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第25.5話 ー黒幕との対峙ー
しおりを挟む───……
「殿下、大変です! ティティ男爵令嬢が現れました!」
「!」
自分の執務室に駆け込んで来た従者のその一報に、やはり逃げ出したままでは終わらない女なのだな、と思った。
「どこに現れた?」
「王宮内にボロボロの姿で現れたそうです!」
「ボロボロ?」
その様子を聞いて王宮内にいたのか、と思った。
おそらくその姿で現れたのはわざとだろう。
(やっぱり協力者は──)
「今は、どこで何をしているんだ?」
私のその言葉に従者は少し躊躇う様子で答えた。
「そ、それがルキア様に絡んでいます!」
「は!? それを早く言え!!」
私は椅子からガタンッと大きく音を立てて立ち上がった。
最悪だ。
ルキアには護衛もついているし、防御魔法も念入りにかけている。
だが、あの女の事だ。本当に油断ならない。
私には全く効かなかったが、あの女は人の心に取り入る術でも使っているのか、不思議と周囲を味方に付けやすい傾向がある。
魅了とは違う力のようにも思え、取調べの際に一緒に調べてみたが「人の心に取り入る術と言うよりも持って生まれた体質かもしれません」と言われてしまい分からないままだった。
「ルキアの元に行く! 案内しろ!」
「はっ!」
その時だった。
「───駄目だよ、行かせない」
「!」
部屋の扉の入り口からそんな声が聞こえて来た。
「ブラッド!」
「やぁ、シグルド。こんにちは。お邪魔するよ」
ブラッドは不気味な微笑みを浮かべながら部屋に入って来る。
「……行かせないとはどういうつもりだ?」
「どうってそのままの意味だよ?」
そう言って今度はにっこり笑うブラッド。
こいつは遂に本性を表したらしい。
───ルキアの力の消失から始まったこの一連のゴタゴタ。
全ての黒幕はブラッドだと私は思っている。
残念ながら証拠が無いため、まだどうにも出来ずにいたが、ティティ男爵令嬢を匿っていたのもこいつだと私は睨んでいる。
「今はお前の言う事など聞いていられない」
今はルキアの元に駆け付ける事以外に大事な事など無い。
「ふーん、シグルドは本当にあのお姫様が大好きなんだね」
「……」
「まぁ、それなりに顔も可愛いし、性格もあの妄想女……ミネルヴァ嬢よりは素直そうだしね」
その言葉にイラッとする。
男爵令嬢の事はどうでもいいが、ルキアの名が出ては黙っていられない。
「お前がルキアを語るな!」
何も知らないブラッドに私の大事なルキアを語られるほど腹の立つことは無い。
「ははは、怖いな~。すごい独占欲だね。そんな様子じゃ逃げられても知らないよ?」
「……」
これ以上、ブラッドとどうでもいい押し問答している時間は無い。
それにこうしている間にもルキアが……!
「ブラッドを足止めしておいてくれ。私はルキアの元に向かう」
「はっ!」
私は従者や護衛にそう頼んでルキアの元へと向かおうとしたが、
「だから駄目だよ。させないよ?」
そう言ったブラッドが目の前に手をかざして、何かの呪文を唱えると部屋の中にいた私の護衛達と従者がその場にバタバタと倒れた。
「ブラッド!」
「へぇ、さすがだね。やっぱりシグルドには効かないのか、残念」
「……お前、何をした!?」
「何って眠ってもらっただけだよ?」
ブラッドはまたしてもにっこり笑う。
(……こいつ、やっぱり!)
私の知っている限りだが、ブラッドは特殊な力は持っていなかったはずだ。
そして、こんな簡単に護衛達を眠らせられるという事は今、ブラッドの魔力は……
「……叔父上の力を奪ったのはやっぱりお前なのか?」
「あれ? ははは! 気付いてたの? 意外だな。呑気な王太子殿下様は気付いてないと思っていたのになー」
「……」
ブラッドは小馬鹿にしたように笑う。
正直、気付いていなかった。
叔父上がブラッドに爵位以外の全権を譲って領地に戻ると言い出した時も、特に何も思わなかったが、ルキアから黒魔術の話を聞いた時に初めてまさか、と思った。
(そこで、ようやくブラッドが全て裏で手を引いていたと気付いた)
「王族の一員でもあるお前は、書庫に入る資格がある」
「そうそう。だから、すぐ気付くと思ったのに間抜けだなと思ってたよ」
「お前はそこで調べた“黒魔術”を叔父上に使ったな?」
その言葉にブラッドは「ははは!」と笑いだした。
「その通りさ! 昔と違って腑抜けになった父上に幻滅したんだ。今の父上は昔と違って王位を奪おうという気力が全く無くなっていてね。そんな父親はもう要らなくて邪魔なだけだから退場願おうと思ったんだよ」
「……ブラッド……お前」
そんな理由で父親に黒魔術をかけたのか?
そう怒鳴りたくなる。
「でも、残念。僕の魔力ではどうも力が足りなかったみたいでね? 術は中途半端にしかかからなかったんだ」
「……」
「結果、僕は父上の持っていた“夢を操る”力と膨大な魔力だけ貰ったというわけさ」
「奪った……の間違いだろう!」
ブラッドはそうして父親を引退に追い込んだ、というのが真相だったのか。
それなりにプライドと高い叔父上は自分が魔力を失くしたなどと口にも出したくなかっただろう。
「王位は魔力の強いハーワード公爵家のものになるべきなんだ! それを父上がやらないなら僕が代わりにやる。国王陛下の魔力は大した事が無いから引きずり下ろすのはそう難しくはない。だが、シグルド。君は邪魔だった!」
ブラッドがこんな事をした理由は王位が欲しかったからなのか。
そして、こいつも魔力、魔力、魔力……
「シグルド。君を引きずり下ろす方法は色々考えたよ。そして思いついたのが、君の最愛のお姫様……ルキア様と君を引き離す事だった」
「!」
「シグルドの原動力は彼女だからね。そんな大事な彼女と引き離された君は確実に腑抜けになるだろうと睨んだわけだ」
「……」
「そして、その最適な方法を考えている時、妄想女……ミネルヴァ嬢に会ったんだ」
「……」
ブラッドが言うには、出会った時のティティ男爵令嬢は自分こそが王妃になるのに相応しい人間なの、と吹いて回っていたらしい。
男爵令嬢はそうなる理由やらそれまでにすべき事などを何やら具体的な話としてペラペラ語っていたらしいが、ブラッドはそんなまるで空想のような妄想話より、自分の作戦にこの女は使えると睨み駒として使う事を決めた……
「当然だけどミネルヴァ嬢も力が足りないからね。でも、中途半端な黒魔術のおかげで僕の目論見通りにルキア様の“癒しの力”と、魔力を奪う事には成功してくれたよ」
ブラッドが得意そうにそう話す。
こっちは先程から怒りがおさまらない。
「陛下のあの性格だ。あの膨大な魔力と癒しの力を失い役立たずとなったルキア様と、シグルドの婚約は直ぐに無くなると思ったんだけどなー、何でまだ続いてるのかな? これは誤算だったよ」
ブラッドは私がルキアを何より大切に想っている事は頭で理解していただけなんだろう。私はそう思った。
(きっと、こいつは愛する人がいない……だから、簡単に諦める事なんて出来ない……その気持ちが分からないんだ)
「ブラッド! お前の思い通りにはさせない!」
「ははは! 無理だよシグルド。僕は父上の魔力も手にしているんだよ? だから、今の僕は君より力は強いんだ!!」
「っ!」
────そう言ったブラッドは私に向けて攻撃魔法を放った。
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