【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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49. 初めての

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  どうしてシオン様の顔がこんなに近付いてくるの?
  それに、怒られるって誰に?

  なんて思った時には、すでにシオン様の唇がそっと私の唇に触れていた。
  チュッ……
  初めて触れたそれは、そんな音を立ててすぐに離れてしまう。

「……」
「……」

  私もシオン様も言葉を発せず、無言のままお互いの顔を見つめる。

  (───シオン様の顔が真っ赤……耳まで真っ赤……だわ)

  なんて思ったけれど、それは私もきっと同じ。
  ジワジワと頬に熱が集まって来ている。
  頬を押さえているとシオン様が笑いながら言った。

「……はは、フレイヤの顔が真っ赤になった……可愛い」
「っっ!  だ、誰のせいですかっ!」
「……僕だね」

  シオン様が照れたように笑う。

「フレイヤ」
「……え?  きゃっ!」

  名前を呼ばれたと思ったら、シオン様の私を抱きしめる力が強くなった。

「この間の夜這いの時もそうだったけど」
「はい……?」

  夜這い?
  一瞬なんのこと?  と思ったけれど、夜、部屋に私が押しかけた日のことかと思い直した。

「フレイヤはもう少し、男心を理解した方がいい」
「男心、ですか?」
「君はいつだってそうやって真っ直ぐ向かってくるから…………その」
「その?」

  私が聞き返すと、シオン様は小さく笑った。

「我慢が出来なくなるんだ」
「───え?」

  そう言ってシオン様は、私の顎に手をかけて顔を上に向けせると、再び私の唇を塞いだ。

  (……あ)
 
  二度目のキスは一度目よりも甘くて長くて……ちょっと苦しくて。
  でも、幸せの味がした。

  (知らなかった、キスってこんなに甘いものだったのね……)


  ───……我慢が出来なくなるんだ。
  そう言ったシオン様は言葉通り、たくさんたくさん私にキスをした。
「──ずっとこうしたかったんだ」
  その言葉を聞いた時はもう胸のキュンが止まらなくなった。
  
  (私、愛されている……)

  そう実感し、うっとりした気持ちでいたけれど、そこでハッと気付く。

  ───清く正しく、節度を持って!

  ポヤンとした顔のお父様の顔が脳裏をよぎった。
  脳内のお父様はポヤンとしているのに何故か圧がすごい……

  (そうだ!)

「…………シオン、さま」
「うん?」
「こ、これは、お父様たちの言っていた清く正しく……」

  ……チュッ

「ん……」

  シオン様がやや強引に私の唇を塞ぐ。まるで、何かを誤魔化そうとするように。

「…………知られてしまったら、まだ早い!  って、怒られるだろうね」
「シオン様……」

  (怒られると言っていたのはお父様やお兄様にだったのね)

  口ではそう言ったけれど、シオン様は甘い甘いキスを止めるつもりはなかったようで、私たちは王宮に着くまで何度も何度もキスをした。

  (───これは何がなんでも内緒にしないと……)

  お父様の目が開眼しちゃう……!  
  新しい国づくりが始まったばかりなのに世界が闇で包まれるのは勘弁よ!  そう思った。


◆◆◆


「─────ん?」
「どうしました?  父上」

  可愛い妹と妹の夫となる第一王子の加勢の為に、領地から駆け付けたギャレットは無事に役目も終えたので戻る準備を進めていた。

  (また、フレイヤとは会えない日々か)

  それにフレイヤはこれまでとは比べ物にならないくらい忙しくなるだろう。
  とってもとってもとっても寂しいが、フレイヤはシオン殿下の傍で幸せそうに笑っている。
  認めたくはないが、お似合いではあった。
  シオン殿下のデレデレ具合も確認出来たし、きっと幸せにしてくれるはずだ。

  (何より、フレイヤが笑顔ならいいか───)

  なんて、呑気に思っていたら突然父上がした様子を見せた。
  
「ち、父上?  なっ……目、目が……何故……!」
「……ギャレット」

  開眼するほどの緊急事態が発生したのか!?
  せっかく阿呆の殿下を王太子の座から下ろして陛下も追い出したところなのに!?

「私の可愛い可愛い娘、フレイヤが……」
「俺の可愛い妹、フレイヤが?  はっ!  ま、まさか、フレイヤに何かあったのですか!?」

  阿呆王子や陛下の逆恨みか!?  彼らを支持する残党がまだ残っていたか!?
  父親のただならぬ様子に色々と想像してしまい自分の顔も青くなる。

「───ああ。清く正しく、節度を持った距離を超えた気配がするのだ……」
「なっ!」

  ───そっちか!
  という安堵と共に聞き捨てならない言葉だ!  と思った。

  (ま、まさか!  フレイヤ……殿下と手を繋ぐ以上のことを!? )

「……許可をしたのは、人前を除く所でのギュッまでのはずなのに……シオン殿下はフレイヤに何をしたのだ!」
「ギュッ?」
  
  どうやら父上は、少しだけ緩和していたらしい。 
  ……が!  
  父上のこの様子。では、まさか二人は“ギュッ”以上のことを……?
  なんだ、額にキスか?  頬にキスか?
  シオン殿下はもっと我慢強いと思っていたが……やはりフレイヤの溢れんばかりの魅力には敵わなかったか……

  (それよりも何故、父上はそれを感じとっている?  闇の力か?)

  ……最強の闇使いは本当に怖いな。
  フレイヤや殿下は気付いていないのかもしれないが、俺は父上が陛下やエイダン殿下にこっそり“仕返し”を仕掛けたことを知っている。
  あれだけ、我が公爵家とフレイヤを侮辱したのだ。社会的制裁だけでは生温い!  
  そういう事なのだろう。

  (───そろそろ彼らも闇使いの力を実感している頃だろうか?)

「……これは王宮に行ってじっくりじっくり問い詰めねばならん」
「ち、父上……お、お手柔らかに……?」
「それはシオン殿下の回答次第だ!」

  とりあえず、しばらく父上の開いた目が閉じる気配は無さそうだった。


◆◆◆


  (───あら?)

  ゾクッ
  私は突然の寒気に身体を震わせた。

「フレイヤ?  どうした!?  く、苦しすぎたか!?」
「いえ……そ、そうではなく……」

  シオン様との甘いキスに酔いしれていたら、突然の寒気……
  何かしら?

  (き、気のせいよね……?)

  シオン様はキスをやめてそっと私の頭を撫でる。

「シオン様?」
「いや、フレイヤがますます可愛くて愛しくて……」
「ふふ」

  (それは、私のセリフだわ)

  その言葉が嬉しくて私はギュッと抱きついた。

  ……突然、感じた不穏な気配のことなどすっかり忘れて。
 
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