4 / 34
第4話 王子様は頑固です
しおりを挟む(ヒロ……なんとかって聞こえた気がしたけれど、なんて言ったのかしら?)
それにこの謎の言葉。
あれだけ妙に自信満々に語る事が出来るのは何か意味があるのかしらね。
よく聞こえなかった部分の発言を疑問に思いながら、ミネルヴァ様の顔を見ると、私と目が合ったミネルヴァ様はニッコリと微笑んだ。
「……」
とても可愛らしく笑っているはずなのに。
何故かは分からない。けれど、私はその笑顔を“怖い”と思ってしまった。
(何でこんな事を思ってしまうの?)
私の失くした力を持っている事による醜い嫉妬のせい? そう思ったけれど、何かが違う。
……自分でもよく分からないけれど、ただただ”彼女の存在”が怖い。
(どうして……)
「ところで、ティティ男爵令嬢。君は王宮で何をしているんだ?」
「もちろん! 貴重な力を持った者として将来の為の勉強ですわ!」
「……将来の為の勉強?」
「そうですわ! だってこれから必要になるかもしれませんし」
ミネルヴァ様は意味深な返事をした。
そんな彼女はシグルド様と話しているはずなのに、何故か視線を私に向けてくる。
(どうして私を見るの?)
「ほら、人生って何が起こるか分かりませんもの。 今、私がこうして貴重な力を発現したように……ふふふ、そう思いますでしょう、ねぇ、ルキア様?」
──ドキッとした。
人生って何が起きるか分からない───その通り過ぎて私の気持ちはとたんに落ち着かなくなる。
───私のこの力で必ず将来はシグルド様のお役に立ってみせるわ!
婚約を結んだあの日から、ずっとずっとそう信じて、未来は絶対だと疑ってもいなかったのに。
待っていたのは、ある日突然、役立たずとなってしまった自分───
────
(私の魔力はもう戻らないのかしら?)
そもそも、生まれながらに持っているはずの力が失くなるなんて、どう考えても不自然すぎる。こんな事例は少なくともこれまで聞いた試しが無い。
(まさか、呪いの類とか? あの謎の高熱が呪いだったなんて事は……ある?)
「ルキア。顔色が悪いよ。それにせっかくの可愛い顔が険しくなっている……」
「え?」
ミネルヴァ様は意味深な言葉と微笑みを残して、
「あぁ、大変! 早く戻らないと教師に怒られてしまうわ」
と言いながら慌てて戻って行った為、この場には私とシグルド様だけが残されていた。
「険しい顔、ですか?」
「うん、眉間に皺が寄っているね。何か考え事?」
シグルド様は優しく私の頭を撫でながら、顔を覗き込んでくる。
その距離の近さにドキドキする。
「シグルド……様、近い、です」
「ルキア。そんなに私は頼りないだろうか?」
シグルド様がそっと私の手を取ると、今度は手の甲にそっとキスを落とす。
(ひえぇ!?)
突然の行動にそんな情けない悲鳴が出そうになった。
「ルキア。誰が何と言おうとも。例え何があっても私の婚約者は……君だよ、ルキア」
シグルド様は顔を上げると真っ直ぐ私を見つめてそう口にした。
本来ならとても嬉しい言葉のはずなのに私はその瞳を真っ直ぐ見る事が出来ず、目線が泳いでしまう。
「で、ですが、シグルド様が良くても周囲の者達が──」
だって魔力の無い王太子妃など許されるはずが無い。
「ルキア」
「お、お願いです。……そ、そんな目で……見ないで下さい……」
「うーん、それは聞けないお願いだなぁ」
「え? ……きゃっ!?」
今度は腕を引っ張られた? と思ったら、 そのまま私はシグルド様の胸の中に飛び込む形になった。
そして、そのままギュッと抱きしめられる。
「シグルド様!?」
「10年間」
「え?」
「10年間、私はずっと隣でルキアを見て来た。君の努力も頑張りも全部知っている」
「……」
魔力量の多さと貴重な属性の力を買われてシグルド様の婚約者にと私は抜擢された。
そんな私への当時のやっかみはかなり酷いものだった。
本来、王太子妃に選ばれるのは、王族に次いで魔力量も多く力も強い高位貴族の令嬢達からが基本。
だから、私は異例中の異例。当然私の存在は歓迎されるどころか……
───たかが伯爵令嬢のくせに図々しい。
───魔力量しか誇れるものが無いくせに!
───なんて不釣り合いなの?
これまで、これらの言葉は何度言われて来ただろう?
その度に“負けるもんか!”って強く思って乗り越えて来た。
どんなに虐められても、嫌がらせを受けても絶対に泣かないと決めていつも前だけを見ていた。
(メソメソしている女はシグルド様には相応しくない!)
シグルド様の隣に立つに相応しい人になりたかった。
でも、私がそれ程までに強くいられたのは、この絶対的な力のおかげだったんだ……と、こんな事になって初めて思わされた。
「私が求めているのは、魔力量でも、属性でも、癒しの力でも無い───ルキア、君なんだ」
「!!」
驚いて目を丸くしている私に向かってシグルド様はにっこりとした笑顔で言う。
「だからね? ここ数日、君が私に言おうとしている“話”は絶対に聞いてあげられない」
「え!」
「本当は大事な大事なルキアの話は何でも聞いてあげたいけれど、ね。それだけは絶対に駄目だ」
「……っ!」
シグルド様は、そう口にしながら今度は私の髪をひと房救い上げるとそこにキスを落とした。
この時の私は知らない。
そんな私達の様子を、部屋に戻ったフリをしていたミネルヴァ様が、こっそり影から見ていた事を……
「何なのあれ? あぁ! やっぱり思った通り目障りな女だわ~。さっさと身を引きなさいよ。“ヒロイン”は私なのだから大人しくしていてくれないと困るのよね」
と、呟き、
「まぁ、どうせもうルキア様は役立たずなのだから、これからは大人しくなるわよね……ふふふ」
と、意味深に笑っていた事を。
60
あなたにおすすめの小説
メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です
有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。
ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。
高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。
モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。
高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。
「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」
「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」
そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。
――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。
この作品は他サイトにも掲載しています。
【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
異世界転移令嬢、姉の代わりに契約結婚の筈が侯爵様の愛が重すぎて困ってます
琥珀
恋愛
セシリアはある日、義姉の代わりにヴェリエール侯爵家へと嫁ぐ事になる。
侯爵家でも「これは契約結婚だ。数年には離縁してもらう。」と言われ、アーヴィン侯爵に冷たくあしらわれ、メイド達にも嫌われる日々。
そんなある日セシリアが、嫁ぐはずだった姉ではない事に気づいたアーヴィン伯爵はーーーーー。
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる