【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

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第1話 婚約者へのお願い

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  ──今日こそ!
  今日こそは私の気持ちを伝えて見せるわ!!  話を……話をするのよ!

  私はそう決意して大きく息を吸ってから、扉をノックした。
  返事を待ってから勢いよく扉を開ける。

「失礼致します。シグルド様!」
「うん?  あぁ、ルキア!  今日もとびっきり可愛いね」
「っ!」

  (……な、なんて眩しい笑顔なのかしら)

  あまりの眩しさと甘い発言のせいで、直ぐに心が怯みそうになるも、私は負けてたまるかと気合いを入れ直す。
  この決意をしたのは何度目だったかしら。
  そして、挫折するのも……

「シグルド様、あの!  私、今日は大事な」
「ルキアは凄いね。ちょうど私が休憩して君に会いに行こうと思っていたのを知っていて訪ねて来てくれたのかな?」
「え!?  なっ、何を言って……?」
「あれ?  違うの?  残念だな」

  (……っ!)

「私はルキアに会いたくて会いたくて堪らなかったと言うのに」
「っっ!」

  そう言って少し拗ねた彼の顔を見ていると、やっぱり私の心が負けそうになる。
  でも、今日こそはちゃんと言わなくては、と決めた。
  だって、やっぱりいつまでもこのままではいけない。

  (それに、シグルド様の新しいお相手だって早く──)

  その事を思うとズキッと胸が痛くなる。でも……そうも言ってはいられない。

「さぁ、ルキア、こっちにおいで?」
「え?」
「君の好きそうなお菓子があるんだよ。私も休憩する所だったから一緒にどうだい?」
「……」

  そう言った彼、シグルド様が指差した方向には確かに美味しそうなお菓子が並んでいる。自他ともに認めるお菓子大好きな私は、その中に驚くべきお菓子を見つけた。

  (あ、あれは、王都でも一二を争う有名なお店のもの……!  毎日、開店と同時に即完売するので、もはや幻と言われているお菓子ではないの!?)

  私は興奮が隠せず身体がプルプルと震え出す。
  シグルド様はそんな私の様子を見て笑いながら訊ねてくる。
  多分、私が何を思っているのかは筒抜けね。

「ふっ……どうしたの、ルキア?  身体が震えているよ?」
「うっ!  い、いえ……別に、何も」
「そうなの?  でも、私に用があったんだろう?  お菓子を食べながらでいいなら話を聞くよ」
「え、えっと」

  私は大きく躊躇う。
  何故なら私のしたい話は、呑気にお茶とお菓子を食べながらする話では決してない。

「うーん、このお菓子は、ルキアの為に用意させたんだけどな……もしかして嫌いだった?」

  そう言ってシグルド様がチラつかせたのは、まさに私がたった今、興奮していた幻のお菓子!

「い、いえ。す、好きです……」

  (すごくすごー~く食べたかったお菓子です)

「だよね」
「っ!」

  私が正直に言うと、シグルド様は嬉しそうに微笑んだ。
  そんな彼の笑顔に胸がキュンとすると同時に暗い気持ちも生まれる。

  (お願い……その顔、もう私に見せないで?  決心が鈍ってしまうの)

「ルキア?」
「え?  あ、すみません」
「ほらほら、ルキア、座って?  それでなくても君は病み上がりなんだから、ね」
「は、はい……」

  ズキッ

  (病み上がり……)

  その言葉に胸が痛くなるも、とりあえず、私は促された通り彼の隣に腰を下ろした。
  隣に座っているシグルド様は満面の笑顔。対する私は彼の顔が真っ直ぐ見る事が出来ず、顔を俯ける事しか出来ない。

「……」
「……」
「……ルキア」
「は、い?」
  
  名前を呼ばれたのでそっと顔を上げる。

「はい、口を開けて?  あーん」
「え!」

  シグルド様はその言葉と共に私の目の前にお菓子を差し出していた。
  私はついつい条件反射で、口を開けてしまう。
  長年の癖という程、恐ろしいものは無い。シグルド様は昔からこうして私にお菓子を食べさせる事が大好きだ。


「あ!」
「美味しい?  ルキア?」
「……」

  そう言いながら私に向かって微笑むシグルド様。
  その笑顔はとても眩しい……眩しすぎる。

「お、美味しい……です」
「それは良かった。この前、ルキアが小さな声で食べてみたいって呟いていたからね。色々調べたんだ。このお菓子はかなり人気らしいね?」
「……っ!  わ、私の為に……?」

  確かに呟いた事はある。
  あれは視察で共に街に行った時。このお菓子のお店の前を馬車で通った時だったと思う、

  (あの時のあんな小さな私の声の呟きを拾ったと言うの!?)

「当然。可愛くて愛しい婚約者の喜ぶ顔が見られる事ほど幸せな事は無いからね」
「か、可愛っ……」

  その言葉に私が焦るとシグルド様はニッコリ微笑む。

「それそれ!  その直ぐに赤くなる顔だよ。うん。やっぱり私の婚約者は今日も最高に可愛い」
「~~~!」

  しまった!  今日もこうしてシグルド様のペースに乗せられてしまったわ。
  だって、こんな空気の中、どうやって切り出せばいいの?



  ───私は、もうあなたのお役に立てそうにありません。
  ───どうか、私と婚約解消して下さい。
  ───あなたの新しい婚約者はどうぞ、例の“彼女”を。きっとあなたの助けになってくれるはず。





  私、ルキア・エクステンド。
  エクステンド伯爵家の娘。私には幼い時から婚約者がいる。
  それが今、この目の前で私を可愛い可愛いと言いながら微笑んでいるこの方。

  シグルド・アクリウム様。
  この国の王太子殿下。

  伯爵令嬢に過ぎない私が彼、シグルド様と婚約しているのは当然、理由がある。
  それは、私が子供の頃からとんでもない魔力量を保持していた事。
  そして、貴重な光属性持ちで癒しの力を使えた事。
  これだけ。

  それだけで、私と彼は10年も婚約している。
  初めて出会ってから、そして婚約が結ばれてから将来は王太子、やがて王となる彼の支えになりたいと私自身もこの10年間、必死に努力を重ねて来た。

  (……でも、そんな努力も全て無意味なものとなったわ)

  私はもうただの役立たず。彼の隣に立つのに全く相応しくない。
  私の代わりに相応しい人は別にいる───そう、彼女……

  (少し性格的に気になる所はあるけれど……)



  そもそも、お父様を通して
  なのに、シグルド様は何も言わない。今も変わらず私を婚約者として扱おうとする。
  だから、埒が明かないので私から“婚約解消”をお願いすると決めたのに……

  愛しい婚約者だの、今日も可愛いだのという甘い言葉と大好きなお菓子に翻弄されて、結局、今日も私はその話を切り出せずにいた。


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