39 / 50
38.
───すごい視線!
会場に入るなり一気に視線は私達に集中した。
やっぱりロディオ・ワイデント侯爵子息は、人の注目を集める人なのだと実感する。
(こんな、本来なら手の届かない雲の上の存在のような人を好きになる、とか)
我ながら無謀すぎる。
バカみたいな出会い(にゃ、にゃ~ん)から始まって、ここまであっという間だった。
(全てが終わったらこの気持ちを……ようやく気付いた気持ち、伝えるだけなら構わないわよね?)
よーし! キレイさっぱり振られて、ロディオ様の幸せを願って生きて行くわ!
それを、ただ生き延びる事だけを目指していた私の次の新しい目標にしようと決めた。
「ソフィア……大変だ」
「どうしました? ロディオ様」
ロディオ様がとても深刻な顔して私の名前を呼ぶものだから、私も気を引き締める。
(まさか、もうマッフィーの野郎が……?)
「会場中の男共がソフィアに注目している……」
「え?」
「くっ! いくらソフィアが可愛いからって……! ソフィアは俺のなのに」
(ロディオ様が何やらおかしな事を言い出した……!)
この視線はロディオ様に向けられているものだし、どうしてこの人はモテモテなのに自分の事には疎いのかしら?
よくある物語の主役は鈍感ってやつかしら? とても生き辛そうだわ……
「ソフィア! 君を不埒な目で見てくる男共を蹴散らす為にもここは、いっそふに……」
「えいっ!」
ふにっ!
「……!?」
ふにふに……
「ふふ!」
やったわ! ロディオ様が驚いて目を丸くしてる!
先手必勝ってやつよ!!
ソフィアさんはやられっぱなしではなくってよ!
ふにふにふに……
私が得意顔で、しばらくロディオ様の頬をふにふにしていたら、ようやくロディオ様が動いた。
「……ソフィアさん」
「はい?」
(──ん? ソフィアさん? それにロディオ様の雰囲気が……変?)
「俺は君に言いました」
「何をでしょう?」
私は首を傾げる。
「ソフィアさんは、男心を学ぶべきだ、と」
「え? えぇ、確かにそう言われた……わね?」
男心、前世でも今世でも勉強する事なんて無かったし……正直、考えた事が無い。
などと、考えていたら───
フニッ……
(!?)
だいぶ、慣れ親しんだロディオ様はの柔らかい唇が私の頬に触れた。
フニッ、フニッ……
(どうして、ここでキ……するのぉぉぉ!?)
なんとロディオ様、いつもの手によるふにふに攻撃ではなく、いきなり私の頬へ唇でふにふにという名のキ……モニョモニョをして来た!
きゃぁぁぁぁーーーーー!!
嫌ァァァァァーーーーー!!
うぉぉぉぉぉーーーーー!!
いつかどこかで……少し前に聞いたのと同じような悲鳴が会場中に響き渡る。
あちらこちらで泣き崩れる令嬢……
(うん、この光景もどこかで見た……わ。何でぇ……)
「ロ、ロディオ様! ひ、人前です……!」
「……知っています」
(何故、敬語なの!!)
「ロ、ロディオ様の中では、こ、これは、いつものふにふにの一種と思われているかもしれませんが……せ、世間的にはキ、キスと言われるもので……」
「……知っています」
フニッ、フニッ、フニッ……
(知っているですって!? 知っていてこの人は毎回毎回……!?)
「……だってこれは、もうソフィアは“俺のもの”だという印をつけているんだからな」
口調がいつもの調子に戻ったロディオ様がそんな事を言う。
「……ロディオ様、の、もの?」
ドキンッ! 胸が大きく跳ねた。
(あ! ロディオ様の顔が……近付いて……くる?)
「あぁ、そうだ。ソフィアはもう俺のよ…………」
ロディオ様が私の顎に手をかけ、私の顔を上に向かせて麗しのお顔を近付けながらそう言いかけた時だった。
「おい! 何やってんだよ!?」
あと少しで私達の唇が触れる……というその瞬間にその叫び声が近くから上がった。
「さっきから見ていれば……お前達……ふざけるなよ!? 俺の目の前で何やってんだ!!」
その声の主は怒鳴りながらずんずんとこちらに近付いて来る。
(振り返らなくても誰かなんて分かるわ)
それに、初めて聞いたかも。
ずっと私の前では“僕”だったけれど、本当は“俺”だったのね……コイツ。
「……何の用だ? マッフィー」
ロディオ様はやれやれという様子で、仕方なく応対する。
その際、私を腕の中に抱き込む事を忘れない。
トクン……
ロディオ様の温もりを感じて私の胸が盛大にときめいた。
(じ、自覚するとこうなるのね……恥ずかしいっっ)
いえ、違うわ。前から無意識に私は……胸を高鳴らせずっとドキドキしていた……
(かなり前から好きだった……のかも)
「だから、何やってんだと聞いてるんだよ!」
「可愛い可愛い、俺のよ……婚約者を愛でていただけだ。愛しい婚約者を愛でる事の何が悪い? 部外者は黙っててくれ」
「ぶ、部外者だと!?」
マッフィーの野郎は部外者扱いされて憤慨した。
(部外者……よねぇ、私、マッフィーの野郎とは婚約してないし……)
「ソフィアには俺が先に求婚していたんだ!」
「早いも先も無いだろう。それにお前は選ばれなかったようだが?」
「……ぐっ!」
「可愛い可愛い可愛い可愛いソフィアに選ばれたのは俺だ、お前じゃない!」
「く、くそっ!」
一見、モテモテ~な令嬢の取り合いをしているかに見えるこの会話だけど、金目当ての殺人犯(になる予定の男)と、協力関係を結んだ契約の婚約者という……
(だから、そこの悪役令嬢さん、そんなハンカチを噛んでキリキリした目で私を見ないで頂戴!)
私は視界の端に見えた既に懐かしささえ感じる悪役令嬢、アンジェーラ様の姿にそんな事を思う。
「だから、諦めろ。マッフィー! この可愛い天使のようなソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢はもう俺の………………嫁だ!!」
(……ん? 嫁?)
きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーー!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁーー!
何今のぉぉぉ、嘘だと言ってぇぇぇぇぇぇぇぇーー!
まだ、結婚しないでぇぇぇぇぇぇーー!
私達のチャンスがぁぁぁーー!
令嬢達の泣き叫ぶ声がますます、強くなる。
この叫び声も以前、聞いたわー……
(嫁……)
婚約者や恋人ではなくて、嫁だなんて。
ロディオ様ったら何でそんな先にすっ飛んでるの……
本気にしてしまいそうになるじゃないの。
(でも、お嫁さんかぁ……そうなりたかったなぁ……なんてね!)
……叶わない願いは置いておく。
とりあえず、マッフィーの野郎が飛び込んで来たので、これでヒーローによる“マッフィー・ミスフリン侯爵子息”への断罪が始まる───
(多分)
あなたにおすすめの小説
【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました
Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに!
かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、
男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。
痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。
そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。
「見つけた! 僕の花嫁!」
「僕の運命の人はあなただ!」
──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。
こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。
すっかりアイリーンの生活は一変する。
しかし、運命は複雑。
ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。
ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。
そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手……
本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を───
※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)
オツカレ聖女はもう王家の言いなりにはなりません〜勇者パーティー派遣ギルドを作って、自分も皆も幸せにします〜
みねバイヤーン
恋愛
「俺たちの戦いはここからだ」やっとの思いで魔物を倒したあと、勇者カールは高らかに言った。聖女エリカはブチ切れた。
「ちょっと待って、何言ってんの。もうおしまい。終わりよ、終わり。こんなことやってられるかっつーの」
元少女で乙女だった聖女エリカ。十年にも及ぶ魔物討伐の旅で、すっかりすり切れてヤサグレた。酸いも甘いも噛み分ける、汚泥にまみれたヤサグレ聖女だ。
「私たちみたいに、国に使い潰される勇者パーティーを二度と出したくない。王族や大臣を脅して、勇者パーティー派遣ギルドを作るわ」
ヤサグレ聖女エリカが、みんなを幸せにしつつ、自分の幸せも見つける物語。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています