2 / 24
2. どうやら転生したようです
しおりを挟む────コレット・ディバイン!
それ、私だわ!
間違いなく私のことよ!!
───流れ込んでくる“記憶”の波に“私”は完全に呑まれた。
そう。
私……コレットは昨日結婚したばかりの新婚ホッヤホヤの新妻!
結婚相手はディバイン伯爵……カイザル様。
カイザル様は私との結婚を持って伯爵位を継承したばかりのホッヤホヤの新米伯爵!
そして……今、流れてくるコレットの記憶できちんと思い出したわ。
コレット……つまり私、は結婚式を終えて屋敷に戻り、いよいよ初夜! ということでかなり気合を入れた入浴を終えて部屋へ戻ろうとしていた。
だけどその時、階段から足を踏み外した……わ。そして、そのまま落下してしまって───
……今、目が覚めた。
(…………それはいい。今、問題なのはそこではないの)
この、もう一つの記憶は……何なの!?
こんな記憶は昨日までの私、コレットには無かった。
明らかに“コレット”の記憶ではない。
それなのに間違いなく“自分のこと”なのだと分かるこの記憶は───
前世。
前世の記憶……だ。
(う、嘘でしょう……?)
これが、俗に言う『異世界転生』だと言うの?
先程までの思考は頭を打ったせいで、前世の記憶? とやらを思い出して記憶が混乱していたと考えるのが自然だ。
(そうなると……)
私は、前世を思い出したことで知らなくていいことを知ってしまった……ことになる。
つまり、ここは前世の私が読んだあの小説の世界……
新米伯爵カイザルにはずっと妻にしたいと願うほどの好きな女性がいて、伯爵夫人となったコレットはその事実を初夜になって初めて聞かされる。
自分は爵位継承の為だけの丁度良いお飾り妻として娶られただけで、カイザルはいずれコレット離縁するつもりのため、お決まりの白い結婚生活が始まる───
(詰んだ!)
え? これ……私、めちゃくちゃ詰んでない?
ちょっと動揺して前世の言葉が頭に浮かんでしまったけれど、どう考えても絶対詰んでるわよ、これ。
『異世界転生』ってもっと早くに前世の記憶を取り戻して、未来を変えるものではないの?
今の私の立場で言うなら、捨てられる未来なんてゴメンなので結婚回避するわよ!
……とか。
何も知らずに結婚しちゃったじゃないの……
「────伯爵夫人? 顔色が急に悪くなったようだが? 大丈夫かのう?」
「っ!」
おじいちゃ……お医者様に心配そうな顔で言われて私はハッと顔を上げる。
「だ、大丈夫です……その、やはり記憶が混乱しているよう、で……」
「ふむ。そうですかの」
「で、ですが結婚したことは、覚えてます、ええ……私、結婚、しました……」
(ようやく理解した───この結婚の話が慌ただしかったのは、こういうことだったのね……)
コレット・ラフズラリ。
私はラフズラリ伯爵家の娘だった。
なかなか良縁に恵まれなかった私にある日、届いたのはディバイン伯爵家の嫡男、カイザル様からの求婚の手紙だった。
それも、我が家が資金繰りに失敗して借金を抱えていることまで調べあげていて、結婚を承諾してくれるならその借金を肩代わりするという申し出まであった。
(そしてお父様はその話に飛び付いた……)
───まさか、お前のような取り柄もなくて使えない娘にこんないい話が来るなんて!
お父様はそう言って喜び、私の意見をまともに聞くことすらなく承諾の返事を送っていた。
そうして、結婚の話はとんとん拍子に進み、カイザル様とろくな顔合わせもしないままあっという間に結婚の日を迎えた……
そもそもとして、ディバイン伯爵家とラフズラリ伯爵家は同じ伯爵家でも随分と力に差がある
そして、借金の肩代わりまでされた私やラフズラリ伯爵家がカイザル様に逆らえるわけがない。
(丁度良かったとは、きっとこのこと……)
身分の釣り合いもとれ、婚約者のいない適齢期の令嬢である私。
ついでに借金肩代わりすることで完全に優位に立てる───
こんな状態により昨夜は初夜どころではなかったので、まだ実際にカイザル様にそう言われたわけではないけれど、実際、急な申し出に慌ただしい結婚を思うと現実もきっと小説と同じ……
「……あ、そういえば、旦……カイザル様、は?」
私は医者を連れて来たメイドに訊ねた。
彼女は確かご主人様にも伝えなくては、と言っていたはず。
「そ、れが……ご主人様は……」
「?」
メイドがどこか気まずそうな表情を浮かべて口ごもる。
「いいから言って頂戴?」
「は、はい。えっと今、大事な話の最中なので用事が済んだら行く……と」
「……それはお仕事かしら?」
「お、おそらく……」
私に促されて口を開いたメイドは申し訳なさそうに恐縮していた。
───ほう。
つまり、新婚ホッヤホヤの頭を打って倒れていた新妻が目を覚ましたというのに、旦那様は仕事が大事……と。
(仕事は確かに大事ですけど!)
仕事を蔑ろにするのもどうかとは思うので、一概にはそのことを責められない。
でも、やっぱり思わずにはいられない。
やっぱり、私──コレットはお飾り妻なのだと……
その後、一通り頭や身体の怪我の確認と記憶の混乱についての診察を終えた医者は、また明日診察に来ると言って帰って行った。
まだ、暫くは安静が必要らしい。
「奥様、何か飲まれますか?」
ふぅ、と小さなため息を吐いた私にメイドが気を利かして訊ねてくれた。
「あ、ではお茶をお願い出来ますか?」
「かしこまりました。すぐに用意して参ります」
「ありがとう」
部屋から一旦出ていくメイドの後ろ姿を見送りながら今のこの状況について改めて考える。
────私は小説の世界に転生した……そのことは理解した。
その記憶を取り戻したタイミングも悪かったけれど、冷静に考えればもっと悪いことがある。
それは──……
「私、この小説の結末を知らないのよ……」
自分でそう口にして、ズンッと落ち込んだ。
もっと言うなら、結末どころか話も序盤までしか知らない。
だから、夫となったカイザル様の“ずっと妻にしたいと願うほど好きな女性”が誰なのかも知らない。
なぜ、さっさとその女性を妻にしなかったのかとか、私たちの離縁はいつなのか……
それすらも分からない。
それに、今回この頭を打ったことで起きた記憶の混乱のせいなのかは分からないけれど、転生云々以外に、少し気がかりなことも出来てしまった。
(おかしいのよね……どうして、私って……)
「…………あーー考えても分からないことばかり!」
とにかく、一度に色々なことがあり過ぎて私は頭を抱える。
「……転生の意味はいったいどこに……! そして予定通り離縁された後の私はどうなるの!?」
こうして、せっかくの転生特典を全く活かせない私の新たな生活が始まった。
197
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
あなたを愛する心は珠の中
れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。
母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。
アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。
傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。
ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。
記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。
アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。
アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。
*なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております
師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す
er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。
婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話
buchi
恋愛
大富豪の伯爵家に婿入り予定のイケメンの第三王子エドワード。学園ではモテまくり、いまいち幼い婚約者に関心がない。婚約解消について婚約者マリゴールド嬢の意向を確認しようと伯爵家を訪れた王子は、そこで意外なモノを発見して連れ帰ってしまう。そこから王子の逆回転な溺愛が始まった……1万7千文字。
ネコ動画見ていて、思いついた。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです
宝月 蓮
恋愛
乙女ゲームのモブに転生したマーヤ。目の前にいる婚約者はそのゲームの攻略対象だった。しかし婚約者は悪役令嬢に救われたようで、マーヤそっちのけで悪役令嬢に夢中。おまけに攻略対象達に囲まれている悪役令嬢も転生者で、何だか無神経発言ばかりで少しモヤモヤしていしまうマーヤ。そんな中、マーヤはゲームには関係ない隣国の公爵令息と仲良くなり……!?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる