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18. 決意
しおりを挟む「魔力が……」
はっきりそう口にされると、なんて口にしたらいいのか分からず、私は言葉を詰まらせた。
王族は誰であっても魔力は強い。それがこれまでの当たり前、だった。
なのに……シオン殿下は……
「僕がたまたま母上の血を濃く受け継いだからなのか……はよく分からない。そもそも前例が無いから」
「……」
「そんな僕の魔力は全く無いわけではないけれど、王家の人間としては……ね」
シオン殿下は、一応王子待遇を受けていられるのが不思議なくらいだよ、と、そんな悲しい事をどこか慣れた口調で話した。
(私、何も知らなかった……いえ、知ろうとしなかった)
国王陛下もそんな人だとは思わなかった。
男爵令嬢の側妃なんて有り得ない! という反対を無理やり押し切って側妃にするくらいアーリャ妃のことを愛していたのなら、どうして支えて助ける事をしなかったの?
アーリャ妃もシオン殿下も存在を腫れ物扱いにするのは、忘れられた事がショックだったから?
ショックだったのはシオン殿下だって同じよ!
シオン殿下を王位継承者にするのを嫌がるのは、殆ど魔力が無いから?
王位継承者として相応しいか否か判断するべき所はもっと他にもあるでしょーーーー!
(もう! 言いたいことがありすぎるわ!)
お父様が“色々あった”と言って詳しく語りたがらないはずよ……
(本当に愛だの恋だのという感情は人をおかしくさせてしまうものなのかもしれない)
──そう思った時、ふと考えた。
だけど、王妃様だけ何を考えているのかよく分からないわ、と。
夫となったばかりの陛下から、これまで前例のない男爵令嬢から“側妃”を迎えると聞いた時、どう思ったのかしら?
だって他に愛する人がいると堂々と宣言されたようなものだわ……
「……」
私は夫となるエイダン様に他に愛する人が出来て側妃を娶ると言われる日が来ても“覚悟するように”と言われて育った。政略結婚なのだから当然だと思え、と。
だからエイダン様が私を引きずり下ろそうとなど変な画策せずに、ベリンダ嬢を側妃として迎えると言っていたなら、複雑な思いはあれど受け入れて終わったはず。
おかしなことを言い出したから、今はこんな事になっているけれど。
でも、この教えが今の陛下の意向で始まったのなら、王妃様は私とは違って言い聞かされてなどいなかったはず。
(やっぱり複雑よね……?)
「……フレイヤ? どうかした?」
「あ、いいえ……そういえばエイダン様、確かに魔力“だけ”は……強い人だったな、と」
「そうだね。でも、魔力の扱いは上手くないと聞いたよ?」
「あー……」
私は苦笑するしかなかった。
確かにエイダン様の魔力は宝の持ち腐れみたいな状態だった。
「でも、今は昔ほど生活の全てを魔力に頼っているわけではないし、僕自身は特に困ってはいない。実際、国王にもそこまでの力は求められていない」
「そうですね」
シオン殿下の言うように、昔はともかく今は日常で魔力を必要とする場面はほとんど無い。
エイダン様ではなくシオン殿下を支持している人が一定数いることからもそれは明白だ。
(まぁ、それだけエイダン様が不安視されている……という事でもあるけれども)
「けれど、父上は根っからの魔力至上主義だからね」
「……そうみたいですね」
「それでも、エイダンに本当に跡を継がせていいのかと悩んでいる節があったから、その懲り懲りに固まった考えも少しは改めて考え直してくれるかと思ったけど、そんな簡単な話では無かったみたいだ」
「……」
シオン殿下はそう口にするとはぁ……と、深いため息を吐いた。
「父上がその気なら、僕も僕で好きにさせてもらおうかな──……」
「え? シオン、殿下?」
(好きにする? それって───)
「……父上には予定よりもかなり早い引退を願おうかな? と思ってね」
「!」
顔を上げてそう口にした殿下には先程までのどこか寂しそうな表情はもう無かった。
むしろ、今は覚悟を決めたかのような表情に見える。
思わずじっと見つめてしまっていたら、パチッと目が合った。
「……ちなみに、フレイヤは魔力の弱い僕はこの国の王になるには相応しくない、と思う?」
「まさか! そんなこと思いません!」
私は即答した。
即答したからなのかシオン殿下は笑顔を見せてくれた。
「はは、ありがとう」
(……あ)
でも、その笑顔が何だか小さな子供が、親に褒められて見せるような笑顔だったので胸がキュッとなった。
小さな子供みたい───そんな事を思ってしまったからなのか、私は自然とシオン殿下に近寄っていて気付くと腕を伸ばして殿下の身体を抱きしめていた。
「……え? フ、フレイヤ!?」
「……」
私は無言でギューッと殿下を抱き込む。
───エイダン様の理不尽な要求から逃れる為じゃない。
私がこの方を……これまでたくさん傷付きながらも生きてきたシオン殿下を支えたい!
今、心の底からそう思った。
「───魔力の強さも有無も関係ないです」
今、大事なのは魔力なんかじゃない。
息子の愚行一つ正せないような王様なんて……いらない。
「シオン殿下。私はあなたに“王”になって欲しいです」
「えっと? フレ、イヤ?」
「ですから、もしも今後、魔力が必要な時は私が必ずあなたの助けになります!」
「え? フレ……」
「───あなたの妃として!」
きっとシオン殿下は、正妃だの側妃だのといった変な決まり事だけでなく、この国の色々おかしい所を変えていきたいんだと思う。
でも、それはきっと簡単な道ではない。
けれど、今の国王陛下やエイダン様みたいな無神経な人達とは違って、シオン殿下はちゃんと人の気持ち考えて周囲の意見もきちんと取り入れて模索していける人だと私は思う。
だったら私はこの人に着いていくまでよ!
「ははは、それは心強いな」
「ええ! だから、シオン殿下は利用価値のある私を選んだのでしょう?」
唯一の公爵令嬢で、魔力も強く、何より王妃となる為に教育を長年受けてきた私だもの。
利用価値があるから私の元に来───
「え? 利用価値?」
「……え?」
何故かシオン殿下が変な顔になった。
まるで今頃、何かに気付いた……というような表情。
「……? どうしました?」
「え、あ……そうか……いや、そうじゃないフレイヤ、僕は……」
「?」
いったい突然どうしたのかしら?
と、不思議に思い私が首を傾げていると、なぜか今度は逆に私が抱きしめられた。
(ひゃっ!)
「シ、シオン殿下!?」
「……」
シオン殿下は無言のまま、それから暫くギューッと抱きしめたまま私を離してくれなかった。
◆◆◆
そして一方、意気揚々とフレイヤ探しの旅(無駄足)に出たエイダンは───
「────フレイヤを出せ! 隠しても無駄だ! この屋敷の何処かにいる事は分かっているんだ!」
リュドヴィク公爵領に到着するなり「早速、当主代理に挨拶だ!」などとそれっぽい理由を作り、すぐに公爵邸に向かった。
そこで挨拶も早々に偉そうに喚き散らし始めていた……
(ただの迷惑)
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