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31. 初めての……
(あら? これくらいの脅しで怯えて尻もちですの?)
カリーナ様は尻もちをついたままガタガタ震えています。
根性が足りませんわね。
私はカリーナ様を見下ろしながら、わざとらしくため息を吐きました。
「……この程度でへたり込んでしまわれるなら、貴女はまだまだですわね。負ける気がしませんわ」
「っっ」
カリーナ様は声が出せないようです。それに、心の声もひたすら怯えていますわね……
「貴女が私を追いやるために企んだこと、この場での数々の発言や行動は全てきちんと報告させて頂きますわ───まぁ、報告などしなくてもすでに人が集まっていますけれども」
「え!?」
カリーナ様がハッとして部屋の外に目を向けます。
興奮していたカリーナ様はお気づきではなかったのかもしれませんが、部屋の周囲はすでに野次馬でいっぱいでした。
つまり、これまでのことはもう筒抜け……言い逃れは出来ません。
「そんなこと言っていない、知らない、やっていない……は通じませんわよ? カリーナ様」
「あ……ぅあ」
カリーナ様は尻もちをついたまま立ち上がることも出来ず、その場にガックリと項垂れました。
もう反論する気力はなさそうですわね。
(ふぅ、これで終わりですわ──)
もう真実の瞳も使わなくても大丈夫でしょう。
私は再び力の制御を行います。
「でん……じゃなかった、イライアスさ……」
「リリー!」
清々しい気分でイライアス様に声をかけようとしたら、すごい勢いで抱きしめられました。
「イライアス様……」
「リリー……リリーベル……」
(抱きしめる力が強いですわ………苦し……って、え?)
なんと私は、そのままイライアス様に即座に抱き抱えあげられ……
なんと! 部屋から運ばれようとしています。
「ま、待ってくださいませ! イライアス様!? どこに行くおつもりなんですの!」
「そんなの決まっている───リリーと二人っきりになれるところだ!!」
「ええ!?」
私が慌てて訊ねると、イライアス様は間髪入れずにそう答えました。
(ふ、二人きりですって!?)
「で、ですが、この場に三人をこのままには……」
「それは大丈夫だ────トラヴィス!」
さすがに三人をこのまま放置しておくわけにはいきません。
そう思って訊ねると───
え? お兄様? なぜ、お兄様の名前を呼ばれたの?
そう思ったと同時にお兄様が野次馬の中から現れました。
(い、いつの間に……!)
お兄様は頭を手で押さえながら、深いため息を吐きます。
「殿下……こっそり人混みにまぎれていたのに、よく分かりましたね?」
「何を言っている。お前はリリーとよく似たその美貌を何だと思っているんだ? すぐに分かったぞ」
殿下がそう口にするとお兄様は少し驚いた顔をしました。
そして、なぜか目を伏せて小声で答えます。笑っています?
「……リリーとよく似た……ですか」
「何か間違っているか? 」
「いえ──……」
イライアス様が不思議そうに訊ね返すとお兄様が首を横に振りながら苦笑します。
「殿下くらいですよ。リリーが俺に似ている……ではなく、俺がリリーに似ているなんて口にされるのは」
「……うん? だから、何を言っている?」
「つまり──殿下はいつだって、リリーが中心なんですね?」
「そんなの当然だろう?」
(ああ、そういうこと……)
イライアス様はいまいちピンと来ていないようですが、私にはお兄様の言いたいことが分かりました。
普通の人はお兄様が先に来て私がお兄様と似ている……と言うのにイライアス様は違う……
リリーベルが先に来るのです。
(イライアス様はどれだけ私のことを好きでいてくれているの?)
そう思うだけで胸がキュンキュンしますわ。
「イライアス様……」
「リリー?」
「……大好きです」
私は横抱きにされたままイライアス様の首に手を回してギュッと抱きつきました。
その瞬間、ボンッとイライアス様の顔が赤くなります。
「リリリリリリー……き、君って人は」
「ふふ」
「ああ! もう! 君は僕の想いを甘く見過ぎだ!」
「え?」
少しからかい過ぎたせいでしょうか?
殿下が少し語気を強めます。
そして、私が落ちないようしっかり抱き直してからお兄様に声をかけました。
「トラヴィス! あれ──元公爵夫妻の方は?」
「問題ありません。荷造り終わらせたので連れて来ています。あ、言われた通りもちろん荷物は必要最低限の物だけにしてありますのでご心配なく」
「分かった。では、この場のことは任せる───邪魔するなよ?」
イライアス様のその言葉にお兄様の眉がピクリと反応しました。
「おそれながら殿下、リリーはリリーなのです。お手柔らかに」
「…………それは、リリー次第だな。この美貌で無自覚に煽ってくるんだぞ?」
(二人はいったい何の話を──?)
「イライアス様、お兄様──」
「では。さ、行くよ、リリー。僕にしっかり掴まっていて?」
「え? きゃっ!?」
何の話をしているのかと聞こうと思いましたのに、イライアス様は私を抱えたまま勢いよく部屋から走り出してしまいました。
(ご、強引ですわぁぁ!)
───後で聞きましたが。
こうして部屋から出て走り去っていく私たちの様子を見ていたアリーリャ王女は寂しそうにこう呟いたそうです。
《イライアス殿下は男性として有り得ない! わけではなくて……ただ、わたくしでは駄目だった……それだけ、なのね……》
───と。
❋
部屋を飛び出したイライアス様は私を抱えたまま、廊下を走ります。
「イライアス様! 二人っきりって……どうしてですの?」
「僕がリリーを愛していることは充分周囲に伝わった! それで、リリーも僕を好きだと言ってくれた……」
「え……? そ、それはそうですが……」
話の意図が見えません。
「もう、周囲への相思相愛アピールはいらない。それなら後は、全力でリリーを愛でたい!」
「愛で……?」
「そう。さすがに人前ではね。リリーも恥ずかしいだろうし、僕も……」
……周囲へのアピール……つまり、私たちの不仲説を消したかったということですわよね?
それは、もう充分だから後は──
「……っ」
ようやく意味を理解した私の顔がボンッと赤くなります。
こ、これは……イチャイチャのお誘い…………ですわ!!
私の頭の中にかつて自分でお兄様に言った言葉が甦ります。
──イチャイチャと言うのは、想い合う男女が仲良くすることでしょう?
(想い合う男女……)
今ですわーー!
遂にその時が来たのですわ!!
リリーベル……イチャイチャデビューでしてよ!
どうしましょう! 社交界デビューより緊張しますわ!!
「リリー? 急に火照ってどうしたの?」
覚悟を決めた私は照れながらもイライアス様に伝えます。
「イ、イライアス様と……」
「うん?」
「イチャイチャがしたいです、わ」
私がそう口にした瞬間、殿下の足がピタッと止まりました。
「……イライアス様?」
「リリー……」
私の目を見つめて名前を呟いた瞬間、イライアス様は再び勢いよく走り出し、あっという間に私はイライアス様の部屋へと運び込まれました。
「ここはイライアス様の部屋……ですわよね?」
「そうだよ」
口数の少なくなったイライアス様は、そのまま部屋の中を通り抜けて、なんと奥にある寝室に私を運びます。
え? と思う間もなくイライアス様はそっと私をベッドの上に下ろしました。
そして、私のことを熱っぽい目で見つめます。
(寝室のベッドの上!? ま、まさか……これはイチャイチャデビューどころではなく……もっと大人の……?)
「……リリーベル」
愛しそうに大事そうに私の名前を呼んだイライアス様が、そっと私を抱きしめました。
そして耳元で囁きます。
「───君を誰よりも愛している」
「イ……イライアス、さま……わ、私も……ですわ」
私が応えると微かにですが笑った気配がしました。
「───ずっと、リリーとこうしたかった」
「……ずっと?」
「リリー、顔を上げて?」
そう口にしたイライアス様はそっと私の顎に指をかけて上を向かせます。
そして、麗しのお顔が近付いて来て、そっと私たちの唇が重なりました。
(……んっ)
婚約して十年。
私とイライアス様、初めての唇でのキスでした────
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