29 / 39
身代わりが戻って来た! (エリザベス視点)
しおりを挟む殿下が王宮を留守にすると聞いてから数日、ようやく殿下が帰って来たらしい!
私は、急いで殿下を出迎えた。
「おかえりなさいませ、殿下! 私、寂しかったで……」
殿下は私を一瞥すると「あぁ……」っていう顔をした。
(だから、何でそんな顔になるの!? 私の事好きなのよね!?)
あぁぁ、今すぐ怒鳴り散らしたい!!
「そうだ、エリザベス嬢」
「は、はい!」
ついに殿下がこっちを見たわ!
私は嬉しくて笑顔で答えた。
「もうすぐ、王太子妃教育の総復習の日だけど問題はないよね?」
「え」
「日程も前に言ったままで進めるよ。あと、これは父上……いや、陛下からのお達しで万が一合格点に満たなかった場合は婚約者変更も有り得る……そうだ」
「!?」
な、な、なんですってぇ!?
「まぁ、エリザベス嬢のこれまでの勉強の成果を考えたら不合格はないと思うけどね」
「と、当然ですわ……」
ホホホと笑いながら自分の顔が引き攣っているのが分かる。
(どうしよう……時間が無い……)
お父様からあの身代わりが見つかったという報告は聞いていない。
お父様には見つかり次第連れて来て!
とお願いはしているけど間に合うのかしら?
私はただただ焦るばかりだった。
***
「あぁぁ、もう! こんなお茶、不味くて飲めないわよっ!」
殿下が戻って来て数日後。
相変わらず誘っても誘ってもつれない殿下に苛立ちが募った私は今日も使用人に当り散らす。
(身代わりが見つからないなら、既成事実を作る! これしかないのに)
「も、申し訳ございません」
「いいからさっさと取り替えて来なさい!!」
「は、はい」
その使用人は慌てて部屋を出て行く。
「ったく、どいつもこいつも使えないわね」
相変わらず未来の王妃を敬う姿勢すら見えないし!
「……失礼します、新しいお茶をお持ちしました」
「遅いわよ! 何をグズグズしていたのよっ!」
「……申し訳ございません」
あら? さっきの使用人と違うわね。
別の人間に交代したようね。さて、コイツは使えるかしら~?
「さっさと用意しなさいよ」
「承知しました」
そう言って新しい使用人はお茶の準備を始める。
「お待たせ致しました、どうぞ」
「本当よ! 全く!!」
さて、この女にも当り散らしてやろうー……
「申し訳ございませんでした、エリザベス様」
「?」
は? まだ、何もしていないのに何謝ってんの?
そんな目で使用人の女を見ると、その女は私を見て言った。
「私です、エリザベス様」
「は?」
そう言ってその女は頭に手をやると被っていた髪……どうやら鬘だったらしい……を取った。
黒髪の鬘の下から出てきた髪は私と同じ色ー……
「あ、あなた!!」
逃げたと聞いた、身代わりの異母妹ではないの!!
「申し訳ございませんでした、侯爵様の命令で再び入れ替わるようにと言われ戻って参りました。どうやら王太子妃教育の総復習があると聞きまして」
「あら、話は聞いたのね? 逃げ出したと聞いたから戻って来ないと思ったわ!」
「本当に申し訳ございません……改めて考え直し、こうして戻りまして、どうにか使用人として紛れ込んでおります。侯爵様からも、今回の再びの入れ替わりを滞りなく行えば不問に処するとのお言葉を頂いております」
「ふーん、そうなの? へぇ、お父様がねぇ……」
でも、あれよね。
今回の総復習の件を乗り越えて今度こそ用済みになったら、多分躊躇なく捨てるでしょうけど!
まぁ、そんな事はどうでもいいわ。今はコイツと入れ替わる事だけ考える。
(私の役に立つ為だけに存在しているのだからね!! 役に立って頂戴!)
それで、無事に合格点を取れれば問題は無い!
「それで? どうやって入れ替わるつもりなの?」
前回とは違う。
今すぐこの場で入れ替わるのは無理がある。
まさか、この私に使用人のフリをして生きろとは言わないわよね!?
「エリザベス様、王宮内にある離宮をご存知ですか?」
「離宮?」
「あまり使われていない所らしいのですが、あそこは人も滅多に来ないそうですから」
「どういう事? 私にそこへ行けと言うの?」
「はい」
身代わり妹は、頷いて説明を始めた。
「要するに……私が殿下に離宮に行ってみたいと言ってこれから離宮に赴き、そこで入れ替わろうというわけ?」
「人目にはつきにくくて良いかと」
まぁ、それならこの場で今無理やり入れ替わるよりはマシかしら?
使用人の服なんて死んでも着たくないもの。
「あぁ、エリザベス様。どうせならそのまま離宮で寝泊まりしたいと申し出るのはいかがでしょう?」
「は?」
「本物である“エリザベス様”はそのままずっと離宮に滞在していただき、私はエリザベス様をお世話する使用人と“エリザベス様”のフリを使い分けて過ごそうかと思います」
どういう事?
「エリザベス様の寝泊まりする場所を離宮に移せば、私は日中はエリザベス様として王宮で過ごし、朝晩だけ使用人に変装して過ごせばおかしな事にはなりません」
「えっと?」
ちょっと待って? ややこしいわね……
「入れ替わった後、王宮を抜け出して侯爵家に戻るよりは危険が少ないかと思います」
「上手くいくわけ?」
「……日中のエリザベス様が離宮で大人しくしていてくれれば私が一人で動くので問題ないかと」
「……」
「それに、テストまでの数日間の辛抱ですから」
……難しい事はよく分からないけれど、身代わり妹が一人で私のフリと使用人のフリを使い分けて生活するという事よね?
で、私は黙って離宮に滞在していればいい。そういう事よね??
「もう、何でもいいわ。そのかわり……私の代わりに受けたテスト、絶対に合格しなさいよ!?」
「……勿論です。全力を尽くします。あぁ、エリザベス様。これは侯爵様も了承した上での話です。ですから、エリザベス様もくれぐれも離宮から出て外部と連絡を取ろうなどと思わないで下さいね?」
「分かったわよ! 数日間は大人しくしているわよ!」
こうして、私は殿下に離宮で寝泊まりしたい事を話し許可を得た。
そして使用人の格好をした身代わり妹を私のお世話係の1人にも任命して離宮に向かい再び入れ替わった。
(やっぱり運は私に向いている!)
離宮で大人しく過ごせとかちょっと腹立つけど、この先にある未来を考えれば些細な事よ!!
ふふ、このタイミングで身代わりが戻って来るなんて!
やっぱり私はついているわ!
全てが上手くいっている。
この時の私は、そう信じて疑っていなかった──……
57
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる