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第30話 それぞれの思惑
しおりを挟む「……畜生! 何だったんだあの伯爵小僧は!」
「怖くてまともに顔が見れなかったわ……」
「何であんな顔を野放しにしているのよ!」
レイノルドの“顔の怖さ”について、追い出された三人は馬車の中で話しながら……憤慨していた。
特に公爵としては格下にもあたる伯爵(しかも若い)に終始、会話のペースを取られ、何度も怯えた自分が情けなく苛立っていた。
「オフィーリアの捜索にも非協力的だったしな」
あれだけ国内を探した。
だが、遺体はおろか手がかりすら出て来ない。そうなれぱ国を出たと考える方が正しいだろう。
なぜ、若い女の入国記録が無いのだ!
(オフィーリア……本当に親不孝な娘だ)
「それより、お父様! これから向かう宿にウィル様がいらっしゃるんですよね!」
「……あぁ。あの伯爵はそう言っていたが……」
(ちょっと我々が早く着いたからって、屋敷に泊まらせんなどと言うとは……)
なぜ、我々が街の安宿なんかに!
しかもあの若造に言わせるとそこに殿下が滞在しているという。
(殿下ともあろうお方が、街の宿に!)
いくら、許可なく入国したからと言って一国の王太子に対して何という扱いをするのだ……!
「ん? 着いたか」
馬車が止まり宿に着いたようだ。
(仕方がない……ウィル殿下と会って今後どうするかは決めよう)
─────
───ズキンズキン
(……なんだこれは……ここ数日で頭痛が更に酷くなった気がする)
まだ、動けるうちに……そう思ってこの国にやって来たが失敗だったかもしれない。
オフィーリアらしき女の手掛かりはなく、無駄に頭痛が酷くなるだけ。
(いいかげん、一旦、国に戻らねば……怒られてしまう)
そう思った時だった。
「……殿下! タクティケル公爵がこの国……いえ、こちらの宿に!」
「タクティケル公爵だと?」
「奥方とコーディリア嬢も一緒です」
「コーディリアも?」
ズキンズキンズキン……
以前の自分なら名前を聞いただけでもときめいたはずのコーディリア。
だが今は……
(また、私の体調を気遣う事もせず、自分の話ばかりするのだろうか?)
ズキンズキンズキン……
あんなにも可愛いと思っていた声すら今は頭にガンガン響いて苛立ってしまう。
だが、それよりも、だ。
(公爵もオフィーリアを探しにこの国にやって来たのか?)
なぜ、家族総出でやって来たかは知らないが何か手掛かりがあるかもしれない!
────
「ウィル様~やっと会えましたぁ!」
「久しぶり、だね……コーディリア」
ようやく! ようやくウィル様と会えたわ!
なのにどうしてかしら? ウィル様……あまり嬉しそうじゃない?
(前はもっと甘く蕩ける目で私を見てくれたのに!)
「ウィル様ったら、私、すっごくすっごく寂しかったんですよぉ~」
「す、まない」
「……!」
ウィル様の腕を取って自分の腕と絡ませようとしたのに、何故かやんわりと突き放された。
「あら? 殿下、顔色が……?」
「あ、ああ……実はあまり体調が優れなくてね……」
そう言って殿下は頭を押えていた。頭痛かしら?
「まあ! 大変……やっぱりこんな安そうな宿……ウィル様に合わなかったんですよ~」
「……」
「ウィル様~?」
ウィル様はそれには何も答えてくれなかった。
「結局、オフィーリアに関する手がかりは……無し、か」
「アクィナス伯爵には何度言ってもダメでした。そのような者が入国した記録は無い! の一点張り……終いには……」
ウィル様と合流した私達は、それぞれの手に入れた情報を合わせてみたけれど、お姉様情報はさっぱりだった。
(本当に嫌なお姉様……)
私たちにこんなに迷惑かけて……何様のつもりなのかしら! 能面令嬢のくせに!
しかも、まだどこかでのうのうと生きていると言うの?
いっその事、お姉様がこの世からいなくなってくれれば、すんなり私が“タクティケル公爵家の娘”として殿下の妃になれるはずなのに!
今はお姉様を痛みつけて楽しむ事よりも、消えていて欲しいという願いの方が強くなって来たわ。
だって、お姉様が見つかったら、名ばかりとは言ってもお姉様がウィル様の正妃になるんでしょ? 跡継ぎも必要みたいだし……
それって私が後々、ウィル様の子を産んでもその子は王様にはなれないって事よね?
「……本当に……どうしてお告げの娘は私じゃダメだったのかしら……」
「どうした? だが、本当にそうだな。お前もそう思うだろ?」
「え? ええ……そう、ね」
私が不満の声をあげるとお父様は強く同調してくれた。やっぱりそう思うわよね?
お父様に話をふられたお母様は歯切れが悪いけれど!
「ウィル様、お告げはもう一度聞けないんですかぁ?」
次はちゃんと、“コーディリア・タクティケル”って、出るかもしれないわ!
「……父上からそう何度も占うものじゃない、と聞いている」
「えー」
「…………次に占うとすれば私かオフィーリアに何かあった時だけだそうだ」
「えー」
そのお姉様に“何か”あったはずなのにぃーー!
生死不明のせいで中途半端じゃないの!
本当、神様ってどこ見てるのかしら? お姉様なんかより私の方が絶対に王妃に相応しいのに。
「…………そういえばコーディリア。君は身体は大丈夫なのか」
「え?」
「その……私との……」
その言葉で偽証した妊娠話を思い出した。
(ど、どうしよう……誤魔化すのもそろそろ限界……よね?)
「え、ええ、今の所は、大丈夫のよう……です」
「……そうか」
どうしてウィル様は嬉しそうじゃないの? ハッ……まさか、偽証だって疑っている?
(……今夜! 今夜、夜這いをかけて今度こそ本当に関係を持てば……まだ可能性が……)
そう決心した私は、その夜ウィル様の部屋に向かったのだけど──
「……すまないが、今夜は一人でいたい気分なんだ」
「そんな! ウィル様……」
「悪いが自分の部屋に帰ってくれ」
「せ、せっかく久しぶりにお会いできたのに……酷いです」
「……とりあえず帰国することになったんだ……また、王宮で会えるだろう?」
(そんな悠長な事は言っていられないのよ~!)
どうして最近のウィル様はそんなに素っ気ないの?
お姉様なんかより私を愛してくれているはずなのに!
❋❋❋❋❋
───その頃。
“あの人達”のそれぞれの思惑など知らない私は、初めての“幸せ”にどっぷり浸っていた。
「リ、リア……お、おはよう!」
「お、おはようございます……レ、レイさん!」
互いの想いを確認し終えて、初めてのキスを交わした翌朝。
朝食のテーブルの席には顔を真っ赤にした私とレイさんが座っていた。
(ダメ……油断すると昨日の事を思い出して顔が……)
「おはようございます……えぇと? この空気は何でしょう……か?」
「ビリー?」
「ビリーさん?」
そこへビリーさんがやって来た。
「甘いシロップをさらに煮詰めたような甘い空気が漂っていますが……」
「なに? それは胸焼けをおこしそうだな」
「ええ、心配です」
「……」
私とレイさんの返事に、ビリーさんは無言のまま何故かため息を吐いていた。
「……えー、あー……朝食を終えましたら、ちょっとお二人に確認したい話があります」
「そうか」
「わ、分かりました」
───私にも? 何か深刻な話かしら?
「確認したい話ってなんでしょう?」
「分からん」
朝食を終えた私達は手を繋ぎながら、レイさんの執務室に向かう。
レイさんとの婚約の件は、昨夜、もう話をして進めていく事になっているのだけど……
他に話と言えば……
「……あの人達の事でしょうか。今日、全員、帰国させる……する予定だと聞きましたけど」
「リア…………大丈夫だ。私がいる」
「レイさん」
レイさんがギュッと手を強く握ってくれたのでとても心強かった。
──
「で、ビリー! 話とはなんだ? リアが不安がってる。早く言え!」
「……レイノルド様」
「これ以上、可愛いリアを憂い顔にさせておくわけにはいかんのだ!」
「わわわ……分かりましたから! 落ち着いてください!」
レイさんはビリーさんに掴みかかる勢いで迫っていく。
そして、コホッとビリーさんは軽く咳払いをすると言った。
「……昨日、タクティケル公爵から、なぜ、リア様……オフィーリア様が、王太子殿下の婚約者となったのかの経緯は聞き出しました」
「そうだな」
「公爵家にはオフィーリア様と妹……娘が二人います。なのにお相手が“オフィーリア様”でなくてはならなかった理由がどうしても疑問でして」
(それは逃げ出す前から疑問だったわ)
ビリーさんはチラッと私の顔を見た。それは、何かを躊躇っているような表情。
「ビリーさん?」
「リア様。実はタクティケル公爵家に関するとある情報……というか、噂がありまして……今、それを調べている最中なのです」
「?」
「それが、お告げの令嬢がオフィーリア様でなくてはいけない理由……なのかもしれません」
「え?」
ビリーさんの言葉に私は首を傾げた。
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