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しおりを挟む「それじゃ、マッフィーの所に行こう」
ロディオ様はそう言って私に手を差し出す。
「?」
なぜ手を差し出されたのかが分からなかった私が首を傾げると、ロディオ様はまた驚いた顔を見せて、少し怒り気味に口を開いた。
「こういう時は俺の手を取るんだよ!!」
「で、ですが……」
触れてしまっていいの? そんな気持ちでロディオ様を見つめると、なんて事ない顔をして彼は言った。
「ソフィアは特別。そうでないと“恋人”とは言えないだろう?」
「……!」
何故か“特別”という言葉に胸が高鳴りそうになったけど、私達は契約したんだから、と思い直す。
「俺は嫌だと思う事はしないし、ちゃんと嫌だって言う。だから、ソフィアもそうしてくれ」
「はい……」
私はそっとロディオ様の手を取る。
すると、何故か胸がドキドキした。
(ド、ドキドキするのは、こういう行為に慣れていないから……)
そう心に言い聞かせる。
「ロディオ様。恋人の契約の件ですけど、色々とお互い決めておいた方がいい事があると思うのですが」
「ん? あぁ、そうだな」
そうして、ロディオ様のエスコートを受けて、具体的な“恋人契約”の取り決めの話をしながら私達は会場内に戻った。
「──マッフィー」
会場内に戻ると、マッフィー様はちょうど食べ物を物色している所だった。
(やっぱり彼は平気で飲食出来るのね……)
その事に複雑な気持ちを抱きながら、私とロディオ様はマッフィー様の元に近付いていった。
「ロディオ? お前が僕に話しかけて来るなんて珍しいなー……って、はぁ!?」
マッフィー様はロディオ様の横にいる私を見て驚いた顔をする。
そして、すぐに誰が見ても分かるくらいの不機嫌な顔になった。
「……どういう事だ、なぜ、ソフィア嬢がロディオと一緒にいるんだ?」
「あぁ、それなんだけどマッフィー。俺は見つけたんだ!」
不機嫌になったマッフィー様の様子など微塵も気にすること無く、ロディオ様はマッフィー様に向かって笑顔で言った。
(マッフィー様への話をするのは「俺に任せてソフィアはただ合わせてくれればいい」と言っていたけれど……)
「見つけた?」
「あぁ、前から言ってただろ? 俺の運命の人だよ。彼女だったんだ!」
運命の人? 随分とロマンチックな言葉が飛び出したわね、なんて呑気な事を考えていたら、ロディオ様は私の腰に手を回してそっと抱き寄せた。
(密着ぅぅ!!)
きゃぁぁぁぁぁーー!
会場内からも主に令嬢達からの悲鳴があがった。
女嫌いはどこへ? 状態のロディオ様の行動に私の心は動揺しかない。
でも、下手に声を出さない方がいいので必死に耐える。
……けれど多分、私の顔はまた赤いと思う。
「は? 嘘だろう?」
「嘘じゃない。現にこうして彼女には嫌な気持ちにならずに触れられる」
「なっ……」
ロディオ様の私を抱き寄せる腕に力が入りますます私達は密着した。
嫌ぁぁぁぁぁーー!
またしても会場が騒がしい。
でも、私もそれどころじゃなかった。
(し、心臓の音が聞こえてしまいそうなんだけど!?)
ますます、私の頬に熱が集まっていく。
「いや、待ってくれよ、ロディオ……」
「何だ? ソフィアには先程、俺のこの抑えきれない気持ちを伝えた所なんだが、何か問題が?」
「いや、だから……さ」
マッフィー様からは焦りの様子が伝わって来る。そんな彼は私に視線を向けると一歩一歩近付いて来た。
「なぁ、ソフィア嬢……君は」
(来るなぁーー!)
と、叫び出したくなる気持ちをぐっと抑えて私は目に涙を浮かべながらマッフィー様に向かって告げる。
(……私は女優……私は女優よ)
「マッフィー様、すみません……私、本当はずっと叶わない恋をしていたんです」
「は?」
「ロディオ・ワイデント侯爵子息様は女性を近付けさせない方でしたから……叶わない恋だと諦めていました……」
「はぁ? 待て! つまり君もロディオの事を……?」
私は、ほんの一瞬だけ黙り込むと寂しげに目を伏せながら答える。
(私は女優なのよ……)
「…………ええ。ずっと……ロディオ……様の事をお慕いしておりましたわ……」
「ソフィア!」
「なっ!?」
嬉しそうなフリをするロディオ様と、目の前の光景が信じられない……という顔をするマッフィー様。凄い落差だわ。
「ソフィア……では、君は俺の気持ちを……受け入れてくれる、のか?」
「…………私のような者でよろしければ……ロディオ様」
私は微笑んで答える。
(私は女優……ついでにロディオ様も男優……)
ロディオ様は私達の関係を前々からの恋人とするのではなく、このパーティーで出会って恋に落ちて、私を口説いている……という設定にしたらしいので、私は絶対に叶わないと思っていた片思いの相手に告白された嬉し恥ずかし令嬢を演じる事にした。
「ソフィア……!」
「ロディオ様!」
私達は見つめ合う。
私の顔は、先程の過度な密着のせいで赤いまま。
何故かロディオ様の頬もほんのり赤い気がする。何で? そんなに興奮したのかしらね。
──そんな私達はどこからどう見ても、両想いになったばかりの初々しいカップルそのものだった。
「……は? だから、本当に待てって……」
この事態についていけていないマッフィー様だけでなく、会場内のざわめきもどんどん広がっていく。
特にご令嬢達からの泣き叫ぶような悲鳴が凄い。
更に、あちこちでフラフラと倒れている令嬢の姿までもが視界の端に見えた。
(ヒーローってどれだけモテモテなのよ……)
これは間違いなく嫉妬とやっかみが凄い事になるわね。
私の男爵令嬢という身分も許せない人がいるでしょうから確実にそこもネチネチと攻撃されるはず。
──まぁ、痛くも痒くも無いけれど。
それに、やられたらやり返すだけだしね。
何を言われても何をされても半年間はロディオ様の恋人として過ごすんだから。
(だって、マッフィー様の目。困惑して焦ってはいるけれど、まだ、諦める目はしていない)
下手な隙を見せたらこの人は何をしてくるかわかったものではない。
嫌だわ。やられる前にやってしまいたい。
やっぱり貴族令嬢って人を殴ったら駄目なのかしら?
私は頬を赤く染めてうるうるした瞳でロディオ様を見つめながら、心の中ではそんな物騒な事を考えていた。
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