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2. 敵対する家
しおりを挟む「フリージア様、またお手紙です」
「また?」
「えぇ、また……です」
そう言われて私は仕方なくメイドから手紙を受け取る。
今世の私、フリージア・キャルンは侯爵令嬢。
15歳になったばかりの私には、こうして求婚の手紙が届くようになった。
「お父様は何て?」
「フリージア様の好きにしなさい、と」
「そう……そして続く言葉はいつものあれね?」
「はい」
私とメイドは声を揃えて言う。
「「ディギュム家の者でなければ構わない!」」
お決まりとなったいつもの台詞に何だか笑ってしまう。
(前と違って婚約を無理強いされないだけいいわ)
「お父様は本当にディギュム家の事が嫌いなのね」
「身分は同じ侯爵家で政治的にも対立していますからね。ディギュム侯爵家にもフリージア様と同じ年頃の令息がいらっしゃいますから警戒しているのでしょう」
これも何度も何度も言われてきた話。
「ディギュム侯爵家の令息ってお父様が徹底的に避けて来たから、これまで一度も顔を合わせた事が無いのよ? ある意味凄いわよね。えっと、名前はルーレット様だったかしら?」
「ルーセント様ですよ! 娯楽と一緒にしてどうするんですか!」
「え? あはは、ごめんなさいね、ルーセント……そう、ルーセント様ね」
私としてはディギュム家に対して何の思いも無いのだけれど、とにかくお父様は向こうの事を毛嫌いしていた。
「フリージア様。ここだけの話ですが──」
「?」
「両家の対立は政治的な事だけでは無いなんて話もあるんですよ?」
「え?」
ふふふ、と笑うメイドのリリィ。
彼女はとても噂好きで、たまにビックリするような話を仕入れてくる。
「政治的以外だと何が理由なの?」
「ふっふっふ! そんなの決まってます! 色恋ですよ、色恋! 色恋沙汰です」
「……」
(いつの世も、色恋沙汰とは面倒事しか生まないのね……)
かつて色恋沙汰で命を落としている私はそんな事を思ってしまう。
「何でも……旦那様と向こうの当主が奥様を巡って争ったとか何とか……」
「お母様を?」
「そうなんです! 奥様はとても美しい方でしたから」
「……」
私は早くにお母様を亡くしていて、実はあまり記憶が無い。
「フリージア様は奥様そっくりですからね! 求婚者が多いのも分かります」
「……違うと思うけど? 皆、私がキャルン侯爵家の娘だからよ」
「そんな事ないですよーー」
リリィはそう言ってくれるけれど、私は言い寄られても困るだけ。
(私の心はデュカス……彼への想いでいっぱいだから)
きっと、きっとまた、めぐり逢えると私は信じている。
「あ、でもフリージア様。さすがに学院に入学したらディギュム侯爵家のルーセント様とも顔を合わせる事になると思いますよ?」
「え?」
リリィのその言葉にそうだったわ、と思う。
この国では15歳になると、貴族の子女は学院への入学が義務付けられている。
私はもうすぐその学院に入学する。
「そうよね、パーティーや舞踏会は避ける事が出来ても学院だけはどうしようもないものね……」
「そういう事です」
リリィはウンウンと頷いた。
「ルーセント・ディギュム侯爵令息……」
(どんな人なのかしら?)
何故かは分からない。
だけど、この時の私は同じ侯爵家の子女でありながら、一度も面識の無い彼に不思議と興味を引かれた。
(目の敵にされないと良いのだけど……)
「フリージア様の入学の年は賑やかになりそうですね~誰もが知る敵対している侯爵家の令息令嬢に、果てはこれまた何故か人前に全く出て来なかった王子様まで入学するんですから!」
ルーセント・ディギュム侯爵令息の事を考えていた私は、この時のリリィの話を全く聞いていなかった。
◇◇◇
そうして、私は貴族学院の入学の日を迎えた。
「はぁ……」
学院に着いて馬車を降りた後、校門を潜りながら私は大きなため息を吐く。
入学式だと言うのに朝からすでに私は疲れていた。
「お父様ったら……!」
何に疲れていたのかと言えば、これまであまり私の交友関係においてとやかく言ってくる事の無かったお父様が今日に限ってはしつこかったから。
『───いいか! ディギュム家の息子とだけは絶対に絶対に口を聞いてはならん!』
「……無茶を言わないで欲しいわ」
クラスが違えばまだ何とかなるかもしれないけれど、万が一、同じクラスだった場合はそんな言付けは守ってなどいられない。
「本当のところ、何の理由で敵対してるのか知らないけれど、子供を巻き込むのだけはやめて欲しいわ」
「同感だ」
「でしょう? しかも、理由の一つはお母様を巡って争った? それもどうなのって話よ! まだ政治的に対立しています、という方が何倍もマシよ」
「同感だ」
「そうよねーー……」
(…………んん?)
さっきから私の独り言に相槌が聞こえた気がする。
と、言うか自然と会話をしていたような……
そう思って私はピタッと足を止める。
「ん? 何で急に足を止める……?」
やっぱり誰かいた!
「さ、さっきから、だ、誰ですか!?」
私は慌てて振り向いた。
そしてビックリして言葉を失う。
(────え!?)
「あー……初めまして、フリージア・キャルン侯爵令嬢。驚かせてすみません」
「……」
「俺は、今あなたが独り言を呟いていた話題のルーセント・ディギュムです」
「……」
そう言って目の前に現れた彼は私に向かってペコリと頭を下げた。
「……」
私が驚いて言葉を失ったのは、彼が口を聞くなと厳命されていたルーセント・ディギュム侯爵令息だったからでも、何故かその彼と自然と会話していたからでもない。
───デュカス!!
私は目の前の彼に向かって、思わずそう叫びそうになった。
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