【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
2 / 34

第2話 異変

しおりを挟む


  (結局、話は出来なかった……)

  私はがっくりと肩を落として、シグルド様の執務室から外に出た。
  忙しい彼の邪魔はこれ以上出来ないと思い諦めて帰る事にしたのだけど、気の所為で無いのなら最近の彼は特に忙しそう。
  私の前ではニコニコいつも通り振舞っていたけれど、睡眠時間もかなり削って仕事をしている事を私は知っている。

  (そんなに急ぎの案件あったかしらね?)

  それにしても、もう、何度目の失敗かしら。
  と、私はため息を吐く。

「シグルド様……」
  
  シグルド様が私の事をあんな風に翻弄するのはいつもの事。
  でも、彼の事が昔から一人の男性として好きで、将来は隣に立って支えるんだ、という気持ちを強く持っていた私はそんな時間さえも嬉しくて幸せだった。
  そして、こんな時間はずっと続くのだと思っていた。

  (なのに、どうしてこんな事になってしまったの?)

  私は自分の掌をじっと見つめる。

「……やっぱり、何も感じない」

  今までの私なら、こうすれば魔力を感じる事が出来たのに。

  (こんなの、王太子妃どころか貴族社会でも生きていけない)


  ────そう思った時だった。

「あら?  ルキア様ではありませんか?」
「っ!」

  (こ、この声は……)

  今、私が最も会いたくないと思っている方……ここで会うなんて!

「ご機嫌よう、ミネルヴァ様」

  私は精一杯の笑顔を作って振り返り彼女に答えた。
  すると、彼女、ミネルヴァ・ティティ男爵令嬢は不思議そうに首を傾げた。

「あれ?  ルキア様、そちらは王太子殿下の執務室ですわよね……?」
「え、ええ」
「まぁ!  婚約者とは言え、お仕事中なのに訪ねるなんて、私には出来ませんわ。本当に二人は仲が宜しいのですね?  羨ましいです」
「……ところで、ミネルヴァ様はどうしてここに?」

  相変わらず彼女の発言は嫌味なのかそうでないのかの判断が難しい。
  純粋そうな顔をしているせいかもしれない。
  とりあえず、話の矛先を変えたかった私は疑問を投げかける事にした。

「あぁ、そうですわ。実は私、もっと魔術の勉強をした方がいいという事で、王宮で勉強させて貰う事になりましたの」
「え?」
「魔力量はルキア様には及びませんが、私も光属性持ちですから。そうそう!  なんとほんの少しだけ癒しの力も発現したんですよ!  あ、これも、勿論ルキア様には全然及ばないんですけど」
「……そ、そう」

  ズキッ
  胸が抉られるように痛む。

  (今、私はちゃんと笑えているかしら──?)

「嬉しくて試しに使って見たんですけど、あれは凄い魔力量が必要なんですね!  すぐに魔力が空っぽになってしまいましたわ。だから、これまでもルキア様しか使えなかったんですね」
「……」

  そうね。私の魔力量はかなりのものから、力を使って疲れる事なんてこれまで無かった。無かったのに───

「私、頑張りますわ!  この力で王太子殿下を支えられるように……!」
「……」

  ミネルヴァ様のその嬉しそうな顔とは対象に私の気持ちはどんどん沈んでいく。




  ────誰よりも魔力を持っているはずの私に異変が起きたのは、今から1週間前の事だった。


『ルキア、今日のお花』
『ありがとうございます、シグルド様』
『今日はシンプルに薔薇を1本。もちろん、私の君への気持ちだよ』

  シグルド様は少し照れた様子で1本の薔薇を私に差し出した。

『ふふ、シグルド様ったら』
『ルキア、君はまた本気にしてないよね?』
『え?  そんな事は無いですよ?  とても嬉しいです』

  その日はシグルド様とのお茶会。
  彼は昔から二人っきりのお茶会が開かれる度に必ず私に1本のお花をくれる。
  シグルド様曰く、
  “デートなのだからルキアに贈り物をしたい!  どうせなら喜ぶ物をあげたい!  だが、毎回何か物を贈るとなるとルキアも負担に思うだろう?  だから花を1本なら負担も少ないと思った!  それなら受け取ってくれる?”
  と、とにかく熱く語られた。

  (……私の性格をよく分かってくれているわ)

  シグルド様のそんな気持ちが嬉しくてお花の贈り物は定番と化した。

 
  そうして、いつもの様に色んな話をしながら二人のお茶会の時間を過ごし、屋敷に帰ってシグルド様から頂いた薔薇の花を飾り、シグルド様を思い出してうっとり眺めていた時……

  クラッ……
  突然、目眩がした。

  (な、何……?  視界が……歪む……グルグル回ってる)

  気持ち悪っ……立っていられない。
  私はガクッと膝をつく。

『誰……か、助け……』

  ガシャーンとせっかく頂いた薔薇の花を挿したばかりの花瓶が割れる音がした。

  (あぁ、シグルド様から……貰った……お花…………なのに)

『ルキアお嬢様ーー!?  大丈夫ですか!?』
  
  花瓶の割れる音を聞き付けてきたと思われるメイドが駆け寄って来た。

『……』
『お嬢様!  お嬢様、しっかりして下さい!!』
『…………ぶ、シ…………さま』

  そう呟いたのを最後に私は意識を失った。


  ───何、かしら?
  身体が熱い、痛い。そして、苦しい。

  朦朧とする意識の中で私はずっとそんな事を感じていた。
  そして───

  (な、何?)

  まるでが吸い取られていくような感覚。
  私は咄嗟に何も無い空間に向かって手を伸ばす。

  ───駄目!  止めて!  “ソレ”を持っていかないで───!!

  ……と叫んだ所でハッと目が覚めた。


『……っ!  こ、ここは?』
『お嬢様!  目が覚めたのですね!?』

  そう言って駆け寄ってくるメイドは意識を失う前に来てくれた私付きのメイド、リュイ。

『……リュイ?  私、は……』
『お嬢様、声が掠れていますね、無理もありません。3日間も高熱に魘されておりましたから』
『!?』

  3日間も高熱に!?

『お医者様と旦那様達を呼んで来ますね!  待ってて下さい』
『あ……』

  そう言って部屋を駆け出して行ったリュイ。
  とりあえず、状況がよく分からない私は大人しく待つ事にした。

  
  (身体が怠いわね……)

  でも、どうして?
  癒しの力を使える私は、無意識に自分にいつも掛けているのか、これまで病気知らずだったのに。

  (何かがおかしい)

  私の身体なのに私の身体では無いような感覚。

  (怠くても“力”は使えるはずよね?  お医者様を待たなくてもそれで治せるのでは?)

  そう思って自分に癒しの力を掛けようとしたその時、リュイがお医者様と家族を連れて戻って来た。

『お嬢様!』
『ルキア!  目が覚めたか!』

  家族の顔を見ていたらかなり心配をかけたのだと分かった。

『ご、ごめんなさい。心配かけて……』
『大丈夫か?  医者も連れて来たから診てもらうといい』
『ありがとうございます、お父様』

  そうして、お医者様の診察を受けた私は───

『ふむ。熱はまだ、少し高めですがだいぶ下がられたようですな。他に悪そうな所もない』

  (良かった……!)

  お医者様のその言葉に私も含めて皆がホッとする。
  
『しかしですな……』

  だけど、その後に続いた言葉は私にとって、最も残酷な言葉だった。

『ルキアお嬢様からは、全く魔力が感じられません』
『……え?』
『“空っぽ”ですな』
『!』

  私は、ガンッと頭を後ろから鈍器で殴られたような衝撃を受けて、再び倒れそうになった。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

異世界転移令嬢、姉の代わりに契約結婚の筈が侯爵様の愛が重すぎて困ってます

琥珀
恋愛
セシリアはある日、義姉の代わりにヴェリエール侯爵家へと嫁ぐ事になる。 侯爵家でも「これは契約結婚だ。数年には離縁してもらう。」と言われ、アーヴィン侯爵に冷たくあしらわれ、メイド達にも嫌われる日々。 そんなある日セシリアが、嫁ぐはずだった姉ではない事に気づいたアーヴィン伯爵はーーーーー。

白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。 お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。 ……少なくとも、リオナはそう信じていた。 ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。 距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。 「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。 “白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。 すれ違い、誤解、嫉妬。 そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。 「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」 そんなはずじゃなかったのに。 曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。 白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。 鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。 「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」 「……はい。私も、カイルと歩きたいです」 二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。 -

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処理中です...