【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea

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11. 私は我儘王女

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「……お礼、ですか?」
「ええ、そうよ。お礼……」

 エリオットの顔がピクピク引き攣っている。

「えっと、ウェンディで……」
「────エリオット」

 私は何か言いたそうな顔をしたエリオットの言葉を遮る。
 そしてにっこり笑顔を浮かべた

「手伝ってくれる、わよね?」
「───で、すが、ファネンデルト王国を下手に刺激でもして、もし殿下の身に何かあったら……」
「エリオット!!」
「!」

 ビクッと肩を揺らしたエリオットがそろっと顔を上げる。
 目が合ったので私はフフッと笑う。

「お前は誰の護衛?」
「──っ!  ウ、ウェンディ殿下、です」
「そうね───に決まってる」
「え?」

 エリオットがパチパチと目を瞬かせる。
 私は微笑んだまま足を組み替える。

「だって何があっても、エリオット。お前がこの私を護ってくれるのでしょう?」
「!」

 ハッと息を呑んだエリオットが姿勢を正す。
 そして勢いよくその場に跪いた。

「────はい!  俺は必ずあなたをお護りします」
「……」

 その応えに満足した私は微笑むと椅子から立ち上がる。

「さあ、エリオット。もたもたしている時間はないわよ!」
「はい!」
「ヨナスをボッコボコにしてぶっ潰すわよ!!」
「───は…………い?」


 そうして、完全に舐められお飾りの妃を求められた私は、ヨナス・ファネンデルトをボッコボコにするために動き出した。




「────婚約発表、中止になったのね?」
「ええ」

 翌日。
 予定ならヨナスとの婚約発表をする予定だった日。
 ガーネットお姉さまが私の元を訪ねて来た。

「ウェンディ殿下……それがあなたの出した“答え”?」
「ええ」
「迷いは?」
「ありませんわ」

 私はガーネットお姉さまの目を見てはっきり頷く。
 すると、私の顔をじっと見つめていたガーネットお姉さまが高らかに笑った。

「オ~ホッホッホ!  いい顔するじゃないの!」
「!」
「ホホホ、そんなウェンディ殿下に私からのプレゼントよ」
「え?」

 ガーネットお姉さまは、惚れ惚れするくらい美しくて黒い微笑みを浮かべると机の上にバサッと紙の束を置いた。
 私はそっとそれを手に取ってみる。

「これは?」
「ファネンデルト王国について我が家の者に調べさせた結果よ」
「!」

 いつの間に?  と驚く私にガーネットお姉さまはフフッと微笑む。

「何か役に立つことがあるかもと思ってね。実際にファネンデルトまで足を運ばせて調べさせておいたわ」
「───!」

 ガーネットお姉さまのあまりの用意周到ぶりに唖然とする。

「調べたところによると、この婚約と結婚では我が国はお金を、そしてヨナス殿下は“王太子”の地位を確実に出来るというメリットがあるようね」

(そういえば……)

 ────君と結婚することで僕はこれで王太子になれるし、愛しい彼女との関係も続けられる───そして君もこの国で“嫁き遅れ王女”などと後ろ指を指されずに済むわけだ!

 ごちゃごちゃ言っていた話の中にサラッとそんなことを口にしていた気がする。

「ファネンデルトの王太子はまだ決まっていない……」
「ええ。兄弟間で争っているようよ。そしてこの国では妃の身分もかなり重視されるんですって」
「妃の身分……」
「相手が“王族”なのは彼にとってかなりのアドバンテージとなるわというわけ」
「……」

 どうやら、こんな貧乏国でも“王女”という身分は利用価値があるらしい。

「身分や肩書きで人のことを見る癖がかなり強い国ね」
「……ヨナスの兄弟で今のところ、他国の王族を妃にもしくは婚約者にしている人はいないのね?」
「そのようよ」

 ガーネットお姉さまが頷いた。
 つまり、王太子になりたいヨナスは何が何でも私との婚約は諦めない可能性が高い……

「……」

 今、エリオットにはヨナスの“お相手”について調べてもらっている。
『王族の護衛騎士』という立場を上手く利用して、あちら側───ヨナスに着いてきた護衛騎士たちの懐に入らせ探らせている。
 だから、こちらとしては、もう少し情報収集のための時間が欲しいところ─────

「さて、ウェンディ殿下。それであなたはどうするのかしら?  もう潰す?」

 ガーネットお姉さまがそれはそれは嬉しそうな顔でそう言った。
 そしてなぜ、指をポキポキ鳴らしているのかしら?

「いえ、まだ……もう少し調べる時間が欲しいので────とりあえず」
「とりあえず?」
「当面、ヨナスにはこの国でじゃんじゃんお金を使って貰おうかしら、と」
「へぇ」

 私の言葉にガーネットお姉さまがニヤリと笑う。
 私もにっこりと笑い返した。

「だって、“王女である私との結婚”が彼にとって必要なら、ヨナスは必ず私の機嫌を取ろうとするはずでしょう?」


─────


 そんな私の予想は見事にあたり……
 まず、ヨナスはあのシェ・ジュフロワのお菓子を持って私の部屋を訪ねて来た。
 お湯をかけられた後はかなりご立腹だったようだから、内心は屈辱感でいっぱいのはずなのに……

「ウェンディ王女は、甘いお菓子が好きだとエルヴィスから聞きました」
「……」

(ほっほっほ!  なんて分かりやすい単純な男なの!)

「このお店はとても人気らしいですね」
「……」
「特に女性には大人気なのだとか」
「……」
「ウェンディ王女?」

 ヨナスからは、女にはこうやって貢いでおけば機嫌なんてすぐに直すだろう?
 そんな思いが透けて見える。

「……足りないわ」

 私は首を横に振る。

「え?  足りない?」
「シェ・ジュフロワは確かに我が国では人気ですけど……どうせなら、他のお店のものとも食べ比べしてみたいですし」
「……え?」
「ああ、もちろん、どのお店のものも作りたて焼きたてじゃないと風味が落ちて嬉しくないわ───」

 ヨナスは、まあ、お菓子ぐらいならいいか……と慌てて買いに行かせていた。



 その後もヨナスからの貢ぎ物は続いた。
 そんな貢ぎ物の内容はだんだん高価になっていく。
 そしてそして、ついにヨナスは私にドレスをプレゼントするとまで言い出した。

「うーん、この生地もいいわねぇ……あ、でもこっちの生地も肌触りが最高、いえ、待って?  私にはこちらも似合うかも……ん、でも、やっぱりもっと」
「……」

 生地選びにあれもこれもと我儘を言いながら、うんと時間をかけている私を困った顔で見ているヨナス。

「困ったわ~、もっとゆっくりじっくり手に取って選べる時間があればいいのだけど~」
「……!  な、ならば、とりあえず全て購入しましょう……それからゆっくり選ぶといい!」

 ウンザリしていたヨナスは目を輝かせてそう言った。

(よし!  待ってたわ、その言葉!)

 私は内心の喜びを悟られないよう、困惑の表情を浮かべる。

「ええ!  全部!?  でもそれはさすがに……」
「いや、それくらいなら…………もうこれ以上付き合うより全然マ…………コホッ、それでじっくり選んでくれ」

 我儘王女わたしのあれもこれも攻撃に付き合うのが面倒になったのかそう切り出すヨナス。
 お菓子と違ってドレスの生地は決して安くはないのだけど……

(だんだん感覚が麻痺してきたようね)

 ささやかな物から始まったヨナスからの貢ぎ物。
 とりあえず物を買い与えておけば我儘王女わたしが機嫌が良くなると思ったヨナスはホイホイとお金を出すようになった。

 ちなみに、ここは私が買わせたのではなく、ヨナスの方から自主的に“買おう”と言わせておくのがポイント。
 結果、これはあくまでヨナスから私への“任意のプレゼント”ということになる。
 だから、後で返せと言われても答える義務はない。

(さあ、もっとじゃんじゃんお金を使わせて、貧乏王家が出来なかった我が国の経済をどんどん回してもらいましょう)


 こうして調べ物をするための時間稼ぎの間、
 私に誘導されたヨナスは我が国のためにたくさんお金を使ってくれた。
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