【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第4話 不審な出来事

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「あぁ……リュウ様。そのムキムキの身体……なんて格好良いのかしら……」

  何だか何もかもかも嫌になった私は、色々考える事を一旦放棄して大好き物語を読み耽っていた。ちょうどヒーローのリュウは(ムキムキの)身体を張ってお姫様を守っている胸キュンのシーンだった。

「私もこれくらいムキムキして強ければ……お父様も……浮気者の殿下もボコボコに出来たかもしれないのに……!」
  
  自分の腕をチラッと見る。
  当たり前だけど、ムキムキとは程遠かった。これからどうにかなるとも思えない。

「……って、これでは完全に現実逃避してるだけよねぇ……」

  私はパタンと本を閉じた。
  考えなくてはいけない事は沢山ある。
  もし、コーディリアの妊娠が本当だったら?  
  ただ、あの口振リではまだハッキリした訳では無い様子。だから今回が違ったとしても、二人が関係を続けていればいつか本当に子供が……

「そうなれば私はお払い箱……?」

  殿下の子が生まれるなら占いは“コーディリア”を指していたとされてもおかしくない。

  ──お姉様は愛されてないのに?
  ──もちろん、ウィル様の婚約者について、よ!  お姉様が辞退します!  って言えばいいと思うの!

  コーディリアの言葉に私は頷けなかった。

「情けない私……」

  私は自分の身体を抱きしめながらそう呟いた。


❋❋❋


  その翌日の朝のことだった。

「ふふ、それでね?  お父様、お母様、最近の社交界でのドレスの流行りは、レースをふんだんに使った可愛らしいスタイルなんですって」
「あら!  それなら、コーディリアに似合いそうね」
「そうだな」
「……」

  朝食の席でコーディリアを中心にお父様とお母様の三人が楽しそうに会話をしている。

「それなら、コーディリアに似合いそうなドレスをたくさん作らせよう!  仕立て屋を呼べ!」
「わーい、お父様、ありがとう~」
「可愛い娘のためだからな」

  コーディリアに微笑みを向けていたお父様の視線が私に向けられる。

「オフィーリア、お前は一着だけだ。どうせ、その流行りとやらのスタイルはお前には似合わんだろうからな」
「……」
「えー、お父様ぁ……お姉様にも作るの~?」
「一着だけだ。しょうがないだろう?  殿下の婚約者なのだから。未来の王太子妃が流行りのドレスを全く持っていないとなれば、タクティケル公爵家が笑われてしまうからな」
「そう……」

  コーディリアは明らかに不満そうな顔をした。
  それを悟ったお父様が慌ててコーディリアを宥める。
  ちなみに、こういう時のお母様は絶対に口を挟まない。一歩下がって黙って話を聞いているだけだ。

「そんな顔をするな、コーディリア。お前は好きなだけ作るといい。ドレスだって、似合う人に着てもらった方が嬉しいだろうからな!」
「わーい、お父様、大好き~」

  そう言って可愛いらしい笑顔でお礼を言うコーディリア。
  だけど、コーディリアは一瞬、チラッと私を見て勝ち誇ったような顔をした。
  おそらく、羨ましいでしょう?  と言いたいのだと思う。

「……」

  だけど、やっぱりいつもと変わらない私の表情を見て、ギリッと悔しそうに唇を噛んでいた。

  (精神的に、疲れる食事の席だわ……)

  そう思いながら、食後のお茶を一口飲む。

「……?」

  一瞬だったけれど、何かピリッとしたものを感じた。

  (……この苦味って確か……)

  私はすぐにハッとして顔を上げる。ちょうど他の三人も一口飲んだり、飲もうとしている所だった。

「───そのお茶、飲まない方がいいわ」
「は?」
「え?」
「お姉様……?」

  三人が怪訝そうな表情で私を見る。

「何か入っています」
「何だと!?」

  お父様の顔色が変わる。毒か何かかと思ったのかもしれない。お父様は一口飲んでしまっていた。
  一方、飲む寸前だったお母様とコーディリアは、カップを手に持ったままポカンとした表情で私を見る。

「……ほんの少しだけ、苦味がありました。これはお茶の苦味ではなく……」
「苦味だと?  そ、そんなもの全く感じなかったぞ!」
「ですが、本当に……」
「……驚かせおって。どうせ、オフィーリアの勘違いか何かだろう」
「お父様……」

  どうやら“苦味”を感じなかったお父様には私が嘘をついたと思ったらしい。

「お姉様ったら、そんな嘘をついてまで必死に会話に加わろうとしなくても……」
「コーディリア……」
「あ~あ、お姉様のせいでお茶を飲む気分じゃ無くなってしまったわ。変えて!」
「そうね……」
「ああ」

  そうして、お茶は下げられる事になったので、私は慌てて捨てないで中の成分を調べて欲しいと訴えたけれど、お父様に一蹴されてしまう。
  給仕のメイドも何も知らないと首を振り、結局、有耶無耶にされてしまった。

  (私の感じた物が間違いでないのなら、これは毒ではないけれど……)

「あの、せめて飲んでしまったお父様だけでもお薬を飲んだ方が……中に入っていたのは」
「薬だと?  まだ言うのか!  うるさい、黙れ!」
「……」
  
  相手にして貰えない私の事をコーディリアはクスクス笑って見ていた。



「……ぐぅぅっ……何だこれはぁぁ……」

  それから少し時間が経った後、お父様の苦しそうな声が聞こえて来た。

「は、腹がぁぁぁ……」

  そう言って御手洗に駆け込むお父様。
  その様子を感じ取って私はやっぱり下剤だったのかと思った。

  (昔、飲んだことのある味だったんだもの……)

  即効性が強く、少量でも効き目の良い下剤だ。少しピリッとした苦味が特徴……
  私は子供の頃から殿下と一緒に毒やら薬やらに慣らされてきた事で多少の耐性があるので、こんなに少量では効かない。
  でも、お父様は違う。

「ぐぁぁぁぁ……死ぬぅぅぅぅ」

  苦しそうなお父様を見ながら私は考える。
  誰がいったいこんな事を……?  目的は何?

  …………だけど、この命に関わるわけではないちょっとした不審な現象はこれだけに留まらなかった。
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