【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第3話 婚約者の浮気

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  それは、たまたま偶然だった。
  ウィル殿下は私より、コーディリアを気に入っている事はもちろん知っていた。
  だけど、私と同じでちゃんと国の為に占いの結果を受け入れてはいる……そう思っていた。

  しかし……

「…………」
「……だ」

  (あら?  話し声?  誰かいる?)

  ちょうどその時の私は、王太子妃教育の講義のお昼の休憩時間で、昼食を終えた後に庭園を散歩していた。
  すると、庭園の奥の方から人の話し声が聞こえてきた。どうやら誰かがいるらしい。
  せっかく私が一人になれる場所なので残念だなと思いながら引き返そうと思った時だった。

「……ねぇ、ウィル様」

  (え?  ……この声ってコーディリア?  ……それに今、呼びかけていた名前って……)

「なんだい?  コーディリア」

  (───やっぱり!  ウィル殿下だわ)

  立ち去ろうと思ったのについ、足を止めてしまった。

「……どうして婚約者が私じゃダメなんですか~?」
「また、それかい?」
「だって、私だってタクティケル公爵家の娘ですよ~?  お告げは私を指していた可能性だってあったと思うんです~」

  (コーディリア………)

「だが、お告げの時に君はまだ生まれていなかった」
「でもでも、後に私が生まれることも含めてのお告げだったかもしれないじゃないですか~!」

  どうやらコーディリアはお告げに納得がいっていないらしい。
  “タクティケル公爵家の令嬢”というだけでは、コーディリアも当てはまるから仕方がないと言えばそれまでだけれども……

「それに~未来の王妃は華やかで明るくて可愛い方が皆が喜ぶと思いませんか?」
「コーディリア……」
「だって、お姉様なんて、ぜーんぜん可愛くないし、あーんなにいつも無表情!  皆に能面令嬢って呼ばれているんですよ~?」
「それは、私も何度か注意はしている……だが、オフィーリアはいつまでたっても自分を変える気がないらしい」

  殿下はやれやれと肩を竦める。

「本当に可愛げがなくて困っているよ。一緒にいても癒されない」
「ですよね~、そんな人が王妃になったらこの国が笑われちゃいますよ~?」
「ははは、うーん、それは困るなぁ……」

  コーディリアはクスクス笑いながらそう言って、殿下も笑いながらその話に乗っていた。

「……」

  一部始終を聞いてしまった私はギュッと拳を握りしめる。
  コーディリアがここまで私のことを馬鹿にしていたなんて……
  たまに感じていた棘のある言葉は決して私の勘違いじゃ無かったのね。

  (確かに愛想笑いの一つも出来ない私は王妃に向いているかと言ったら……コーディリアの言う通りかもしれない)

  それでも、その他の部分でカバー出来たらと私なりに努力を重ねて頑張って来たつもりだった。
  だけどこれはまだまだ、という事ね……
  もっと頑張らなくちゃ……と思って今度こそその場から立ち去ろうとした。

  けれど……

「私だって、あんな可愛げのない女なんかよりコーディリアの方がいいと思っているよ?」
「ウィル様……嬉しい……!」
「もうこれまで何度も婚約者交代を父上に掛け合っている。だから、もう少し我慢していてくれ。コーディリア」
「はい……あ……ウィル、さま……」

  (────え?  婚約者……交代?)

  殿下のその言葉に足を止めて振り向いてしまった私は、ちょうど二人が抱き合ってキスを交わしている所を目撃してしまった。

「……!」
   
  こ、こんな所で何を……!  それに……

  (陛下に……婚約者交代を掛け合っている?  殿下は本気で考えているの?)

  つまり、それは唯一の私の存在価値が無くなるということ。
  そう思ったら、急に自分の足元がグラリと歪んだ気がした。

「ん……ねぇ、ウィル様……やっぱり陛下の許可が無いと私は婚約者にはなれないのですか~?」
「ああ……父上が許可を出して婚約者交代が叶わなければ、正妃は……残念ながらオフィーリアとなる。でも、私が愛しているのは君だけだよ、コーディリア」

  (……やっぱり殿下は、コーディリアを寵妃にと考えていたんだわ……)

  二人はキスの合間にそんな言葉を囁き合っていた。

「お姉様がだなんて……そんなのぜっっったいに嫌です……!」
「コーディリア……だから私も今、必死に頼んで……」
「ウィル様!  早くして下さい!  だって今、私のお腹の中にはウィル様のお子がいるかもしれないんです~」

  (───はい?)

  コーディリアはいったい何を言って……
  ウィル殿下の子供ですって……?
  コーディリアのその発言にはさすがの殿下も笑みを消して慌てだした。

「なっ!?  ちょっと待ってくれ……コーディリア、そ、それは……」
「えーだって、覚え……ありますよね?  あの夜の……」

  (───……二人は何を言っているの?)

  これって既に二人は身体の関係があるということ……?
  ……ズキッ
  今度は頭まで痛くなってきた。
  まさか、二人がそこまで深い関係だとは思わなかった。
  ウィル殿下もコーディリアもなんて事を……軽率すぎる……!

「……」

  私はこれ以上、二人の話を聞いていたくなくてその場から駆け出した。
  今はあの二人の前に顔を出してなんて言ったら良いのか分からない。

  (だけど……このままだと私、どうなるのかしら?)

  その後はずっとそんな事ばかり考えていて、その日の午後は全く講義に集中出来なかった。


❋❋❋


「あ、お姉様?  おかえりなさーい」

  講義が終わり屋敷に帰って、自分の部屋に向かっている所でコーディリアと鉢合わせた。
  どうやら、先に帰っていたらしい。

「……コーディリア」
「お姉様ったら、毎日毎日、大変そう!  でもそんなに勉強してもどうせ無駄に…………あ、なんでもなーい」

  コーディリアはエヘッと可愛らしく笑って誤魔化した。

  ───どうせ無駄になるのに
  コーディリアは多分今、そう言いかけた。その意味は……
  私はチラッとコーディリアのお腹を見る。

  (妊娠は本当なのかしら……?)

  もし、そうだとしたらとんでもない騒ぎになる事は間違いない。

「どうかしたの?  お姉様」
「……」
「もう!  何か言ってよ、お姉様!  本当にいつもいつも無表情なんだから」
「……」

  コーディリアがその後もグチグチと何かを言っていたけれど、私は妊娠の話が本当なのかの方が気になってほとんど聞き流していた。
  そんな私の態度が許せなかったコーディリアは、ますます怒りを募らせる。

「ふんっ……お姉様、そんな大きな顔をしていられるのも、今のうちなんだから」
「大きな顔って……」
「してるじゃない!  王太子殿下……ウィル様の婚約者だからって! いっつも、いっつもお姉様ばっかりずるいわ!」

  ───お姉様ばかりずるい!

  もう、その言葉はこれまで何度聞いてきただろう。
  これはもう昔からコーディリアの口癖だ。

  ……ズキッ
  また、頭が痛み出す。

  ───お姉様の持ってるソレ、私も欲しいなぁ……

  コーディリアは、そう口にすればなんでも手にして来た。
  あぁ、だから“王太子殿下の婚約者”という地位が欲しいのね?
  でも、この地位が無くなったら私は……

「……コーディリア、殿下の婚約者は私なの」
「えー、でも、お姉様は愛されてないのに?」
「……っ!」
「そんなのウィル様も可哀想~。ね?  だから、お姉様からも皆に言ってちょうだい?」

  コーディリアは無邪気な笑顔を私に向けた。それが、逆になんだかとっても不気味に思える。

「何を……?」
「もちろん、ウィル様の婚約者について、よ!  お姉様が辞退します!  って言えばいいと思うの!」
「!」


  ───後に私は思う。
  この時、私が頷いていれば……もしかすると違った未来があったのかもしれない、と。

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