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閑話⑥ (メイリン男爵令嬢視点)
しおりを挟む「どうしてこうなったの……」
私は今、連行されて牢に連れてこられた。
理由は、不敬罪だか侮辱罪? とか言ってたわ。よく分かんないけどとにかく処罰を受けるって。
どうして私が? ここに入るのは悪役令嬢でしょ? 連れてくる人間を間違えてるわ。
しかもこのままじゃ、逆ハーエンドどころかバッドエンドじゃないの。
本当にあの悪役令嬢は何をしたのよ。
──死ぬ運命しかない女のくせに。
悪役令嬢フィオーラは、逆ハーエンドや、レインヴァルト殿下ルートはもちろん、その他の攻略対象エンドでもその全てで死を迎えるの。
そう。例えそれがバッドエンドのエンディングだとしても、ね。
その最期はルートによって様々だけど死ぬという結末だけは変わらない。
ふふ。今更だけどなんて悪役令嬢に厳しいゲームだったのかしら。開発者は悪役令嬢に恨みでもあったのかしらね?
まぁ、そんな事はどうでもいいわ。
とにかく、悪役令嬢が幸せになるルートなんて存在しないのよ。
早く私が牢に居るのは間違いでしたって出してくれないかしら?
仕方ないから優しい私は許してあげるわよ。
それから、数日後。
殿下がやって来ると言う。
ようやく間違いに気付いて釈放されるのね! もう遅いじゃないの。待たせ過ぎ!
そう思ったのに。
牢にいる私の元には、殿下と悪役令嬢の二人が揃ってやって来た。
何で2人で来るのよ!!
私の目的は何だと聞かれるけど、何だも何も、私は正しいあるべき世界に戻そうとしただけよ。
ロイ様達もそんな私のお願いを聞いて協力してくれたわ!
だから、私は間違ってないのよ。
なのに、何がいけないの?
そうしたら、悪役令嬢に怒鳴られた。
「ーーっ! いい加減にしなさいよ! 貴女が、一体何のどこのどんな世界を知って見てるのか知らないけど、ここは貴女の思い通りになる世界なんかじゃない! レインヴァルト様も私も他の皆も誰もが自分の意思で生きている世界なのよ! 目を覚まして現実を見なさいよ!!」
現実? この悪役令嬢は何言ってるの。私はちゃんと現実を見ているわ。だからこうして正さなくちゃと思ってるのだから。
むしろあんたの方こそ私の為に悪役令嬢の仕事をしなさいよ。
あぁ、もう! 本当に何でこんな事になってるの?
早く殿下を私に返してよ。それで、私は皆とハッピーエンドになるんだから。
あんまりにも様子がおかしいから悪役令嬢も転生者? って思った事もあるけど、どうも違うっぽいのよね……
ホントにこの悪役令嬢は何者なのよ!?
そんな事を考えていたら悪役令嬢の怒りは更にヒートアップしていた。
「してるでしょ!? 殿下を返せって言ってる事が何よりの証拠よ!! レインヴァルト様は貴女のじゃない! 貴女になんて渡さない! 私のよ!! 私と生きるの!!!!」
そこまで叫んだ後、何故か悪役令嬢は殿下に抱き締められてイチャイチャし始めた。
──はぁ? 何なの? 本当に何なの? 私の目の前で何してんのよ。
殿下は私のだって言ってるでしょ!
私は体を震えさせながら叫んだ。
「な、なんなのよーー何で私の目の前でイチャつくのよ!! こんなの私の知ってる世界じゃ無いじゃないの!!」
「当たり前だ、お前の知ってる世界なんてものは存在しない。お前はフィオーラが1年以内に死ぬ運命だと言ったな? それはお前の知ってる世界の話なんだろう? 仮にそんな世界が本当にあったとしても俺が覆してみせる」
え、やだ。殿下がおかしな事を言っている。これはホントにバグってるんだわ!
運命を覆す? 何を言ってるの? 私の世界なんだから、そんなこと出来るはずないのに……
だけど、殿下の目は本気で……
なら、せいぜい悪あがきをすればいい。どうせ無駄に決まってるもの。
そう思っていたら殿下はまたおかしな事を言い出した。
「現実を見ろ。今のお前には何も無い。追って正式にお前には沙汰が下される。学園はもちろん退学。ヒューロニア男爵家からも追放し、平民となって国境外れにある修道院へ送られる。二度と王都への立ち入りは許されない」
退学? しかも追放されて平民になるの? 修道院って私が? 何でそんな所に行かなくちゃなんないのよ!?
ロイ様たちはどうなるのよ!? ヒロインの私が皆の前から居なくなるなんてストーリーが破綻しちゃうわ。そんな事になったら私も彼らも幸せになれないでしょ?
「……アイツらもアイツらで処分が下される。今、全員を事情聴取している所だが、ロイとハリクスは謹慎していて、ラルゴは教師をクビになった所だ。ロイ達も退学は免れない。そして、お前との面会は生涯にわたって禁止だ」
さすがに、その話には愕然としたわ。
しかも、あの3人にも処分が下されて私とは二度と会えない?
嘘でしょう? これって、新たなバッドエンド?
ゲームで見たバッドエンドとも違うバッドエンドよ。より酷いわ。
「どうしてよ……私は何も間違えてなんかいないのに……」
気付いたらそう口にしていた。
悔しい。
理由は分からないけど、私はきっと悪役令嬢に負けたんだわ。
こんな死ぬだけの運命の女に。
まぁ、いいわ。どうせこの女はもうすぐ死ぬはずよ。
それだけは変わらないでしょ。
だから、優しい私は最後に忠告だけしてあげるわ。
「ねぇ、フィオーラ様?」
「?」
悪役令嬢は何事かと首を傾げている。
殿下も警戒の目を向けてきたわ。腹立つわね。
「貴女はレインヴァルト様の手で処刑されるの。あぁ、でも今はこの可能性は低いのかしら? なら、あの何とかって名前の病気で命を落とすのかしら? それともー……」
「やめろ!!」
レインヴァルト殿下が怒鳴って遮ったので最後まで言えなかった。
けど、いいわ。
悪役令嬢がどんな事があっても死ぬ運命である事は伝わったはずだもの。
「フィオーラは死なない。俺が絶対に死なせない」
「…………そうですか。それは残念ですね」
まだ言うのね。本当に無駄なのに。
何で分からないのかしら?
ならば、私は修道院で、悪役令嬢の死の知らせを楽しみに待ってるわ。
そんな気持ちで寄り添って牢屋から出ていく2人を私はじっと見ていた。
──この時の私はそう思っていられたわ。
だって、自分が入るという修道院の事を知らなかったから……
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