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しおりを挟む考え直すべきって、つまり……この恋人契約はやっぱり無しで……そういう事?
(そんな……!)
涙が出そうになる。
まさかロディオ様に、こんなすぐに手のひら返しされて、そんな事を言われるなんて思ってもみなかった。
「……っ」
そんな泣きそうになっている私に向かってロディオ様は更に続けて言った。
「恋人の関係のままじゃ駄目だ。ソフィアを守れない」
(……え?)
そう口にしたロディオ様は私の手をギュッと力強く握りしめた。
そして、私の目をしっかり見て言った。
「だから、ソフィア。恋人じゃなく、俺と婚約しよう」
「………………え?」
そのまま私は固まる。
言われた事が理解出来ず呆然となった。
婚約ってあの婚約よね?
マッフィー様に迫られてる将来の結婚を約束するやつ……
ロディオ様と私が……
「こ、ここここ婚約……!?」
動揺した声で聞き返す私にロディオ様は、真剣な顔のまま頷いた。
「単なる恋人なだけではソフィアを守り切れないかもしれない。だが、婚約者なら違うだろう?」
「ま、守るって……」
「何を言っている? マッフィーから守ってくれと自分で俺に言っていたじゃないか」
「いや、あれは……」
私はそっと視線をロディオ様から外す。
夜会やパーティーで、マッフィー様と会った時に私の前から退けて貰いたい。
そういう意味だったのに。
「だから、な? 俺と婚約してくれ、ソフィア」
「~~っっ!?」
ロディオ様が、腕を伸ばし私の両頬に手を添えると、そのまま顔を上に向かせる。
真剣な瞳をしたロディオ様とバッチリ目が合ってしまう。
ドキンッと胸が大きく跳ねた。
(その瞳は反則よ……逸らせないじゃないの)
でも、ダメ! このまま流されちゃダメ! さすがに婚約は事が大きすぎる。
だから、抗わないと……!
「で、ですが、婚約ですと恋人契約のように簡単に解消出来ません……だから」
「そんなの、し…………心配はいらない。難しく考えなくても大丈夫だ」
「……」
(本当に? それにそこまで原作を変えてしまってもいいの?)
恋人という契約だって、なかなかの改編だったのに、たった半年間とはいえ婚約者になるなんて。
婚約者は例え関係を解消しても、書類や記録が残ってしまうからロディオ様に婚約者がいた、という事実が出来てしまう。
もし、無事に半年後、私との婚約を解消してから、ヒーローとヒロインが出会っても、この改編のせいでロディオ様がヒロインに振られてしまったらどうすればいい?
──ロディオ様は情に厚く、一途さが売りのヒーローなのに!
だって、物語の中ではヒーローとヒロインにこんな会話がある。
『……君が初恋なんだ。こんな気持ちは初めてで戸惑っている』
『ロディオ様……』
『婚約者を作りたいとは思わなかったんだずっと。君に出会うまでは……』
『え?』
(それって、ずっと婚約者がいなかったって事? 貴族なのに?)
どうしよう。嬉しい。婚約者がいなかった彼にとって私が初恋……
『一途な男が好きだと口にしていただろう? 俺はそれに当てはまらないか?』
『そ、それは……』
彼の一途な想いが伝わって来て私はうまく言葉を返せない。
だけど────……
このヒーローからの告白シーンでヒロインにそう言っていたのに!
(全部壊れちゃう?)
「ソフィア!」
「……」
困ったわ。ロディオ様の顔がうまく見れない。
「ソフィア。俺はマッフィーとは違う。無理やり婚約を結ばせるような真似はしたくない」
「ロディオ……様」
躊躇う私にロディオ様は畳み掛けるように言った。
「だが、俺はソフィアを絶対に守りたい。だから、ソフィアの意志で俺の手を取ってくれ、侯爵子息を利用してやろう、そんな気持ちで構わないから」
「な、何をバカな事を言っているんですか!」
「バカでも構わない! ソフィアが毒殺未遂にあっていたと知って、何もしようとしない方がバカだ!」
「ですが……わ、私ばかりがしてもらう事になって、ロディオ様には何も返せません!」
もともとの恋人契約の時の女性避けだってどこまで効果があるかどうか。
婚約者が居ても、押せ押せな人は気にせず遠慮なく来るものだ。
「そうか……そんなに言うなら、見返りとしてふにふにする権利をくれ」
(……ん? ふにふに?)
私は耳を疑った。
「そう、そのソフィアの最高の頬をいつでもふにふにする権利だ」
「そんな、アホみた……」
「俺は本気で言っている」
本気ですって!? ロディオ様ーー!? 何を言い出しちゃったの??
「つ……」
「つ?」
「釣り合ってませんよ!! 全っ然、釣り合ってません!」
「そんな事は無い! これは充分過ぎる見返りだ! ソフィアのその頬をふにふにし放題なんだぞ…………あぁ、夢のようだ」
「う、嘘でしょう……?」
ロディオ様がうっとりした顔でとんでもない事を言い出した!
「嘘なものか!」
「今更、キリッとした顔でそんなへんた……コホッ……私の、ほ、頬への執着を見せられても……」
「ソフィア」
「うぅ……」
私だって分かってる。
ロディオ様に婚約者となって守ってもらえる方が安全でもあり、万全の態勢だって事は。
(ほ、本当に? 半年間だけ利用してもいいの?)
私の心は揺れる。
「……お、お父様の目が覚めたら……話をしてみます……」
「あぁ! そうしてくれ!」
ロディオ様はとても嬉しそうな眩しい笑顔でそう言った。
(そ、そこまでして、ふにふにしたいの……?)
初めて自分の頬が恐ろしいものに思えてしまった瞬間だった。
思いがけないロディオ様のふにふにへの執着心に気を取られていた私は全く気付かなかった。
ロディオ様は、一言だって“半年後には婚約を解消する”などと口にしていなかった事に───…………
……フニッ
「ダメだわ。どこが良いのかさっぱり分からない」
結局、本日ロディオ様にはそのままお帰り頂いた。
婚約の件はお父様に話をしてから正式に答えると約束をして。
「いい返事を待ってるよ、俺の可愛いソフィア」なんて言って、一フニして帰って行ったロディオ様。
分かっている。本当に殺されたくないなら、この話に乗るべきだと。
「ロディオ様……」
フニフニフニ……
ロディオ様が自分で触った事は無いのか? なんて聞くものだから、ちょっと自分で自分の頬をフニッとしてみた。
だけど……
「どこからどう触っても、単なるほっぺたじゃないの」
ロディオ様が夢中になる理由がどこにあるのか全く分からない。
いったいこのほっぺたの何が彼の琴線に触れたのか……
フニフニフニフニフニ……
「……婚約かぁ。半年後にヒロインになんて言って謝ろう? いや、そもそもヒロインが私と顔を合わせるのかすらも分からない……」
何だかとても不安だ。
それに───
「どうして、こんなに胸がモヤモヤするのかなぁ」
半年後に出てくる“ヒロイン”の事を考えると、何故か胸の奥がモヤッとする。
フニフニフニフニフニフニフニ……
とにかく気を紛らわせようと、ロディオ様みたいに、たくさんふにふにしてみたけれど、やっぱり至って普通のほっぺたにしか思えなかった。
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