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第13話
しおりを挟む「7年前の首席卒業者は、ローレンス・シュテルン。そう、我が息子だ」
陛下がラリー先生を見ながら懐かしそうな目をしつつ語り出した。
7年前の首席卒業者の事は知っているわ。名簿で見たもの。
そして願い事の欄は空欄だったから、とても印象に残っていた。
だけど、それがまさか先生なのだと結びつくはずがないじゃない!
「なぁ、ローレンス。いや、今はラリーと名乗っているのか。久しいな。王宮を飛び出して以来……10年ぶりだな。そしてとうとう今年は……約束の年か」
「……」
え? 久しぶり? 約束?
10年ぶりって……7年前の卒業式は……?
たくさんの疑問が私の中に生まれた。
ポカンとした顔の私を見ながら笑った陛下はさらに語る。
「ふっ、10年前の事だ。第5王子、ローレンスは16歳の時、周囲の反対を押し切って、シュテルン王立学校の試験を受けた」
「……本当は15歳の時に受けようとしたんだ! でも邪魔された……」
「そうだったな。だが、それからのお前は毎日しつこかった」
「それでも翌年、父上は受かれば自由にしていいと言った!」
ラリー先生がそれまでの沈黙を破って口を開いた。
陛下を父上と呼んだわ……
本当に本当に、ラリー先生は“ローレンス殿下”なのね……
「あぁ、言ったな。まさか、本当に受かるとは思わなかったからな。駄目だったと諦めさせようと思ってたのだがな」
「……そうして、合格し入学した俺は首席卒業も手に入れた」
「そうだな。だが、お前は卒業式に現れなかった」
「……」
陛下のその言葉にラリー先生が俯きながら言った。
「……7年前……首席卒業の褒美を利用して願いたいと思う事が俺には無かった……それに約束の日まで父上に会う気も無かった」
「そうだろうよ。お前の望みは昔からたった一つだろうからな。王族から離脱して自由に生きる事だろう? だが、その件は試験に受かり王宮を出る時に先に約束してしまっていたからな。だから、首席卒業の願い事には出来なかった。そういう事だな?」
「……」
ラリー先生は無言で頷いた。
えっと? 話が見えないわ。どういう意味なのかしら?
先生には王族を離脱したいという望みがあった。でもそれを首席卒業の願い事には出来なかった? 何故?
そんな私の疑問が伝わったのか陛下が私を見て笑みを深めながら言った。
「ローレンスが試験に受かり王宮を出ると決まった時に約束をしたのだ」
「約束……ですか?」
「この先の10年間、王宮に頼る事もせず、また一度も王宮に戻らずに過ごせたなら、ローレンスの望み……王族の離脱を認めてやる、とな」
「あ、では……つまりその約束が先にあったから……」
先生は首席卒業時に願いたい事が無かった?
他に望みたい事は無かったから?
そして学長先生が言ってたように、進路が……一般的な卒業生のように城勤めに出来なかったのは王宮に戻れなかったから。
だから、教師に……なった?
「さて、ローレンス。今年がその10年目だ。本当に一度も戻って来ないとはな。強情な奴め。てっきり途中で音を上げるとばかり思っていたが」
「俺は単なる気まぐれで王族離脱を望んだわけではない! 自分の立場に悩んで悩んで出したたった一つの願いだった!」
「まぁ、そうだろうな。お前の10年を聞いて振り返れば分かるとも」
「……やっぱり学長に俺の後ろ盾となるよう話を通したのは父上か。事ある毎に俺の事は耳に入れていたんだな」
「さてな」
先生のその言葉に陛下は否定も肯定もしなかった。
(陛下は頼らせないと言いつつ見守ってた……?)
「まぁ、良い。少し早いがお前との約束を叶えよう。こっちも10年もの間、公務に携わること無く過ごして来たお前に今更戻って来られても迷惑だからな」
「……父上」
「だが、最後に“7年前の首席卒業者、ローレンス・シュテルン”としての願い事だけは今この場で口にしてもらおうか。もちろん王族離脱以外の望みでな」
「……」
「その後は、先程の今年度の首席卒業者、トランド伯爵家の娘の願いである、“ラリー先生”としての願い事もあるぞ」
陛下がそう言って先生を見つめる。
その目は「さぁ、どうする?」そう問いかけているみたいだった。
先生は何を望むんだろう?
それより先生に王族離脱以外の願い事……あるのかな?
だって、前に私が尋ねた時だって……困ってたじゃない。
(あぁ、どうしよう。私、余計な事をしてしまったわ……)
私の願いによって先生は二つ願い事を叶えてもらえる。
願い事を二つも叶えて貰えるなんて、普通の人なら大喜びで願いを口にするかもしれない。
でも、先生は違う。絶対に喜んでなんかいない。
「……エマ」
「……」
落ち込む私に先生は優しい声で私の名前を呼んだ。
そっと頬に手を添えて俯いてた私の顔を上げさせる。
ばっちり目が合った。
私の胸はドキドキで爆発しそう。
好きな人とこんな至近距離で見つめ合ってドキドキしないわけがない。
「エマは、たった一つの大事な願い事を使ってまで俺の幸せを願ってくれた」
「……」
「だけど、俺がこんな事にならなければ本当に願おうと思っていた内容は別の事だったんだろ?」
「それ……は」
図星だったので私が気まずさに目を逸らそうとすると、先生が甘く微笑んだ。
その顔……ズルい……! 胸がキュンとなった。
「俺は、そうやって俺なんかの為に、大事な大事な願い事を託す決断が出来る、お人好しなエマの事が好きだ。愛しくて愛しくてたまらない」
「…………え?」
先生の言葉に私は固まった。
「エマは余計な事をしてしまったと思ってそんな顔をしてるんだろうが、好きな女に幸せを願われて喜ばないわけないだろ?」
「……??」
好き? 愛しい……? 誰が? 私が? 先生の言ってる言葉がよく分からない……
「だから、俺も……ローレンスの願いはエマの為に使う……使わせてくれ。エマが望んでた願いを叶えてやりたい。俺だってエマの喜ぶ顔が見たいんだ」
「…………????」
ますます放心状態になる私。
そんな放心状態の私を見ながら先生は、軽く私に微笑むと陛下の方に向き直って跪き口を開いた。
「……陛下。シュテルン王立学校7年前の首席卒業者、ローレンス・シュテルン──として最後に願います」
「あぁ。望みは何だ?」
会場は先程からずっと静まり返っているので、先生の声はとてもよく響いた。
「……この国の婚姻制度の改革を。貴賎結婚……貴族と平民の婚姻に関する制度の改革についてをこれからの国の議題としてとりあげて欲しい───これを7年前に保留となっていたローレンスの願いとしてもらいたい!」
「ほう……?」
「っ!!」
陛下は、なるほど……といったような顔で笑い、私は先生のそのお願いの内容に驚いて言葉を失った。
(どうして……どうして、ラリー先生はそれを……!? )
なぜなら、今先生が口にしたその願いは。
間違いなくラリー先生の事が起きるまでの私が卒業式で願おうとしていた望みそのものだったから───
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