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6. 王太子殿下の勘違い
しおりを挟む「……素晴らしいくらいの天使だったわ」
ルチア様達との話を終えて帰宅するために乗った馬車の中。
私の口からはそんな感想しか出て来なかった。
ルチア様のあの可愛さ……
そりゃ、ユリウス様を筆頭に皆メロメロになるわよ!
ただ、彼女はあのろくでもない家族から、ずっと虐げられていたらしい……
それでも今のルチア様は、とても幸せそうだった。
「あのデレデレした顔で、きっとユリウス様がたくさん毎日毎日ルチア様に愛情を注いでいるんだわ。素敵ね、そして良かった……」
────ずるい考えを持つ私は、ルチア様と結ばれたのが殿下ではなく、ユリウス様で良かった……と心の中で思いながら帰路についた。
❋❋❋
「……ユリウス。お前はもう少し、アンジェリカに気を使ったらどうなんだ」
「───は、い?」
アンジェリカと天使が帰宅した後の執務室で私はユリウスに軽く説教をする。
「殿下……話が見えません。何故、俺がアンジェリカ嬢に気を使うなんて話になるのでしょう?」
「おまっ……! そ、そんなの決まっているだろう! だってアンジェリカは!」
「だってアンジェリカ嬢は?」
「────……っ!」
私はそこで口を噤む。
───ダメだ。これ以上は私が口にしては駄目だ。
そもそも他人の……私が口を挟むべき話では無いはずなんだ!
それなのに思わず、口にしてしまいそうになった。
────当たり前だろう!? アンジェリカはずっとお前の事が好きだったんだぞ!?
何でそんなに鈍いのだ!
……と。
ずっと好きだった男が自分が国を離れている半年の間に突然結婚してしまい、その妻との惚気話を聞かされ、デレデレした顔を見せられたアンジェリカ……さぞ辛かった事だろう。
パーティーの時もさっきもずっと気丈に振舞ってはいたが、内心は酷く傷ついていたに違いない。
だからこそ、私はついつい自分の手で彼女の頭を撫でてしまった……
「……アンジェリカ」
「? 殿下、いったいどうしたんです? 今日は(特に)様子がおかしいですよ?」
「むっ……なんの事だ?」
私はどこもおかしくなどない!
ちょっと頭の中にアンジェリカの顔がチラついているだけだ!
いいから余計なお喋りはそこまでにして仕事を再開しろと、ユリウスに書類の束を押し付ける。
「くっ! 今日も多いな……早く帰ってルチアを愛でたいのに……!」
ユリウスは文句を言いながらもちゃんと仕事に取り掛かった。
何だかんだでユリウスは優秀なんだ。
(アンジェリカ……)
気付くとまた、彼女の事を考えていた。
────幼い時……ユリウスとアンジェリカと三人で遊んでいた頃、私はあまりアンジェリカに好かれていなかった気がする。
あれは、外で遊ぼうとした時だったか?
『アンジェリカ? 顔が赤い。熱でもあるのか? 今日は遊ぶのをやめるか?』
『だだだだだ大丈夫ですわ!』
『で、でも』
『い、いいえ! この通り! ピ、ピピピピピンピンしておりますわ! ほら!』
私が話しかけると、顔が真っ赤になっていつだって吃っていた。
あれは、お茶会の時だったか?
『アンジェリカ? なぜ、私の顔を見ない?』
『き、気のせいですわ!(ユリウス様~助けて~場を繋いで~!)』
向かい側に彼女が座り、一緒に茶を飲んでいても目が合えばすぐに目を逸らされる。
そして、必ずユリウスの方ばかり見るんだ。
(アンジェリカは、そんなにユリウスの事が好きなのか……)
そう思った私は、“婚約者選定”の時、一番の最有力候補だったアンジェリカを真っ先に外す事にした。
周囲は何故だと驚いていたけれど、これでいい。
好きな男がいるのに、王子の婚約者だなんてあんまりだろう。
そう思っていたのに。
ユリウスは天使と出会って恋に落ちてしまった……
「すまない、アンジェリカ……」
毎日毎日、ユリウスからブラックコーヒーが手放せなくなるほどの甘い甘い惚気ばかり聞かされている身としては、身に染みて実感している。
残念ながらもう君のいじらしい長年の想いが叶う事はないだろう……と。
だが、アンジェリカは健気ないい子なんだ!
絶対に絶対幸せになってもらわねば!
「なぁ、ユリウス」
「何ですか。俺も手を動かしているので、殿下も手を動かしてください。そこの書類の山、さっきから全然減っていないではありませんか」
「……くっ!」
相変わらず、仕事のスイッチが入ると人が変わるな……
私はため息を吐きながらユリウスに訊ねる。
「はぁ……どうしたら、アンジェリカは幸せになれるだろうか?」
「…………何の話ですかね!? 仕事してくださいよ!」
「す、すまん……」
……怒られた。
いや、分かっている。今は仕事を片付けるべきなのに。
なのに、頭の中にはアンジェリカの顔ばかりが浮かぶんだ。
「───あ、そういえば」
「何だ?」
ユリウスが何かを思い出したかのように顔を上げる。
「アンジェリカ嬢が半年間留学していたのは、ディティール国ですよね?」
「そう聞いているが?」
───そういえば、そもそもアンジェリカは何故、突然留学したのだろうか?
昔から勉学に励んでいたのは知っていたが、まさか留学してまで学びたい事があったのだろうか?
「……?」
と、気付けば頭の中がまた、アンジェリカの事ばかりになっている。
「殿下。そのディティール国の王女様との間に縁談の話が持ち上がっているそうですよ? どうします?」
「───は?」
そんな話、私は聞いていないぞ!?
私は愕然とした表情でユリウスの顔を見るが、ユリウスはコクリと頷くだけ。
「何でも、なかなか縁談先の決まらない王女がいるそうで、周辺国家に手当り次第打診しているそうですよ」
「……待て。待て待て待て! それはどう聞いても訳ありだろう!?」
そんな問題しかなさそうな王女を王妃として迎えられるか!
「俺もそう思います……なので、正式な話が来ない事を願っていますよ」
「おい! 何でそんなに他人事なんだ!?」
ユリウスは淡々とした様子でものすごく不吉な事を口にした。
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