【完結】私の初めての恋人は、とても最低な人でした。

Rohdea

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第6話

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「先生は嘘が下手ですね」
「は?  何でだよ」
「あんなの、誰が聞いても嘘だって丸わかりですよ」
「え、そんな事ないだろ……?」

  廊下に出てから人がいないのを確認してから、先生にそう言ってみた。
  ちょっと待って?  何でそんな反応になるのかしら。
  まさか、先生……本気で周りに嘘だとバレてないと思っていたの?

「多分、皆にバレバレです」
「げー……なら、余計な事しちまったか?」

  先生は頭を抱えたけど、私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

  偶然たまたまかもしれないけど、あのタイミングで助けてくれた事。
  バレバレの嘘をついてでも教室から連れ出してくれた事。

  そんな先生の不器用な優しさがとっても嬉しかった。

「いいえ、ありがとうございます。先生!」
「……」

  私が首を横に振りながら笑顔でそう言うと、先生はちょっと照れたように口を開く。

「だけど大丈夫……か?  色々と……しかも、あんな風に一方的に疑われて」
「それ、は」
「唇が……」
「え?」
「噛んだのか?  唇。ちょっと血が出てる」

  先生がそう言って私の唇にそっと指で触れる。
  その瞬間、ドキンッと心臓が跳ねた。

  (や、やだ……何かドキドキする!)

「あ、余りにも悔しくて……つい……」
「……そうか。でも自分を傷つけるのはダメだぞ?  本当に大丈夫か?」

  先生は本当に心配そうな目で私の事を見る。

  正直、責められてる時は辛かったし、大丈夫です!  とは言い難い思いはしたわ。
  けれど、今、こうして落ち着いていられるのは先生のおかげだと思うの。


  だから決めたわ。


「先生、私、もう復讐なんて考えるのはやめてウォレスと話をします」
「え?」
「それできちんとお別れします」

  先生はとてもビックリした顔をしていた。

「いいのか?」
「はい。さっきの騒動でようやく気付きました。これ以上あんな最低な人の為に時間を使っても無駄です。何にもなりません。それに……」

  それに、実を言うとさっきの皆の前で先生にやられっぱなしのウォレスの顔を見てたら、妙にスッキリしてしまったのもあるのよね。
  心の底から、ざまぁみろって思ってしまったわ。
  私、ウォレスのあんな顔が見たかったの。

  ……なーんて、こんな事を思うなんて私も性格悪いのかしらね。

「いつ言うつもりなんだ?」
「少しでも早い方がいいので……今日の放課後ですかね?」
「そうか……」

  先生はどこか不安気な様子で私を見ていた。









「こんな所に呼び出して何のつもりだ、エマーソン。もう一度朝の事を詫びれとでも言う気か?  謝っただろ?」

  放課後、私はあのウォレスとレーナさんが密会していた中庭にウォレスを呼び出した。

「今更、何度謝られてもあなたに犯人扱いされた事は消えないわ」
「なら、なんなんだよ?」
「……」

  ウォレスは相当虫の居所が悪いようでカリカリしている。

  (あれだけ、皆の前で恥をかかされたのだから、こうなるわよね)

  それに、おそらく私が教室を出た後の彼に対する視線はかなり冷ややかだったに違いないもの。
  無実の私を犯人扱いし、“平民”をバカにするような発言をしたのだから。
  まぁ、私が教室に戻った時は、空気も元に戻っていたけどね。

「あなたとの、交際を終わりにしたいの」
「……は?」
「もうこれ以上は無理なの。あなたとはもうやっていけない。だから私と別れてください」

  私はそう言って頭を下げる。
  本音を言えば頭なんて下げたくないけれど、別れを告げるのは私の方からなので礼儀だけはしっかりしないと。

「何を言ってんだよ!  チッ!  あー、あれかエマーソンを犯人扱いしたからか!?    仕方ねぇだろ?  あれはレーナが怪しいって言うからさ……つい、な」

  つい、で仮にも恋人を責めるの?  あなたは。

「違うわ。それもきっかけの一つではあるけれど、別れる事はもっと前から考えていた事よ」
「あ?  もっと前から……?」

  ウォレスの目付きが変わった。

「くそっ……だから、最近付き合いが悪かったのかよ!」
「……」
「ふざけんなよっ!  俺は別れねぇ!!」
「もう無理よ。私はあなたの事なんてもう好きではないもの」
「ふざけんな!  俺は認めない!」

  ウォレスは、頑なに受け入れようとしてくれない。
  私の事が好きなわけでもないくせに。
  ただ、爵位目当てなだけなくせに。

「それに、ウォレスにはレーナさんがいるでしょう?」
「何だと?」
「私、ここで見たのよ。ウォレスとレーナさんがキスしている所」
「なっ!」
「この場で本当に愛してるのはレーナさんだって言ってたじゃないの!」
「それ、は……」

  ウォレスが少したじろいだ。

「私をお飾りの妻にしたいのでしょう?」
「そこまで聞いて……」
「全部、聞かせてもらったわ。おあいにくさま。私は私の意志で伯爵家を継ぐ事を決めたの。むしろ、お兄様の決断に喜んだのは私の方よ!  お兄様に押し付けられたわけでは無いのよ」
「何だと?」
「もちろん、私は未熟だから夫に頼る事もあると思うわ。でもね?  だからと言って私は夫となる人に全てを頼ろうなんて全く思っていないのよ。そして、その相手はあなたじゃない事だけは確実」
「……!」
「だから、あなたみたいな最低な人なんていらない!」

  私のその言葉にウォレスは怒りが最高潮に達したのか、「ふざけるな!」と言って勢いよく手を振り上げた。

「……っ!」

   殴られる───

  そう覚悟して目を瞑って起きるであろう衝撃に耐えようとしたのだけど、一向にその衝撃はやって来なかった。



「さすがに、女性に手をあげようとするのを黙って見ていられませんね」
「くそっ!  離せよ!  またお前かよ、平民教師!!」

  ラリー先生がウォレスの腕を掴んでひねり揚げていた。
  ウォレスは離せと暴れているけれど先生は一向に力を緩める気配がない。

「先生……」
「トランドさん。だから言ったでしょう?  危ないですよって」

  ラリー先生は私と目が合うとそう微笑んで言った。

「……ですが、先生は決して口も手も出さないで状態でそっと見守るだけだ、と」
「何をバカな事を言っているんですか!?  あなたがこんな危険な状態に陥ってるのに、黙って見ていられるわけないでしょう!」

  先生が真剣な顔をしてそんな事を言うものだから、私の胸がキュンとした。

  (え!?  な、何でキュンとしてるの、私!!)

  その事に焦りを覚える。そんなんじゃないのに。
  ただ、先生は私を心配しただけで───…… 


  そう。


  私がウォレスに別れ話をすると切り出した時、先生は私に言った。

  ──危険すぎて1人では行かせられない、と。

  まさか……とは思いつつも、朝の彼を思うとそんな事は絶対に無いと言えず……

  姿も見せない、口も手も出さない。
  そう言って影から見守るだけだって言ってたはずなのに……!

「何なんだよ、お前達っっ!!  何の話をしてんだよっ!」

  ウォレスは、いまだに暴れている。

「君に答える義理はありませんね、さぁ、エグバートくん。君が彼女に手を上げようとしている所はバッチリ目撃させてもらいました。話はみっちり指導室で聞きますよ」
「っざけんなぁ!!」

  ラリー先生はそう言って嫌がるウォレスを引きずって行った。

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