチラッと視線を向ける。
 その横顔に胸がキュッとなった。

「───しかし。まさか、伯爵が第一王子だったとはな」
「……」
「最後に見たのは子どもだったし、あれだけ雰囲気を変えてしまえば分からないものだな……すっかり騙された」

 私の視線を追った兄が肩を竦めてポツリとそう口にした。
 声も声変わりしているだろうから確かに気付けないと思う。

「お兄様……」

 すると次に兄は私の頭に手を伸ばして髪をくしゃっとする。

「なっ……にを!」
「良かったな、ヴァレリア」
「え?」

 女性の髪になんてことを!  と文句を言おうとしたらそのまま優しく頭を撫でられた。

「お前が大好きだった初恋の王子様も、今のお前が大好きな男も同一人物だったんだぞ?  悩まなくていいな!」
「!!」

 今のお前が大好きな男───その言葉に頬が熱くなる。
 あわわわと動揺する私を見た兄が声を立てて笑う。

「ヴァレリア……王族のビンセント殿下や王子妃になったアルレットを前にしてもあれだけ臆せず、堂々と振舞ってペシャンコに踏み潰したお前が」
「……っ」
「恋愛ごとになると一気にポンコツになるのはなかなか見ていて面白いな」
「お兄様!  見てないで、ほ!  放っといて!!」

 私はプイッと兄から顔を背ける。

「子どもの頃はあんなに積極的だったのになぁ。記憶にあるマンスール殿下といえば、いつもお前の勢いに押されてたじたじだったぞ?」
「あ、あれは!」

 子どもだった故の無鉄砲さで───

「ヴァレリア?」
「ひゃっ!?」

 突然、後ろから声をかけられたので驚いてビクッと身体が跳ねる。
 なんとこのタイミングでフロリアン様が陛下との話を終えて戻って来た。

「ひゃっ?  あ、ごめん。いきなり後ろから声をかけたから驚かせちゃった?」
「あい!  い、いえ!」
「?」

 挙動不審な受け答えをする私に不思議そうな顔をするフロリアン様。
 私はますます動揺してしまう。

「いや、えっと、そう話!  陛下とのお話!  終わったのですね!?」
「あ、うん……そうなんだけど、ヴァレリア?  何か変だよ?  大丈夫?」
「い、いーえ!  私はどっこも!!  ゲフッ……ふ、普通ですわ!」

 焦って言葉も怪しくなりながらブンブンと首を横に振る私を兄がククッと笑いながら見ている。

(お兄様~~~っ!  悔しい!!)

 兄の位置からは話を終えて私の元に戻って来ようとしているフロリアン様の姿が見えていたはず。
 つまり、この人は分かっていてこの話題を出したに違いない。

「え?  本当に?  でも顔が赤い───」
「!!」

 フロリアン様の手がそっと私の頬に触れる。

(ひゃあああ!?)

 ボンッ!
 更に私の顔は真っ赤になった。
 そんな私を見たフロリアン様の手がピタッと止まる。

「……ヴァレリア?」
「い、いいい今は何も言わないで!」
「……なんで?」

 聞き返してくるフロリアン様。
 その顔が少し不満そう。

「今は……その、は、恥ずかしい……からです……」
「……」

 言いつけ通り、何も言わずじーっと私を見つめてくるフロリアン様。
 圧!  圧がすごい!

(う、うぅぅぅ……)

「……」
「……」

 じーっと見つめて来るキラキラの眩しい金の髪が落ち着かなくてドキドキが止まらない。
 どうしよう。

(何だかもうフロリアン様の全てが輝いて見える─────!!)

 ダメだ。
 無言になってもらう方がダメだった。

「あ!  あの!  やっぱり……」

 これは私の心臓に悪すぎるので早々に撤回すべし!  
 そう判断して口を開きかけた時だった。

「───おい、ヴァ、ヴァレリア!」
「!」

(……この声は)

 一瞬で冷静になり、チラッと声の方に視線を向ける。
 どこか引き攣った笑いを浮かべてこっちにやって来るのは、両親。
 さっきまで真っ青で震えていた人たちだ。

「…………なにかご用ですか?」

 そうだった。
 まだ、この人たちがいたんだった……と思い出す。

「ヴァレリア……その……」

 父親がそっと口を開こうとする。

「ああ、せっかく開いたパーティーをめちゃくちゃにしたことを責めに来たのですか」
「ちっ……!  コホンッ、いや、まあ、それもなくはない……が」 
「……」

(今日、ここに集まった人たち豪勢だものねぇ)

 これがこんな事態にならなければ、権力大好きな両親にとっては最高のパーティーだったことだろう。
 人様が開催するパーティーでめちゃくちゃをするわけにはいかないから、最初からめちゃくちゃにすること前提だったわけだけども。

「では、アルレットのことかしら?」
「!」

 悔しそうな顔をした父親の視線がアルレットに向かう。

 ショックを受けすぎて自力で立ち上がる気力すらも無くなったアルレットは、これから取り調べが始まるため、王宮に戻るらしい。
 無理やり立たせられて歩かされ部屋を出ていくところだった。

(……)

 夫のビンセント殿下が罰を受けることは確定している。
 と、いうか絶対に受けさせる。
 だから、このまま彼の妃───妻でいれば一緒に地獄に落ちるも同然。
 ならば離縁?
 しかし、無事に離縁出来たとしても……

(再婚は厳しそう……)

 つまり、この両親からするととっておきの道具が破壊されて再起不能にさせられたようなもの。

「ヴァレリア……もうお前しかいない!」
「は?」

 顔をこちらに戻した父親が私の肩を掴もうとして来たので咄嗟に避ける。

「アルレットはもうダメだ……だが!  お前なら!」
「……」
「ルフェーブル伯爵は第一王子……マンスール殿下だったんだろう?  つまりお前とは……昔からの仲だ」
「そうよね! あなた!」
「……」

 無性にイラッとした。
 この変わり身の早さにとことん呆れる。

「つまり、伯爵殿がまた殿下に戻ってお前がきさ────」
「お父様!」

 私は冷たい声で父親の言葉を思いっ切り遮った。

「な、なんだ!  何をそんなに怒っとる!?」
「……」
「めでたいことじゃないか!  記憶も戻ったんだろう?  ならば、これからは何の支障も無……」
「~~~~っ!」

 ダンッ! 
 苛立ちが抑えきれなかった私は思いっ切り父親の足を踏みつけ、さらにヒールの部分でグリッと抉る。

「うぐぁ!  ぐっ……!?」
「え!  あなた!?  ちょっとヴァレリア!  あなた、父親に向かって何をしているの!」

 痛みに悶絶する父親に駆け寄った母親が私を睨む。
 私は、はて?  と首を傾げた。

「父親?  そこの人が?」
「そうよ!  ……そこの人!?  あなた何を言っているの!  そして私だってあなたの母親よ!」
「……」

 キツく睨んでくる母親に向かって私はクスッと笑う。
 そんな私を見て母親はカッとなった。

「ヴァレリア!  何を笑って───」
「え?  だってこんなの笑うしかないんだもの」
「は?」
「あなたたちが両親?」

 怪訝そうな様子の母親と未だに足の痛みに悶絶している父親。
 私はそんな二人に向かって冷たく言い放つ。

「────寝言は寝て言ってくれます?」
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