16 / 26
第13話
しおりを挟む「────と、言うわけですの!」
「……」
「サティさんには悪い事をしてしまいましたわ。後でリエナに聞いた所によると、何やら一生懸命、私に話しかけてくれていたそうなんです」
「……」
「なのに、私ったら丸っと無視してしまって……」
どおりで二人揃って変な顔をしていたわけですわ。
なんて感じの悪い女だった事か……
(向こうは私が作者だとは気付いてないでしょうが、せっかくの読者さんでしたのに)
あの後、サティさんが足早に去った後、リエナが困った顔をして教えてくれた。
奥様、全く話を聞いていなかったんですよ、と。
すごく一生懸命話かけていましたよ、と。
「もし、またどこかでお会いする事があったら、改めて謝罪しないといけません」
そこまで言って、わたしはふぅ、とため息を吐きながら旦那様(仮)の方を見る。
何だかバタバタした一日を終えて、夜がやって来まして!
ようやく旦那様(仮)に説明という名のお話をする機会がやって参りましたので、私は自分のお仕事を明かすと共に日中にあった話を旦那様(仮)にしている所。
今夜は私が旦那様(仮)の部屋を訪ねますの、と言った時のリエナを初めとしたメイド達の顔は凄かったわ。
それまでは和気あいあいとしていたのに、私がそう告げた瞬間、皆、急に真面目な顔つきになって頷きあったと思ったら、そのまま、あれやこれやと湯浴みに連れて行かれて全身ピッカピカに磨かれましたわ……
(…………おかげで肌がかつてないほどスベスベしていますわ!)
普段から感じていたけれど、さすが伯爵家! 貧乏男爵家とは大違い。
────って、違う違う。
今はそんな事を考えてる場合ではなくってよ!
気になるのは旦那様(仮)の反応ですわよ!
「……」
「……」
(ええと、旦那様(仮)さっきからずっと無言なんだけど……)
「……だ、旦那様(仮)?」
「……」
(はっ! まさか具合が悪いのかしら!? それはいけない!)
とにかく先程からずーーっと無言なので、具合が悪いのか否かも含めて確かめようとそうっと旦那様(仮)の顔を覗き込もうとしたら……
「アリス!」
(──!?)
目が合った旦那様(仮)は、私の両肩に手を置いてガシッと掴む。
そんなに力は強くないけれどびっくりした。
「は、はい!」
「君の仕事は小説家!?」
「は、はい」
私はコクコクと頷く。
「…………だから、すぐ妄想の世界へ旅立とうとするのか……よく理解した」
「うっ!」
「……なんと言うか……とてもとてもアリスらしい。ようやくしっくり来た気がする」
「旦那様(仮)……」
(私らしい、と言われるのは嬉しいですわね……)
嬉しくて私の頬が緩む。
だけど……
少しだけ旦那様(仮)が掴んでいる両肩に力が入る。
「だが、アリス。しっくりは来たのだが……そうなると私には大きな疑問が残るのだが?」
「まぁ!」
(なんて事! それは何かしら?)
「なぁ、アリス。アリスの書いているのは恋愛小説だと言っていたな?」
「ええ! 揺れ動く乙女の恋心が“胸キュン”を誘い人気だそうですわ」
「そうかそうか…………胸キュン」
「ええ、胸キュンですわ!」
私が胸を張って答えると、旦那様(仮)は、何故か大きなため息を吐いた。
(……??)
「ならば、聞きたい。アリスは恋愛小説を書いているのに、何故……何故、そんなにも鈍感なんだっっ!!」
「……はい?」
(鈍感? 私が??)
よく意味が分からなかったので首を傾げる。
「ダメだその顔。分かっていないようだ…………知らなかったよ……妄想力というのは鈍感ささえも超えていくものだったのか……これも才能の一つなのだろうな」
「ありがとうございます?」
よく分からないけれど、お礼を言ってみる。
「だがな、アリス!」
「はい」
「街で会ったという、君の書いた話の登場人物のそっくりさんだと言う“澄んだ青い空のような髪の毛”を持つ男は怪しい」
「え?」
「どこからどう聞いても、胡散臭過ぎるだろう?」
「ええ!?」
(胡散臭い……? サティさんが?)
「アリスの言う通り、シチュエーションだけでなくセリフまで同じならば、きっと君の書いた小説のファンではあるのだろう……(多分)」
「まあ! ファンなんて初めてですわ! 第一号ですわね!!」
私が驚きながらも、“ファン”という響きに嬉しくてはしゃぐと、旦那様(仮)が渋い顔をする。
「アリスの喜びたい気持ちは尊重したいが、そんな何もかもが一致する偶然があるなんておかしい……たいていは真っ先にそう警戒するだろう?」
「そうなのですか??」
でも、サティさんは盗人からリエナのお財布を助けてくれたわけですし……
「うーん、ちょっと軽そうで、無駄に愛を振り撒いて、後から隠し子がポコポコ発覚したりして、多くの女性を泣かせていそうな方でしたけど、きっと悪い方ではありませんわ!」
「待て待て待て! それは、充分、悪い男だろう!!」
「え? あ、そうです、ね……?」
「手当り次第、女性に手を出すような男が悪ではなくてなんだと言うんだ!」
旦那様(仮)は憤慨する。
「アリス! アリスはその男に触られて……」
「いえ、指一本触れておりませんわ。妄想の世界におりましたから」
「……本当にアリスらしいな、だが……そんな所がまた、か……」
「か?」
「……か」
(…………旦那様(仮)??)
旦那様(仮)は、突然そこで言葉を詰まらせると一気に顔が真っ赤になって、ワンコになった。
「え!? 旦那様(仮)!! お顔が真っ赤ですわよ!?」
「…………っっ」
私の言葉に更に真っ赤っかになる旦那様(仮)……
「こ、これは! まさか旦那様(仮)……あぁ、すみません、私、ずっと気付かなくて……」
「……アリス? その反応! まさか、ようやく……気付いてくれたのか?」
「はい! 申し訳ございません、私ったら……なかなか気付けなくて……」
なんて事なの……私はそっと目を伏せる。
「……いや、アリスに伝わったのなら、それだけで充分だ。この関係を変えるのも私はゆっくりで構わな───」
「ええ! ばっちり伝わって来ましたわ! またしても具合が悪かったのですよね……?」
「…………え?」
「!」
大変です! また顔色が……!! 赤色と青色で紫色!!
「これはもう、かなり熱が上がってしまったに違いありませんわ! そんな体調だったことに全く気づけなくて申し訳ございませんでしたわ。さぁさぁ、お話はここまでにしてお休みになってくださいませ!!」
「……は? 気付……え? 私の、気持ち……」
旦那様(仮)が何かを呟いているけれどそれ所では無い。
今は一刻も早く休ませないと! 紫色なんて普通ではないもの。
心配になった私はそのままグイグイと旦那様(仮)を引っ張ってベッドに寝かせようとする。
ベッドに寝かされた旦那様(仮)がちょっとオロオロしながら言った。
「ア、アリス……君は(その鈍さで)ほ、本当に恋愛小説を書いているのか……!?」
「?? こんな時に何を言っているんですの? まさか、疑っているんです!?」
「そ、そういう意味では……」
何度か焦る様子の旦那様(仮)……
「えい! 今度発売する予定の新刊がありますので、プレゼント致しますわ。なので、本日はこの話はここまでです!!」
「い、いや、だから……待っ」
私はちょっと強引に旦那様(仮)を寝かしつけようとした。
168
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます
さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。
パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。
そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。
そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。
旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。
海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。
「君を愛する気はない」
そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。
[登場人物]
レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。
×
セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる