35 / 52
閑話⑥ (メイリン男爵令嬢視点)
しおりを挟む「どうしてこうなったの……」
私は今、連行されて牢に連れてこられた。
理由は、不敬罪だか侮辱罪? とか言ってたわ。よく分かんないけどとにかく処罰を受けるって。
どうして私が? ここに入るのは悪役令嬢でしょ? 連れてくる人間を間違えてるわ。
しかもこのままじゃ、逆ハーエンドどころかバッドエンドじゃないの。
本当にあの悪役令嬢は何をしたのよ。
──死ぬ運命しかない女のくせに。
悪役令嬢フィオーラは、逆ハーエンドや、レインヴァルト殿下ルートはもちろん、その他の攻略対象エンドでもその全てで死を迎えるの。
そう。例えそれがバッドエンドのエンディングだとしても、ね。
その最期はルートによって様々だけど死ぬという結末だけは変わらない。
ふふ。今更だけどなんて悪役令嬢に厳しいゲームだったのかしら。開発者は悪役令嬢に恨みでもあったのかしらね?
まぁ、そんな事はどうでもいいわ。
とにかく、悪役令嬢が幸せになるルートなんて存在しないのよ。
早く私が牢に居るのは間違いでしたって出してくれないかしら?
仕方ないから優しい私は許してあげるわよ。
それから、数日後。
殿下がやって来ると言う。
ようやく間違いに気付いて釈放されるのね! もう遅いじゃないの。待たせ過ぎ!
そう思ったのに。
牢にいる私の元には、殿下と悪役令嬢の二人が揃ってやって来た。
何で2人で来るのよ!!
私の目的は何だと聞かれるけど、何だも何も、私は正しいあるべき世界に戻そうとしただけよ。
ロイ様達もそんな私のお願いを聞いて協力してくれたわ!
だから、私は間違ってないのよ。
なのに、何がいけないの?
そうしたら、悪役令嬢に怒鳴られた。
「ーーっ! いい加減にしなさいよ! 貴女が、一体何のどこのどんな世界を知って見てるのか知らないけど、ここは貴女の思い通りになる世界なんかじゃない! レインヴァルト様も私も他の皆も誰もが自分の意思で生きている世界なのよ! 目を覚まして現実を見なさいよ!!」
現実? この悪役令嬢は何言ってるの。私はちゃんと現実を見ているわ。だからこうして正さなくちゃと思ってるのだから。
むしろあんたの方こそ私の為に悪役令嬢の仕事をしなさいよ。
あぁ、もう! 本当に何でこんな事になってるの?
早く殿下を私に返してよ。それで、私は皆とハッピーエンドになるんだから。
あんまりにも様子がおかしいから悪役令嬢も転生者? って思った事もあるけど、どうも違うっぽいのよね……
ホントにこの悪役令嬢は何者なのよ!?
そんな事を考えていたら悪役令嬢の怒りは更にヒートアップしていた。
「してるでしょ!? 殿下を返せって言ってる事が何よりの証拠よ!! レインヴァルト様は貴女のじゃない! 貴女になんて渡さない! 私のよ!! 私と生きるの!!!!」
そこまで叫んだ後、何故か悪役令嬢は殿下に抱き締められてイチャイチャし始めた。
──はぁ? 何なの? 本当に何なの? 私の目の前で何してんのよ。
殿下は私のだって言ってるでしょ!
私は体を震えさせながら叫んだ。
「な、なんなのよーー何で私の目の前でイチャつくのよ!! こんなの私の知ってる世界じゃ無いじゃないの!!」
「当たり前だ、お前の知ってる世界なんてものは存在しない。お前はフィオーラが1年以内に死ぬ運命だと言ったな? それはお前の知ってる世界の話なんだろう? 仮にそんな世界が本当にあったとしても俺が覆してみせる」
え、やだ。殿下がおかしな事を言っている。これはホントにバグってるんだわ!
運命を覆す? 何を言ってるの? 私の世界なんだから、そんなこと出来るはずないのに……
だけど、殿下の目は本気で……
なら、せいぜい悪あがきをすればいい。どうせ無駄に決まってるもの。
そう思っていたら殿下はまたおかしな事を言い出した。
「現実を見ろ。今のお前には何も無い。追って正式にお前には沙汰が下される。学園はもちろん退学。ヒューロニア男爵家からも追放し、平民となって国境外れにある修道院へ送られる。二度と王都への立ち入りは許されない」
退学? しかも追放されて平民になるの? 修道院って私が? 何でそんな所に行かなくちゃなんないのよ!?
ロイ様たちはどうなるのよ!? ヒロインの私が皆の前から居なくなるなんてストーリーが破綻しちゃうわ。そんな事になったら私も彼らも幸せになれないでしょ?
「……アイツらもアイツらで処分が下される。今、全員を事情聴取している所だが、ロイとハリクスは謹慎していて、ラルゴは教師をクビになった所だ。ロイ達も退学は免れない。そして、お前との面会は生涯にわたって禁止だ」
さすがに、その話には愕然としたわ。
しかも、あの3人にも処分が下されて私とは二度と会えない?
嘘でしょう? これって、新たなバッドエンド?
ゲームで見たバッドエンドとも違うバッドエンドよ。より酷いわ。
「どうしてよ……私は何も間違えてなんかいないのに……」
気付いたらそう口にしていた。
悔しい。
理由は分からないけど、私はきっと悪役令嬢に負けたんだわ。
こんな死ぬだけの運命の女に。
まぁ、いいわ。どうせこの女はもうすぐ死ぬはずよ。
それだけは変わらないでしょ。
だから、優しい私は最後に忠告だけしてあげるわ。
「ねぇ、フィオーラ様?」
「?」
悪役令嬢は何事かと首を傾げている。
殿下も警戒の目を向けてきたわ。腹立つわね。
「貴女はレインヴァルト様の手で処刑されるの。あぁ、でも今はこの可能性は低いのかしら? なら、あの何とかって名前の病気で命を落とすのかしら? それともー……」
「やめろ!!」
レインヴァルト殿下が怒鳴って遮ったので最後まで言えなかった。
けど、いいわ。
悪役令嬢がどんな事があっても死ぬ運命である事は伝わったはずだもの。
「フィオーラは死なない。俺が絶対に死なせない」
「…………そうですか。それは残念ですね」
まだ言うのね。本当に無駄なのに。
何で分からないのかしら?
ならば、私は修道院で、悪役令嬢の死の知らせを楽しみに待ってるわ。
そんな気持ちで寄り添って牢屋から出ていく2人を私はじっと見ていた。
──この時の私はそう思っていられたわ。
だって、自分が入るという修道院の事を知らなかったから……
91
あなたにおすすめの小説
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~
夏笆(なつは)
恋愛
ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。
ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。
『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』
可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。
更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。
『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』
『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』
夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。
それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。
そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。
期間は一年。
厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。
つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。
この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。
あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。
小説家になろうでも、掲載しています。
Hotランキング1位、ありがとうございます。
地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。
パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」
王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。
周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる