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しおりを挟むお父様がとんでもない事になってしまった為、一旦話は中断する事になった。
大騒ぎの中、運ばれて行ったお父様を診たお医者様の話によると、驚いただけなので少し安静にすれば問題無い、との事。
「そうは言うが、男爵は大丈夫だろうか……」
ロディオ様は心配そうにそう言った。
倒れたお父様に家の者達は付きっきりになっているので、今、私とロディオ様は扉を少し開けたまま、二人っきりで部屋に残されている。
とりあえず、このまま私がロディオ様をおもてなししなさいとの事だった。
「ロ、ロディオ様が、私のひ、額とか頬とかにキ、キスなんてするからですよ……!」
ついでに、唇にもしたいとか言われたけどそれは恥ずかしくて口には出せない。
「だって、ソフィアは俺の恋人だろう?」
「恋人の……け、契約です!」
私達は契約に基づいて“恋人のフリ”をする事になったはずだ。
「…………恋人だ」
「ロディオ様?」
どこか不満そうな声を出したロディオ様が、私の腕を引っ張ると再び私を自分の腕の中に抱き寄せた。
「ちょっ……ロディオ様、何して……! 今は、見せつける人いませんよ?」
「……俺は見せつける為にソフィアに触れているわけじゃない」
「?? じゃぁ、何のた……」
「ずっと言ってる。ソフィアに触れたいから触れている。…………こんな風に」
フニッ
「まっっ!」
もはや、何度目のふにふに攻撃か。
フニフニフニ……
「また、あなたは!!」
「なぁ。ソフィアは自分でふにふにした事は無いのか? こんなに最高なのに」
フニフニフニフニ……
なんて質問をするのだ!
私はふにふにされながら、少しムッとして答える。
「……お言葉ですが、ロディオ様は日常を過ごしていて、ご自分の頬をふにふにしようなどと思います?」
「いや、全く思わないな。自分の頬なんて触ろうとも思わない」
「でしょう? それと同じです。私も自分の頬を触ろうなんてー……」
フニフニフニフニフニフニ……
「だが、自分の頬も他人の頬も興味なんて欠けらも無いけど、ソフィアだけはやっぱり特別なんだよ」
「……っ!」
何故か胸がキュッとなる。
特別なんて言葉、気軽に使わないで欲しい……
「……ところで、ソフィア。話してくれないか?」
フニフニフニフニフニフニフニフニ……
「な、何をですか?」
「……俺が男爵に聞こうとしていた事だよ」
「…………あ」
「ソフィアが倒れた事があるって話と、今日のパーティーで飲食物を全く摂取しようとしなかった話。この2つは関係ある?」
そうだった。そもそも、ロディオ様はその話をお父様としようとしていたんだった。
「それは、えっと……」
フニフニフニフニフニフニフニフフニフニ……
「……」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
「……」
「……ソフィア?」
「…………ロディオ様」
「何だい?」
「………………お話する前にふにふに攻撃を停止してください」
「このまま話をする事は……」
「無理です!」
ふにふにされていたら、心が乱れて話に集中出来ないんだもの。
「……ちぇっ……」
ロディオ様は、渋々だったけど、ふにふに攻撃を止めてくれた。
「……つまり、何者かが俺の可愛いソフィアに毒を飲ませた……と」
私はロディオ様に先日、倒れたという話をする。
それも、原因は毒物を飲んだらしい──という事を。
「マッフィー様とのお茶会でした……マッフィー様も同じように倒れたそうです。私よりは軽症だったようですが」
その言葉にロディオ様の眉がピクリと反応する。
「マッフィーが? それに軽症?」
「はい……そう聞いています」
「……あぁ、そうか。それで……そういう事か」
ロディオ様は私が何も言っていないのに、何かに納得したようで一人で何事か呟きながら頷き始めた。
「……だから、ソフィアは今日、何も口にしなかったのか」
「今は目の前で毒味をしてもらうか、若しくは自分で用意した物でないと口にするのが怖いのです」
本当に私が殺されるのは半年後。
それも原因は毒殺。
今回の未遂事件が物語に関係あるかどうかは今のところ不明。
だからこそ、分からない事ばかりで怖い。
「犯人は?」
「捜査をしているという話までは聞いていますが、詳しくはまだ。もしかしたら、お父様は詳しく聞いているかもしれませんが……」
私はそう言ってチラリと扉の方へと視線を向ける。
「……今日は、聞けそうにないな」
「ですね」
「……」
「……」
そのまま、しばし沈黙が訪れる。
多分、互いに思っている事は同じ──……
「……ソフィアは」
「はい」
ドキッ!
心臓が跳ねる。
「マッフィーが怪しい。そう思って俺の助けを求めた……であってる?」
「…………マッフィー様には……証拠も……何なら求婚している最中の私を殺す動機もありません……」
「うん。まぁ、そうだね。でも、ソフィアは心の何処かで怪しいと思っているから、あいつと婚約をしたくなかった……違う?」
「!!」
ロディオ様はそう言いながらそっと私の手を取り、優しく握る。
(その通りよ……今のマッフィー様には私を殺す動機は無いはずだけれど、もし、今、マッフィー様と婚約をしてしまったら……)
小説の通りの展開に話が進んでしまうだけでなく、もしかしたらもっと早く───……
「……ロディオ様」
握られている手がとても温かい。
この手が、温もりが優し過ぎて涙が出そうになる。
私は殺されたくないから、未来を変えようと動いてしまったけれど、ロディオ様……ヒーローの幸せはヒロインと共にある。
(半年後、物語が開始したら、この部分だけは何があっても原作通りに戻さないといけない……!)
どんな事をしても、ロディオ様にはヒロインと出会ってもらわなくちゃ。
私の頬をふにふにしていちゃダメなのよ!
どうにか飽きてもらわないと……
そう心に誓う。
「……」
「……」
「……なぁ、ソフィア」
「はい」
少し何かを考えていたロディオ様が口を開く。
そして、どこか申し訳なさそうな顔で私に言った。
「…………この恋人契約、考え直すべきだと思わないか?」
「え?」
ロディオ様のその言葉に、私は目の前が暗くなった気がした。
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