49 / 57
49. 初めての
しおりを挟むどうしてシオン様の顔がこんなに近付いてくるの?
それに、怒られるって誰に?
なんて思った時には、すでにシオン様の唇がそっと私の唇に触れていた。
チュッ……
初めて触れたそれは、そんな音を立ててすぐに離れてしまう。
「……」
「……」
私もシオン様も言葉を発せず、無言のままお互いの顔を見つめる。
(───シオン様の顔が真っ赤……耳まで真っ赤……だわ)
なんて思ったけれど、それは私もきっと同じ。
ジワジワと頬に熱が集まって来ている。
頬を押さえているとシオン様が笑いながら言った。
「……はは、フレイヤの顔が真っ赤になった……可愛い」
「っっ! だ、誰のせいですかっ!」
「……僕だね」
シオン様が照れたように笑う。
「フレイヤ」
「……え? きゃっ!」
名前を呼ばれたと思ったら、シオン様の私を抱きしめる力が強くなった。
「この間の夜這いの時もそうだったけど」
「はい……?」
夜這い?
一瞬なんのこと? と思ったけれど、夜、部屋に私が押しかけた日のことかと思い直した。
「フレイヤはもう少し、男心を理解した方がいい」
「男心、ですか?」
「君はいつだってそうやって真っ直ぐ向かってくるから…………その」
「その?」
私が聞き返すと、シオン様は小さく笑った。
「我慢が出来なくなるんだ」
「───え?」
そう言ってシオン様は、私の顎に手をかけて顔を上に向けせると、再び私の唇を塞いだ。
(……あ)
二度目のキスは一度目よりも甘くて長くて……ちょっと苦しくて。
でも、幸せの味がした。
(知らなかった、キスってこんなに甘いものだったのね……)
───……我慢が出来なくなるんだ。
そう言ったシオン様は言葉通り、たくさんたくさん私にキスをした。
「──ずっとこうしたかったんだ」
その言葉を聞いた時はもう胸のキュンが止まらなくなった。
(私、愛されている……)
そう実感し、うっとりした気持ちでいたけれど、そこでハッと気付く。
───清く正しく、節度を持って!
ポヤンとした顔のお父様の顔が脳裏をよぎった。
脳内のお父様はポヤンとしているのに何故か圧がすごい……
(そうだ!)
「…………シオン、さま」
「うん?」
「こ、これは、お父様たちの言っていた清く正しく……」
……チュッ
「ん……」
シオン様がやや強引に私の唇を塞ぐ。まるで、何かを誤魔化そうとするように。
「…………知られてしまったら、まだ早い! って、怒られるだろうね」
「シオン様……」
(怒られると言っていたのはお父様やお兄様にだったのね)
口ではそう言ったけれど、シオン様は甘い甘いキスを止めるつもりはなかったようで、私たちは王宮に着くまで何度も何度もキスをした。
(───これは何がなんでも内緒にしないと……)
お父様の目が開眼しちゃう……!
新しい国づくりが始まったばかりなのに世界が闇で包まれるのは勘弁よ! そう思った。
◆◆◆
「─────ん?」
「どうしました? 父上」
可愛い妹と妹の夫となる第一王子の加勢の為に、領地から駆け付けたギャレットは無事に役目も終えたので戻る準備を進めていた。
(また、フレイヤとは会えない日々か)
それにフレイヤはこれまでとは比べ物にならないくらい忙しくなるだろう。
とってもとってもとっても寂しいが、フレイヤはシオン殿下の傍で幸せそうに笑っている。
認めたくはないが、お似合いではあった。
シオン殿下のデレデレ具合も確認出来たし、きっと幸せにしてくれるはずだ。
(何より、フレイヤが笑顔ならいいか───)
なんて、呑気に思っていたら突然父上が何かを察知した様子を見せた。
「ち、父上? なっ……目、目が……何故……!」
「……ギャレット」
開眼するほどの緊急事態が発生したのか!?
せっかく阿呆の殿下を王太子の座から下ろして陛下も追い出したところなのに!?
「私の可愛い可愛い娘、フレイヤが……」
「俺の可愛い妹、フレイヤが? はっ! ま、まさか、フレイヤに何かあったのですか!?」
阿呆王子や陛下の逆恨みか!? 彼らを支持する残党がまだ残っていたか!?
父親のただならぬ様子に色々と想像してしまい自分の顔も青くなる。
「───ああ。清く正しく、節度を持った距離を超えた気配がするのだ……」
「なっ!」
───そっちか!
という安堵と共に聞き捨てならない言葉だ! と思った。
(ま、まさか! フレイヤ……殿下と手を繋ぐ以上のことを!? )
「……許可をしたのは、人前を除く所でのギュッまでのはずなのに……シオン殿下はフレイヤに何をしたのだ!」
「ギュッ?」
どうやら父上は、少しだけ緩和していたらしい。
……が!
父上のこの様子。では、まさか二人は“ギュッ”以上のことを……?
なんだ、額にキスか? 頬にキスか?
シオン殿下はもっと我慢強いと思っていたが……やはりフレイヤの溢れんばかりの魅力には敵わなかったか……
(それよりも何故、父上はそれを感じとっている? 闇の力か?)
……最強の闇使いは本当に怖いな。
フレイヤや殿下は気付いていないのかもしれないが、俺は父上が陛下やエイダン殿下にこっそり“仕返し”を仕掛けたことを知っている。
あれだけ、我が公爵家とフレイヤを侮辱したのだ。社会的制裁だけでは生温い!
そういう事なのだろう。
(───そろそろ彼らも闇使いの力を実感している頃だろうか?)
「……これは王宮に行ってじっくりじっくり問い詰めねばならん」
「ち、父上……お、お手柔らかに……?」
「それはシオン殿下の回答次第だ!」
とりあえず、しばらく父上の開いた目が閉じる気配は無さそうだった。
◆◆◆
(───あら?)
ゾクッ
私は突然の寒気に身体を震わせた。
「フレイヤ? どうした!? く、苦しすぎたか!?」
「いえ……そ、そうではなく……」
シオン様との甘いキスに酔いしれていたら、突然の寒気……
何かしら?
(き、気のせいよね……?)
シオン様はキスをやめてそっと私の頭を撫でる。
「シオン様?」
「いや、フレイヤがますます可愛くて愛しくて……」
「ふふ」
(それは、私のセリフだわ)
その言葉が嬉しくて私はギュッと抱きついた。
……突然、感じた不穏な気配のことなどすっかり忘れて。
148
あなたにおすすめの小説
貴方の知る私はもういない
藍田ひびき
恋愛
「ローゼマリー。婚約を解消して欲しい」
ファインベルグ公爵令嬢ローゼマリーは、婚約者のヘンリック王子から婚約解消を言い渡される。
表向きはエルヴィラ・ボーデ子爵令嬢を愛してしまったからという理由だが、彼には別の目的があった。
ローゼマリーが承諾したことで速やかに婚約は解消されたが、事態はヘンリック王子の想定しない方向へと進んでいく――。
※ 他サイトにも投稿しています。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる