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33. 大好きな人と
フロリアン様とは王宮で待ち合わせている。
一人で馬車に揺られながら、明日に控えた“結婚式”に思いを馳せた。
「……準備まではバタバタだったけど、心は穏やかだわ」
ビンセント殿下との結婚式を目前に控えた中で、最初に記憶を取り戻したあの時はとにかく逃げることしか考えていなかった。
「……」
パーティーを境にポロポロと思い出し始めた失ったはずの記憶は今ではほとんど取り戻せたと思う。
もちろん、大人しくて周囲の言いなりになっていた時の自分のことも。
その時のことを思い出した後は少し気持ちが落ちることもあるけれど……
(あの“ヴァレリア”だって私の一部だから────……)
「でも、とっても気弱だったけど“幸せになりたい”って気持ちだけはずっと変わらないのよね」
性格は変わっても根っこの部分は変わらないのだと思った。
────
「ヴァレリア」
「フロリアン様!」
王宮に到着するとすでにフロリアン様が待ってくれていた。
キラキラの金の髪が今日も眩しい。
───結局、フロリアン様は髪の色は染め直さず、元の金色のままで生きていくと決めた。
“マンスール”という名前は捨てることになってしまったから、せめて外見だけは……という思いもあるらしい。
第一王子・マンスールがフロリアン・ルフェーブル伯爵と名乗っていたことは、一気に世間に広まったので王族の特徴である金の髪のままでも支障は無いと言っていた。
ただ、フロリアン様は……
『この方が見た目で“王族”に連なる者だと分かるし、色々と便利だろう?』
なんてちょっぴり黒い笑みを浮かべていたけれど。
私は便利って言葉に思わず苦笑してしまった。
その気持ちは分かる───
(利用出来るものは利用しなくちゃね!)
なんてことを考えながら、私は彼の元に駆け寄る。
「お待たせしてしまって、すみません」
「いや、俺も今着いたところだ」
「そうですか!」
優しい笑顔を向けてくれるフロリアン様に私も笑顔を返す。
「……」
「……」
見つめ合った私たちはそのまま沈黙。
(なんだろう……照れ臭い)
フロリアン様の頬もほんのり赤くなっている気がした。
「……えっと、行きましょうか?」
「コホン……あ、ああ」
私たちは手を繋いで歩き出す。
しばらく歩いてからフロリアン様がポソッと呟いた。
「───しかし、大事な結婚式の前日に妹の様子を見ておきたいだなんてヴァレリアらしいと言うか……」
「そうですか?」
「ああ」
理解出来ないという様子のフロリアン様を見て私はクスッと笑う。
「そんな優しくて綺麗な気持ちじゃないですよ?」
「え?」
眉根を寄せて怪訝そうな顔をするフロリアン様と目が合う。
「私の結婚の話を聞いて、アルレットが大きなショックを受けていると聞いたので──」
「うん?」
「せっかくですから、その顔を遠くから拝んでやろうというめちゃくちゃ性格の悪い話です」
「!」
ブフォッとフロリアン様が吹き出した。
ゲホゲホとむせている。
「ヴァレリア……!」
「え? だってそんなアルレットはもう二度と見れないですもん」
そんなアルレット。
ビンセント殿下──いや、元殿下との離縁の話は出ているそうだけど、まだ成立はしていないという。
「あのパーティー以降、私は初めて顔を見ることになるんですけど、すでに何度か面会しているお兄様曰く、かなり老けたとか……それなら一度くらいは見ておきたいじゃないですか!」
アルレットはよく私と比べて自分の外見を自慢していましたからね!
私が胸を張ってそう口にすると、フロリアン様が苦笑した。
「本来なら、私のウェディングドレス姿をどーんと見せつけてやりたい所ですがそれは難しいので」
「まあ、式に参列させるわけにはいかないからな」
「ええ! なので遠くから様子を見るだけです」
関わりたいわけじゃないし、会話もしたいとは思わない。
あの子のしたことを許すこともない。
それでも顔を見ておきたくなったのは……
(記憶が戻って私の中にもほんの少し“情”が残ってるからなのかな)
もちろん、アルレット自身の性格に問題はあれど、あの子もあの人たち───両親の被害者であるという面もあるとは思うから。
「そういえば、老けた……と言えばビンセントもらしい」
「あ、それ。私も聞きました!」
ビンセント殿下……元殿下となる彼は、当然だけどアルレット以上に厳しい取り調べを受けていたという。
パーティー後、まず一斉に彼の元についていた有力な貴族たちが手のひらを返した。
そして王族からの追放───
ゆくゆくは王太子となって王になると夢みていたことを思えば、老け込むくらいショックを受けるのは分かる。
(野放しにするのは危険だから、今はガッチガチの監視付き生活を送っているそうだけど)
「キラキラしていた金髪は輝きを失ったとか、老け込んだ顔はフロリアン様よりも十歳は年上に見えるとか」
「十歳って凄まじいな……」
「噂ですけどね」
社交界はあっという間に噂が広がるもの。
「自業自得ですよ。二言目には未来の王の僕に逆らうのか? って散々裏で好き勝手していたみたいですし」
「そう聞くと、アントナンのことは本当に眼中に無かったんだな」
「“マンスール様”の誘拐事件でアントナン殿下についていた有力貴族は削れたと思って安心していたのでしょうね」
そんなアントナン殿下。
フロリアン様が王族に戻らないから、王太子になれるのは自分だけと聞いた時は動揺していたそうだけど、今はしっかり前を向いていると聞いた。
「そういえば、アントナン殿下は明日の結婚式には参列してくださるとか」
「ああ……」
「……」
この時のフロリアン様は、ああ……しか言わなかったけれど、その顔は確かに嬉しそうだった。
✻✻✻
そうして翌日。
ずっと夢見た人との結婚式の日────
ウェディングドレスに身を包んだ私。
兄と一緒に扉の前で入場の待機をしていると、兄はため息を吐いた。
「お兄様?」
「あ、いや。すまない、改めてあいつらバカだなぁと思って」
兄は小さく首を横に振りながらそう言った。
「あいつら?」
「あぁ、両親やアルレット、元王子だよ」
「?」
私が首を傾げると兄は小さく笑った。
「こんなに綺麗な花嫁姿のヴァレリアを見損ねたんだからな」
「お兄様! からかわないで!」
「ははは! そうだ、ヴァレリア。ここで一つお兄様がお前に断言してやろう」
「何をです?」
兄がふふんと得意そうに笑う。
更にからかわれる嫌な予感しかしない。
「この後、お前は俺と入場するだろう?」
「ええ」
「その先に待つのは今日からのお前の夫となる───フロリアン殿だが」
「……だが?」
こんな時に不穏な言葉で変な予言するのはやめてよね? と思いながらも先を促す。
「彼はこんなにも綺麗な花嫁姿となったお前を見てポンコツになるだろう!」
「は!? ポンコツ?」
兄による謎の断言に私は目を丸くする。
「そうだ、お前に見惚れて結婚式の所作も忘れ……そうだな。例えば右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して歩いて転びそうになったり……肝心の誓いの言葉で噛み噛みになったり……」
「もう~~~お兄様っっ!」
なんて不吉なことを!
私が顔を真っ赤にして咎めると兄は愉快そうに笑った。
「ははは。なあ……ヴァレリア」
「何です? もう変な予言は要りませんよ」
私がジロッと睨むと兄は急に真面目な顔で訊ねてきた。
「───お前、幸せか?」
「……え?」
(幸せ……?)
「そんなの───」
私は“当然でしょう?”と言わんばかりに微笑み返した。
そうして兄のエスコートで一歩一歩、フロリアン様の元へと向かう。
彼は祭壇の前で私を待ってくれている。
トクン、トクン……
彼の元に近づけば近づくほど私の胸が高鳴っていく。
(マンスール様……いえ、フロリアン様)
あの日、偶然出会ったキラキラした眩しい金色の髪の男の子。
彼はこの国の“元王子様”
(ずっとずっと私の大好きだった人……)
「───ヴァレリア」
「はい、フロリアン様!」
手を差し伸べて満面の笑顔で私の名前を呼ぶ彼に、私もその手を取って満面の笑顔で答えた。
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