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33. 上書きですわ!
❋❋❋❋❋
お騒がせの王子と王女、それから元公爵夫妻が強制帰国&追放された頃───
「───あの時のリリーは……」
「いいえ! あれはイライアス様が!」
私とイライアス様はイチャイチャしながら昔話に花を咲かせておりました。
カリーナ様に向かって自分で言ったことですが、私たちには十年分の時間があります。
「そういえば、リリー。身体は大丈夫?」
「んっ……身体?」
チュッ……
イライアス様が額にキスをしながら訊ねて来ます。
「さっきも力を使っていただろう?」
「大丈夫ですわ。先程は時間も短かったですし、心の中を少し覗いただけですから」
「……ならいいけど」
真実の瞳の力は、人の心を探るよりも物を読み取る方が魔力も体力も使います。
ですので、今回はあの文字が消えてしまった手紙を読み取る時が一番大変でしたわ。
「二年前……トラヴィスの夫人──彼女のためにリリーが力を使いすぎて倒れた時は……苦しかったよ」
「イライアス様……」
これは……私が眠っている間にお兄様をボコボコにした時のことですわね?
そこで私はハッと気付きます。
「もしかして、イライアス様がお兄様にあれほどまでに怒ったのは……」
「……」
イライアス様が無言のまま頬を染めてプイッと顔を逸らします。
(あ、この動作は照れて恥ずかしくなった時の私と同じですわ……!)
「だ、だってリリーが心配だった……んだ。話を聞いた所によるとかなり無茶をしていたようだった……から」
「イライアス様……」
あの時、私が真実の瞳を使って読み込んだのは、もう片方の隣国、クロムウェルにあった“水晶”でした。
あれにはかなりの魔力と体力を奪われたものです。
「……あの頃はどうしてイライアス様がお兄様を殴ったのか分からなかったのですが……」
「……」
「今なら分かります」
イライアス様は二年前も変わらず私のことを愛してくださっていたから───……
その気持ちが嬉しくて、私は自分からイライアス様の頬にチュッとキスをします。
「───リ、リリー!?」
顔を真っ赤にしたイライアス様が可愛いです。
こんな彼の顔を見られることがたまらなく嬉しく、そして幸せでたまりません。
私はクスリと笑って、焦った様子のイライアス様の唇にもキスをします。
──チュッ
「……リリー!?」
イライアス様のこんな顔は私だけが知っていたい───
「イライアス様、愛していますわ」
「リ…………うわっ!?」
そんな想いでチュッチュッと繰り返していると、勢い余ってしまい……なんと私はそのままイライアス様を押し倒してしまいました。
ドサッとベッドに倒れ込む私たち。
「……」
「……」
な、なんということでしょう!
これでは私がイライアス様を襲っているみたいですわ!!
自分の真下に、組み敷かれるように倒れたイライアス様を見ながらそう思いました。
この時、ふと下着姿でイライアス様に狭ろうとしたアリーリャ王女の姿が頭に浮かびます。
(──アリーリャ王女はこういうことをするつもりだったんですわね!?)
しかも下着姿で!
部屋に侵入した段階で磔にされたと聞いていますし、全て未遂に終わりここまでのことをされていないとはいえ……何だか面白くありません。
(イライアス様が私以外の女性の下着姿を目にしただけでもイラッとしますわ!)
「……」
私はイライアス様を押し倒したまま、自分のドレスに手をかけようとしました。
その様子を察知したイライアス様が慌てて止めに入ります。
「……!? 待っ……待つんだ、リリー! なんで今、ドレスを脱ごうとしている!?」
「上書きですわ!」
「う、上書き!?」
「──イライアス様の中の“下着姿の女性”を私に上書きしようと思いまして!」
「し……」
ボンッと音がするくらいイライアス様が真っ赤になりましたわ。
きっと今の私も負けないくらい真っ赤ですわね。
「だ、ダメだ……リリー! この体勢で今、君にそんな姿になられたら……」
「なられたら?」
「り、理性が飛ぶ!!」
「そ、そんなにですの!?」
私が驚いていると、イライアス様が下から手を伸ばしてそっと私の頬に触れました。
ドキッと私の胸が跳ねます。
「こんなにも大好きで愛している女性に下着姿で迫られたら……止まれない」
「イライアス様──……」
「リリー……」
(───ん、え?)
名前を呼ばれた瞬間、私の視界がクルリと反転します。
なんと今度は私の真上にイライアス様がいらっしゃいますわ……
そして、麗しのお顔が近付いてきて、先程までとは少し違う激しめのキスが始まりました────
「……リリー、そろそろ戻ろうか?」
「え?」
チュッ、チュッ……
戻ろうと言いながらもキスはやめてくれません。
「…………これ以上は本当に危険だ」
「危険……」
「うん。だからこの続きは結婚してからだ」
イライアス様はそう言って私を起き上がらせると、脱ぎかけたせいで少し乱れていたドレスをせっせと着せ直して来ます。
「結婚……」
「そうだ。あと二年……僕は耐えてみせる!」
イライアス様は何かの呪文のように、あと二年あと二年あと二年あと二年……と繰り返していました。
こうして火照った頬の熱を冷ましながら少々乱れたドレスや髪を直して、騒ぎのあった部屋に戻ると──
「お兄様!」
そこには後始末? を終えたお兄様がいました。
野次馬はもちろん、アリーリャ王女やアンディ王子もいませんでした。
「殿下にリリー……戻ったのか」
「トラヴィス、押しつけてすまなかった。ありがとう」
「……いえ、先程王子と王女、それから元クゥオーク公爵夫妻をフィルムレド国に向かわせたところです」
「そうか……どうだった? 素直に向かったか?」
「王子と王女は静かに馬車に乗り込んでいましたよ。夫妻の方は──……」
イライアス様の質問にお兄様は頷きながら答えます。
父親だった人は呪いが解けないまま、あの顔で向かうことになり、母親だったあの人は、これから地獄が待っているとは思っていなさそうな様子だったと聞いて苦笑してしまいました。
「侯爵令嬢の方は父親が迎えに来てそのまま、聴取に向かっています」
カリーナ様は結果として直接、私に危害を加えたわけではないけれど、さすがに無罪放免というわけには参りません。
(とりあえず……これでゴタゴタは解決───)
「……というわけで、俺はもうそろそろ帰っていいですかね?」
「ん?」
「俺もマルヴィナの元に早く帰りたいので!」
「え? あ、ああ……」
「ありがとうございます。それでは殿下、リリーをよろしくお願いします! では!」
イライアス様が頷くとお兄様は待ってましたと言わんばかりに転移してしまいました。
(お兄様……なんて素早い)
一瞬で姿を消したお兄様のいた場所に目を向けていると、イライアス様がそっと私の肩に腕を回して抱き寄せました。
「……初めてかもしれないな」
「え?」
「こういう時に、トラヴィスがリリーを連れて行かずに僕に託してくれたことだよ」
「……!」
確かに言われてみればその通りです。
お兄様は過保護な所があるので、これまでのお兄様なら私も一緒に転移させて連れ帰っていたでしょう。
「リリーの相手としてトラヴィスに僕も認められたかな?」
イライアス様が嬉しそうにそんなことを口にするので私も笑顔で返します。
「私の相手はイライアス様しかいませんわよ?」
「はは、ありがとう! よし、リリー…………行こうか」
「はい!」
私たちは見つめ合って互いに微笑むとそのまま手を繋いで、諸々の後処理に向かいました。
そして、それから数日後。
フィルムレド国から一通の手紙が届きました───
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