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愛され王女からの転落 ②
しおりを挟むこんなことをしてもジャンがわたくしを嫌うだけ。
本当は心の中で分かっていた気がする。
(それでも……)
やっぱり許せなかった。
“わたくしのもの”に手を出した伯爵令嬢のことが憎くて憎くてしょうがなかった。
❋
「……ふふ」
「殿下? 今日はなにやらご機嫌ですね」
わたくしは一人で午後のお茶を楽しみながら、ほくそ笑んでいた。
このように一人の時はいつもジャンに話し相手となってもらうのが日課となっている。
「あら、そうかしら?」
「え、ええ。その……ここ最近の殿下の機嫌はあまり良いとは言えなかったので」
「……」
(あなたが恋人なんて作ったからよ、ジャン)
アルマ……伯爵令嬢への嫌がらせは、わたくし自身が行うこともあれば、わたくしの為にと動いてくれる令嬢達を“使う”こともあった。
王女という目立つ立場でもあるわたくしは中々、動きづらい。
また、ジャンの目があるから、基本的にわたくしは直接動かず誰かを動かすことの方が多かった。
(さぁて、今頃、あなたの可愛い恋人は何をされているやら……)
───なんてほくそ笑んでいたけれど、憎いあの女はわたくしに何をされても、なかなかめげる様子がなかった。
その事がわたくしの怒りと憎しみを更に募らせていく。
──
痺れを切らしたわたくしは、ある日ジャンに訊ねる。
「ねぇ、ジャン? あなたの可愛らしい恋人はお元気?」
「……殿下?」
ジャンは怪訝そうな表情をわたくしに向ける。
「あら、酷いわ。なんでそんな顔をわたくしに向けるの?」
「いえ……」
「わたくしは、あなたの主としてわざわざ心配してあげているのに」
「……申し訳ございません」
「それで? 可愛い可愛い恋人さんはどうなの?」
その時の返答は“元気でやっています”だった。
チッ
わたくしは小さく舌打ちをした。
わたくしやわたくしの取り巻き令嬢たちに睨まれたことで社交界では居場所をなくしている……そんな報告も受けたのに。まだ、めげないの?
(どれだけ図々しい女なの!)
怪我をさせると面倒だし変な証拠が残ってしまう。
そう思ったわたくしは、彼女の精神面を削る嫌がらせを中心に実行。
それなら、たとえジャンに詰め寄られても“知らない”と言い訳出来ると思ったから。
(これは、身体にも痛い目を見せないと分からないのかしら?)
いいえ。彼女もなぜ、こんな事になったかの理解はしているはず。
とにかく嫌がらせを繰り返せば、そのうちジャンといることに疲れて別れを切り出すはずよ!
そう信じて、とにかくチマチマチマチマ嫌がらせを続けていたある日、ジャンが改まった顔で最も聞きたくない報告をした。
「───婚約、ですって?」
「はい。おかげさまでその運びとなりました」
「待って! は……早くないかしら?」
自分の顔がピクピクと引き攣っているのが分かる。それでも今すぐ物に当たり暴れ倒したい気持ちをどうにか抑えてジャンの話を聞くことにした。
すると、ジャンは普段は見せない照れた表情でわたくしに言う。
「まぁ、そうですが…………アルマが早く結婚したいと言うものですから」
「────!!」
その後、ジャンは何か言っていたけれど、わたくしの頭の中はそれどころではなかった。
別れではなく……結婚?
その言葉がずっと頭の中から離れてくれない。
(どうしてよ……ジャンはわたくしと……わたくしと結婚するはずだったのに!)
わたくしのアルマへの恨みは最高潮に達した。
────そんな中、今年もわたくしの誕生日パーティーが開かれることになった。
わたくしの事が大好きなお父様が毎年盛大に開いてくれるパーティー。
正直、気持ちは沈んでいたけれど、多くの人にチヤホヤして貰えるから気分転換にもなるし丁度いいと思っていた。
(それに……)
王女の誕生日パーティーとなれば、アルマも当然参加だ。
でも、ジャンはわたくしの護衛として仕事で会場にいるから二人が話したりダンスしたりする機会はない。
(それなら、わたくしが思いっきりあの女の前でジャンにベタベタして見せつけてやるわ!)
───ジャンはあなたと結婚するかもしれないけれど、所詮、あなたは二番目の女!
パーティーがあってもジャンがあなたをパートナーにしてエスコートすることは無いんだもの!
いつだって優先されるべきはわたくし。一番はわたくしなのよ!
とにかくアルマにそう見せつけてやりたかった。
❋❋❋
そうして、わたくしの誕生日パーティーの日。
「ははは、クラリッサ。私の可愛い娘よ。今日は一段と綺麗だ」
「ふふ、ありがとうございます、お父様」
「ううむ。やはりまだまだ嫁にはやれんな」
着飾ったわたくしの姿を見たお父様がそんなことを口にする。
「まぁ、お父様ったら」
そういえば全然、わたくしには求婚の話が来ないわねぇ……なんてふと思った。
「クラリッサ、今年の誕生日プレゼントは何がいい? 後で教えてくれ」
「ええ! お父様。わたくし、とっても欲しいものがありますの」
「そうかそうか! 何でも言うがいい!」
「ふふ、ありがとうございます」
わたくしは微笑む。
(ジャンが欲しいと言ったらお父様はどんな顔をするかしら?)
ジャンがあの女と結婚してしまう前に急がなくては。
まだ、婚約のうちにどんなことをしても破談にさせてみせるわ!
「ああ、今日は一段と映えるね、クラリッサ」
「だって、わたくしの誕生日パーティーですもの、お兄様!」
「こんな可愛いクラリッサを見たら会場中の男共が惚れてしまう……」
「ふふふ、またまた兄様ったら。大袈裟でしてよ?」
いつものようにわたくしを溺愛するお父様やお兄様たちに囲まれてわたくしは笑っていた。
(あぁ、やっぱり壁の花……ふふっ)
わたくしの目論見通り、アルマはポツンと壁の花となっていた。
所在なさげに立っているその姿を見てわたくしは溜飲が下がる。
ジャンもチラチラ彼女のことを気にしているけれど、職務放棄だなんてわたくしは絶対に許さない。
───
「……少し疲れたわ」
大勢の人に誕生日を祝われてチヤホヤされて楽しいけれど、反面、疲れもする。
その時のわたくしはバルコニーに出て風に当たりたいと思った。
「ジャン、わたくし少し、外の風に当たってくるわ」
「あ、すみません殿下。実は今、陛下に呼ばれていまして」
「あら、お父様に?」
「はい」
何の話かしら? と思いつつジャンは別の護衛をわたくしに付けると、お父様の元へと向かう。
まさか、わたくしに嘘をついてアルマの元に向かうつもりなのでは?
一瞬、そう考えてしまったけれど、視線を向けるとアルマは相変わらず壁の花だったので、考えすぎね……と思ってわたくしはバルコニーへと向かった。
「あー、外の風は気持ちいいわ」
わたくしはバルコニーの手すりに掴まりながら外の風を感じて羽を伸ばす。
(ずっとニコニコしているのも疲れるわーー)
ちょうど、中ではダンスの時間となっているせいなのか周囲に全然人はいない。貸切みたい!
それもまたのびのび出来て気持ち良く思えた。
(まぁ、護衛はいるけれど)
チラッと代わりの護衛に目をやると無言で静かに控えている。
こればっかりは仕方がないわね、とため息を吐く。
「……」
(けれど、せっかくならここでジャンと二人っきりになりたかったわー……)
なんてことを思った時だった。
(あら?)
ちょうどわたくしのいる所の手すりの一部が少し緩んでいることに気付いた。
今すぐどうこうということは無くてもこのまま放っておくと危険かもしれない。
(うーん、他に今すぐ頼める人もいないし、少しなら大丈夫……よね? それに少しだけ一人になりたい……)
そう思ったわたくしは控えている護衛に、手すりが緩んでいることを他の者に告げるようにと指示を出した。
躊躇いの様子を見せた護衛に「わたくしの命令に逆らうの?」と軽く脅して会場に戻らせた後、危険だからわたくしも移動を……と思ったその時。
「───王女殿下」
あら? もう戻って来たの?
無駄に仕事の早い護衛だこと……もう少し一人になりたかったのに。
そう思って振り返った先に居たのは───
「……!」
─────アルマ・リムディラ。
先程まで、壁の花となっていたはずの、わたくしの憎き恋敵の女だった。
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