22 / 39
君を諦める事は出来ない (セオドア視点)
しおりを挟む「ごめんなさい! 殿下!!」
「っ! あ、ライザ!?」
そう言ってライザは俺を突き飛ばしてその場から逃げ出した。
「待ってくれ、ライザ!」
そう呼びかけるもライザは行ってしまった。
「……はぁ」
自分が色々と急ぎすぎた事は分かっている。
ライザからしてみれば、エリザベスの身代わりなどという自分の吐いていた嘘を俺に知られていただけでなく、突然俺に好きだと言われ、更には妃にと望まれた。
(そりゃ、話も聞かずにパニックを起こし逃げたくもなる)
でも、俺はまだ伝えたい事の半分もライザに伝えられていないんだ。
だから、このままにはしておけない。
(この場所の事ならよく分かっている。そして、こういう時のライザがどこに逃げて隠れようとするかも)
ライザはまだ、俺が“テッド”だと知らない。きっと気付いていないからあそこに逃げたはず。
そう思ってライザが逃げた方へと向かう。
「ごめん、ライザ。俺は君を諦められない」
俺はここに来るまでの事を思い返した。
「は? しばらく街に行く?」
俺の言葉にカールトンが怪訝そうな顔を向ける。
「侯爵家から逃げ出したライザは、街にいる」
「何故、そう思うのです?」
「逃走したものの、ライザは荷物を殆ど持たずに逃げているはずだ。資金だってどれくらいあるか……今はそんな簡単に遠くには行けない」
「だとしても、公務が……」
カールトンが困ったように呟く。
「仕事はするさ。だけど、その合間に俺はライザを探したい。その為には王宮だと動きづらいんだよ」
誰か知り合いと会えて匿ってもらえているならそれでいい。
でも、もしも頼れる人がいなかったら?
街であんな美少女が一人フラフラしていたら、襲ってくださいと言わんばかりだ!
「そんなに時間は与えられませんよ?」
「構わない」
そうして俺は王宮を出て街でライザを探す事にした。
時間が出来ると、ライザと出会ったあの場所にも毎日向かった。
うまく言葉に出来ないけど、ライザならここに来るんじゃないか?
そんな気がしたんだ。
──そして……ようやく今日、本当に彼女は現れた。
あの、綺麗な白金の髪は染めているし、眼鏡を掛けていて瞳の色も分かりにくい。
でも俺には分かるんだよ。
俺の色褪せていた世界にあの日、色をくれたのは君なんだから。
──ライザの気持ちが知りたい。
色々と急かしてしまったけれど、ライザが俺の事をどう思っているのかを……知りたい。
ライザが心配している事はする必要の無い心配なんだ。
エリザベスの身代わりの件だって、侯爵家を罪に問う事はあっても、巻き込まれた被害者のライザを罪に問う事は無いのに。
(それに本物のエリザベスのあの様子を見ればライザを責める奴なんているわけが無い。むしろライザに戻って来てくれそう思われるだろう)
エリザベスの迷惑行為は日に日に増長し周囲から相当な反感を買っている。
放っておいても自滅寸前だ。
そしてライザが一番懸念しているであろう、彼女が平民だという件。
真実を伝えたらまた、混乱させてしまうだろうか?
────……
『そなたの言う“その娘”が本当に私の妹、ルル……の娘なのか?』
『間違いありません。20年以上前に行方知らずとなられたルル王女のものと思われる指輪を彼女は持っています』
『指輪……あぁ、ルルの瞳の色の……アレか』
先日、隣国に赴いた俺は国王陛下へのお目通りを願った。
“長年、行方知らずとなっているルル王女の件で話がしたい”
そう伝えると妹王女を溺愛していたと言うその兄、現国王はすぐに面会の場を設けてくれた。
『彼女の持っていた指輪の印章は間違いなくこちらの王家のものでした』
『確かにあの指輪はルルと共に所在不明となっているが……』
当時の隣国の王女、ルル。
現在は王妹となる彼女は表向きには病気療養の為、いっさい人前に姿を表さなくなり今も療養中と言われているが真実は違う。
ルル王女は失踪していた。
王女の行方を案じた父親の元国王と兄の現国王は、国外逃亡の可能性がある事から内密に近隣諸国に王女の事を通達していた。
その国の王族もしくは要人だけが知る話。
しかし、肝心の王女は見つからず、無情にも時だけが流れた。
『その娘はルルに似ているのだろうか?』
『私はルル王女の顔を知りませんので』
『それもそうか。よいか? ルルはな……』
そう興奮しながらルル王女の事を語る陛下はただのシスコンに見えた。
王女に似ているかどうかは分からないが、ライザが母親の違うエリザベスと似ている事を考えると父親に似ていると思うのだが……
そう思ったが口にしなかった。
『ルルは誰の子を産んだんだ?』
『……我が国の侯爵家の一つ、マクチュール侯爵家当主ゲールです』
『マクチュール侯爵家のゲールだと?』
陛下が意外にも反応を見せたので驚いた。
『ご存知なのですか?』
『何を言っている? ……知ってるも何もマクチュール侯爵家のゲールは……』
『え?』
陛下からもたらされた話でずっと疑問に感じていた事がスッキリした。
(そうだったのか。だから、ライザとエリザベスは……侯爵の事は調べていたがそこまでは調べていなかったな……)
『まぁいい。それで? そなたはその情報を持って来て何を望むのだ?』
『はい。私が望むのはー……』
────……
そんな陛下とのやり取りを思い出していると、ちょうど考えていた場所に着いた。
(……ライザ)
やっぱりライザはそこに居た。
そして、話も聞かずに俺を突き飛ばして逃げ出した自分を責めていた。
「私、最低だ。このまま逃げるのはやっぱり駄目…… 戻って謝って罰してもらうべき……」
ライザはそんな事を呟いていた。
これまた、物騒な思考に突き進もうとしているので俺は慌ててライザの元に向かう。
(俺がライザを罰するはずないだろう?)
……まぁ、どうしても何か責任を取りたいと言うのなら、遠慮なく俺の側にずっといるように命令してみようか?
(……いや、命令で側にいられるのは嫌だな)
ライザの意志で俺を好きになって欲しい。
王太子なんて厄介な立場である俺と生きる道をどうか選んで欲しい……
「……ライザ」
俺の所に戻ろうとしていたのか、ちょうど立ち上がった瞬間のライザに声をかけた。
ビクッとライザの身体が跳ねる。
そして、おそるおそる振り返ったライザの顔は「どうしてここが……?」そう語っていた。
「ライザ」
「……殿下。申し訳ございません、私、」
泣きそうな顔で謝ろうとするライザを見ていたら、堪らなくなって俺は腕を伸ばしてライザを抱きしめた。
60
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる