【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea

文字の大きさ
10 / 26

第9話

しおりを挟む


「……分かっていた。こういう事だろうと分かっていたのに……いったい私は」
「旦那様(仮)?  どうかしましたか?」
「…………何でもない」
「??」


───

   
 旦那様(仮)は、突然訪ねて来た私を追い返したりせずに、真っ赤な顔のまま部屋に入れてくれた。

「アリス……その、私を癒すと言うのはどういう……?」

 そう訊ねてくる旦那様(仮)に私はにっこり笑ってこう言った。

「ベッドにうつ伏せになって下さいませ」

 ───と。
 旦那様(仮)は表情こそ戸惑っていたけれど「分かった」と即答してベッドに向かうと、そのままうつ伏せになってくれた。


───


 メイドの助言を受けて私がこれから旦那様(仮)にしようとしているのは“マッサージ”
 癒しと言ったらこれしかありません!  とメイドは言っていた。

「そうですか?  では、マッサージされたいご希望の箇所があったら仰って下さいね?」
「……あ、あぁ!」
「あの、旦那様(仮)!  私、けど、旦那様(仮)の為に頑張りますから」
「しょっ!?」

 そう言って私はがんばるぞ~と、腕を捲る。
 だけど、私の発した“初心者”という言葉に旦那様(仮)が大きく反応して、ベッドから勢いよく起き上がると慌ててこちらに顔を向けた。

(あら?  赤かった顔が今度は青くなっているわ?)

「ま、ま、待て、待つんだ。待ってくれ!  アリス……しょ、初心者だと!?」
「ええ、マッサージするのは全くもって人生で初めての事ですわ!」
「しかも、初めてか!」
「はい!  ですから、とてもドキドキしていますわ!」

 私は笑顔で答える。

「ご安心下さいませ!  メイドからしっかり教わりましたから。バッチリでしてよ!」
「安心……しろ、だと?  (か、壊滅的に不器用なアリスだぞ?)」
「はい!  旦那様(仮)の為に、たくさん練習しましたの。ですから、さぁ!  もう一度ベッドにうつ伏せになってくださいませ!」
「うっ!  ……私のため……にわざわざアリスが……練習……」

 ポソポソと何かを呟いた旦那様(仮)は、少しだけ躊躇う様子は見せたものの大人しくもう一度ベッドに向かいうつ伏せになってくれた。

(……よしよし、いい感じよ!)

「それでは、旦那様(仮)!  行きますわよ、覚悟なさいませ!」
「覚悟っっ!?  ちょっと、やっぱり待っ……アリス!!」

 えいっ!  という掛け声と共に私は、まず旦那様(仮)の肩に手を置いた。
 ───ゴリッ

(あ、硬い!  これはもっと、力が必要ね……!)

「えいやっ!」
「うわぁぁぁーーーー」

 その時の旦那様(仮)  の叫び声は屋敷内にとてもよく響いた。


───


「全く!  てっきり、刺客か何かの襲来かと思えば……まさかのマッサージ!」
「「……」」
「何処までお騒がせ新婚夫婦なのですか!  癒しの時間を持つ事はいい事ですし、お二人が仲良しなのはよーーく分かりましたから、周囲がびっくりするので少しは自重してください」
「「……はい」」

 旦那様(仮)の叫び声を聞いて何事かと駆け付けてきた老執事(73歳)。
 おかげで私達は二人揃ってこってり絞られてしまった。
 全く坊っちゃまは……!  と特に旦那様(仮)の方が責められてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

(あまりにも旦那様(仮)が硬すぎて、ついつい力が入り過ぎてしまったわ……)

「ごめんなさい。力加減って難しいのですね……メイドは女性だけど、旦那様(仮)は男性なのでもっと力を入れるべき!  と張り切ってしまいましたわ」
「アリス……(淑女とは程遠い力だったぞ……)」
「でも、旦那様(仮)は、とても硬かったです。やっぱりお疲れなのですね……」

 私がそう言うと、旦那様(仮)も自覚はあるようで……

「そうだな。何かやらかさないだろうかと、いつでもどこでも気になって気になって……おかげで眠りも浅くなっている自覚はある。疲れてはいるな」
「まぁ!」

(やっぱり、王女様の事を考えて……そして、睡眠までもが犠牲に!)

「(王女様って)そんなにお転婆なのですね……」
「あぁ……(君は)無自覚のようだがな」
「それですと、付き合う旦那様(仮)は大変じゃないですか……」

(それは疲れも溜まるはずだわ……)

「いや?  私はそこが(君の)良い所だと思っているよ」
「!」

(どんなに自分が振り回されても、それを相手の長所だと捉えていると……?)

「お転婆でもいいじゃないか。立場上、周りは咎めようとするかもしれないが、楽しそうに笑っているのを見ると私の胸は、こう……ポカポカと温かくなるからな」
「まぁ!」

 そうなのね……旦那様(仮)は、きっと王女様のそういう、お転婆な所もお好きだったわけね。
 私は旦那様(仮)の王女様への愛の深さを知る。

(一途……一途だわ!  素敵!  私はこういうのを求めていたのよ!!)

「……愛ですね」
「愛?」

 私が微笑みながらそう呟くと、何故か旦那様(仮)は驚いた反応をする。
 そして、少し呆然としたように呟く。

「これが…………愛?」

(あらら?) 

「私は愛だと思ったのですが……違うのですか??」
「……つまり、私は……(君を)愛して……る?」

(もしかして、旦那様(仮)……王女様の事は“好き”だったけれど、それが“愛”だとは思っていなかったのかしら?)

 私は目を伏せる。 
 でも、残念ながら今更、その気持ちを自覚しても遅い。
 王女様の婚約は国同士の関係も絡んでくる話。
 今更、無かった事にはならないもの。

 ────そう……“余程の事”がない限り。

(あぁ!  今更、そんな深い気持ちを自覚してしまうなんて!  旦那様(仮)ったら、お気の毒すぎるわ……)

「そういう事に……なるのかもしれませんね」
「そうか……そうだったのか。これが愛……」
「愛ですわ」

  私がキッパリ答えると旦那様(仮)。

「だが……(好きな)相手もいるようだし、私の気持ちは今更、迷惑だろう?」

 などと悲しそうに言った。

(あぁ、またしょぼくれたワンコ旦那様(仮)に戻ってしまったわ!!)

「今更だなんて!  想うのは旦那様(仮)の自由ですわ」
「!」
「そういう愛もあっていいと思いますのよ」
「アリス……!  では、私は無理に諦めなくても……いいのか?」
「もちろんですわ!!  ───って、えぇえ!?」

 何故か、旦那様(仮)が私の腰を抱き寄せて、また抱きしめてくる。

(何でまた!?)

「アリス……」
「!?」

(どうして、ここで私の名前を呼ぶの!?  違うでしょーー)

「……アリス……今夜は隣りで眠ってくれないか?」
「!?」

 旦那様(仮)の爆弾発言が降って来た。

「な、な、何を!?  私達は……白い……」
「あぁ。誓って(今はまだ)手は出さない。だが……(愛しい)君が隣にいてくれたらぐっすり眠れる気がするんだ」
「っ!」
「それに、今夜は私を“癒し”に来てくれたんだろう───アリス?」
「うっ!」

(そ、それを言われると!!)

「アリス」
「……」
「アリス」
「~~~!!」


 こうして、この夜。
 確かに、手は出されなかったけれど、旦那様(仮)の隣で眠る事になった。

(……お飾りの妻とは??)

 心臓がバクバクして、なかなか眠れなくてたくさんぐるぐる悩んだけれど、答えは出なかった。
 ちなみに、旦那様(仮)は、相当の寝不足だったらしく、こっちの気も知らずに本当に直ぐにスヤスヤと寝入ってしまう。

「…………もう!  ギルバート様のバカ!」

 何だか負けた気持ちになったので、スヤスヤ気持ち良さそうに眠っている旦那様(仮)のほっぺたをこっそりつねってあげた。


 ようやく自覚した夫と、無自覚・勘違い妻のすれ違いは続く……

しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます

さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。 パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。 そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。 そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...