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第1話
しおりを挟む──その日、それを見つけたのは本当に偶然だった。
「……? 何コレ、手紙?」
シュテルン王立学校の図書館にあった誰も読まなそうな、とある本を手に取った時、本の隙間から封をされていない手紙が落ちてきた。
慌ててそれを拾いあげる。
宛名、差出人共に真っ白だった。
「……中身見たらまずいかな……でも、誰の物か気になるし」
ちょっとだけ申し訳ないなと思いつつも、でも好奇心には勝てず私は心の中で盛大に謝りながらその手紙を開封した。
「へ?」
私は思わず間抜けな声を出していた。
なぜなら、その手紙に書かれていた事は予想していなかった内容だったから。
『この手紙を見つけてくれた方へ
シュテルン王立学校の膨大な図書館の本の中から、よくもまぁ、こんな誰も読まなそうなこの本を手に取ったあなたはきっと相当変わり者です……』
その手紙はそんな書き出しだった。
「……何か腹立つわね!?」
変わり者って何だ!!
そんなマイナーな本にこんな、意味の分からない手紙を挟んでる筆者の方が変わり者よ!
と、見ず知らずの筆者に声を大にして言いたい。
が、それは虚しい事なので、とりあえず先を読み進める事にした。
『──そこでです! もし、あなたさえ良ければですが、この本を介して私と文通しませんか?』
「はぁ?」
何だそれ。文通? ますます意味が分からない。
『私はこんな本を手に取ったあなたともっと話がしてみたいのです。もし良ければこの本に返事の手紙を挟んでくれると嬉しいです』
「ん~?」
孤独か? 孤独なのかな、この人?
そんな失礼な事を考えてしまう。
だけど。
何だか私もこのバカげた手紙を書いた人の事が妙に気になってしまった。
だって、この人がこんな手紙を挟んだ本って……
『農業の基本』
って本なんだもの。
基本よ基本。農業改革とかならともかく、これは基本。入門編。
このシュテルン王立学校で、農業の基本を学ぼうという人間はそうそういないと思うの。
そんなの私くらいなものよ!
──私の名前はアリアン。
この国で有名な15~18歳までの男女身分を問わず試験さえ突破出来れば誰でも通える、シュテルン王国唯一の王立学校の3年生。
何故この学校が有名なのかと言うと……
このシュテルン王立学校はとにかく未来の優秀な人員育成を目的としていて、その為、入学試験はとても厳しく、試験を突破し学校に入学出来た者はそれだけで将来のエリートコースが約束されている。
そんな王立学校に入学した者達は、将来のエリートコース特典だけでなく、もう1つ目指すものがある。
それが、首席で卒業すること。
ただでさえ、優秀な人材ばかりの学校の首席卒業。
それは最も優秀だと認められたようなもの。
そんな首席卒業者には、卒業時に国王陛下から何でも1つ願いを叶えて貰える、という褒美がある。
この陛下からのご褒美のおかげもあってとにかくこの学校は有名なのだ。
「ま、私みたいな落ちこぼれには首席卒業なんて関係ないけどね!」
私、アリアンは平民だ。それも田舎の農家出身。
だけど、農家の仕事も手伝わず本を読んだり勉強する事が好きだった私に、両親が突き付けたのが、このシュテルン王立学校の入学試験を突破してみろ! だった。
万が一、合格したら家業は手伝わず好きな事を仕事にしていい。
だが、ダメだった場合は、いい加減家業を手伝え! というわけ。
そして、何がどう奇跡が起きたのか……
「受かっちゃったのよねぇ……」
本当に世の中は何が起きるのか分からない。
そして、最終学年となった今、私は進路に悩んでいた。
私はこの学校でかなりの落ちこぼれだ。
成績も下から数えた方が早い。
さすが、将来のエリートの集まる学校だと入学してすぐに思わされた。
けれど例え落ちこぼれでも、就職先はある。
シュテルン王立学校の卒業生というだけで進める道は沢山だ。
でも、私は今になって家業の事が気になってきてしまった。
私は何も知らずに“何となく嫌だ”そんな気持ちで家から逃げただけなんじゃないかって思うようになった。
だから、知ろうと思った。
今まで全く知ろうとも思わなかった農家の事を。
だけど、何の知識もない私にはまず基本からだ。
──そう思って手に取った本だった。
「まさかとは思うけど、この人も農業に興味あるんじゃ……」
そんなちょっとした興味本位で私は返事を書いて本に挟んでみた。
返事が無ければ、ただのイタズラだったと思えばいい。
向こうも名前は書いてなかったし、私も書いてない。だから素性がバレる事は無い。
この手紙が古いもので、筆者が既に卒業生だったら……なんて事も頭を過ぎったけど、よく見たら最後の最後に、こりゃまたご丁寧に手紙を書いた日付が残されていた。
……わりと最近だった。
そうして1週間後、私は再び図書館で例の本を手に取った。
ドキドキしながらページを開くと、
本の中に手紙が一通。
「……あ!」
私の書いた返事の封筒とは違う手紙が挟まっていた。
返事だわ!!
そう思っていそいそと開封すると、
『返事をありがとう。まさか、返事が貰えるなんて思ってもみなかったので驚いています──』
そんな書き出しで始まる手紙が挟まっていた。
「ふふ! まさか本当に返事が来るなんて!」
私は面白くなって、また返事を書いて本の中に挟み込んだ。
───こうして、私と名無しの権兵衛さんとの秘密のやり取りが始まったのだった。
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