【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

文字の大きさ
11 / 57

11. お父様の望みは

しおりを挟む


  殿下と話をしている最中にお父様が仕事から戻って来た。どうやら珍しくお仕事が早く終わったらしい。
  そして、王宮からの“本日の使者”が来ていて私と対峙していると知ったお父様は、私に加勢する気満々で部屋に飛びこむようにやって来た。
  だけど……
  そこで見た光景は、ちょっと近い距離で手を握り合っている私とシオン殿下の姿。
  部屋に飛び込んで真っ先にその光景を見たお父様は「でんっ!?  な……こ?  こ、これはどういう状態なんですかーー」と大きな叫び声を上げた。



  興奮したお父様をどうにか落ち着かせて、私達は腰を落ち着けた。
  これはきちんと色々話をしないといけない。

  そしてシオン殿下は早速、お父様に向けて私に求婚した事を告げた。

「───えっ!  フレイヤに求婚……した、ですと!?  殿下……が?」
「はい。今は、彼女の返事待ちですが」
「返事待ち……」

  (ひっ!?)

  シオン殿下が頷きながら発したその言葉を聞いたお父様がグルンッと凄い勢いで横にいる私を見る。
  その目が怖い……
  とりあえず、私は余計な口は挟まずニコッと笑って誤魔化した。
  お父様はまたグルンッと首を戻すと、今度は殿下の顔を見た。

「で、殿下!  私は確かに“フレイヤの力になって欲しい”と貴方様にお願いはしましたが……!」
「ああ」
「ですが!  その為の対価は既に……」
「ああ、ありがとう。おかげで動きやすくなる」
「それは、大変喜ばしい事ですが、フレイヤへの求婚───」
「公爵、もちろんフレイヤ嬢は僕が全力で守らせてもらう」

  少し強めの口調で遮った殿下の言葉にお父様はなんとも形容し難い表情を浮かべた。


────

  
  殿下との応酬に頭痛が起きたらしいお父様は「薬を飲んでくる」と言って席を外す事になった。
  頭を抱えて、どこかフラフラした足取りで一旦部屋を出ていくお父様の背中を私は心配の目で見つめた。

  (婚約に関しては、お父様全力で渋っていた、わね?)

  お父様が殿下にお願いした“力になって欲しい”とは何だったの?  
  あれは、もしかして“娘と婚約して守って欲しい”という意味では無かったの?  私はそう解釈したのだけど?
  私の頭の中は混乱していた。
  お父様は次の婚約者候補は確実に探していたと思うけれど、“エイダン様の圧力に~”と言っていた今朝のあの言葉の続きは別にシオン殿下の事ではなかったのかも……とすら思えて来る。
  いえ、むしろ単純に仲間欲しい……という意味だった?

  そんな風にぐるぐる考えていた私に向かって殿下は言った。

「公爵のあれは“どうか娘と婚約してくれ”という意味ではなかったんだなぁ」
「……みたいですね。驚きました……」
「僕もだよ」

  私達は目を合わせた後、静かに頷き合う。

  (……やっぱり殿下だってそう思うわよね……)

  なぜなら公の場で、しかも王太子殿下に婚約破棄された私。当然ながら次の縁談の話は難しい。
  そんな時に手土産と共に“娘を助けて”と言われたら誰だって勘違いするわよね。
  私は目線をそっと落とし、小さくため息を吐く。
  すると殿下がうーんと唸りながら口を開いた。

「そうか……きっと、公爵は出来る事なら君に幸せな結婚をして欲しいと思っているのだろうね」
「え?」

  その言葉に私が顔を上げると殿下は私に柔らかい微笑みを向ける。

「ほら、フレイヤ嬢、君は生まれた時からほぼ運命が決まってしまっていただろう?」
「ええ……」
「その運命、公爵は本当は不満だったんじゃないかな、と僕は思う」
「不満……お父様が、ですか?」
「そんな形で結ばれた婚約でも、君がエイダンと幸せになれるなら……と思っていた。でも──」
「……」

  私が黙り込むと殿下は、じっと私の目を見つめた。

「だからこそ、自分の可愛い子供には今度こそ幸せになって欲しいと願っているんじゃないかな」
「……」
「王家に縛られず今度は、心から想い合う人と幸せな結婚を……とね」
「心から想い合う人……」

  それはエイダン様があんな風に私を陥れてまで、ベリンダ嬢と結ばれたいと願ったような気持ち……?
  それが愛?

  (ダメだわ。私にはよく分からない気持ちだわ)

「公爵が愛妻家だったと言うのは、僕も話に聞いた事がある」
「……はい」
「フレイヤ嬢に似ている……のかな?」
「───お母様……生前の母の姿を知っている人は皆、そう言いますわ」

  私はお母様のことを知らない。
  お母様は私を産んでから、体力が戻らずそのまま亡くなってしまったから。
  そしてお母様の事を深く愛していたお父様は、どんなに周りにすすめられても絶対に再婚をしなかった。
  「愛する妻の忘れ形見の息子と娘は私の手で育てる!  妻とそう約束した」と皆の前で言い切ったとかなんとか。

「フレイヤ嬢の母君でかつ、あのポヤンとした公爵の奥方だからなぁ……実に強そうだ。ぜひ会ってみたかった……」
「…………シオン殿下?  それ、どういう意味ですの?」
「っっっ!  フ、フレイヤ嬢……そ、その笑顔は……ちょっ……と怖……い、かな」
「!」

  私がニッコリ笑顔で問い詰めると、殿下の顔が引き攣っていて少し脅えている。

  (あら?  ちょっと可愛い……)

  よく分からないけれど、こんな事で脅えた姿を見せてくれるなんて……
  …………覚えておきましょう!  と、私は密かに心に留めた。

  そんなやり取りをしていた所にお父様が戻って来る。そして私達を見て何故か直ぐに眉をひそめた。

「……なんなのだ?  この雰囲気は……」

  (雰囲気?)

「……フレイヤ嬢と婚約者同士(予定)の語らいをしていました!」
「は?  ────殿下!」
「え?」

  シオン殿下が爽やかな笑顔でおかしな事を口走ったので、私は慌てて殿下の口を塞ごうと彼に飛び付く。

「フレ…………んぐっ!?」
「もう!  変な言い方をしないで下さいませ!  私はまだ…………っ!?」

  あなたの婚約者となる事に頷いた覚えは───……
  そう言おうとしていたのだけど、私の目の前でお父様が「ちょっと目を話した隙に……ふ、二人の距離が更に縮まって……うぅ……」と泣き出した。

  (ええー!  お父様!?)

「分かっている。フレイヤが幸せなら……望むなら相手が王子でもいいんだ……王子でも」
「……えっと?」
「ングッ!  ンンーー(フレイヤ!  手を離してくれーー)」

  ど、どうしよう……

「そうだ。とにかく相手があのエイダン殿下阿呆王子でなければ……いいのだ」
「お、お父様……」
「シオン殿下は適任だ……適任だとはわかっている…………が!」
「ンーー!  (苦しいーー!)」

   室内は私の両手で口を塞ごれてモゴモゴして苦しそうなシオン殿下と、落ち込み出したお父様と、そしてオロオロする私……何とも言えない空気になってしまった。

  
◆◇◆


「────どういう事なんだっ!  もう一度説明しろ!」
「殿下……どう……とは?  説明しろなどと申されましても。とにかくフレイヤは……私の可愛い娘はもうこの家にはいません!」
「……なっ!」

  リュドヴィク公爵の言葉にエイダンは自分の耳を疑った。




  シオン殿下がリュドヴィク公爵家に使者のフリをして現れた日の翌朝。
  非常識ともとれる朝早くにリュドヴィク公爵家の前に王家の紋章がついたそれはそれは豪華な馬車が停まった。
  そして中から堂々と降りて来たのは、王太子エイダン本人。
  
  (───ついに来た!)

  公爵家の使用人たちはその姿を見てハッと息を呑む。
  そして思った。
  まさかで王太子殿下、自らお嬢様を連れ戻しに来るとは……
  ───なんて間抜けな王子なのだろう、と。



「これはこれは王太子殿下。何の連絡もせず……そして昨日の今日で……いったいこんな朝早くから我が家にどんな御用でしょうか?」

  王太子殿下の登場に、リュドヴィク公爵自らが王太子殿下を出迎えた。
  飄々とした態度の公爵に向かってエイダンはムッとして怒鳴る。
 
「リュドヴィク公爵!  何をそんなすっとぼけた顔をしている!  用件はただひとーーーつ!  何かは分かっているだろう?」
「はて?」

  公爵は首を傾げた。
  その態度にエイダンは更に苛立った。

「……貴様っ!」
「殿下。失礼ながら娘、フレイヤに頂いている話の件は昨日しっかりお断りさせていただきましたが?」
「あれで納得出来るか!  いいからフレイヤに会わせろ!  阿呆共では話にならなかったからな!  私、自ら話をする!  さっさとフレイヤの部屋に通せ!」

  (抵抗するなら無理やり……とにかく引き攣ってでも連れて帰ってやる!)

  そう意気込んだエイダンだったが、公爵は飄々とした態度を崩さずにエイダンに向かって言った。

「ですが……貴方様を部屋にお通しても、フレイヤはいませんよ?」
しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との
恋愛
「彼が亡くなった?」 突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。 「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて! 家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」 次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。 家と会社の不正、生徒会での横領事件。 「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」 『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。 人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました! なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...