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34. キラキラの笑顔
※兄(イアルバン視点)です
今日は妹の結婚式───
追い出した両親の代わりに入場のエスコートをしたのは、花嫁の兄である俺。
(うん、今日のヴァレリアは最高にキレイだぞ)
そんなことを思いながら義弟となる伯爵、フロリアンにヴァレリアを渡した。
(フロリアン・ルフェーブル伯爵……)
ヴァレリアを馬車で轢いた加害者──という立場が、気付けば二転三転してまさかの姿を消していたこの国の第一王子と判明。
ヴァレリアの初恋の男だ。
『お兄様! 聞いて! 私、今日キラキラした髪の男の子に会ったのよ!』
『お、おう?』
『キラキラなのよ、キラキラ。もうキッラキラ!』
『落ち着け、ヴァレリア! お前キラキラしか言ってない!』
『だって───』
そう話すヴァレリアの方がキラキラした笑顔じゃないかとこの時の俺は思っていた。
けれど、それから色々なことがあり残念だがヴァレリアの初恋は実らない。
むしろ、初恋は無かったことにすらなってしまった。
もう、ヴァレリアのあのキラキラした笑顔は見られない。
そう思っていたが……
(これで俺の役割は終わり────)
しみじみそう思いながら役目を終えて去ろうとした時だった。
(ん?)
花婿の伯爵がヴァレリアの手を取ったまま固まっている。
(こ、これは……)
参列者たちもその違和感に気づき始めた。
「フロリアン様?」
「……」
「フロリアン様ーー?」
「……」
目の前の愛しい男が固まったのでおかしいと思ったヴァレリアも必死に呼びかける。
しかし、当のフロリアンは固まったまま。
(まさか、本当にヴァレリアに見惚れてるーー!?)
こんなに綺麗な花嫁姿のヴァレリアを見たフロリアンがポンコツになるだろう予想は確かにしていた……が!
これはいくらなんでも早すぎる!
せめてヴェールを取って顔を見てからにしてくれ!
メッロメロじゃないか!
「……」
いや、違うな。
そうだった。
この男は───
この国の第一王子、マンスール殿下は身体は弱いが優秀と言われていた。
しかし、その実態は昔っからヴァレリアにはメロメロで、ヴァレリアの尻に敷かれ、ヴァレリアの前でだけポンコツになるんだ。
子どもの頃の俺はその様子を見ていた……
ちなみにヴァレリア自身はそのことをよく分かってない。
(子ども時代ならポンコツでも仕方がないが、今はいい大人だろう!?)
しっかりしてくれよ、と願った時だった。
「フーローリーアーンーさーまー?」
(ヴァ、ヴァレリア───!?)
何を思ったのかヴァレリアがフロリアンの頬をペチペチと叩き始めた。
そんな花嫁の大胆行動に式場は大きくざわつく。
「…………はっ! ヴァレリア!」
さすがのフロリアンも突然始まった頬へのペチペチ攻撃を受けて目が覚め石化が解けたようだ。
良かった、とホッとした様子のヴァレリアがにこっと笑う。
「動かなくなったのでびっくりしました。もしかして目を開けて寝てました?」
「寝る!? え、いや……違っ」
「あ、そういえば───」
否定しようとしたフロリアンの言葉を遮るヴァレリア。
(おい! ヴァレリア!? 自分の結婚式で目を開けたまま寝るわけないだろ!? よく考えろ!)
俺の妹、ちょっと思考がおかしい。
「子どもの頃もそうでしたわ……私と遊んでいる最中もよく目を開けて寝ていたもの」
「え、いや……あれは……」
「そういう時の貴方は顔も真っ赤で……よく熱も出していましたよね?」
「え、いや……あれは君が……」
(ヴァレリア、それ違うぞ。熱じゃない……王子はグイグイ大胆に迫って来るお前に照れてただけだ!)
どこか歯切れの悪い返事をするフロリアンにヴァレリアが眉をひそめて首を傾げる。
「フロリアン様? もしかして私、記憶違いしてます?」
「いや─────うん、ヴァレリアの言う通り! 俺は昔から目を開けて寝る癖があるんだ……すまない」
(いや、ないだろーーーー!!)
フロリアンは全力でヴァレリアの言葉に乗っかることにしたらしい。
もっと抗えよ!
尻に敷かれる気、満々じゃないか!
「ふふ、フロリアン様ったら……可愛いわ」
「ははは」
そんなヴァレリアはとても愛しそうに笑った。
この二人、なんで今日から夫婦になるはずなのに、こんな子どもみたいなやり取りを今更しているんだって思った所で気付いた。
(二人には空白の時間があるから……か)
一緒に過ごせていたら経験するはずだったこと。
それを今、ゆっくり経験しているのか……?
それは何とも二人らしいな、とも思う。
(こういうのを“運命の巡り合わせ”とでも言うのだろうか)
ヴァレリアは全ての記憶を失くした状態でフロリアン・ルフェーブル伯爵と出会った。
そして、かつての初恋の男だとも知らずに分かりやすいくらい彼に惹かれていた。
俺は近くにいなかったからあまり詳しくはないが、ビンセント元殿下といた時の大人しいヴァレリアが幸せそうだったという話は聞こえて来ない。
(記憶があっても無くてもヴァレリアが惹かれるのは、一人だけ…………一途だな)
それに、だ。
(なぁ、ヴァレリア……知ってるか?)
今日からお前の夫になるフロリアン……
名を変え姿を変え、ルフェーブル伯爵領で静かに身を潜めていたはずの彼が“あのタイミング”で社交界に現れた理由……
俺はそれを、
”両親を追放するから今後のヴァレリアのことを頼む”
という話をした時にフロリアンの口から聞いていた。
(ビンセント殿下と結婚するお前が幸せかどうか、遠くから一目だけでも見たくて反対を押し切って出て来たそうだぞ?)
それが眠っていたヴァレリアの記憶を引き戻すきっかけとなり、今に繋がった────
ほんの少し何かが違っていたら……この結末にはならなかった。
そんな二人の初恋が実った結婚式。
ポンコツ花婿はやはり俺の予想を外さなかった。
「フロリアン・ルフェーブル────あなたは悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いま……」
「チ……チカイマッス」
フロリアンのおかしな受け答えに式場内がザワついた。
(おいっ! フロリアン!)
やっぱりやらかした。
食い気味だし、カタコトだし……緊張しすぎだろ!
見ろ! ヴァレリアの身体がプルプルしてるじゃないか!
結果、花嫁のヴァレリアは笑いを堪えた震える声で愛を誓っていた。
そんなフロリアンはその後もやらかす。
誓いのキスはスムーズにいったかと思いきや……長い!
(そういうのは今夜二人っきりになってからやってくれ!!)
指輪の交換は、緊張で何をどう間違えたのか。
薬指ではなくヴァレリアの中指にはめようとしてヴァレリアに突っ込まれていた。
そして、極めつけは最後の退場。
ヴァレリアをエスコートしながら右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して歩いて転びそうになっていた……
(期待を裏切らない男だ……!)
しかし転びそうになった花婿フロリアンを支えたのは、当然、花嫁のヴァレリア。
その姿は、
“これから二人で支え合って生きていく”
そんな姿をあらわしているようで、胸の奥が熱くなった。
だから、俺は確信する。
この先のヴァレリアは、絶対に幸せになれる────……
─────
「酷い! …………お姉さまのそんな幸せいっぱいな様子の話を聞かせるなんて酷いわ!」
「……」
「私への嫌味なの!? お兄さま!」
ヴァレリアの結婚式から数日後。
今、俺の目の前で憤慨しているのはもう一人の妹、アルレット。
(こいつは妹……だよな?)
お前、今、何歳だよ!?
そう言いたくなるくらい見た目が老け込んだ妹(のはずの)アルレットとの面会。
先日のヴァレリアの結婚式の話を聞かせたら案の定、憤慨した。
「ずる……」
「───ずるい! じゃないぞ、アルレット」
「!」
ビクッとアルレットの身体が震える。
「本来なら殺人未遂事件の犯人として極刑になってもおかしくなかったお前が生きていられるのは誰のおかげだ?」
「……………………お姉さま」
小さくなったアルレットがそう答える。
「……分かっているならいい」
「でも! …………もう、妹じゃないって言ってた、のに……」
「……」
(そこは、やっぱりお前が“妹”だからだよ、アルレット)
いつかアルレットがそんなヴァレリアの複雑な気持ちに気付く日が来る───のか?
それを見守るのも俺の役目なのだろう。
(手のかかる妹たちだ……)
はぁ、と俺は息を吐く。
「アルレット───ヴァレリアからの伝言だ」
「え?」
アルレットが顔を上げた。
「全く同じ伝言をビンセント元殿下にも伝えた」
「ビンセント……さま、に?」
「ああ。その伝言を聞いた元殿下は膝から崩れ落ちていたな」
「!」
俺のその言葉を聞いてアルレットの顔が曇る。
「…………お、お姉さま……は、な、何て?」
「……」
俺の脳裏には結婚式を終えてから、さらにイチャイチャが加速し隙あらば惚気話ばかりしてくるヴァレリアとフロリアン新婚夫婦の顔が浮かぶ。
ヴァレリアはフロリアンと手を繋いで互いの顔を見つめ合いながら、
結局のところ記憶は戻ったわけだけれど……と前置きしながらも俺にこう言った。
「───記憶も婚約者も失くしましたが私は幸せです、だとさ」
そう口にしていたヴァレリアは、確かに俺から見ても幸せいっぱいの様子だった。
きっと、これからのヴァレリアは、
あの頃みたいなキラキラの笑顔で大好きな男と生きていく────……
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
最後までお読み下さりありがとうございました!
ご存知の方もいるかもしれませんが、
記憶喪失から始まる話は、初期にも投稿したことがありまして。
(『記憶喪失になってから~』正真正銘、私が人生で初めて書いた話です)
そして今回、久しぶりに主人公が記憶喪失から始まる話を書きたくて今回書いてみることにしました。
主人公と謎を明かしていく話にしたいな、と。
大した謎があるわけではない(普通に分かりやすい)ので、フロリアンの正体含めすぐに真相は分かったと思いますが。
最近、私の中のブームが強い女性主人公なので、このヴァレリアもそれに漏れずの性格となりました。
強い主人公は書いていて楽しいのですが、ヒーロー不在になりがちなのが難点です。
また、ラスト1話は趣向を変えて兄視点にしてみました。
私は最後をタイトルで締めることも多いのですが、今作はそれを兄に言わせてみました!
副題の『貴方のことは~』は本文で言わせてますので。
なんであれ、最後まで楽しんで貰えていたら嬉しいです。
コメントもありがとうございます。
こちら途中、返信に力尽きました……すみません。
誤字報告もありがとうございました。
前回の話では酷い間違いを犯して申し訳なかったです。
仕事の昼休み中にコメントの指摘を見て気付き真っ青になりました。
気を付けます……!
そして、次作ですが明日中には開始出来ればなと思っている所です。
明るいコメディー風になる予定。
今、シリアスやドロドロ気分じゃないんです。
それでもよければ……
もし、見かけた時はよろしくお願いします。
ありがとうございました!
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ありがとうございます!
そう言って頂けてとても嬉しいです。
こちらこそ、お読み下さりありがとうございました!!!
そして、別の作品にもコメントをありがとうございました。
昔の作品にはなかなかコメント貰えることがありませんから、びっくり!
嬉しかったです^^
他にも楽しいなと思って貰える話があるといいのですが……
ありがとうございました~
ありがとうございます!
ꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬ
ご存知のように私の作品には、
最強のご夫人がいらっしゃいますので……笑
彼女からすれば誰でも大人しいんじゃないかなって。
ヒロインに振り回されるヒーローも私は大好物なんです。
最後までお読み下さりありがとうございました!
ありがとうございます!
私も大好物です!
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元々強めではありました……が、更に強くなりました!
お好みにあって良かったです!!
最後までお読み下さりありがとうございました!