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12. 下準備は念入りに
しおりを挟む「─────エルヴィス! 君の妹はなんなんだっ!」
「お、落ち着くんだ、ヨナス……!」
バンバンバンとテーブルを強く叩いて怒りをあらわにしているヨナス。
「これが落ち着いていられるか! ウェンディ王女は君から聞いていた話以上に我儘王女じゃないか!」
「ヨナス……」
(ほっほっほ! いい感じに鬱憤が溜まってきたようね)
廊下でこっそりお兄様とヨナスの会話を盗み聞きしている私はほくそ笑む。
「どれだけプレゼントを贈ってご機嫌とっても、“結婚? しませんわ?”の一点張り!」
(当然でしょ?)
「理由を聞いても、“は? なぜ分からないんですの?” と蔑んだ目で見てくるんだぞ!」
(本当に理由が分からないなら頭がどうかしてると思うわよ?)
今すぐ医者を呼ぶことをお勧めする。
「エルヴィス! 君の婚約者はどうなんだ!? やはりあれもこれもと買ってやっても、すぐにこれ飽きた~と我儘なのか!?」
「え!? いや、ガーネット嬢は……」
ガーネットお姉さまのことを聞かれて口ごもるお兄様。
「……彼女は裕福だから何かを買ってくれと無茶な要求されたことはないよ。ただ……」
「ただ、なんだ? 無茶な要求がないなら良いじゃないか」
「いや、彼女は何をするにも隙が無さすぎて怖いくらいだ」
ハハハハ……と笑いながらお兄様が遠い目をする。
「僕はやっぱり、こう───自分が前に出て守ってあげたくなる女性の方が好きだなと日々、実感させられているところさ」
「エルヴィス……」
「たとえば、潤んだ瞳で上目遣いで見られたら……こうグッとくると言うか」
(ん? 気のせい? お兄様の話、どことなく具体的じゃない?)
私は内心で首を傾げる。
だいたい、あのガーネットお姉さまが、目をうるうるさせて上目遣いなんて媚を売るような真似をするとは思えない。
“必要時”はわざとそうすることはあると思うけど、今のお兄様に対してそんなことする理由は一切考えられない。
「分かる! 分かるぞ! エルヴィス、やはり君は親友だ!」
「そうか! ヨナス……君も 分かってくれるか!」
おバカ王子の二人がガシッと手を組む。
「“王女”という身分がなければ……」
「“金持ち”という付加価値がなければ……」
「「────あんな女と結婚するなんてお断りだ!!」」
お兄様とヨナスは仲良く手を組んだまま同時に叫ぶ。
とても綺麗に二人の声は重なった。
(ほっほっほ! なるほどねぇ、二人の女性の好みは似ている、と)
今すぐ部屋に乗り込んで二人揃って蹴り飛ばしてやりたい衝動をどうにか抑え込みながらそう考える。
正直、痛くも痒くもないし婚約破棄するから私のことは好き勝手言ってくれても構わない。
でも、ガーネットお姉さまのことを悪くいうのは本当に許せない。
「だが、まあ、ガーネット嬢は美人だから連れ歩くと気分は上がる」
「それならまだいいじゃないか! 僕の相手はウェンディ王女だぞ?」
「ああ、ウェンディか……」
(ほっほっほ────あいつら、顔面から蹴り飛ばしてやりたいんだけど!?)
これは踏んで踏んで踏み潰してペシャンコにしても気が済まない。
(でも……)
ヨナスのお相手がだいたいどんなタイプの女かは分かった。
「────という感じの会話を盗み聞きして来たわ」
「~~~~っっっ!」
部屋に戻った私がエリオットを呼び出すと、いつものように秒で飛んで来た彼は頭を抱えて天を仰いだ。
「何してるの?」
「……そもそも、盗み聞きとか……あなたはいったい一人でフラフラと何をしているのですか!」
別に意図したことではなかったのに、なぜか怒られた。
「ええ? 盗み聞きになったのはたまたまなのよ? 二人がコソコソして部屋に入っていくのを見かけたから後をつけただけだもの」
「その時点で充分、行動がおかしいですよ……」
エリオットはハァァと深いため息を吐いた。
「しかも、そんなに堂々と廊下で盗み聞きなんてしているのに、誰かに咎められたり何か言われたりもしなかったのですか!?」
「え? そうね!」
私はホホホと笑う。
「普段からあちこちフラフラばかりしていると、周囲も私の行動は特に気にならなくなるみたいね」
「……」
エリオットはまた深ーーいため息を吐いた。
私はフフッと笑いながら話題を切替える。
「それで? そちらの情報はどんな感じ?」
「───え? あ、はい。色々と聞き出せましたよ」
「あら、優秀ね。さすが私の騎士」
「!」
私が褒めるとエリオットはほんのり頬を赤くしてパッと顔を逸らした。
どうやら、照れたらしい。
「そんなんじゃありません……彼らは話したくて仕方がなかった……んだと思います」
「ふーん? 謙遜しなくてもいいのに」
「くっ!」
エリオットは複雑そうな表情でまとめてくれた資料を渡してきた。
それを受け取った私はざっと目を通す。
「男爵令嬢なのね?」
一応、貴族だけど王家に嫁ぐには確かに支障が出る。
特に身分にうるさい国ならば。
「国内で二人の関係は有名なようです」
「へぇ」
相槌を打ちながら、ペラッとページをめくる。
「身分差を超えて目覚めた真実の愛だとか言われています」
「!」
あまりのダサさに吹き出しそうになった。
「何そのダサいネーミング……」
「えっと、ヨナス殿下は浮き名を流してばかりでしたから」
私は頬杖をつきながらふぅ、と息を吐く。
「つまり、私の存在って向こうの国では真実の愛で結ばれた恋人同士の間に無理やり割り込んだ王女ってこと?」
「……はい」
「それって普通に考えて評判は最悪よね?」
「……」
なぜかエリオットが黙り込む。
「ちょっと、エリオット。何か言いなさいよ」
「……」
「エリオット!」
私が声を荒らげるとエリオットは渋々口を開いた。
「どうもヨナス殿下は、“婚約を申し込んで来たのはウェンディ王女から”と周囲に説明しているようで」
「は?」
「騎士たちはそう聞いた、と言っています」
「はぁ!?」
つまり、あれね?
ヨナスはたまたま他国の我儘な王女に惚れられちゃって断れなかった風を装っている……と。
「ヨナスの言っていた、君も一国の王女として生まれたからには“結婚の意味”くらい分かっているはずだ───は要するに口裏合わせもしようとしていたわけね?」
私はヤレヤレと呆れる。
(どこまで私のことを舐めくさっていたのかしら……)
ギリッと唇を噛む。
「────ところで、殿下」
「なにかしら?」
「ファネンデルト王国に、ウェルズリー侯爵家の力を使って内密に人を向かわせたようですね?」
「!」
エリオットの言葉に私は目を瞬かせる。
「ほっほっほ! ……あなたって本当に目敏いわね?」
ついでに言うなら耳もいい。
「恐れ入ります」
「……ガーネットお姉さ……コホンッ、ガーネット嬢が協力を申し出てくれたのよ」
「協力?」
エリオットが顔をしかめる。
「ほら、王女の私だとファネンデルト王国の人間を内密に呼び出すなんて真似は出来ないでしょう?」
「ああ、つまり殿下は“彼女”を……」
納得した様子のエリオットが大きく頷く。
ガーネットお姉さまは、そういう裏工作は大得意なのよ! 大好き! と、高笑いしていた。
「ふふ、どう考えてもヨナスにお礼をするには、どうしてもその彼女が必要不可欠なんだもの───だから我が国にご招待!」
「……殿下」
「さてさて─────ここから、楽しいことになりそうね?」
「……」
「ふふふ、下準備は念入りにしないと!」
私はエリオットに向かってにっこりと笑いかけた。
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