【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
24 / 34

第24話 黒魔術

しおりを挟む


  ミネルヴァ様が何処に逃げたのか、なんの手がかりも掴めないまま日にちだけが過ぎていった。
  捜索をしようにも圧倒的に人は足りないし、ブラッド様も言っていたように、そもそも何故捕まったのかよく分かっていない人が多い。
  本当にミネルヴァ様が“危険人物”だと分かっている人は殆どいないので周囲から“釈放”の声が出ていたのも事実だった。

  (取り調べでも思っていた以上に頑固で自白する事もなかったらしいし)

  普通なら捕まって事情聴取を受けて収容されて……なんて事になったのならもっと取り乱してもおかしくないのに。
  ミネルヴァ様がずっと牢屋の中でも余裕綽々でいられたのは、協力者の手によって外に出られる事が分かっていたからなのかもしれない。

   

「……」
「ルキア様?  顔色が優れませんね?」
「え?」

   侍女の言葉に私は飲んでいたお茶のカップをソーサーに戻して顔を上げる。

「そのような顔をされていては、心配した殿下が飛んで来てしまいそうです」
「お、大袈裟よ……!」

  私は少し照れながらそう答えた。
  そう言いつつも、シグルド様ならやりかねない……と、私も思っている。

「ルキア様、愛されてますね」
「……!」
「長年、お二人を見て来た身としては」
「は、恥ずかしいから!!  もうやめてーー」

  恥ずかしいので私は必死に止める。

「ふふ、すみません。幼かったお二人が仲良く遊んでいた姿を思い出すとつい懐かしくなってしまいまして。特に殿下はルキア様に振り回されてばかりで可愛かったです」
「……」

  王宮の古参の侍女やメイドは皆そう言うので、かなり恥ずかしい。
  振り回していたつもりはないのに!

「シグルド様の隣に立つのに相応しい人になりたくて勉強も魔術もたくさん勉強して来たつもりだけど大変だったわ」

  私は過ぎ去った日々を懐かしく思いながらそう口にする。
 
「特に魔術。癒しの力も上手く使えなくて全然、効かなかったり、思っていたのと違う作用になってしまったりとコントロールが大変だったわ」
「あぁ、魔術は力が足りなかったり、術に見合った能力が無く中途半端に使おうとすると本来とは違う効果が出たりしますからね」

  (────ん?)

  侍女の言ったそのさり気ない言葉が妙に胸に引っかかった。

「力が足りない?  術に見合っていない……本来とは違う効果……」
「ルキア様?」

  怪訝そうな様子の侍女に答えず私は独り呟く。

「黒魔術……黒魔術の死の呪いを受けた者は、まず魔力を奪われ、1週間以内に身体の自由や思考力も奪われ最後は死に至る……」
「黒魔術?  ルキア様、どうかされましたか?」
「な、何でもないわ!  気にしないで頂戴?」

  侍女が更に怪訝そうな顔を見せたので、慌てた私はそう答えてお茶を飲みながら誤魔化した。
  事情を知らない侍女からすれば黒魔術なんて言葉が飛び出したものだから物騒でしかない。仕方がないので声に出さずに頭の中だけで考える。
   
  (まさか……いえ、でもそれなら私が死ななかった事にも納得がいく……)

  だって黒魔術だ。
  普通の魔術とは違う。それなら魔力量だって相当必要なのかもしれない。
  つまり、黒魔術を使ったミネルヴァ様がそれに見合っていなかった場合は──……

   

***



「ティティ男爵令嬢は、ルキアに黒魔術をかけようとして失敗した?」
「そうです」

  その日の夜、もはや毎日の日課となっている就寝前に私の元を訪ねて来たシグルド様に昼間に思いついた話をする。

「黒魔術と言うからには多くの魔力や優れた魔法技術が必要なのではないかしらって思ったの」
「多くの魔力、技術……」
「でも、ミネルヴァ様にきっとそこまでの力は無いわ」

  その言葉でシグルド様もハッとした顔を私に向ける。

「つまり、かけた黒魔術が中途半端だった事により、ルキアは魔力を奪われるだけで済んで命までは取られなかった?」
「かなって」
「……」
「……」

  黙り込んだシグルド様がギュッと私を抱きしめる。  

「シグルド様?」
「もし、そうならあの女がポンコツで良かった……」
「ポンコツって」 

  その言い方が可笑しい。
  でも、本当にその通りだ。ミネルヴァ様がポンコツでなかったら今頃私は生きていなかったかもしれない。

「……ルキア」
「はい……って、え?」

  チュッ……

  私が顔を上げるとシグルド様の顔が近付いてきてキス攻撃が開始する。
  それも、何だかいつもより激しい。

「今はルキアをたくさん、感じたい」
「え、シグルド様!?  何を急にそんな際どい事を言ってい……!?」

  やんわり静止するも、この甘々モードになったシグルド様に静止そんなものは通用しない事はもう分かっている。

「はは、ルキアはどこもかしこも甘いね?」
「ひゃっ!?  どこ触って……!?」

  何だかシグルド様の手付きまでもがいつもと違う。

「ルキア……」
「きゃっ!」

  (後はどうやってミネルヴァ様が黒魔術の方法を知ったのかを一緒に考えたかったのにーーー!)

  その日は、いつも以上にたくさん愛された。




✣✣✣✣✣✣



「ルキア……」

  スースーと可愛い寝息を立てて眠るルキアの頬をそっと撫でる。   
  可愛いルキアに毎晩触れていると、歯止めが効かなくなって来てしまって最近は悶々とした日々だ。
  さっきも色々止められず、ルキアは疲れ果てて眠ってしまった。

「さっさと結婚してしまいたいのに……父上め……!」

  侯爵へ嫁がせる事が失敗に終わった父上は、次の候補者をせっせと選定している頃だろう。

  (誰がルキアを他の男になんてやるものか!)

  そうなる前に全て解決しなくては、と思う。

「しかし、黒魔術と似て非なるもの……ではなく、本当に黒魔術で失敗していた可能性か」

  言われてみれば、黒魔術が並の魔力で事足りるはずが無い。

「あの女が使ったのが本当に黒魔術そのものなら、その方法を知る事が出来たのはやはり……そういう事なんだろうな」

   (そして、ルキアの言う黒魔術の話で、もう一つ思い当たる事が……)

「この疑惑を確実とするのに本当は話を聞きに行きたいが、今、ルキアを一人にするわけにはいかないからな」
  
  だが、自分が思った通りなら───全ての黒幕は……

  (それなら繋がる。本当の目的も……)

「ルキア……巻き込んですまない。だが、ルキアだけは守らないと……」

  きっと、ルキアは巻き込まれたに過ぎない。
  可愛い可愛いルキアの寝顔を見る。

「ルキア……」

  ルキアはあれ以来、悪夢に魘されている様子は無い。
  その事に安堵しながらも、早く解決してゴミ処理を終えてルキアと一緒になりたい。


  可愛い可愛いルキアの寝顔をうっとり眺めながらそんな事を思っていた。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

異世界転移令嬢、姉の代わりに契約結婚の筈が侯爵様の愛が重すぎて困ってます

琥珀
恋愛
セシリアはある日、義姉の代わりにヴェリエール侯爵家へと嫁ぐ事になる。 侯爵家でも「これは契約結婚だ。数年には離縁してもらう。」と言われ、アーヴィン侯爵に冷たくあしらわれ、メイド達にも嫌われる日々。 そんなある日セシリアが、嫁ぐはずだった姉ではない事に気づいたアーヴィン伯爵はーーーーー。

白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。 お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。 ……少なくとも、リオナはそう信じていた。 ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。 距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。 「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。 “白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。 すれ違い、誤解、嫉妬。 そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。 「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」 そんなはずじゃなかったのに。 曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。 白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。 鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。 「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」 「……はい。私も、カイルと歩きたいです」 二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。 -

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処理中です...