【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
3 / 34

第3話 嫉妬

しおりを挟む


  ───魔力が感じられない?  空っぽ?  まさか、そんなはずは無い!
  だって、私の魔力はいつだってあんなに溢れんばかりで……

『えっと、空っぽ?  先生、何を仰っているのですか?』

  クラクラする頭をどうにか抑えながら私はお医者様に訊ねる。
  お願い!  怒らないから勘違いでした、そう言って!  と願いながら。

  けれど、無情にもお医者様は難しい顔をしたまま静かに首を横に振る。
  
『そのままの意味ですぞ、ルキアお嬢様』
『……』
『今のあなたには魔力が全くありません』
『そ、そんなはず無いわ!』

  そうよ!  それなら、今も感じるこの身体の怠さを癒して見せればー……

  そう思った私は先程中断した癒しの力を自分にかけよう……とした。
  しかし。

  (───え!?  嘘、でしょう?)

『………………っ』

  何故か全く発動しない。

  (何で!?  今まで一度だってこんな事は起こらなかったのに)

  まさかまさかという思いから、今度は自分の魔力を辿ろうとした。
  けれど、何故か自分の魔力を辿る事が出来ない。
  これは力を使い過ぎて一時的に空っぽになったのとは違う。

  ───本当に……無い。魔力が全く無くなってしまった。

『そんな……そんな事って……』

  


  それからの我が家は大騒ぎだった。
  お父様は慌ててお城に向かい、お母様には泣かれ……

  (どうしてこんな事に?)

  私は自分自身の身に起きた事がとにかく信じられず、数日間は動く事も出来ずずっと呆然としていた。



────……

  (1週間経って少しは心の整理もついたつもりでいたけれど、まだまだね)

  ふとした事ですぐ思い出してしまう。

  そのせいで顔が曇ってしまった私をミネルヴァ様は見逃してはくれなかった。

「あら?  ルキア様。顔色が悪いですわよ?  どうかされたのですか?」
「……あ、いいえ、別に何でもないわ」 

  私がそう返すとミネルヴァ様は、うーんと首を傾げる。

「そう、ですかねぇ?  でも、何だか元気が無いように見えますわ?」
「…………それなら、少し疲れてるのかもしれないわね」

  私がそう答えると、ミネルヴァ様はニッコリとした笑顔を浮かべる。

「そうですわ!  ルキア様はいつも皆様の為に頑張って来られた方ですもの。ですわ!」
「……ミネルヴァ様……」
「ご安心ください!  私はまだまだルキア様の足元にも及ばない程の未熟者ですけどはしっかり果たしてみせますわ!」
「……」

  (……ご苦労様。だから貴女は引っ込んでいて?)

「っ!?」

  ───何故かミネルヴァ様の言葉がそう言っているように聞こえてしまったのは私の心が荒んでいるからなのかもしれない。

  (あぁ、なんて醜い嫉妬なの。自分が嫌になる)

「ルキア様?  やっぱり変ですよ??  何かありましたか?」
「……」

  ミネルヴァ様に対してなんて答えたらいいのか分からず、曖昧な微笑みを浮かべる事しか出来ない。

  そんな時だった。

「──ルキア」

  後ろから私の名前を呼ぶ声がした。
  この声はどこからどう聞いてもシグルド様の声に間違いない。
  シグルド様はお忙しそうだったので“見送りはいりません”そう伝えて私達は部屋で別れたはずなのに?
  
  (まさか、わざわざ追いかけて来た?)

「えっと、シグルド様?」
「あぁ、良かった。まだ近くに居てくれた」

  そっと振り返るとシグルド様はホッと安心したような笑顔を浮かべながら私の元へと歩いて来る。

  (いったい何の用──……)

「あ、もしかして、私、何か忘れ物でもしてしまいましたか?」

  シグルド様がわざわざ追いかけて来る理由なんてそれくらいしか思い付かなかった。
  するとシグルド様は頷きながら言った。
  
「あぁ、そうなんだ。私もうっかりしていてね」
「や、やっぱりそうでしたか……それはお手数をお掛けしました」

  いけない、私ったら。
  シグルド様はお忙しいのにお手を煩わせてしまったのだと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。
  しかし、シグルド様はそんな私の様子を気にする素振りも無く言った。

「ルキア、手を出して?」
「手、ですか?」
「そう、両手を出してくれる?」
「両手ですか?  は、はい……」

  よく分からないけれど、言われるがままに手を出した。

「はい、これ」

  そして、その手に乗せられたものを見て私は小さく「あっ!」と声を上げた。

「そう。さっきのお菓子の残りだよ。このお菓子はルキアの為に用意させたものだからね。帰りに残りを全部渡そうと思っていたのにウッカリしていた」
「あ、ありがとうございます……!」

  (その為にわざわざ……?)

  何とも言えないむず痒い気持ちが湧き上がって来る。

「───と、言うのは、実は口実でね?」
「……は、い?」
「もう少しだけ、ルキアの顔が見たかったんだ」
「……なっ!?」

  そんな恥ずかしい事を言われたので、せっかく落ち着いたはずの頬の赤みが一気にぶり返す。
  この王子様はなんて事を言ってくるの! 

「あ!  また、赤くなった」
「い、言わないで下さいませ!!」

  私が赤くなった頬を押えたまま反論するとシグルド様は愉快そうに笑う。

「ははは!  ルキア可愛い」
「で、ですからーー……」
「可愛いものは可愛いよ」
「~~~!」

  ……なんて、いつもの調子で二人の世界を作ってしまっていた私は、この時この場にいたもう一人の存在をすっかり忘れてしまっていた。

「お…………お二人……は、随分と仲が、よ、よろしいようですのね?」

  (───あ!)

  ミネルヴァ様の少々震えたようなその声でハッと我に返った。
  そして、シグルド様もミネルヴァ様の発したその声で初めて彼女が今、ここにいた事を認識したらしい。

「えっと君は……?」
「ティティ男爵家のミネルヴァですわ、王太子殿下」

  ミネルヴァ様は待ってました!  と言わんばかりで弾んだ声を出した。

「……あぁ、ティティ男爵家。確か、先日……」
「そうですわ!  ルキア様と同じ力を持っている事が分かりました、と先日ご挨拶させて頂きましたの!!  覚えていらっしゃるなんて、きゃー嬉しいです!」
「まぁ、珍しい力だからね」

  シグルド様はそう言いながらニコッとした笑顔を見せたけれど、その表情はどこか硬いようにも思えた。

  (……私の気の所為かしらね?)

  私が内心で首を傾げていると、ミネルヴァ様はどこか興奮したまま話を続ける。

「そうですのよ!  私もまさか自分がと驚いておりますの!  ですので王太子殿下、私は必ずこの先、貴方様の役に立ってみせますわ!」
「そうか」
「……ふふ、当然ですわ!  だって私は────ですもの」

  (今?  なんて言った?)

  ミネルヴァ様の言葉は、聞きなれない響きだったせいか、最後だけよく聞こえなくて、それが何だか妙に気になった。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

異世界転移令嬢、姉の代わりに契約結婚の筈が侯爵様の愛が重すぎて困ってます

琥珀
恋愛
セシリアはある日、義姉の代わりにヴェリエール侯爵家へと嫁ぐ事になる。 侯爵家でも「これは契約結婚だ。数年には離縁してもらう。」と言われ、アーヴィン侯爵に冷たくあしらわれ、メイド達にも嫌われる日々。 そんなある日セシリアが、嫁ぐはずだった姉ではない事に気づいたアーヴィン伯爵はーーーーー。

白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。 お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。 ……少なくとも、リオナはそう信じていた。 ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。 距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。 「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。 “白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。 すれ違い、誤解、嫉妬。 そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。 「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」 そんなはずじゃなかったのに。 曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。 白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。 鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。 「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」 「……はい。私も、カイルと歩きたいです」 二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。 -

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処理中です...