【完結】このたび殿下の婚約者となった身代わりの身代わり令嬢な私は、愛されない……はずでした

Rohdea

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愛しい人を想う (セオドア視点)

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「予想に反して静かだな」

  自分の執務室で書類を確認しながら俺は小さく呟いた。
  その言葉を拾ったカールトンも思案げな顔をして言った。

「それは、マクチュール侯爵の事ですか?」
「そうだ。てっきりエリザベスとの婚約破棄……いや婚約の白紙を通知したら激怒して乗り込んで来る……そう思ったんだが」
「……静かですよね」

  そう。
  エリザベスに王太子妃教育の総復習の不合格の結果を伝えに行き、これまでやらかした罪を追求して牢屋へと連行した後、その旨をマクチュール侯爵家に通達した。
  てっきり、この結果と拘束に納得が行かないと激怒する……そう思ったのだが、予想に反して侯爵家は沈黙を貫いていた。

  (乗り込んで来た所を叩くつもりだったんだけどな……)

  仕方が無いので、召喚状も送ったが未だに返事は来ない。
  完全に王家を敵に回す宣言だと捉えてもいいだろう。


「エリザベス嬢を切り捨てたのでしょうか?」
「あんなに問題しか起こしていないのに溺愛していた娘だぞ?  そんな簡単に切り捨てるか?  それにエリザベスを王太子妃、ゆくゆくは王妃にする事は侯爵も願っていたはずだしな」
「そうなりますと……」

  カールトンが微妙な顔をする。
  きっと今、俺と同じ気持ちだろう。

「何かを企んでいる可能性は高いな」
「厄介ですね」
「本当にな。それで?  エリザベスはどうしてる?」

  牢屋に入れたエリザベスの動向も気になる所だ。

  ──見てなさい!  私はこのままでは絶対に終わらないんだから!!

「我儘放題です」
「は?」
「早くここから出せ!  私を誰だと思っている……毎日毎日飽きもせず喚いているとか。あれは全然、自分がどんな状況にいるのか全く理解していませんね」
「……」

  ため息しか出ない。
  あの時、連行される直前のエリザベスがライザに向けていた目は諦めていなかった。
  何が出来るわけでもないだろうに、不安を感じた俺はライザの護衛を増やす事にしたのだが。

「これでは、波乱のパーティーとなりそうだ」
「ライザ様のお披露目……パーティーですか?」

  俺は頷く。
  父上の命令で、近々、ライザのお披露目パーティーが開かれる事が決定した。
  俺の婚約者がエリザベスからライザへと代わることを皆にもちゃんと説明しないといけない。
  そのパーティーの前に侯爵家を潰せておければ、侯爵家のやらかした罪の一つとしてライザがエリザベスの身代わりを無理やりさせられていた事も公に説明出来たのだが……

「……侯爵への断罪はパーティー当日になるかもしれないな」

  ライザがパーティーで好奇な視線に晒されるのは間違いない。
  悪意の感情も多く向けられる事だろう。
  エリザベスとの事をあれこれおかしく言うやつも出てくるはずだ。

  (ライザを傷付けたくはないのに)

「リーチザクラウ国からの書簡は?」
「まだです」
「……こっちもパーティーまでに間に合うか際どいな」
「そうですね……」

  俺の言葉にカールトンも顔を顰めた。

「ライザはどうしてる?」
「王宮の者達ともすっかり打ち解け、健気に王太子妃教育を頑張っておりますよ。キャシー曰く、パーティーで少しでも隙を見せたら足元を掬われてしまう。殿下とこの先も一緒にいる為に、今自分に出来ることは何でもしたい!  と言っているそうです」
「……」

  その言葉を聞いて思わず顔を覆う。

  ライザが可愛い。健気すぎる。
  何だよ、それ……ライザはどれだけ俺を喜ばせれば気がすむんだ??

「なぁ……今すぐライザを愛でたいんだが」
「それはご勘弁を。あなた様はこの書類を片付けないといけませんし、ライザ様は勉強中です」
「うぅ……」

  カールトンの声は冷ややかだ。

「さっさと仕事を終わらせれば、夜になら時間が取れるのでは?」
「そうか!  よし、カールトン。もたもたするな!  ほらその書類をさっさと渡せ!」
「現金すぎますよ……生き生きしているあなた様を見られるのは嬉しいですが……」

  なんてブツブツ呟きながらカールトンは俺に書類を手渡し、俺は仕事に没頭した。



***



「……ライザ、今いいか?」
「セオドア様?」

  カールトンに乗せられとってもスピーディーに仕事を終えた俺は、その日の夜、ライザの元を訪ねた。
  ライザの部屋を王太子妃の部屋に移した事から、自分の部屋の中から訪ねられる事がたまらなく幸せだ。
  結婚どころか正式な婚約発表前なので共同の寝室は、残念ながらまだ使うことは無いが。

  どうぞ、と恥ずかしそうに部屋を俺に招き入れるライザ。
  あとは寝るだけだったのか、寝巻きにガウンを羽織っていて……なんと言うか……うん。

  (ライザはどんな格好していても可愛いなぁ……)

  そう思ったら無意識に腕を伸ばしてライザを抱きしめていた。

「!?  セオドア様?」
「日中、ずっと会いたくて会いたくて堪らなかった……」

  ライザを抱きしめていると安心する。
  ここに、俺の側に彼女がいるのだと実感出来るから。

  ──今度は引き離されない、のだと。

  ライザには言っていないが、昔、あの場所でライザと会ってから、彼女にどんどん惹かれていった俺を周囲は許さなかった。

「平民と添い遂げるのは無理です」
「まさか殿下ともあろう方が……」
「殿下にはしかるべき相手を!」

  なかなか納得しようとしない俺に痺れを切らした者がある日こんな事を口にしているのを聞いてしまった。

  ──殿下を惑わす女は排除するべきだ。殿下の手の届かない遠くにでも行ってもらいましょう。

  ライザが消される!
  出会ったのは偶然でも俺が勝手に好きになったばっかりに……
  病気の母親の身を案じながら健気に過ごしているライザが俺のせいで!!

  ライザを諦める。もう会わない。
  それを選択するしか無かった。
  せめて……テッドと名乗った俺の事を忘れて欲しくなくてあの手鏡を贈った。

  (後にバレてすごい怒られたけどな……)



「セオドア様?」
「ん?  あ、ごめん」

  ライザの温もりを感じていたらついつい昔の想いに浸ってしまった。
  立ったままいきなり抱きしめられても困るか……
  移動してベッドの上に腰を落ち着けた。

  (今すぐ襲ってしまいたくなる気持ちになるな……)

  そんなよこしまな気持ちを抑えつつライザに言う。

「こうしてライザを感じられる事が未だに夢みたいでさ」
「ふふ、セオドア様ったら」

  大袈裟ですね、とライザが可愛い顔で笑う。
  その笑顔を見ているだけで胸が満たされる。この笑顔が見られるなら俺は何だって出来るよ。

「仕方ないだろう?  好きで好きで、ずっと焦がれてたんだから……愛してるよ、ライザ」

  そう言いながら俺はライザの頬に手を添え、上を向かせる。

「ありがとうございます、セオドア様。私もです……私もあなたを」

  そう言いかけたライザの唇を自分の唇でそっと塞いだ。


  ──俺とキスしている時のライザの赤く染まった頬と潤んだ瞳を見るのが好きだ。
  ずっと見ていたくて、もっともっと……と欲が出てしまう。

「セオドア様、大好きです」
「え?」
 
  少し唇を離すとすかさずライザがそう言う。それも可愛いとびっきりの笑顔で!

「あなたの隣に立ち続けるために……私は頑張りたい」
「ライザ……今更聞くのも変だけど王太子妃教育……辛くなかった?」

  よくよく考えればライザはエリザベスの身代わりとしてやって来て王太子妃教育を受けされられていた。今はともかく辛くなかったのだろうか?

「まさか!  自分の知らない事を教わるのは楽しいです。それは今も同じですね」
「そっか……」
「……ダンスだけはどうにもなりませんが」
「ライザのダンス好きだけどなぁ。斬新で」

  俺がそう言うとライザは「もう!」と言って俺に体当たりする勢いで寄ってきた。
  予想していなかった動きに思わず俺はバランスを崩し……

「うわっ!」
「きゃっ!?」

  ライザに押し倒される形でベッドに倒れ込んでいた。

「……」
「……す、すみません、今どきますね……」
「ま、待ってくれ!」
「え?」
「もう少し……このままで……」

  そう言って離れようとするライザを夢中で引き止めた。

「セオドア様?」
「ライザの温もりをもっと感じていたい……」

  俺はそう言ってライザの身体を引き寄せながらそっと唇を重ねる。
  ドレスと違って寝間着姿だからかライザの柔らかい身体の感触がいつも以上に感じられてドキドキする。

  ──ライザ。俺は君が大好きだ。
  全ての膿を取り除いて絶対にライザを誰よりも幸せにする。

  愛しい愛しいライザを抱きしめながら俺は改めてそう決意した。


 
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