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第22話 脱走
しおりを挟むミネルヴァ様が逃げた?
でも、どうやって?
ミネルヴァ様が看守二人を倒して逃走? そんな事出来るの?
「シグルド様……」
「うん……」
シグルド様が難しい顔をしている。
「ルキア。これは」
シグルド様がそう言いかけた時だった。
「うっわ、何これ? どういう状態? 外にも人が寝てるけど?」
と、驚きの声をあげながらやって来たのは、
「ブラッド」
「ブラッド様……」
先程、執務室を訪ねた時に会えなかったブラッド様だった。
「何故ここに?」
「酷いなぁ、執務室に戻ったらシグルドが訪ねて来たと聞いたから追いかけて来たんだけど?」
「……」
「そうしたら、へー、これはこれは……」
そう言いながらブラッド様は牢屋の中を見渡す。
「確か、そこにミネルヴァ嬢がいたと聞いているけど?」
「……」
「へー……逃げられたんだ? シグルドにしては珍しい失態だね」
そう言ってブラッド様はシグルド様の肩に手を置こうとしたけれど、シグルド様の顔を見てやれやれと言った顔で手を引っ込めた。
「で? どうするんだい? これから」
「どうするも何も見つけ出してもう一度捕まえるだけだ」
「ふーん……最近のシグルドの周囲は騒がしい事ばかりだ」
そう言ってチラッとブラッド様は私の方を見る。
それは何とも意味深な目線のように感じた。
「まぁ、もともとミネルヴァ嬢は大した罪では無かったんだろう? 遅かれ早かれ釈放になっていたんじゃないの?」
ブラッド様は大した事の無いように言った。
その様子を見たシグルド様がはぁ、とため息を吐く。
「……ブラッド。ちょうど良かった。聞きたい事がある」
「何だい?」
「先程、騎士団長が私とルキアの元に直談判にやって来た」
「直談判?」
ブラッド様は不思議そうな声を上げた。
「……ブラッドは今日、騎士団の視察に行ったんだろう? 何か異変は感じなかったのか?」
「異変? 別に特にいつもと変わった様子は無かったけど?」
「本当か?」
うーん、と考え込むブラッド様。
まさか、異様さを感じなかったと言うの!?
「強いて言えば、怪我をしている団員が多かったかな? やっぱりミネルヴァ嬢が訪問出来ないのが影響してるのだろうな、と思ったくらいかな」
「……」
(ブラッド様はやっぱり全然分かっていないんだわ!)
「騎士団長によると、ミネルヴァ嬢はほぼ毎日騎士団を訪ねていたようだが?」
「そうなんだ? 確かに頻繁に行きたがっていたから僕が同行出来なくても訪ねられるようにはしたけど、まさか毎日! へぇー……」
「お前……それが何を引き起こしたか分かるか?」
さぁ? とブラッド様は首を傾げた。
シグルド様も呆れてますます大きなため息を吐いた。
「ブラッド。お前からは騎士団の責任者の任を解く事になる」
「え? 何で? せっかく父上から引き継いだのに」
「話にならないな。そう言うなら、もっと勉強してくれ」
ブラッド様はそれでも不思議そうな顔をしていた。
「もういい。今は話しても無駄な様だ。その話はまた後でする。とりあえず今は……」
ミネルヴァ様がどうやってここから逃げ出したか、だわ。
そう思った私はキョロキョロと牢屋の中を見回す。
(確か、牢屋の中では魔力は使えないと言っていた)
それなのに抜け出すなんて。
「シグルド様、これは」
「あぁ、そうだな」
私達は互いに顔を見合わせて頷き合った。
「なぁ、ルキア。これも計算のうちなのだろうか?」
「え?」
「今、捜索の手をのばしたくても、圧倒的に人が足りない」
「!」
その言葉で気付く。
(今、騎士団の多くの人達はまともに動けない!)
もしも、そうなることを分かっていて逃げたのだとしたら……?
ブルっと身体が震えた。
そんな私をシグルド様は優しく包み込む。
「ルキア、すまない。怯えさせた」
「シグルド様……」
「とりあえず、人を呼んで、まずは倒れている二人を医者に見せよう。目が覚めたら何か語るかもしれない」
「……そうですね」
牢屋には別の見張りの人物を置いて私達は牢屋を後にした。
****
「……シグルド様が全力で過保護だわ」
何を考え、そして何を狙ってるのかが不気味で分からないままのミネルヴァ様が脱走した事でシグルド様は警戒心を強めた。
「まさか、王宮に留まる事になろうとは」
はっきりとは分からないけれど、呪いや黒魔術を使っているかもしれないミネルヴァ様を警戒してシグルド様は私に暫く王宮に留まるように言った。
───私の防御の魔法があるといっても心配なんだ。
シグルド様はそう言った。
(確かに力の無い我が伯爵家の警備体制は緩いもの)
あの後、王宮内を捜索したもののミネルヴァ様は見つからなかった。
そもそも、何時から脱走したのかも不明。
その謎を解く鍵となる倒れていた看守二人も命に別状は無いと言うけれど目を覚まさないまま。
ミネルヴァ様はどこへ消えてしまったのか。
「ますます不気味……」
ただ、一つ。
シグルド様も思っている事だけど、ミネルヴァ様には確実に協力者がいる。
それだけは間違いない。
(……看守を眠らせたのはミネルヴァ様では無いわ。おそらく協力者)
牢屋の外からなら魔術を使えるから眠らせる事だって出来るわ。
ちょうどそこまで、考えた時だった。
──コンコン
扉がノックされた。
部屋の隅に控えていた侍女が応対する。すると、こちらに振り返り言った。
「ルキア様、シグルド殿下がいらっしゃいました!」
「え!」
私は慌てて時計を見る。
こんな時間に!? 就寝前よ……?
「も、もう夜遅い、わよ?」
「少しだけ話がしたい、と。誓って変な事はしないと言ってますよ?」
侍女が苦笑しながらそう伝えて来る。
「へ、変な事って!!」
侯爵が約束通り婚約の申し込みを取り下げてくれたので、婚約解消の話は一旦保留になったけれど、私達はまだ、陛下に反対されている関係なのは変わらない。
なので、まだそういう関係になるわけには──……
「……って、そういう事じゃなくて! ……い、入れて頂戴」
「承知しました」
そしてそう答えたすぐ後にシグルド様が部屋に入って来る。
「ルキア!」
「ひゃっ!?」
入って来るなり抱きしめられた。
「シグルド様!」
「ははは、すまない。ルキアがいると思ったらつい……ね」
「つい、じゃないですよ」
(口ではそう言いながら私も嬉しいなんて思ってしまっているのだから説得力が無いわよね……)
「ルキア、気を付けてくれ」
「分かっていますよ」
私は微笑み返したけれど、シグルド様はあまり納得がいっていない様子。
「……ルキアが、悪夢を見ないように……」
そう言ってシグルド様の顔が近付いてくる。
(そうね、悪夢を見るのはもうごめ───……ん?)
「シグルド様!」
「!?」
唇が触れる直前で私がパッと顔あげる。
キスをし損ねたシグルド様はとても、渋い顔をしていた。
それより今は気になっている事がある!
「夢です!」
「夢?」
シグルド様は不思議そうな顔をして聞き返す。
「夢を……夢を操る力を持った人、誰かいませんか?」
「え?」
「その人が、ミネルヴァ様の協力者かもしれません」
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