【完結】どうか、ほっといてください! お役御免の聖女はあなたの妃にはなれません

Rohdea

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2. 二人の聖女

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  私、ミリアは弱小貧乏貴族のトパーズ男爵家の娘として生まれた。
  貴族令嬢というよりは、平民に近く穏やかな性格の両親の元ですくすくのびのび育った。

  だけど、十歳の誕生日を迎えたその日。
  私は不思議な夢を見た。

  ───今から三日後、大雨が降り嵐が来る。
  そのせいで、何の対策もしていなかった領地にある川が氾濫してしまい街を飲み込んで大被害が出てしまう……そんな夢だった。

『ねぇ、お父様、お母様。三日後の天気の予想ってどうなっているかしら?』
『は?  天気?』

  両親は突然、そんな事を口にした私を怪しく思い訝しんだ。

『ミリア?  どうしてそんなことを聞くの?』
『だって、夢を見たのよ』
『夢?』

  お父様とお母様は不思議そうに首を傾げる。
  だから、私は説明した。
  今から三日後に大雨が降って嵐になって川が氾濫してしまう夢を見たのよ、と。

  それを聞いた両親は顔を見合せ「まさかな……」と呟く。
  子どもの戯れ言だと言うのに、それでも無視出来なかったのか。両親は“万が一”に備えて動いた。

  ───そして三日後。
  天気は大荒れとなり、私が夢で見た通りの事が起きた。ただ一つ、夢と違っていたのは被害者が出なかった事───

  この時は単なる偶然……そう思っていた。
  だけど、その偶然は一度では終わらずその後も似たような事がたびたび起きるようになる。
  そうなってくればもう偶然では済まないし誤魔化せない。

  両親はまず、街の教会に私のことを相談した。その教会から話は広がり私は王家から呼び出される事になった。

  (お、王家!?)

  王宮滞在中も予知夢を見続けた私は、夢を見た後にその内容を伝える。すると現実にその通りの事が起こるという事が続き、いつしか“夢見の聖女”と呼ばれるようになっていった。
  この時の私は知らなかったけれど、この国には何百年かに一度そんな不思議な力を持った聖女が現れるのだと言う。
  そして、そんな“夢見の聖女”を逃さないために、聖女は代々王家の人間と婚姻を結ぶのが決まりらしい。
  そういった事から、歳の近かった私とこの国の第二王子、ヴィンス様の婚約が結ばれた。


  ───男爵令嬢のくせに。
  ───本当に夢見の聖女なの?

  本来なら王族との結婚が適わない私が、“夢見の聖女”としてヴィンス様の婚約者に選ばれた事は王子狙いの令嬢達に大きくやっかまれた。
  たかが予知夢。されど予知夢……
  自分の意思で占う予言とはまた違う、いつ働くか分からないこの不思議な“力”はなかなか人に認められそうになかった。

  (───ヴィンス様以外は)

『ミリアのその力は凄いと思う』

  ヴィンス様は突然、夢見の聖女だからという理由だけで婚約者にと決められた私にとても優しくしてくれた。

『凄い……ですか?』

  自由に扱えないこんな力を褒められた事に私は純粋に驚いた。

『だって、その力で人を救えるじゃないか!』
『……』
『実際、ミリアはその予知夢で自分の街を救ったんだろう?』
『そう……ですけど』

  夢で見た時のあの川の氾濫の被害はかなり甚大だった。失われた人命もあったと思う。
  でも、結果として家屋の被害はあっても人的被害は免れた。

『大丈夫だ、ミリア』
『ヴィンス殿下?』
『ミリアを悪く言う奴がいたら僕がボコボコにしてあげるよ!』
『ボ……!?』

  王子様がとんでもない事を口にしている!

『だから、何かあったらすぐに僕に言うこと!  いいね?』

  笑顔で押しの強い王子様に何が何だかよく分からないうちに、私はそう約束させられていた。



  それから。
  ヴィンス様は有言実行の人で、私を貶める噂を広がる事を良しとしなかった。
  そんなヴィンス様のおかげで私へ向けられる悪意の目は殆ど無くなり、友人も出来て私は“夢見の聖女”としてのお役目を果たしながら日々を過ごした。
  住まいを王宮に移すことになって両親とは会えなくなってしまったけれど、その分ヴィンス様がいつだって側にいてくれた。

  このままヴィンス様と結婚して聖女としてのお役目を果たしながら過ごす。
  昔、視たそんな夢が現実になると信じて疑っていなかったある日、彼女が現れた。

『レベッカ・バラバルと申しま~す!  私も予言が……未来が視えるんですよー』

  レベッカ様は“もう一人の聖女”として突如現れた。
  そんな彼女……レベッカ様が現れてから私の生活は一変した。

『えー?  ミリア様って自分の意思で未来を視れないんですかぁ?』
『え、ええ……レベッカ様は違うの?』

  まさか……と思った。
  私は眠っている時しか未来を見れない。それもいつ見るのかも分からない。
  毎日見る時もあれば、一週間全く見ない……そんな日も続くほど不安定だった。

『もちろん、私の意思で見れますよ~!  だから私に視えない未来なんて無いんです!』
『え……』
『そうだわ!  私たち仲良くしましょう、ミリア様!  だって長い付き合いになるはずですもの!』
『は……い』

  仲良く?  長い付き合い?
  そう口にしたレベッカ様はとてもいい笑顔だったのだけど、なぜだか私はその笑顔が怖い……などとと思ってしまった。


  だけど、それからすぐに異変は直ぐに起きた。
  何故かは分からない。だけど、これまで私に優しくしてくれていた人達が冷たくなってどんどんそっぽ向いていく。
  そんな事が起き始めた。
  代わりにレベッカ様の元には───……
 
『レベッカ様!』
『レベッカ様、ぜひ、視ていただきたい未来が……!』
『……レベッカ様、聞いてくださいーー!』

  その頃から、ヴィンス様以外は誰も私に“夢を見たか?”とは聞かなくなっていた。
  そうして私はどんどん王宮で孤立していく。

  そして同時に私は夢を……予知夢を視る事が全く無くなっている事に気付いてしまった。

  (待って?  私……いつから夢を視ていない?)

  そうして振り返ってみると、レベッカ様と会ったその日から夢を視ていなかった───


❋❋❋❋


『あーら、ミリア様。お久しぶりですわね~』

  その日はレベッカ様の方から話しかけて来た。

  そんなレベッカ様の周りには、かつて私の友人だった令嬢達が侍っていた。
  急によそよそしくなってからどうしたのかと思っていたら、レベッカ様のそばにいたらしい。

『何だかとても久しぶりですわねぇ……』
『そ、そうですね』
『ふふっ』

  私が引き攣った笑顔を見せると、レベッカ様は鼻で笑った。
  かつての友人達もクスクス笑っている。

『実はね私、今、とっても忙しくて困っているの~』
『そ、そう……』
『だから、ミリア様がとっても羨ましいわぁ~』

  その言葉の裏に“暇そうで”と聞こえた気がする。
  夢見の聖女のお役目を果たしていない事は事実。
  よって、なんて答えたらいいのか分からず無言でいる私を一瞥したレベッカ様は笑みを深める。

『そうそう、ミリア様』
『な、何でしょう?』
『近々、とーーっても楽しいことが起こるのよ~』

  レベッカ様は余程それが楽しみなのか、すごく嬉しそうな表情を見せる。  

  (楽しいこと?)

『ミリア様も……ぜひ!  楽しみにしていてね!』

  レベッカ様がそんな謎の言葉を告げた数日後。

  私は聖女の任を解任された──────

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