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第8話 王宮の書庫にて
しおりを挟む「広い! そして……コホッ……埃っぽいです、ね」
「そりゃ、人があまり立ち入らないからこうなる」
「ですよね……」
色々思う事はあったものの、やっぱり調べるなら早い方がいい。
という事で、お言葉に甘えて早速、シグルド様と一緒に王宮の書庫にやって来た。
「ここでなら、何か分かるかしら」
「……」
私のその言葉に何故か黙り込むシグルド様。
「シグルド様?」
「……あ、いや、うん……何か見つかるといいなと思ってね、もう………………だったし」
「?」
「何でもない、まずは何から調べる?」
最後の方が何と言ったのか分からなくて聞き返したけれど、シグルド様は苦笑いしただけで教えてくれなかった。
「……やっぱり、最初は魔術関連でしょうか」
(呪いの類も気になるけれど)
「それならこっちだよ」
シグルド様はそう言ってサッと私の手を取るとそのまま歩き出した。
(…………ん?)
「! あ、あの、シグルド様?」
「どうかした?」
「この手、手は……何故……?」
「手?」
あまりにもここまでの動作が自然だったのでうっかり流しそうになったけれど、どうして手を繋ぐのかと恥ずかしくなった。
「書庫は広いからね。初めて入ったルキアが迷子になったら大変だろう?」
「迷子……」
シグルド様はにっこり笑顔でそう言ったけれど、子供扱いされたようで私としてはちょっとムッとした気持ちになる。
「いいえ! いくら広くても迷子だなんて。私はそこまで子供ではありませんから大丈夫で──……」
「───と言うのを口実にして、ルキアの手に触れたかっただけだよ」
ギュッ!
握られていた手の力が強まった。
(今、口実と言った?)
私は顔を上げる。
シグルド様は不思議そうに首を傾げている。
「……はい?」
「うん、だから可愛いルキアと手を繋ぎたかった。それだけなんだけど何かおかしかった?」
「な、な、な……」
私の頬に熱がどんどん集まってくる。
だから、何故この方はそういう事をあっさり言うの……!
本当に私はいつも翻弄されてばかり。
(でも、嫌じゃないから困るの……)
「……ルキア。私達以外の他に誰もいない二人っきりのこんな所でそんな可愛い顔を私に見せるなんて危ないよ?」
「危ない、ですか?」
よく意味が分からず聞き返したら、シグルド様は苦笑いを浮かべた。
「いいかい? ルキア。私の理性はねルキアに関する事だけはペラッペラなんだ」
「理性が、ペラッペラ?」
何やらおかしな事を言い出した!
「不思議だよね。他の事ならいくらでも自制出来るのに。ルキアを前にしたら常に可愛いと口にせずにはいられないし、隙あらばどんどん触れたいよ。だってルキアはどこもかしこも柔らかくて触れ心地が最高だからね! それから、抱きしめてキスをしたら真っ赤になる所も可愛いくて可愛くてもう私はルキアを──……」
「!?」
そしてシグルド様の中の何かに火がついてしまったのか、今度は早口で語り出した!
「シグルド様!? あの、お、落ち着いて下さい……!」
「え? 嫌だな。全然落ち着いているよ。それより、ルキアの可愛いさを語り足りない」
「!?」
大真面目な顔で更におかしな事を言っている!
これで、落ち着いているですって!? これは新しい冗談か何かなの?
「え、えっと! そ、それを私に語る必要は……無いのではありませんか!?」
「何で? この愛しい気持ちとルキアの可愛さを本人に伝えないで誰に伝えるのさ?」
「え?」
「え?」
互いに顔を見合わせる。
すると、シグルド様は興奮した様子で口を開く。
「私とルキアの仲睦まじい様子を周囲に伝えるのは全然構わない! むしろ、推奨する!」
「は、はぁ……」
(推奨……)
「だが、“ルキアの可愛い所”をたくさん広める事によってルキアに邪な気持ちを抱く男共がわんさか現れたらどうするんだ!」
「わ、わんさか? ……それより私に邪な気持ちなんて抱きますかね?」
一応、私はまだ王太子殿下の婚約者。
そんな相手に手を出そうなんて考える強者いるのかしら。
「抱く! 常に私がそうだからな!」
「え!」
堂々と言うものだから困惑しかない。
(シグルド様って頭はいいはずなのに……何で私の前でだけこうなるの?)
「ルキア、それはね? 私が君の事を好きだからだ」
「!」
シグルド様は驚いている私に顔を近付けて来たと思ったらそっと耳元で囁く。
(ち、近い!)
「大好きだ、私のルキア」
「~~~!!」
書物を探しに来たはずだったのに、何故か全力で口説かれて私の腰は砕けた。
────
「自分で歩けますから……」
「いや、無理だろう」
私の訴えをシグルド様は、あっさりと否定する。
彼は腰砕けになった私を見るなり、素早い動作で私を抱き抱えた。
当然、降ろしてと言って聞いてくれるシグルド様では無い。
(どうしてこうなった……)
手を繋がれた事が恥ずかしかっただけなのに、最終的には手を繋ぐどころか抱き抱えられて運ばれるという更なる密着状態に!
(おかしい。シグルド様の手のひらの上でコロコロと転がされているようにしか思えない……)
でも、それが嫌……では無いから困るの。
──シグルド様の事は諦めないといけないのに。
胸がチクチク痛んだ。
「この辺りが魔術関連の書物が集まっている場所だ」
そう言ったシグルド様は魔術関連の区画の所でそっと私を降ろした。
しかし、さすが王宮の書庫。本の数が凄い!
ズラリと並んだ本、本、本!
その様子はまさに圧巻! の一言に尽きる。
私は「ふわぁ……」と変な声を出しながら上を見上げたり、キョロキョロと書庫内を見渡した。
「ここまでだとお目当ての本を探すのも一苦労、ですね」
「……そうなんだよ」
「うーん、どこから手を付ければ…………あら?」
「どうした?」
私が並んでいる本達を眺めているとふと、違和感を覚えた。
「シグルド様。この辺りにある本って、全然埃が被っていないのですね?」
「え?」
「先程、居た所にあった本やここに来るまでの本は結構、埃を被っていたのですけど」
「……」
そう口にしながら私は並んでいる本の背表紙に触れていく。
長い間、放置されていたようにはとても見えない。
(そう。言うならば、まるで最近誰かに読まれたかのような───……)
「あら? シグルド様。何故、黙り込むのです?」
「……」
「シグルド様?」
もう一度名前を呼ぶとシグルド様は少し焦った様子の声を出しながら、慌てて奥の書架の方向を指さした。
「ルキア! し、調べるならあっちの辺りからが良いんじゃないかな?」
「…………何故ですか?」
「な、何となく…………」
「……何となく、ですか」
シグルド様の目が完全に泳いでいたように見えたけれど、とりあえず、言われた通りに奥へと足を進めるとそちらの本達は、他の場所で見た本と変わらず埃を被っていた。
(え? これって、まさか……)
私はチラッとシグルド様の顔を見る。
「……」
ふいっと目を逸らされた。
これは! と思う。
「シグルド様」
「あ、ルキア! ほらほら時間が無くなってしまうよ、早く──」
「シグルド様!」
「……」
私の呼び掛けにシグルド様はビクッと肩を跳ね上がらせた。
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