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閑話⑤ (メイリン男爵令嬢視点)

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  私の名前は、メイリン・ヒューロニア。
  身分は一応男爵令嬢だけど、私は他の人とは違う特殊な人間なのよ。

  ──を知った……いいえ、思い出したのは、ちょうど10歳の誕生日を迎えた頃だったわ。
 風邪を引いて寝込んでいたその日の夜。
 熱でうなされる私の頭の中に流れ込んで来た映像。
 それはかつての私、日本という国で生きていた頃の記憶だった。

 「……まさか、これって異世界転生ってやつ!?」

  目を覚ました私は、起き上がるなりそう叫んだわ。
  そして興奮したわ。まさか、まさかの異世界転生!  こんな事が本当に起きるなんて!!



  次に歓喜に震えたのは、ここが私が前世でやり込んだ乙女ゲームの世界だと知った時だった。
  そして、私はそのゲームのヒロイン!!
  何それ、最高じゃないの!  ここは私の為の世界なんだわ!!
  もう嬉しくて嬉しくて神様に感謝したわ。

  前世の私は、地味で目立たない単なる乙女ゲーム好きのつまらない女だったわ。
  仕事だけは真面目にやってたけど、誰に評価されるわけでもなく、恋人もいない変わり映えしない毎日を送ってた。

  だからこそ!  
  そんなひっそり目立つ事なく人生を終えてしまった私に神様はご褒美をくれたのよ!


  ──私がヒロインの世界なのだからってね。

  
  誰を狙おうかしら?
  やっぱりメインヒーローのレインヴァルト殿下?
  それともヤンデレ枠のロイ様?  いや、真面目で一本気なハリクスだって……そして大人の教師ラルゴ先生との秘密の恋……!

  あぁ、みんなみんな捨て難いわ。
  
  ──そうよ!  誰か一人を選べないなら、逆ハーエンドを狙えばいいのよっ!

  このゲームの攻略対象は4人という乙女ゲームにしては珍しく少ないものだった。
  隠しキャラが居るのでは?  何かの切っ掛けでルート開放されるんじゃ?  と躍起になって何度も何度もプレイした覚えがある。ま、結局見つからなかったけどね。
  でも、そのお陰でどのルートもストーリーはバッチリ覚えているわ。

  いけるわ! 私が幸せになる為の世界!
  

「学園の入学式が楽しみだわ」

  私はこの先の未来を思うと楽しみで楽しみでしかたなかった。



****



  ──そうして迎えた学園の入学式。

  この日は大事なイベントなの。
  私は学園の校門前で迷子になって途方に暮れる。そこを攻略対象者が助けてくれるの。
 
  微妙に登校時間を変える事でお目当ての人がやって来るシステムよ。
  ここで助けられた攻略対象者のルートに入るのが鉄板ね。好感度が上がりやすくなるから。
    まぁ、後でも軌道修正は可能なんだけど、そうなると後々好感度上げるのに苦労するのよね~。
  だから、ここで出会う人が肝心なの!

  そしてもちろん、狙うはレインヴァルト殿下!!
  何故なら、逆ハーエンドに行くには殿下との入学式の出会いイベントをこなす必要があるから。これだけは必須よ!
  それ以外の攻略対象者だと、その人単独のルートに入りやすくなっちゃうもの!

  レインヴァルト殿下との出会いイベントをこなしさえすれば、逆ハーエンドのルートが開かれるんだから これは外せないでしょ。

  そうして、私は意気揚々と校門前で立ち尽くして殿下を待っていたのだけどー……

「お困りですか?」
「そうなんです!  入学式の会場が分からなくてー……」

  よっしゃ!  声がかかったわ!  出会いイベント開始よ!!
  って思って振り返ったけど、
  そこに居たのは、フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢。
  このゲームにおける悪役令嬢だった。

  (え?  何で!?  どうして悪役令嬢が私に声を?  レインヴァルト殿下は!?)

  動揺した私は思わず呟いていた。

「……っ!?  どうして、あく……フィ、フィオーラ様が……」
「え?」

  悪役令嬢は私の言葉に驚いていた。
  しまった!!  自己紹介もされていないのに名前を呼んでしまったわ!!
  しかも、つい悪役令嬢とか言いそうになっちゃったし。
  あぁぁ、これ、何で私の名前を……?  とか思っちゃってるわよね……ヤバいわー

  あ、でもちょっと待って?  この悪役令嬢はレインヴァルト殿下の婚約者よね?
  つまり、誰にでも顔を知られている存在よ!
  なら、私が知っててもおかしくないはず!

  ──そう思って答えたのに。

  (は!?  社交界デビューしていない?  何言ってんの?  そんなハズないわよ!  ゲームでは済ませていたでしょ?)

  何かがおかしかった。
  そう感じたけど、私はとりあえず悪役令嬢を振り切り、仕方ないから自力で会場に向かう事にした。
  ……もちろん学園内のマップは、ばっちり頭の中に入っているから迷う事なんてないわよ。



  それからもこの世界は私の世界のはずなのに、私の知ってるゲームの通りに進まない。
  殿下と出会いイベントを果たした後は、悪役令嬢からの最初の嫌がらせが起こるの。
  差し入れようとしたクッキーを踏み潰されるのよね~。私ったら可哀想……
  入学式での出会いイベントが失敗したから、ちょっと別の形でのイベント発生にはなるけど、殿下と出会いさえすればこっちのもの!

  そう思って挑んだのに!!
  悪役令嬢は嫌がらせをしなかった。でも、これから恋に落ちる可愛い私からの差し入れなんだから、殿下も受け取ってくれるでしょ?  そう思ったのに何故かそこも失敗。


  (それよりも!  どうして、レインヴァルト殿下と、悪役令嬢が仲睦まじくなってるの!?)


  おかしいわよ。2人は無理やり政略結婚の為に結ばれた婚約者同士。
  悪役令嬢はレインヴァルト殿下の事を愛してるけど、殿下は違う。
  だから、私と恋に落ちるのに。

  なのに。どうしてなの!?
  だけど、私は逆ハーエンドの為にもどうしてもレインヴァルト殿下に近付かなくちゃいけない。近づく事さえ出来れば彼も私に恋に落ちるんだから!

  そう決めて近付いたのに……

「どうしてよ!?」

  私は思い通りに進まない展開に苛立ちを募らせていた。
  どんなにどんなに近付いてもレインヴァルト殿下は私を見ない。
  しかも、ロイ様とハリクスを側近候補にしていないって、どういう事よ!?
  おかしいわ。何これ、バグってんの?



****



「ねぇ、私、ロイ様にお願いがあるんですっ!」
「なんだい?  メイリン」

  レインヴァルト殿下以外の3人の攻略は簡単だった。びっくりするくらいアッサリと私に落ちてくれたの。やっぱりヒロインって凄いわ!  それともゲーム補正ってやつ?
  やっぱりコレが正しい姿よ!
  殿下と悪役令嬢がおかしいんだって、よーく分かったわ。

「私、レインヴァルト殿下と仲良くなってみたいんですけど、ロイ様からも紹介してくれませんか?」 
「うーん……それはちょっと難しいかな」

  ロイ様は残念そうに言った。

「君の望むことならどんな事でも力になってあげたいんだけど……」
「……そうですか、残念です……(チッ、役立たずね)」
「だけど、そんな事を言うなんて……メイリンは僕だけじゃ足りないの?」
「……え?  いいえ!  そんな事ないですよー?  私はロイ様が1番ですから」

  ヤバっ!  これ以上この話を続けるとロイ様のヤンデレスイッチが入っちゃうわ。
  ニッコリ笑って誤魔化しておく。

  だけど、何なのよ!  ロイ様ならもっと使えるかと思ったのに!
  そう言えば、ロイ様の父親である公爵様も、2年くらい前から勢いが無くなったってどこかで聞いたわね……そのせいなのかしら。

  それにしても、ロイ様って本当に役立たずだわ!






   あー、困ったわ。
  このままでは、悪役令嬢が私を虐めない。
  それでは困るの。逆ハーエンドの為にも悪役令嬢には私を虐めてもらわないといけないのに。
  何してんのよ、悪役令嬢!!



  そんなある日、私のレインヴァルト殿下や悪役令嬢に対する礼儀がなっていないと苦言を呈してくる令嬢達が現れたわ。

  (何で悪役令嬢じゃなくて、アンタ達が来るのよ。モブがでしゃばっちゃって!  ……いや、待って?  コレを上手く使えば……悪役令嬢の仕業に出来るんじゃない?)

  こうして、仕方が無いので私はこれを利用して一向に虐めを実行する気配のない悪役令嬢に冤罪を着せる事にしたの。
  ラルゴ先生には嘘の証言で泣きついて、ロイ様とハリクスには噂を広めて貰ったわ!
  実際なんてどうでもいいのよ。
  私が“悪役令嬢に虐められた”という噂が広がればいいだけなのだから。 
  実際に私は嫌がらせを受けてるしね。いけるいける。

  そして、その噂のせいで悪役令嬢は卒業パーティーで、殿下から婚約破棄されて処刑されればOK!
  悪役令嬢が処刑でも何でも死んでくれさえすれば逆ハーエンドに辿り着けるようになってるから、なのよ。
  経緯はなんであれ、そうなれば私のハッピーエンドは確約されたようなもの。

  そうすれば、今は何故か私に靡かないレインヴァルト殿下だって私のモノになるんだから!

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