【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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50. お父様も最強でした

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  お父様が闇を背負って王宮にやって来たのと“その話”を聞いたのは、ほぼ同時だった。

「───え?  元陛下とエイダン殿下が毎晩、うなされている?」
「……らしいよ。そのせいで、すごい寝不足らしい」
「それはまた……」

  権力を失った二人はすっかり腑抜けになった毎日を送っている……とは聞いていたけれど。
  まるで、何だかバチが当たったかのような話だわ。

「二人揃って毎晩、ごめんなさい、すまなかった……許してくれ……とずっと、うなされているらしい。まるで悪夢か何かを見ているようだ……という報告を受けた」
「悪夢ですか……」

  二人揃ってだなんて出来過ぎた話では?
  と、思っていたらシオン様が少し顔を引き攣らせながら言う。

「……ちなみに、仄かに闇の魔力の気配を感じるんだって」
「闇!」
「この国でそんなことを出来る闇の使い手って一人しかいないよね……」
「……」

  (おーとーうーさーまーーーー!!)

「報復?  フレイヤを傷つけた復讐なのかな?  やっぱり公爵は怒らせてはいけないよね」
「……」

  (あの場で大人しかったのはそういう事だったのね……お父様)

「ちなみに父上は母上と王妃殿下、エイダンはフレイヤの名前を呼んでいるそうだ」
「……二人とも本っ当に今更ですね!」

  なんだ謝っても時間は戻って来ないのに!  特に元陛下!
  私が憤慨しているとシオン様が面白くなさそうな顔をしている。

「シオン様?  どうしてそんな顔を?」
「……悪夢でもエイダンがフレイヤの夢を見ていることが許せない……」
「え……」

  シオン様が少し不貞腐れている。その顔が可愛くて私の胸はキュンとなる。

  (や、やきもち!?  これはやきもちなの?)

「自分の心が狭いことは分かっている!  だが!  腹が立つ!」
「シオン様……」

  シオン様のその言葉に今が二人っきりだったら思いっきり抱きつくのに、と残念に思った。

  
  その時だった。コンコンと部屋の扉がノックされた。

「───シオン殿下、フレイヤ様、よろしいでしょうか?」
「?」
「お二人にお客様なのですが……」

  何故か使いでやって来た者の顔色が悪い。
  私は心配になって訊ねる。

「顔色が悪いわ!  そんなに危険な訪問者なの?」
「……危険……と言いますか……その」
「どうしたの?」

  使いの者はとても気まずそうに私から目を逸らした。



  

「───公爵の目が開いているだって!?」
「はい……使いの者によると間違いないそうです!」

  話を聞いた私たちは部屋を飛び出し慌ててお父様の元に向かう。
  目が開いていて闇を背負っているとか怖すぎる!
  
「……シオン様、お父様はもしかして」
「フレイヤも、そう思う?  確かめに来た……んだろうなぁ」

  私はコクリと頷く。

  (やっぱり、シオン様とキスをしたことが……バレてしまった……のかしら?)





「───お父様!」
「フレイヤ!」

  表情はポヤンとしているのにやっぱり目が開いてる!

「お父様、突然、どうされたのですか?」
「……実は不穏な気配を感じてな」
「ふ、不穏な気配……」

  お父様は軽く咳払いをするとチラッとシオン様を見た。
  その目が一瞬、ギラッとしたのを私は見逃さなかった。


────


「───なんてこと……追い出されてしまったわ」

  お父様はシオン様と二人で積もる話があるから、と言われて私は追い出されてしまった。
  これはもう、シオン様がボコボコにされない事を願うしかない。
  いくらお父様でも、シオン様をボコボコにするのは許せない!
  シオン様の美しい顔に傷一つでもついていたら、お父様とはしばらく口を聞くのはやめてやるんだから!

  (シオン様、無事でいて───)

  そう願いながら、仕方なく部屋の入口を見ることが出来る中庭で二人が出て来るのを待つことにした。

「───あら?  浮かない顔をしていますね?」
「おっ!?」

  そこへ、ヒョコッと現れて私の顔を覗き込んだのはなんと王妃様だった。
  王妃様とはあの日からゆっくり話したいと思いつつ、互いに忙しくてなかなか時間が取れずにいた。

「シオンはどうしたのです?」

  王妃様がキョロキョロと辺りを見回す。

「……私の父と話をしています」
「リュドヴィク公爵と?」
「はい……男同士の絶対に譲れない話し合いがあるそうです」

  私がそう口にしたら王妃様は可笑しそうに吹き出した。

「あは、ふふ……本当にあの方は娘愛に溢れていること……」
「お恥ずかしながら」
「エリヤの遺した可愛い娘だもの。仕方がないわ。それに本当にフレイヤ嬢は彼女によく似ている」

  王妃様は私の隣にそっと腰をかけるとどこか懐かしそうな目で私を見た。

  (エリヤ……)
  
  王妃様が親しげにお母様の名を呼んでいるのは同世代で交流もあったからだろう。

「お母様……」
「……見た目、だけでなく中身もよく似ているとずっと以前から思っていました」
「え?  中身も、ですか?」
 
  私が聞き返すと王妃様はちょっとイタズラ顔で微笑んだ。

「ええ、フレイヤ嬢の明るくて真っ直ぐなところなんてとてもよく似ている」
「……」
「それに、そもそも公爵とエリヤの出会いは、エリヤが公爵を変質者と間違えて殴ったことが始まりでしたから」
「え……!  殴っ……!?」
「公爵……当時はまだ公爵令息ですね、彼はあのポヤンとした顔のまま殴られていました……殴られた後もポヤンとしていたせいで、殴った方のエリヤが酷く動揺してしまって……」

  (おーかーあーさーまーーーー!?)

「公爵はそんなエリヤに一目惚れしたそうです」
「ぅえ!?」

  どこに一目惚れ要素が!?
  まさか、間違って殴られたのに恋に落ちたのお父様!?

「ふふ、懐かしいですね。当時、公爵が名前を一度で覚え、間違えずに呼んだただ一人の令嬢はエリヤです」
「なっ!?」

  ベリンダ嬢のことは一度でも正しく言えなかったのに!
  本当に興味があるか無いか……なのね、お父様。
  しかも王妃様、なんてことない顔をして「わたくしも、当時はおかしな名前で呼ばれておりました」とか言っている!

「そこから、公爵の猛アタックが始まりました……逃げるエリヤ、ポヤポヤしながら追う公爵……二人の恋の行く末は当時、社交界で大きく騒がれたものです」
「……社交界!」
「そして、結果はご存知……ポヤンの勝利!  気付けばエリヤはすっかりポヤンに絆されていました」
「ひえっ!」

  (お父様ーーーー!  あなたは何者なのーー!)

「ですから、わたくし……あなたがエイダンや元陛下を殴ったのを見た時、血は争えないと思いました」
「そ、そうでしたか……」

  お父様とお母様はてっきり政略結婚か何かだと思っていたので驚いた。
  そして、お父様のお母様への愛の深さを改めて知ることになった。

  


  そんな王妃様にお父様とお母様の馴れ初めを聞いていたら、ようやく部屋から疲れ切った様子のシオン様が出て来た。
  
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