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15. 手紙
しおりを挟むさて、この手紙の内容は……と。
力を使って手紙に目を通すと白紙だったはずの紙にしっかり文字が現れます。
もう、私の目には普通の手紙にしか見えません。
しっかりと目を通して───
(ん?)
……愛する公爵様へ。
今日も熱い愛のこもった手紙をありがとうございます。
ですが、最近、また奥様が私との関係を疑い始めたとのこと……
やはり、女の勘は侮れませんね。
毎日毎日金切り声を上げられていてノイローゼになりそうだと前回の手紙に書いてありましたがその後はどうかしら?
そうそう先日は素敵なイヤリングをありがとうございました!
とっても高かったでしょう? 今度これを着けてデートしましょうね!
ところで、最近すごく可愛いデザインの指輪を見つけたの!
すごくすごくすごく欲しくて……でも、真ん中のダイヤモンドが希少価値の高いものらしくお値段が───
「……は?」
思わず変な声をあげてしまいましたわ。
(何ですの、これ?)
もしかして、更なるカモフラージュなどの魔術が上掛けされていますの?
そう思って力を集中させましたが読み取れる内容に変化はありません。
慌てて差出人を見ると、名前の欄には“ティファ”と書いてありハッとしました。
その名前には覚えがあります。
そう。私がこの力に目覚めた時にお父様が浮気していた相手の名前です。
(まだ、続いていましたの!?)
そのことにも驚きですが、これは内容にもドン引きですわ。
……一見、ただのラブレターにも見えますが……見事にお父様はカモとしてたかられています。
この手紙を読んでヘラヘラデレデレした顔で返事を書いて指輪を買って贈るお父様の姿が想像出来ました。
この調子で何年もずっと貢いでいたのかもしれません。
(気持ち悪いですわ……)
「リリー? どうした? その手紙には何か重大なことが書かれていたのか?」
「……殿下」
私が変な声を上げてしまったので、殿下が心配して私の顔を覗き込み、背中もさすってくれます。
「あ、いえ……これはフィルムレド国とではなく……お父様の浮気相手からの手紙でした……」
「浮気相手?」
「ええ、とても付き合いの長い浮気相手ですわ。お母様の前では別れた! と言っていたのですけど」
私がそう口にした瞬間、お父様がフゴーと鼻息を荒くして暴れ始めました。
「はぁ……口が塞がれているはずなのに存在そのものがうるさい父上だな。もう息を止めるのが一番だよなぁ……」
「ンガッ!」
お兄様が、呆れた声でとんでもなく物騒なことを呟きながらパチンッと指を鳴らし、お父様の動きを封じます。
「ガッ、フゴッ! ンゴーー」
(な、何をする! トラヴィスーーと言っているのが心を覗かなくても伝わってきますわね……)
なんて見苦しいお父様……
「そうか……公爵の不貞の手紙が紛れていたのか」
「はい……」
殿下が顔を曇らせます。
てっきり証拠にならなそうな手紙だったことにショックを受けているのかと思いましたが──
──リリーに嫌な思いをさせてしまったな……
(……私?)
そうではなく、私が傷付いていないかの心配でした。
本当に私のことばかり……調子が狂います……
思わず熱を持ちそうになる頬を押さえながら私は続けます。
「不貞……ではありますが、お相手からは全く“愛”の伝わってこない手紙ですわ」
「愛のない?」
「ええ……どう読んでも高い宝石のついた指輪をねだられているだけの手紙なんですもの」
「カモ……」
「はい、カモですわ」
私の言葉に皆がお父様を憐れみの目で見つめました。
視線を向けられたお父様がフゴフゴ言っていますが何を言っているかは不明です。
この手紙は単なる不貞の証拠であって、今回知りたい情報は無さそう──
そう思った時でした。
(あら……?)
よくよくしっかり続きを読み込んでみるとこう書かれておりました。
…………それから、公爵様!
前の手紙で書かれていた隣国で大臣に抜擢されて登用される話はどうなりました?
奥様ではなく私を妻として連れて行ってくれる約束、守ってくださいね!
「殿下! 隣国で……となっていますが、“大臣に抜擢されて登用される話”についての記述がありますわ! この手紙の前にそのように書いて送っていたようです!」
「大臣に?」
「その際は、お母様はこの国に置き去りにしてこの浮気相手を自分の妻ということにして向かう予定だと……」
「……」
しんッと静まり返ると、また多くの視線がお父様に向けられます。
まさに……軽蔑! の視線でした。
お父様はその視線を浴びてどんどん青ざめていきます。
「……コホンッ! どうでもいい手紙かと思われたが、少し情報はあったようだね」
「ええ……まさに言っていたような展開ですわ」
そう言いながら、私は別の手紙を手に取ります。
「……あ!」
「どうした?」
「……この文字はフィルムレド国の文字ですわ」
私がそう言うとフィルムレド国の二人が声を上げます。
《違う! 私じゃないぞ! 私は知らない!》
《ヒッ! ちょっと! そこのお前、いつまでわたくしの身体をジロジロ見ているのよっ! 誰か! 早く着替え! 着替えを寄越しなさいよーー》
アリーリャ王女は完全に思考が違う所へ行っているようですが、アンディ王子はなおも関与を否定しようとしています。
次こそは……そう思って読み込みます。
ちなみに、私のこの瞳は他国の文字であっても難なく読み取ってくれますわ。
(あら? 途中から始まっている手紙ですわね。二枚目……?)
───これまでのやり取りの中で、貴殿は気味の悪い目を持った娘と何度も書いていたが、確かに性格にも難がある。しかし相当の美女と聞く。
また、アリーリャとやり取りをしてるカリーナの話によると、その美貌を武器に婚約者の王子に隠れて男を取っかえ引っ変えしているとも……
だが、それだけ美しいなら、私の妃の一人として迎えてやってもよい。とりあえず絵姿を次の時には同封してくれ。
「……」
「リリー?」
(気味の悪い目を持った娘……これは私のことですわよね?)
ですが、その後に書かれていることが、さっぱり分かりません。
相当の美女? 美貌を武器に婚約者に隠れて男性を取っかえ引っ変え?
なんだか稀代の悪女みたいな女が登場しておりますけど……?
しかし、妃と言うからにはきっとこれはアンディ王子が書いた手紙で……
(まさか、これに書かれている悪女のような女が私?)
殿下が心配そうな目で見ていますが、私は少し躊躇いつつも書かれている内容を口にします。
内容を聞いた人たちがザワっとしました。
《なんだそれは! し、知らない話だ!》
《嫌ぁぁ! そんな息を荒くしてわたくしを見ないで!》
「そんな! カリーナの名前が……!」
必死に否定するアンディ王子。
未だに明後日の方向にいるアリーリャ王女。どなたかに狙われているようです。
娘の名前が出て来てしまい、頭を抱えて絶望感漂うドゥーム侯爵。
そして、今にもキレて暴れだしそうな程の空気を発するイライアス殿下とお兄様。
(ほ、ほんの少し読んだだけですのに……)
なんだか異様な空気になってしまいました。
と、とりあえず他の手紙も手に取り私は読み上げます。
───絵姿を見たがなかなかの美女ではないか!
これなら、前回の手紙に書いたように、リリーベル嬢を私の妃として迎えても私との釣り合いが取れそうだ。
真実の瞳? よく分からないが大袈裟に言っているだけなのだろう?
(略)
…………私の妃となる者の父親ならば、そなたにもそれなりの地位は与えられることだろう。
(やっぱり私の話でしたわ)
それなりの地位……はっきり大臣とは言っていないようですわね。
ですが、これは曖昧なことを言って名言を避けているだけなのでは? とも思えます。
「フゴー!」
「……」
この手紙を読み上げている最中はお父様がフゴフゴ言っていましたが、私の知ったことではありません。
私は更なる証拠を求めて、また別の手紙を手に取りました。
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